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58.かしわもち殺人事件

 今回用のあらすじ。今日はかしわもちがレベル30となったお祝いのサプライズパーティが計画されていた。何も知らないかしわもちは、くーちゃんの家に招待されてのんびりと待っている。そこに俺とフラウ、ついでに暇な2人ほどが迎えに行く手筈だった。だがくーちゃんの家の前に来たところで中から悲鳴が聞こえてくる。俺たちが家の中に入ると、そこには床に突っ伏して死んだふりをするかしわもちの死体があった……。


 俺はかしわもちに駆け寄り、脈などを確認する。

 このゲーム、ちゃんと脈とか確認できるすごい代物なのだ。

 うん、体は温かいし脈もある……間違いなく死んだふりをしている。


「お母様は……どうなの?」


 フラウの震える声に対し、俺は首を振る。


「だめだ、死んでいるっぽい」


「そんな……いったいどうして」


 いつもは冷静なフラウ、冷静を装いつつも実は慌てている感じとなってて可愛い。

 いや、そんなことを考えている場合ではない。

 死んだふりをした死体がここにあるということは、殺したふりをした犯人がいるということだ。


「みんな、一旦ここに集まってくれ。状況を整理しよう」


 気分は探偵である。

 今日ここにいる人を集めて、それっぽくオープニングを迎えよう。


「あ、でもその前にお母様の死体が体を冷やすといけないので……」


 くーちゃんが毛布を持ってきてかしわもちにかける。

 俺の将来の義妹になる予定の子ははいい子でお兄ちゃん嬉しい。


「待って、おなか側が冷えてはいけないわ。下に何かか敷いたほうがよくないかしら?」


 かしわもちのおなかを気にするフラウもいい子。


「あ、フラウちゃんそれは大丈夫だよ。このためにちゃんと厚めのマット敷いといたの。ほら」


 よく見ると、かしわもちが横たわっているのは集めの丸いマット。

 猫の模様が書かれていて可愛い。


「なるほど……さすがくーちゃんね」


「えへへー」


 俺の将来の嫁候補と妹候補は2人共いい子で満足。

 きっと天国に昇ったフリをしているかしわもちも喜んでいることだろう。

 さて、集まった容疑者を確認していくか。


 俺とフラウ、ついてきたレオンとニャーノさん、家の主くーちゃんと恋人であるユース。

 この6人だ。

 というわけで俺は全員を見渡しあのセリフを言う。


「かしわもちを殺した犯人はこの中にいる!」


 でーでん! と皆に衝撃が走る。

 その中で最初に言葉を発したのはフラウだ。


「ちょっと待って、お母様が死んでいるのはわかったわ。でも殺されたの? 自然死という可能性もあるわ。殺されたのであれば死因は何?」


 ふむ、鋭いとか言うか当然の指摘だな。

 かしわもちは血を流しているわけでも衣服が乱れてるわけでも、ただ寝たふりをしているだけのように見える状態だ。

 ここは探偵っぽく説得力のある何かを言わねばなるまい。

 俺はかしわもちの死体の前にひざまづき、顔を近づけるて小さな声でつぶやく。


「どうやって死んだ設定?」


「ちょっとみんなあっちを向いててくれるかい?」


 俺にしか聞こえないような小さな声でそれは聞こえてきた。

 幻聴だろうか……?

 とりあえず俺は立ち上がり、窓の方を指さして大声を上げた。


「あっ! 窓の外に怪盗カーが!」


 全員が一斉に窓に振り返り、かしわもちから視線をそらした。

 この間何が起きるか気になるも、後の楽しみにと俺も窓の外の何もいない空間を見つめる。


「怪盗カー様はどこ?」

「いないぞー」

「怪盗カーってなんですかニャ?」


 皆が何もないとざわめき始める。

 そろそろいいかな。


「すまん、見間違いだった。現場検証に戻ろうか」


 そしてかしわもちのほうを見ると現場が一変していた。

 かしわもちの背中にいつのまにかフライパンが置いてあり、その中には真っ赤な液体……血のようなものが大量に流れていたのだ。


「これはいったい……」


「時間差で出血したのかもしれないな」


「でもフライパンだぞ?」


「いや、フライパンは調理師の命とも言える。だからこれは命からの出血といえよう」


「お母様……死ぬときまで部屋を汚さないよう気遣って……」


 というわけで他殺という設定になった。

 死因は大量出血によるものにしよう。


「なんだかいい香りがしますニャ」


「そうだな、これはトマトケチャップ……いや、なにか違うような……甘い匂いだ」


「これはどこか嗅ぎ覚えのある……ナポリタン……?」


 そういえば聞いたことがある。

 ケチャップをそのまま炒めることで酸味が飛び、甘い味になるんだとか。

 ちょっとお腹が減ってきた気がするが、話を進めなくては。

 そこで俺はもうひとつの異変に気づいた。


「おい、かしわもちの手元になにかないか?」


 かしわもちの手元にはお皿にのった食パンがあり、その上に赤く文字のようなものが描かれていた。


「これは……血文字? もしやダイイングメッセージか?」


「そうかもしれないな」


 慌てて書いたようなのでかなり荒れている文字だ。

 それでもなんとか読み取ってみると『まご……女子……だっこ……』という部分が読み取れる。


「これは犯人を示しているのか……ならば犯人は女性?」


「凶器かもしれないですニャ。たまごをぶつけられたとか」


「いや、書きたいことを書いただけの可能性もあるし、犯人が俺たちを欺くために残したのかもしれない。これに惑わされず落ち着いて考えよう」


 さてさて、早く解決しないと現場の状況がころころ変わる恐れがある。

 まず探偵としてやるべきことは……。


「まず全員の行動を確認しておこうか。ついでにアリバイも確認しよう。まずかしわもちの今日の行動は……?」


「あたしかい? えっとねえ、今日はくーちゃんの家にお呼ばれされててね、9時前位にげーむいんしたんだよ」


 ふむ、今現在の時刻は夜9時30分。

 10時からかしわもちへのサプライズパーティーがあるので、それまでに事件を解決しなければいけないようだ。


「ここに来てかしわもちはどうしていたんだろうか?」


「えっとねえ、くーちゃんがお茶を出してくれて飲んでたんだよ。そしたらゆうすけが来ておはなししてたんだよ。そこからは……内緒だよ」


「ふむ、そこから推測すると犯行があったのはだいたい9時15分から25分くらいの間と考えていいだろう。そうすると……」


 俺とフラウとレオンとニャーノさんは、その時間帯まだこことは違う場所でわいわいしていた。

 つまりアリバイがあるんだ。

 ということは犯人は……。


「容疑者はユースとくーちゃんに絞られてしまったな」


「僕やってないよ!」


「わたしもです! 大切なお母様に手をかけるなんて」


 慌てたように否定する2人。

 たしかに俺の弟とその彼女がそんなことをするとは考えたくないが、捜査に私情は持ち込めない。


「ええい! こんな殺人犯がいるかもしれない場所にいられるか、俺は部屋に戻る!」


「レオン!?」


 猛ダッシュで階段の方へ向かうレオン。

 殺人が起きたこの恐ろしい状況でパニックを起こしたのかもしれない。

 心配ではあるが……。


「カーターさん、ウチが見に行ってきますニャ」


「ああ、よろしく頼む」


 レオンのことは恋人であるニャーノさんに任せよう。

 さて、推理の続きだな。

 ユースかくーちゃんが犯人なのは間違いない……いや、2人共が共謀の可能性も……?


「きゃああああああ! あああ……にゃー!」


 2階から悲鳴が聞こえてきた。

 ただごとではないその声に皆がビクッとなる。

 そしてその方向へ向かう俺たち5人。


「ニャーノさん、どうした?」


 そこには座り込んで泣き叫ぶニャーノさんと、抱きかかえられて赤い顔で幸せそうに死んだふりをするレオンの姿があった。


「見に来たらレオンさんが倒れてて……うわああーん! まだ結婚してないのにゃあ!」


「第2の殺人……」


 だれかがそう呟いた。

 1つ目の惨劇の手がかりすらつかめないまま、2つ目の惨劇が起きてしまったのだ。

 その時俺はレオンが手を握りしめて何かを持っていることに気づいた。


「ニャーノさんちょっとすいません、レオンの手……何かを持っていませんか?」


 死後硬直した手を開くのはかなりの重労働であり、精神的負担もきついと某推理小説で読んだことがある。

 ニャーノさんにはつらいかもしれないが事件解決のためだ。


「ニャ? ほんとですにゃあ。レオンさん、ちょっと手を開いてくださいニャ」


 だが愛の力であっさり終わった。

 レオンが持っていたのは紙切れだった。

 開くと……『こんや22じ……だれかがさぷらいず……』と書いてある。


「今夜22時ってなんかあるのかい?」


 それはもちろん、かしわもちがレベル30になったお祝いパーティだ。

 かしわもち以外は当然知っているのだが、その時間までは知られる訳にはいかない。

 適当に誤魔化そう。


「犯行予告かも知れない。だが犯行はもう起きていることを考えると、俺たちを混乱させようとしているんだろうな」


「しまったわ。ねえ、わたしたちをここにおびきよせる罠の可能性も考えられない? もどりましょう!」


「あ、おいフラウ!」


 フラウが階段に向かって走り出し、残った6人もその後を追う。

 そして最初の現場に戻ると……なんとかしわもちの死体がなくなっていた……。


「お母様の遺体が……」


 唖然とする俺たち。

 その時、俺にしか聞こえないような囁きが聞こえてきた。


「フラウちゃん足速いねえ、ねえタカシ、もっかいみんなの注意そらしてくれるかい?」


 うーん……そう言われても今日2回目だからなあ。

 怪盗カーはもう使いたくないし……。

 ここは意外性のある言葉でも叫ぶか。

 大きく息を吸ってー。


「みんな、実は俺が犯人だ!」


 驚いたように俺を見つめる6人の目。

 皆が固まったように動かない中、2つの影が動いている。

 あれ? 動く人影がもう一つ……。


「レオンさんの仇ですニャー!」


 ニャーノさんがいつの間にか俺の前に来ていた。

 その手にしているのはナイフ……ではなくケチャップだった。

 みるみる赤く染まっていく俺の腹部。

 冗談だったのに……俺はこんなところで死んでしまうのか……。


「ついに第三の殺人が起こってしまったようね」


 倒れて目を閉じた俺の頭上から声が聞こえる。

 探偵役は俺からフラウにバトンタッチしたようだ。

 俺は目を閉じたままゲームにある便利機能、俯瞰カメラで見下ろすモードに切り替えた。


「あれ? 死体が元に……」


 このごたごたの間にかしわもちの死体が元の場所に戻ったようだ。

 しかも、レオンの死体も隣りにある。


「死体が動いた?」


「いいえ違うわ、お母様が捜査をしやすいよう手助けしてくれているのよ。強き魔力を持つ方だもの。この程度造作もないわ」


「じゃあレオンさんはウチへの愛の力でここに来てくれたんですニャ」


 レオンの死体が手の親指を立ててニャーノさんに返事をする。

 死後硬直かな。


「ニャッ!」


 ここでニャーノさんがなにかに気づいたように声を出す。


「どうしたの?」


「大事なこと忘れてましたニャ。かしわもちさんはじめまして、ニャーノといいますニャ」


「これはこれはご丁寧にどうもねえ」


「挨拶は大事よね」


 うんうん。

 さて、今現在の時刻は21時45分。

 残り15分でこの事件は解決できるのか?

 名探偵フラウの手腕に期待。


「まず整理しましょうか。ねえ、わかりやすいようにこっちに並んでくれる?」


 フラウは明らかに俺に話しかけているようだ。

 死体が動くはずがないというのに、俺の死を受け入れられないのかな?


「フラウちゃん、お兄さんはもう死んでしまっているから……」


「大丈夫よ。彼もお母様と同じ強き魔力を持つものの末裔。死してなおわたしの声に反応してくれるわ」


「愛の力ですニャー」


 仕方ない、フラウへの信頼に応えるべく愛の力で動くか。

 俺はゴロゴロ転がってかしわもちの隣へとやってきた。

 なお、お腹のケチャップは飛び散らない、都合の良いゲーム仕様である。


「死体が3つ。川の字を模しているけれど、あまり絵にならないわね」


「だったらうちがなんとかしますニャ。うえーん!」


 ニャーノさんが棒読みな感じで泣き始め、皆がそちらに注目する。


「どうしたのかしら? 猫の友」


「実はカーターさんを殺したのはうちなんですニャ。レオンさんを殺されたと勘違いして……ごめんなさいニャー」


「そう……だったのね……」


 ニャーノさんの突然の告白にみんなは今はじめて知ったかのような驚いた顔をしている。

 この時、俺の脳裏にひとつの予測が浮かんできた。

 ニャーノさんはレオンの後を追って自殺するつもりだ。

 これ以上死体を増やす訳にはいかないと、フラウにテレパシーを送る。


「レオンさん、ウチもすぐに行きますニャ……」


「待ちなさい!」


 ニャーノさんは手に持っていたケチャップを自分のお腹に押し当て、自殺を図ろうとする。

 それを止めようとフラウが割って入りその結果もみ合いとなり……。

 なんか死体が2つ増えた。


 俺の上に抱きつくように死んだふりをするフラウと、レオンに抱きつくように死んだふりをするニャーノさん。

 相手がいなくて寂しいのか、かしわもちもいつの間にか俺にくっついている。

 こうして死体は5つとなった……。


「いったいどうしてこんなことに……」


「ユースくん、もしかしてわたしたちもこんなになっちゃうの?」


 残されたのはユースとくーちゃん。

 あとはどこかに潜んでいるかもしれない殺人鬼……。

 どうなるのかなとわくわくしていると、オタオタしていたユースが急に冷静な顔になった。


「そうか、全てわかったよ。くーちゃん、君が殺人鬼だなんて思いたくなかったけど……もうそれしか考えられない」


「え? ユースくん、もしかしてわたしを疑ってるの? そ、そんなわけないじゃない」


「僕だってそう思いたいさ! でも凶器に使われたケチャップは君の家にあったものだ。しかも必要以上に用意されている」


「そ、それはお客様がたくさん来ても料理作れるように……」


「もうそんな演技はやめてくれ!」


「ゆうすけ、くーちゃんはそんなことしないと思うよ」


 ユースは恐怖のあまり、くーちゃんが犯人と決めつけてしまっているようだ。

 俺もくーちゃんはそんなことしないと思うけど、これが選択肢を間違えたバッドルートの結末なのか。

 俺があの時ちゃんと推理できていれば……。

 あ、くーちゃんが泣き始めた……演技じゃなくガチっぽい?


「ユースくん、わたしのこと信じてくれないの?」


「ああ、悪いけど信じられないよ……」


「それ、本気で言ってるの……?」


「もちろん演技だよ! でもこういう悲劇的展開が好きって言ってたんだよ……死んだお母さんが……」


「お母様が……じゃあ仕方ないね……」


 くーちゃんは涙を流しながらも笑顔を浮かべ、ドアに向かって走り出した。

 そしてドアを開けると、外はいつのまにかすごい吹雪だ。

 俺たちが来た時は晴れていたのに、すんごい雪が積もってる。

 くーちゃんはその寒そうな吹雪の中に飛び出していき、ユースもその後を追いかける。


 そして夜が明けた……ってことにした。

 晴れているので俺たち5体が外へ行ってみると、手をつないで凍死しているユースとくーちゃんを見つけた。

 その顔は何故か穏やかで……。


「やっぱ悲恋っていいねえ。とりあえず家に入れよっか」


 そしてくーちゃんの家の中には7体の死体が並ぶことになった。

 結局、いるかいないかわからない殺人鬼が姿を表すことはなかった……。

 そしてこの連続殺人の犯人もわからないまま……。

 だれか……この謎を解いてください……。


 かしわもちの夜 ~惨殺編~ 終


 というわけで夜10時になったので、みんなで会場へ移動してかしわもちのレベル30おめでとうパーティーをわいわいと楽しんだ。

 プレゼントとして、かしわもちがやってみたいというドッキリ仕掛け人を楽しんでもらったわけだ。

 そのかしわもち殺人事件の動画上映会をしつつ夜は更けていった……。


「みんな! 大変だ!」


 そろそろ解散かなというあたりで、だれかが叫んだ。

 その叫び声のところへ行ってみると、かしわもちが倒れていた。

 地面に布団が敷かれていて、その上に横たわりちゃんと掛け布団をかけている。

 詳しく調べるまでもなくわかった……死んだように眠っている。


「まさか本当に死……おい、今回も演技なんだろう?」


「いや、これは本当に死んだように……」


「そういえばお母様が言ってました……最近は夜11時には死んだようになっちゃうって……」


 殺人事件はみんなで演技をしたサプライズだった。

 だが今回は演技でもなんでもなく……。

 この後次々とみんな倒れていき眠ったかのように消えていく……そんな惨劇が起きる始まりということに、この時の俺たちは誰も気づいていないのだった……。

 悪夢は……はじまったばかりだ……。

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