57.陰謀
前回までのあらすじ。なんやかんやで俺と花ちゃんは恋人になった。ついでにファーストキスも済ませた。当然今の俺は浮かれ度が限界突破している。とは言え今日は月曜日で花ちゃんは学校である。俺はそれを待つ間ゲーム内でのんびりとやるべきことをするのであった。
とある廃墟にて、2つの怪しげな人影があった。
その2人は全身を黒のローブで包み、さらには顔を隠すように黒いフードを被っている。
周囲に人がいないことを確認して2人は話し始めた。
「くくく……ついに刈り時が来たようだな」
「ああ、やつ……かしわもちは強くなりすぎた……」
「我らが儀式の生贄に……」
「生贄に……」
怪しげな2人の男の笑い声が無人の廃墟に響き渡る。
もしこれを聞いているものがいたならば、怪しげな宗教団体が何者かを暗殺する打ち合わせと思うかもしれない。
だがそこに、本来はいないはずの新たな2つの人影が現れた。
唐突のことに狼狽えるローブ姿の男達。
「ねえあなたたち、そこで何をしているの?」
「してるんですかニャー?」
え? フラウとニャーノさん?
黒いローブの男たちは俺とレオンなのだが、唐突すぎてびびりまくる。
リアル不明なニャーノさんはともかく、どうして高校生のフラウがこの時間にここに?
「フラウ……学校はどうした?」
「今日は祝日よ。わたしにとっては祝うべき日でもなんでもないけどね」
「祝日を知らないなんて、カーターさんは引きこもりの人っぽいですニャー」
祝日だったのか……。
そういえば9月って休みが多いんだったなあ。
やばい、なんか恥ずかしい現場を見られた。
誰にも見られないと思ってレオンと2人でどっかの組織の陰謀っぽい感じで会話してたのに……。
「この世界ではあちらの世界の理を忘れるものなのさ。な、カーター」
「お、おお……そうだなレオン」
レオンがそれっぽい言い訳をささっと言ったのでそれに乗っかる。
それを聞いたフラウはニヤッと笑う。
「わかっているじゃない。でもそんなことより、先ほどまで何を話していたの? わたしたちも交えてやり直しを要求するわ」
「要求ですニャー」
フラウとニャーノさんもフード付きの黒いローブを取り出し身にまとう。
2人ともニャコラ族なので、フードが猫耳を収納できる形になってて可愛い。
てか……たいした話をしてたわけでもないんだが……とりあえず説明するかー。
「では改めて計画の概要を説明しよう。かしわもちは知っているか?」
「ええ、お母様よね。生贄と言っていたけど……」
「えっと、どちら様ですかニャ?」
かしわもちとは俺のマジ母さんで、つい数ヶ月前にゲームを始めた。
フラウよりは先輩だが、まだまだ初心者である。
ホビホビ族で調理師の職業を目指している。
というのをまだ会ったことのないニャーノさんに説明しておいた。
「なるほどですニャ。あ、でも見たことあるかもしれませんにゃ。たしか変装の名人だったような……」
「ああ……木に化けてたやつかな」
「それですにゃ、人がいるなんて思えずに木だと思いこんでしまったのですニャ」
かしわもちが両手に木の枝を持って立っているだけの学芸会的な変装のことだな。
あきらかに人が立っているのだが、脳がこれは人ではないんだという拒否反応を示して木と認識してしまうという、人の心理を逆についた恐ろしい精神攻撃。
というのはどうでもいいのでおいといて……本題へいこう。
「そのかしわもちがついに初のレベル30になったんだ」
「おお、めでたいですニャー」
「強くなられたのね。それで?」
このゲームではレベル30というのは節目で、できることが広がり初心者をそろそろ卒業という段階なのだ。
俺たちのギルドは初心者がレベル30になったらサプライズパーティをする。
ただ……まだ30になってないフラウにそれを言ってしまうとネタバレになるんだよなあ。
とはいえ仕方ないな。
「お祝いにパーティーするんでその計画をしようとしてたんだ」
「えっと……刈り取るとか生贄って話は……?」
「えーと……なんとなく気分で……」
「そう……」
なんだか微妙な空気が流れる。
てか……冷静に装ってたけど、最初のレオンと2人の陰謀っぽいロールプレイ見られたの恥ずかしすぎる!
言い訳を考えよう!
「普通に話していると悟られる恐れがあるのであのように隠語を使っていた。現に2人共に聞かれてしまったが、なんの話かわからなかっただろう?」
「なるほど……たしかにそうね。ではその体でもう一度最初からやりましょう」
なんかフラウがワクワクした感じでそう提案してくる。
さすが中二病っ子、あの感じが楽しそうに見えたのだろう。
「ウチも違うギルドっ子ですが参加させてくださいニャー」
ニャーノさんも参加したそうなので大歓迎である。
というわけでやり直します。
とある廃墟にて、4つの怪しげな人影があった。
その4人は全身を黒のローブで包み、さらには顔を隠すように黒いフードを被っている。
周囲に人がいないことを確認して4人は話し始めた。
「ふふふ……ついに刈り時が来たようね」
「ええ、あの人……かしわもちは強くなりすぎた……にゃー」
「次なる満月の晩……我らが儀式の生贄に……」
「生贄に……」
怪しげな4人の男女の笑い声が無人の廃墟に響き渡る。
人が増えたおかげで怪しさがアップして雰囲気も満点でよい。
「では具体的な儀式の手順を決めましょう。失敗すれば呪はわたしたちに返ってきてしまうわ」
「うむ、当然のことながら相手に気取られてはダメだ。あのかしわもちという生き物は間が抜けているようで勘がいい」
「人生の荒波をくぐり抜けた猛者だからな。一筋縄ではいかないはずだ」
「話したこと無いけど素敵な方なのですにゃあ」
さて、なにかの悪巧みっぽい話し方も限界な気がする。
じわじわと普通の会話に持っていきつつ計画を立てよう。
「さて、肝心のタイミングについてだが……ターゲットは今夜20時にインする予定ということが同士Yよりの情報で伝えられた」
「その情報は確かなの?」
「ああ、信用できる男だし間違いない。確実にそうなるよう工作も仕掛けてもらう手筈となっている」
「ふふ、あなたの元には優秀な人材が集うのね」
なお同士Yは弟のゆうすけことゲーム名ユースである。
実家で母さんことかしわもちと2人で暮らしているので、予定を聞くなど容易い。
お昼は友達とお出かけの予定なので先ほどのフラウのように急に現れることもない。
さらにはユースとくーちゃんと夜に遊ぶ約束をしているので間違いなくインするのだ。
「それでカーターよ、何をするつもりだ? お前のことだからある程度のイメージはできているのだろう?」
「ああ、ターゲットはごく普通のお祝いを喜ぶ傾向がある。奇をてらう必要がないんだ。シンプルかつ盛大に行く」
「女性は祝われるのはなんでも好きですニャー。あ、贈り物もいりますよねえ。初レベル30になったご職業はなんですかニャ?」
「ああ、調理師だ。贈り物としてレベル30で使える装備一式を考えている」
「おお! ウチも花嫁修業で最初に調理師をがんがりましたにゃ。えへへー」
そう言いつつレオンに微笑むニャーノさんと、照れた顔となるレオン。
昨日から付き合うことになった2人の仲も順調そうで何より。
「シンプルな祝い事……わたしには苦手な分野かもしれないわ。なにか資料はないの?」
フラウが真剣にそう言いだした。
ぶっちゃけ適当におめでとーとわいわいするだけでいいのが、フラウが不思議と尊敬しているかしわもちへのお祝いなわけで、精一杯やりたいのだろう。
そんないい子のフラウが俺は大好きです。
「レオン、前回のサプライズパーティの動画はあるか?」
「ああもちろん、かしわもちさんの誕生日パーティだよな。再生するぞ」
映像には俺とユースに手を引かれるかしわもちが映る。
そしてとあるゲートをくぐった途端に皆がクラッカーを鳴らしてお祝いの言葉をかけている。
かしわもちはニコニコしながら皆にお礼を言う、とても微笑ましいホームビデオ的動画である。
「ねえ、これは予告なしの祝いよね。それにしてはあまり驚いていないわ。お母様はここまで冷静沈着な方だったかしら?」
「ああいや、驚かないのには理由があってな……」
この日、まず最初に現実世界で俺と弟のゆうすけがケーキとプレゼントを用意してサプライズパーティをしたんだ。
ゆうすけが初給料でお祝いを買ったのも相まり、その時は泣くほど喜んでくれた。
だからゲーム内でのお祝いは2番煎じというと言葉が悪いが、たいして驚くものではなかったわけだ。
「なるほど、それなら納得だわ。ふふ、2つの世界を行き来できるというのは素敵なことね。昨日だってあちらとこちらで異なる展開を楽しめたもの」
昨日のことが不意に蘇る。
異なる展開というのは、ゲーム内では俺からフラウにキスをして、現実ではフラウこと花ちゃんから俺にキスをしてきたことだろう。
やばい……さっきまでそのことを意識しないようにしていたのに、なんかドキドキしてきちゃう。
「にゃにゃ!? 昨日は現実でもなにか素敵なことをしたのですかニャ! 何したのか気になりますにゃあ」
「え? てかカーターとフラウさんはリアルでも知り合いなの?」
「ええ、隣に住んでいるわ!」
「んぬわぬぃ!? も、もしかしてあの時ぶつかった女の子が……」
やばい、内緒にしてた訳では無いが知られると面倒なことがばれた。
レオンが現実で俺の家に来た時に花ちゃんに出会ってるんだよなあ。
あんな美少女と知り合って仲良ししてるなんて知ったらレオンが泣いちゃう。
「ああ、あなただったのね。そういえばこの世界へと通じる機器を貸してくれたことにまだお礼を言ってなかったわね。ありがとう」
「あ、ああ……どういたしまして……。ゲーム内でも現実でも仲良しか……うらやましいな……」
「レオンさん……ウチともリアルで会ってみたいとか思いますかにゃあ?」
「それはもちろん……ああでも……」
ニャーノさんはプロフィール欄にネカマと書いてある。
おそらく今のレオンの反応だと、それはすでに知っているのだろう。
いやでも、実は男避けにそう書いているだけで本当は女性という可能性もかすかに残されているのだが……。
「試しに会ってみるのはいかがですかニャ? 新たな扉が開くかも……」
「いや、それはさすがに……でも……試しに会ってみれば吹っ切れるかも?」
ふむ、男とネカマがそれを知っててリアルで会うというパターンもあり得るのか?
レオンとしても、実は女性だったサプライズに望みをかけているかも?
「じゃあじゃあ試してみますかニャ? うちはあの……リアルでは身長180でマッチョなのですが……」
「え……」
俺の脳内ではマッチョに掴まれたままホテルに消えていくリアルレオンの姿が……。
漢になってこいよ、と脳内で敬礼!
「あはは、冗談ですニャ。でもいつかリアルで会ってみたいものですにゃあ」
「はは……そうです……ね……」
冗談というのは現実で会うことなのか、ムキムキマッチョの部分なのか……謎を残しつつ俺と花ちゃんがリアルでどうこうしていたという話題がどっかいって安心の俺である。
「2人共、大切なことを教えておくわ」
そんなレオンとニャーノさんに真剣な顔でフラウが言い始めた。
何を言い出すのか期待する俺。
「こちらの世界が真実であちらの世界はまやかし。ああ、突然こんな事を言っても信じないかもしれないから仮の話としておくわ。だからこの世界の相手を心に刻んでおきなさい。そうすればあちらの世界で相手がどんな姿であっても真実が見通せるわ」
「そ、そうか……」
「わかったニャー」
このゲーム世界が真なる世界と思い込んでいるフラウの意見。
なんか戸惑うレオン。
ほんとにいつかリアルでレオンと出会って肩に担いでテイクアウトしそうな、自称リアルマッチョなニャーノさん。
どう転んでも楽しめるなあと楽観的な俺。
「さて、脱線はこのくらいにして本題に戻ろうか」
どうも恋バナというのは脱線の元なのだ。
俺はフラウとの仲を根掘り葉掘り聞かれぬよう、話をもとに戻すことにした。
「お、おお……そうだったな。では先ほどの動画の続きだ」
皆にお祝いされてお礼を言うかしわもちのところから再開。
そこへ一人のホビホビ族の男性が現れる。
なんとその人の中身は、海外出張中の俺のリアルお父さん、つまりかしわもちの夫である。
ゲームなんてやったことのない父さんにお願いしてゲーム内のサプライズパーティに参加してもらったのだ。
「異世界のゲートを通じて遠き地同士を結んだわけね。やはり素晴らしい世界だわ」
「素敵ですにゃあ」
「ああ、いいサプライズだったよ」
「ただ、これを見た後だとどんなサプライズもかなわんな。だからこそ今回はシンプルでいいのかもな」
わりといいシーンなのでみんなでほっこりする。
なおこの時一人の男が泣きながら去っていくのが画面の隅に映る。
どうも状況的に、かしわもちに恋をしていたやつがいたようで、失恋のショックで立ち去っているようなのだ。
ただ……ギルドメンバーの誰もそいつのことを知らなくて、なんであそこに参加できていたのかも謎でちょっとしたホラーとなっている夏の出来事。
「なんとなくわかったわ。お母様にはお世話になっているもの。わたしなりの感謝の気持とともにお祝いさせてもらうわ」
フラウがなにか思いついたようだ。
なんとなくこの子はかしわもちに抱きつきそう。
でもかしわもちは間違いなく喜ぶのでヨシ!
「ではウチはギルメンではないですが、レオンさんの恋人枠としてご挨拶させていただきますニャ」
「ああ、かしわもちは人の恋バナ大好きだから喜ぶよ」
「えへへー、イチャイチャしますにゃ。ねー、レオンさん」
「そ、そうですね……なんか緊張してきた」
「それであとは何を決めるの?」
実のところ計画はもう既に全部決まっている。
俺は今日レオンとここで雰囲気づくりにアホなことをやっていただけだ。
内容をフラウとニャーノさんに伝えるだけでいいので決めるべきことはない。
というのを最初に言うのも味気ないので、一緒に会議する風にしていたわけだが、もう少しだけこの雰囲気を楽しむか。
「そうだな、まず今決まっている内容の全貌をつたえよう。改良すべき点があれば何でも言ってくれ」
というわけで予定していた計画を全部話しておく。
2人は真剣に聞いてくれ、特に意見は出なかった。
「わたしにとっては初めての体験。あなたの案に従い学ばせてもらうわ」
「ウチはただただ楽しみますニャー」
「よし、では会議終わり。今日もどっか行くかー」
「おー!」
4人とも羽織っていたローブを脱いで放り投げる。
なんか知らんけど青春って感じがしていい。
あとは昨日のようにのんびり遊びつつ、夜のサプライズパーティを待つのみ。
ただこの時の俺は……あんな惨事が起きるなんて全く知るヨシもなかったのである……。




