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56.ファーストなんとか

 前回までのあらすじ。花ちゃん曰く「ドキッとさせてほしい」と。俺はゲーム内でドキドキした、1つの椅子に2人で座るという行為を現実でもやってみようと提案した。それをやり始めた時点で俺の心臓の鼓動は速度を増し臨界点に達し大爆発を起こした。これが世界の始まりビッグバンである。


「ねえ早く……あの時のようにして……」


 その言葉ではっと我に返る。

 どうやら俺は意識を失いかけていたようだ。

 ひとつの椅子に2人で腰掛けるという行為をしただけで色々やばい状態だ。

 あの時……いったいどうしてたんだっけ? 思考がまとまらない。


「すまない……ちょっとうまく頭が回らなくてな……」


「顔が赤いわ。もしかしてだけど……あなたはすでにそうなってしまっているの? ずるい……」


 ずるいとはどういう意味なのだろうか?

 そうなっているというのは、花ちゃんが希望した「ドキッとしたい」ことについてだろう。

 てことは花ちゃんもドキドキしたいということでいいかな?

 あー、でもどうしたらいいかわからん。もうへたれな俺のバカ!


「すまないな……想像以上に緊張してしまっているようだ」


「緊張……どうして? あちらの世界でやったことを再現しているだけなのに」


 どうしてってそりゃあ……ゲーム世界では暗闇だったしクエストをやるという名目もあったし、現実とは感触や香りやら全然違って今より弱かったし……。

 なにより、これからイチャつくこと確定だしその後にキスとかあるかもしれないしで妄想が膨らみすぎてやばいんだ。

 それにしても、花ちゃんは緊張してないのか……。

 ああもう、へたれと思われていいので正直に言うか。


「実は女性と触れ合うことになれてないんだ。特に……好きな相手だと緊張が最大になる」


「そういうものなの……。わたしはそこまで緊張していない。むしろ安心しているわ。これは、わたしはあなたを好きではないということ?」


 不安そうにそう言ってくる花ちゃん。

 いや、こんなことして安心してくれている以上好きと思ってくれているはず。

 うーん……よし、目の前のノートパソコンに頼ろう。


「ならばこれで検索してみよう。花の今の感情の一般的な思考をな」


「わかったわ。あの時のように片翼の作業ね」


 密着したまま俺が左手でキーボード、花ちゃんは右手でマウスを操作である。

 こんなことしてる時点で相思相愛じゃあないかと思う。

 よし、だんだん密着に慣れて落ち着いてきたぞ。

 キーボードにて『くっつくと安心』という文章を打ち込む。


「これで検索してみよう」


「ん……でも下手に手を動かすと落下の可能性があるわ。支えて……」


 支える……そういえば俺の右手は宙に浮かせたままという間抜けな状態だと気づいた。

 ゲーム内を再現するならば、まず肩を支えるんだったな。

 そーっと花ちゃんの肩に触れ……ゲーム内とぜんぜん違う柔らかさにビビる。

 しっかり支えて抱き寄せてっと……。


「これでどうだ」


「ん……まだ支え足りないわね」


 おおう! 花ちゃんが俺の肩に頭を乗せてきた。

 そうだった、ゲーム内で俺は頭を抱き寄せていたんだったな。

 どう考えても肩を支えるより不安定なんだが、やるしかないな……。

 震える手をゆっくり動かして花ちゃんの頭に……髪の毛のなめらかな感触が気持ち良い……。


「えっと……痛くないか?」


「心地よいわ。ではあの時のようにお願い。それで動けるようになると思う」


 あの時……えーと、花ちゃんの頭というか猫耳をなでなでしてたんだっけか。

 耳とかいいの?

 と、とりあえず頭をそーっとなでなで。


「ふふ、いいわね……そのまま続けていて」


 ここでようやく花ちゃんの右手が動き、画面上の検索ボタンが押された。

 検索結果の一番上には『彼氏とくっつくと安心する理由』というのがある。


「その一番上のを選んでみてくれ」


「ねえ、あなたはわたしの彼氏なの?」


 もちろんだよ、と答えたいけど正式には違うんだっけか?

 なんかややこしいなあ。

 でもそうなりたいんだし正直に……。


「そうなりたいと思っている。とりあえず、仮にそうだということで中を見てみよう」


「そうね、今は多くの情報が必要だわ。ねえ、これを選んだらわたしはあなたを見つめておく。あなたが読み聞かせて」


「お、おう……」


 せっかく一緒に画面を見れる状態なのに、先ほどのように読んでほしいとな。

 てか恥ずかしいわけだが……。

 画面がクリックされて情報が表示されていく。

 なんとなく花ちゃんを見ると、俺を真剣に見つめていてドキッとさせられる。


「ん……やはりドキッとはしないわ。ただ心安らぐだけ。やはりあなたへのこの想いは恋愛感情ではないの?」


「どう……だろうな。それは人によりけりかもしれん」


「そうね、わたしは一般的な人とは違う存在だもの。あ、話がそれたわね。情報を頂戴」


 画面を見ると、いろいろ書いてあるな。

 恥ずかしくなるのもあるが、順番に読んでいくか。


「順番に読んでいくぞ。気になる場所があれば言って止めてくれ」


「うん……」


 ん……花ちゃんが『ええ』でなく『うん』と返事をする時は、中二病ぽさが抜けて女のっぽくなっちゃってるモード。

 やはりこの状況でドキドキしてくれている気がする。

 その嬉しさで落ち着きが出てくる俺。


「リラックス効果があるから。安心できるから。幸せを感じるから。くっつくことやボディタッチが好きだから」


「ん。ちょっと待って。最初の方はあたっているわ。でもわたし……接触することが好きなのかしら? ねえ、どう思う?」


 ゲーム内でも現実でも手をつなぎたがったりしてるし、今もこうやってくっついてるし間違いなく好きなんだと思う。

 てか、自覚なかったのか。


「今もこうしてくっついてきてる以上好きなんじゃないか?」


「そういえばそうね……。知らなかったわ……。ふふ、あなたといるおかげで新たな自分を見つけられるわね。さあ、次へいきましょう」


 新たな君を見つけられて俺も嬉しいっす。

 あーもう幸せ。

 もう間違いなく今日で恋人同士確定だもの。


「相手がこちらを信頼しているとわかるから。相手との関係にストレスがないから。身体が温まるから……」


 ここまで言って気づいた。

 俺今めっちゃ汗かいてるぞ……特に花ちゃんと密着しているところとか頭をなでている手とか……。


「どうしたの? その通りなので問題ないわよ」


「いやその……俺緊張してるせいでかなり汗かいてるから嫌じゃないかなーって……・温かいというより暑いだろう?」


「ううん……むしろ好きよ。心地いいもの。あ、もしかしてあなたは不快?」


「いや、心地いい……」


「なら問題ないわね。早く次を聞きたいの」


 なんか当たり前のように、どうでもいいことのように返された。

 なんともありがたいお話である。


「では次……相手との関係に慣れてきたから。満たされるから。次で最後だ……好きな気持ちを感じるから……」


「好きな気持ち……今あるこの感情はあなたを好きということなのかしら。ねえ、どう思う?」


「どうだろうな、でもそうであってほしいと思うぞ」


「そう……あなたがそう言うのならそういうことにしておくわ」


 えーと?

 花ちゃんも俺のことが好きということでいいのかな?

 それでえーと、こっからどうしたらいいの?

 あ、そういえば花ちゃんをドキッとさせるんだったっけか。


「ところで当初の目的だった、ドキッとはした?」


「ん……残念ながらしてないわね。似たような状態ではあるけどね。一時的なものではなく継続的な方」


 えーと、ドキッとするのが一時的とすると……継続的な方はドキドキ?

 ずっと冷静なままだと思っていたけど、ドキドキはしてくれていたのか。

 よし、またこれを調べてみよう。


「では次はその感情について検索してみるか」


「ううん、これはもういいわ。だからあなたが教えて。あなたが言うことがわたしにとっての真実となる。もう一度質問をし直すわ。わたしとあなたは……どういう関係なの?」


 俺が言うことが花ちゃんの真実となる……。

 よし、ここまでお膳立てされたらどうしたらいいかなんて、ヘタレの俺でもわかる。

 堂々と思うことを言おう。


「俺たちは……お互いに相手のことを好きと想っている恋人同士だ」


「そう……わかったわ。わたしとあなたは恋人同士。では、恋人同士がすることをしましょう。わたしはわからないからあなたが全て導いて……」


 え? なにこの急展開。

 花ちゃんの言葉をそのまま受け止めれば何をしてもいいことになってしまう。

 俺の恋人のイメージは、告白して付き合い始めて最初はなんだかぎこちなくて徐々に仲良さが増していって、何度かデートを重ねてついにキスとかそういうやつ。

 やばい、またへたれの俺が顔を出してくるので脳内会議!


『もうなにしてもいいってんだからやっちまおうぜ。キスしてからベッドに抱っこして連れてきゃいいよ。もう2人共シャワー浴びてるんだろ』


『待ちなさい、女の子の何してもいいというのは言葉通りに受け取っちゃダメ。後からそういう意味じゃないって言われる可能性があるわ。念のためもう一度言わせて録音しておきましょう』


『孫は早めにほしいんだけどね、やっぱりちゃんと卒業してからの方がいいと母さん思うんだよ。あ、でもベッドの横の棚にちゃんと買っておいたんだっけか。じゃあおっけー』


 心の中の悪魔と天使とカーチャンの声、いつも通りである。

 このままでは理性が負けて襲いかかってしまいそうだ。

 よし、路線を変更して今日はそういう行為をしない方向で意見をください!

 俺は順番にステップアップしていきたいのだ。

 そして最初に手を上げたのは天使であった。


『そういう路線ならそれでもいいけど、先に警告しておくわよ。今ヤらなかったらあなたはこの先もずっとできないわよ。だってヘタレだもの!』


 そ、そうなのだろうか?

 花ちゃんのこの感じならチャンスはいつでもありそうな気がするけど。


『いいえ、この子はいま純粋無垢な状態。今日あなたが何もしなければ、恋人同士は何もしないものと刷り込まれるわ。さあとっととやっちゃいなさい!』


 むう、そう言われるとそんな気がしてきた。

 このままキスしてベッドインすべきか?

 お、悪魔さんが手を挙げたぞ。


『まあ待て、そんな焦る必要もない。よくよく考えるとこの子は普通じゃない。俺たちだけの恋人の儀式ってことにして10段階の儀式を順序よくやるって設定にしとこう。キスは3くらい、子作りは練習は10くらいか』


 ほうほう、それなら俺の希望通りステップアップしていけるな。

 そして天使の言うように何もできないまま時がすぎるというのもなくなる。

 俺はこれでいいと思うが天使さんはいかがですか?


『別にそれでもいいけど、明るい家族計画書と見積もりはちゃんと提出してもらうわよ。わたしが納得できるようにね』


 天使の望む計画書か……ところどころで写真撮ったり録音していつでも使えるようにしとけとか言われそうで怖い。


『そうそう、よくわかってるじゃない。いい、相手は未成年。逮捕されないようにする対策が大事なのよ』


 逮捕って……怖いこと言わないで。

 でもそうだよなあ……花ちゃんと出会った当初は、俺の部屋に入ってくるだけでそういう恐怖を感じてたんだった。

 最近慣れですっかり忘れてたが、リアル女子高生が部屋に遊びに来てるこの状況がやばすぎるのだ。

 へたれなまましばらく時が過ぎ去ってもいい気がしてきたぞ。

 えーと……あとはまだ意見を出してない、心の中のカーチャンお願いします。


『さっきから恋人同士がやることを探して見るみたいだけどさ、あたしから見たらもう立派な恋人じゃないかい? 自分たちをよく見てご覧よ』


 ん? 今の俺たち……?

 一つの椅子に2人でくっついて座っていて、花ちゃんは俺の肩に頭を乗せ、俺はそんな花ちゃんの頭をなでなでしている。

 ほんとだ! これが灯台下暗しというやつか?

 これをこのまま花ちゃんに伝えればいいか。


「実はもうしているんだ。普通は恋人同士……好きな者同士でなければこうやってくっついたりはしない」


「そっか……考えてみるとそうね。こんな行為をしたのは初めてだし、あなた以外とこれをしたいとは思わない。じゃあこのままもう少し……あの時と同じことをしてみて」


 あの時とはゲーム内で同じような状態になっていた時だよな。

 たしか俺はフラウの頭をナデナデしつつ、猫耳もなでなでしてた。

 つまり……花ちゃんの耳を……。

 よーし……中指のおなかでさわーっと……。


「ひゃうっ!」


 唐突に花ちゃんのすんごい可愛い声。

 なんか耳どころではない場所を触ってしまったような気分となる。


「すまない、くすぐったかったか?」


「う、うん……でも大丈夫。あちらの世界の不慣れな身体と違いこちらの身体はあなたの感触を大きく感じれるみたいで……続けてみて……」


 いつもより早口で、なにか言い訳をするかのように理由付けをしているようだ。

 やばいやばい……可愛すぎてやばい。

 あまりくすぐったくないよう、次はちょんっと指先で耳をつついてみる。


「んっ……どうしてこんなに……ねえもっとしてみて……」


「お、おう……」


 俺が触っているのは本当に耳なのだろうか?

 ゲーム世界だと、ニャコラ族が猫耳を触られるのは胸を触られるくらいの行為ということを思い出してしまう。

 その原理に基づくならば、俺は今花ちゃんのおっぱいを触っていることになってしまうのだ。

 次は人差し指と親指で耳たぶをつまんでみる。


「ふみゅう……ううん……」


「花……かわいいよ……」


 ついつい自然にかわいいよと言ってしまった。

 耳を触ってほしいと言われ、触るとこんなにも良い反応。

 可愛すぎて食べたくなってしまう。

 耳にキスとかしたらどんな反応するのかなあ。


「ん……ねえ……わたしからもしていい?」


「お、おう……」


「では正面を向いていて……」


 花ちゃんも俺の耳を触りたくなったのかな。

 俺の耳の感度ってどうなんだろう……今まで人に触られたこととかないからわかんないんだよな。


「はむっ……」


「ふひゃわああああっ!?」


 唐突にに来たやわらかな感触に俺は今まで出したことのない声を出してしまった。


「んふふ……おはえひー」


 耳に温かな風……これは吐息?

 そして舌足らずの可愛らしい声が俺の脳内に響いてくる。

 つまりこれは……俺の耳たぶが花ちゃんに食べられている!

 間違いない……そして歯で噛まれているわけではなく唇ではむはむされている。


「ふおおお……んん……」


 俺の声は花ちゃんの可愛らしい反応と違い、獣がうなっているかのようだ。

 でもそんな俺の反応が楽しいのか、花ちゃんの耳はむはむは止まらない。


「んふ……らいひゅき……」


「ふわおおわあっ!」


 なんか耳たぶぺろっとされてる感触があっ!

 なにこれ気持ちいい……耳から脳内に駆けめぐっていく快感。

 やばいやばい……このままでは溶けて死ぬ……俺も対抗だ!

 右手で花ちゃんの耳を探し当ててさわさわっ!


「んひゃう……むうう……」


「ふおおおおっ!」


 花ちゃんへの俺の攻撃が成功していい反応を聞けたはいいのだが、花ちゃんの口が俺の耳にある今の状態では、花ちゃんの喘ぎが俺の耳を攻撃してくる。

 これでは俺が花ちゃんを気持ちよくさせるとその倍が帰ってくる状態だ。

 む……俺の頭がやわらかな感触に包まれる。

 花ちゃんの手で頭をホールドされてしまったか?


「ねえ。恋人同士がする行為としてこれは正しいこと?」


 耳に温かな吐息をかけられつつ囁かれている。

 くすぐった気持ちよくもう脳がとろけそう。


「ああ……おそらくかなり仲のいい恋人同士と……思うぞ……ふおっ!」


「そうなのね……だったらあなたと恋人になれて嬉しいわ。こんなに楽しいなんて……」


「お、おう……俺も嬉しいぞ……」


 耳をはむはむ食べられつつ、花ちゃんの耳をなでなで。

 どんないちゃつき方だよと心のなかでつっこみを入れつつも気持ち良すぎるし幸せすぎる。

 俺の反応が楽しいのか、花ちゃんは飽きることもなく俺の耳をもてあそんでくる。

 なんかもうだめだ……力が抜けていき、するとどうなるか。


「うおっ!」


「ひゃんっ!」


 狭い椅子に2人で座ってたわけだし、当然落ちちゃうのである。

 でも花ちゃんに怪我はさせまいと抱き寄せつつ、俺も頭を打たないように受け身!

 身体に衝撃が来て痛みを感じ……るより先に顔のすぐ近くに花ちゃんの顔がある驚きが勝った。

 うろたえつつも、まずは安否確認である。


「えっと……怪我はないか? 花……」


「わたしは大丈夫。あなたがいたもの。でもあなたはきっと大丈夫じゃないわよね」


「いや、たぶん大丈夫と思うぞ……」


「いいえ、あなたは無理をしているだけ。目を閉じて……わたしが治すわ」


 特に痛む場所もないし、たぶん大丈夫なのだが……。

 とはいえ花ちゃんが目を閉じてと言うからにはそうしなくてはなるまい。


「あちらの世界であなたはわたしを呼び戻してくれた。今度はわたしの番よ……」


 どういうこと? と思う間もなく、唇に柔らかな感触がやってきた。

 え? もしかしてキスされてる?

 ゲーム内で生き返らせるためにしたキスを、攻守交代で再現している?

 ファーストキスは女の子側からなのか……でもへたれな俺にはちょうどいいのか? などとどうでもいいことを考えてしまう。


 ああでも……現実のキスというのはゲーム内の数百倍は気持ちいいようだ。 

 永遠にこのまま倒れていたいなと思いつつわりと長い時間が過ぎていく、気がする。

 そして唇の感触が離れていったので目を開けると、そこには女神が微笑んでいた。


「ふふ、生き返ったわね。わたしの最愛の人……」


「あ、ああ……ありがとう……」


「お礼なんていらないわ。恋人だもの……」


「そ、そうだな……」


 この後はちゃんと起き上がり、少し話をして花ちゃんは満足そうに帰っていくこととなる。

 その話をしている間も俺は夢心地でふわふわしていた。

 でもとりあえずたしかなことがある。

 俺に初彼女ができました!

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