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53.ふたりの世界

 前回までのあらすじ。恋が終わりし男レオン、恋を求めしネカマのニャーノさん。2人が出会うことによって、まるで導かれたかのようにカップル成立してめでたい今日このごろ。あとはお若い者たちでって感じでパーティは解散し俺とフラウはふたりきりで拠点へ戻ってきた。お昼からは何をしようかなと考えつつ現実へ戻り、今日のお昼ごはんは花ちゃんのお母さんが昨晩から煮込んだカレーを食べました。おいしかったです。


 さて、おなかいっぱいになったしお昼からは何をしようかな状態である。

 いろいろやりたいこともあるが、やはり先ほどこなしたクエストの報告であろう。


 ではこれからのあらすじ。魔法を動力として動く人形であるタルタル。俺とフラウが名付けたタルタルのため、その動力となる魔導石に魔力をこめるクエストを受けた。人の想いを魔力として石に込める。要約すると俺とフラウがイチャイチャしつつ愛という名の魔力を込めた魔導石が完成した。これで果たして愛娘のタルタルであるファーリィはどうなるのかさっそく報告に行く。


 久々にやってきたタルタル研究所である。

 受付に話しかけ、タルタル研究の第一人者でおるタルーガ博士を呼んでもらう。


 すると、今まで入ったことのない研究室っぽい部屋に案内された。

 恐らくクエスト専用で、普段は入れない部屋なのであろう。

 こういう場所に来ると何が起こるのかなとワクワクするものである。

 ソファーに座って少し待つと、タルーガ博士がやってきた。


「やあやあ、さっそく仕事をこなしてくれたようでなによりじゃ。魔導石を見せてくれるかな」


 俺とフラウはそれぞれが持っている、魔力充填済みの魔導石を取り出して机に置いた。


「ふむふむ、しっかり魔力がこもっているようじゃな。どれ、詳しくみてみよう」


 タルーガ博士は謎の装置を取り出し、そこに魔導石をセットする。


「その装置はなんですか?」


「これは最近開発した測定器じゃよ。魔力の量だけでなく、その質……というか個性のようなものをそくできる。まだ試作段階じゃがな」


「その個性というのは、魔力に込められた想いということですか?」


「ほっほっほ、ロマンチックな言い方をすればそうじゃな。昔は迷信とされておったんじゃが、最近になって想いの力がタルタルの性能に影響を与える説が有力視されておるんじゃ」


 昔は迷信か……。

 遺跡の隠し部屋にいた幽霊、過去の研究者も信じていなかったが、信じればよかったかもと言っていた。

 きっと今タルーガ博士が言った説が正しいのだろう。

 ロマンチックでない言い方をすると、ゲームの流れ的にきっとそう。


「かなりの想いを込めた自信がありますわ。結果が楽しみです。ね?」


 フラウが自信たっぷりにそう言って俺に同意を求める。

 恥ずかしがらずに堂々と想いとか言えるのがなんかすごい。


「そうだな」


「ほほう、それは楽しみじゃわい。どれどれ……」


 タルーガ博士が装置を操作すると、魔導石から淡い光が放たれる。

 そして装置についているいくつかの計器の針が動き出す。

 ただ、俺がみても何がなんやらさっぱりである。

 タルーガ博士の言葉をゆっくりと待とう。


「ほうほう……ふむふむ……おお……これは!」


 しばしうなっていた博士が驚いたような声を出す。

 こういう場合はたいてい良い結果のはずだ。


「今までにない波長の魔力が検出されておるな。実に興味深いぞ」


「それはタルタルになにか影響がありそうですか?」


「まだわからぬ……が、いい影響があることは間違いないな。君たちに頼んでよかった。これならば、構想中のあれが実現できるやも……少し考えさせてくれ……」


 タルーガ博士は目を閉じて考えこんでいる。

 とりあえずは、俺たちの作った魔導石が大成功でよかった。

 ただ、ここで知りたいのは……このタルーガ博士の反応がデフォルトなのかユニークなのかってことだ。

 要は、この魔導石を作りのクエストをこなしたらみんな同じイベントになるのか、人によって違うイベントになるのかってことだ。


 このゲームのAIは優秀で遊び心がある。

 クエストの展開を人によって細かく変えることはよくあるし、なんなら報酬も変えてくれたりすることまであるのだ。

 運良くそのAIの気まぐれに乗っかれたらプレイヤーは少しお得な気分となれるし自慢できる。

 だから今のこの展開、ユニークな展開だといいなあ。


「ふふ、ファーリィがどうなるか楽しみね」


 フラウが小声で俺にささやいてくる。

 なんか気分的には、夫婦で病院に来てお腹の子の様子を教えてもらったような感じ。

 本日も俺の脳内妄想は絶好調です。


「そうだな。戦闘用ではないから強くではないが、賢い子になってほしいぞ」


「大丈夫よ、あなたの子だもの」


「そうだといいな……」


 俺の妄想力がすごすぎるってだけでなく、フラウの言い方にも問題はあると思う。

 この子は天然状態で男を……というか俺を惑わせる。

 この妄想を早く現実にしたいなあ。


「よし、決めたぞ!」


 タルーガ博士が立ち上がり、俺たちを見下ろそうとするが……ちっこいホビホビ族なので立ち上がっても目線の高さは同じ。

 横にあったホビホビスツールと呼ばれる台の上に移動するタルーガ博士である。

 おちゃめな面もあるおじいちゃんのようだ。

 さあ、何を言われるのか楽しみで仕方がない。


「このふたつの魔導石をまたタルタルの新実験に使わせてもらいたい」


「新実験……どのようなものでしょう?」


「タルタルへの意思伝達を人の心で行う実験じゃよ。従来ならば音声にて命令を伝えておるが、うまくいけば人の意思でそのままタルタルを操れる」


 タルタルを思いのままに操れるか……。

 なんか楽しそう。

 てかあれかな……今度実装される新職業がタルタル使いとかそんな感じで噂されてたはずなので、それかもしれない。


「それは素晴らしい技術ですね。ぜひ協力させていただきたいですわ」


「うむうむ、ありがたいわい。実のところこれまでは失敗続きだったんじゃが、この魔導石ならば成功する気がしておる。ちょっと今から試してみたいことがあるのじゃが、時間はあるかな?」


「もちろんです。新たなる実験に関われるなど滅多にない機会ですもの」


 タルーガ博士の提案に即答するフラウ。

 もちろん俺も大賛成。

 なおこの時点では共通イベントがユニークイベントかはまだ不明である。


「ではまず準備じゃ。おい助手よ……あれとこれとそれを準備してくれ」


 タルーガ博士が身につけた指輪に話しかける。

 あんな適当な指示で助手さんに意味は伝わるのかなと思いきや、すぐにドアが開いて様々な機材が運び込まれてきた。

 このゲーム、イベントの待ち時間はあってないようなものという忙しい人にも安心設計。


「さすが博士の助手だわ……。あの人たちは博士の意思をいつでも読み取れる能力を持っているのね。わたしもいつかは……」


 そう言ってちらっと俺をフラウ。

 俺の脳内では、『母さんアレとってくれ』で伝わる仲の良い夫婦の姿が妄想されている。

 おや、頭にリボンをつけたタルタルが部屋に入ってきた。

 あれは俺とフラウの愛娘ファーリィだ。


『オヒサシブリデス。オトウサマ、オカアサマ』


「お、おう……元気だったか?」


「ひさしぶりねファーリィ、いい子にしてた?」


『ハイ、学習ハ順調デス』


 急にお父様とか言われてびっくりしてしまった俺と、当たり前のようにしているフラウ。

 これが母は強しということなのか……違うなたぶん……。


「ファーリィ、魔導石を変えるから休止モードになってくれ」


『ハイ、博士』


 感動の再会も束の間、タルーガ博士の指示で動きを止めるファーリィであった。

 助手さんがファーリィの胴体の樽を開けて魔導石を取り出してタルーガ博士に渡す。

 そしてタルーガ博士が俺たちの方を向いて口を開く。


「今回の新実験が成功しそうと言ったのはじゃな、この魔導石の今までにない反応もなんじゃが、性質がほとんど同じものが2つあることじゃ。普通は個体差が出るものなのに、よくこんな状態で作れたもんじゃ」


「魔導機士の意思伝達を真似、わたしたち2人で同調して作りましたので」


「ほほう、それはなんとも興味深い方法よ。おかげでこれまでにない唯一無二の結果が出そうじゃ。見ておれ……」


 なんとなくユニークイベントの予感!

 あのいちゃつきながら魔力を充填したことが大成功の鍵だとしたら、ちょっと恥ずかしくもあるが……。

 タルーガ博士は謎の機械に俺たちが持ってきた2つの魔導石を入れる。

 すると……なんと石が2つとも真っ二つに割れてしまった。


「割れた……?」


「うむ、純度の高い石はこのように綺麗に割ることが可能じゃ。そしてこうすることもできる」


 それぞれの片割れをタルーガ博士が手に取り合わせると……なんと2つがくっついた。

 境目がわからないくらいに綺麗にくっついている。

 俺の作った石の半分とフラウが作った石の半分がくっついて1つになっていることに、なぜかドキドキする俺であった。


「さあ、これをファーリィに組み込むぞ」


 俺とフラウの愛の結晶魔導石がファーリィの体に組み込まれる。

 そして再起動だ。

 ん? なんとなく体の中があったかいような……?


「ファーリィ、気分はどうじゃ?」


「ナンダカボディガ暖カイデス。オトウサマトオカアサマを感ジマス」


「そうかそうか。して、君たちはどうじゃな?」


「わたしも何となく体温の上昇を感じます」


「俺もなにか胸の奥が暖かいような……」


 これは、ファーリィが俺やフラウと同調しているのか?

 なんかすっごい気持ちいいぞ。

 あれ? そうすると俺とフラウも繋がってる?


「とりあえずは成功じゃな。ファーリィと君たちは問題なく繋がっている。拒否反応も一切ないようじゃ」


「ということは、心で念じてファーリィに指示を出せるってことですか?」


「いや、そうではないんじゃ。ファーリィには中継役となってもらう。実際に動かすのはこっちじゃよ」


 タルーガ博士の指差す方を見ると、そこには小さめのタルタルが2体いた。

 そしてタルーガ博士は、先ほど2つに割られて使わなかった方の片割れを2つ手に取り、2体のタルタルに組み込んだ。

 俺とフラウの魔導石は、半分がファーリィの中、残り半分が新タルタルの中に入ったことになる。


「先ほどは君たちとファーリィが繋がった。そして今度はファーリィとこの子達が繋がるんじゃ」


 2体のタルタルが起動するが、特に動かない。

 先ほどの説明だと、俺たちがこれを動かせるのか?

 なんとなく念じてみるが、特に動きはない。


「動かないですね……」


「うむ、さすがにこのままでは無理じゃろうな。石の伝達を補助する魔道具があるんじやよ。これを持ってみてくれるか。名をタルリンガーという」


 渡されたのは、指揮棒のような棒。

 先端にちっちゃな樽がついている。

 それを握って念じてみると、なんと片方のちびタルタルが動き出した。

 しかも思った通りに動くぞこいつ!


「さあ、お嬢さんも試してみておくれ」


「はい……。わ……すごい……」


 滅多に聞けないフラウの可愛らしい無邪気な声である。

 それくらい感動的な出来事なのは間違いない。

 VRゲーム内で自分の体が意思通りに動くだけでもすごいと思っていたのに、さらに別のものまで思い通りに動くんだもの。


「ふふふふふ……大成功じゃ!」


 タルーガ博士が声高々に笑い出す。

 びょんぴょんと年甲斐もなく跳びはねていて、よっぽど嬉しいんだなとわかる。


「博士、とても素晴らしい技術です。まるで自分の手足のように動かせますわ」


「うむうむ、これも君たちの魔導石をあってのこと。このデータを分析すれば、ほかの魔導石でも同じことができるようになるはずじゃ」


 ふむふむ、この実験の成功により新職業であるタルタル使いが生まれるのだろうか。

 これ操って戦闘するの楽しそうだなあ。

 でも今操ってるのは小さいタルタルだ。

 ここからどうなるんだろう?


「この小さなタルタルは実験用ですか?」


「うむ、何かあってはいけないからのう。実験データがある程度取れるまでは非力なタルタルを使っておる。実験がうまく行けば戦闘用のボディに交換するぞい」


「それは楽しみです」


「さて、どんどん実験したいのじゃがその前に……。この子達に名前をつけてくれるかな」


 名前か……ファーリィに名前をつけるだけでわりと大変だったんだけど、今度は2体かあ。

 この子らはファーリィの弟が妹ってことになるんだろうか?


「この子達は双子になるんですかね?」


「そうじゃな、君たちの作った性質がほとんど同じ2つの魔導石で動いておる。双子と言ってもいいじゃろうな」


「えっと、性別などはありますか?」


「うーむ、タルタルに性別はないのじゃが、ファーリィも女の子と設定して性格もそのようになったからのう……よし、男女の双子としよう。目印が欲しいがなにかないか」


 男女の双子となったらしい。

 タルーガ博士が目印になるものがないか見渡すとファーリィが手を上げた。

 そして横にぶらさげているポシェットから何かを取り出す。


『ハカセ、コレヲツケマショウ』


「ほほう、水色とピンクのリボンか。つけてやってくれるか」


『ハイ』


 さすがは女の子設定タルタルのファーリィ、リボンを常備しているとは……ってなんでだ?

 お父さんとして聞いておこう。


「ファーリィ。それはどこで入手したんだ」


『ピルルサンニモライマシタ。コノポシェットモデスシ、イロイロナ物ヲクレルンデス』


 ムーンオニオンズ団のちびっ子ピルルちゃんか。

 裁縫が得意で、ファーリィが頭につけてる赤いリボンも作ってくれたんだよなあ。

 知らぬ間に他のものも作ってくれていたとは、ファーリィを気に入ってくれたのかな。

 そして2体のミニタルの片方は頭にピンクのリボンが、片方は首元に蝶ネクタイのように水色のリボンが付けられた。


「では改めて、2人で名前を考えてくれるか」


「いえ、ファーリィも一緒に考えましょう」


『ワタシハマダソウイウノヲ考エラレマセン。オトウサマトオカアサマニオ任セシマス』


「そう……ならばわたしたちが考えたものがいいかどうか教えてちょうだい」


『ワカリマシタ』


 こういうときはデフォルトで名前がいくつか用意されてるものと思っていたが、自分たちで考えなきゃならないようだ。

 とりあえずフラウと話し合い、まずはお互いに考えたものを言い合うことになった。


 うーん……まず頭に浮かんだのは『よもぎもち』と『いがもち』、とかおもちシリーズだった。

 ちなみにいが餅というのは俺の地元の和菓子で、あんこ入りのおもちの上にもち米がいがいがっぽく乗っているものだ。

 俺一人だったら間違いなくこれで決まっていたのだが、フラウ好みではなさそう。

 タルをつけて『よもぎタル』『いがタル』……はなんか変だな。


 次に思いつくのは左右のレフトライトの樽ってことで、『レル』と『ラル』。

 悪くはないが安直すぎだろうか。

 ここはフラウに投げっぱなしにしたいところだが怒られそう。

 フラウがどんなのを考えたか聞いてみるか。


「フラウはどんなのを考えた?」


「双子だから文字数は揃えたいところね。アビスとパルス……でもだめね。ただわたしの好きな単語を並べただけ。これは却下かもね。あなたはどう?」


 深淵と鼓動……タルタルが心で通じ合って会話をするのにあってるようなあってないような……。

 それが却下なら、好きな単語を並べただけの俺の『よもぎもち』と『いがもち』もだめだな。文字数もあってないし。

 というわけで後の方を言うか。


「シンプルにレルとラルってのを考えたが」


「悪くはないわね。ファーリィはどう思う?」


『ドチラモ素晴ラシイデス。両方ツケテホシイデスガ無理デスヨネ。悩ミマス』


「ならばファーリィを付けたときのように混ぜてみましょうか」


 その後話し合った結果、『レビル』と『ラルス』になりかけたが、正直呼びにくいしもっと可愛くしたい。

 ここでいいことを思いついた。


「フラウ、ひとつ思ったんだが……この2つの魔導石を作れたのはあの隠し部屋のおかげだ。そしてそこを見つけられたのはレオンとニャーノさんのおかげだ。あの2人から少し名前を貰わないか?」


「なるほど……悪くないわね。ということは……」


 ということで2人で悩む。

 そして話し合いの結果、『レオル』と『ラーニャ』になった。

 ファーリィも気に入ってくれたのでこれで決定である。


 さあて、名前も決まったしもう少しこの研究所でいろいろやるぞー。

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