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50.魔力に想いを

 前回までのあらすじ。今日は古代の遺跡であるオランデー遺跡に冒険に来ていた。そこにあった巨大な図書室の隠し部屋を見つけた俺達はそこを探索し、一冊の謎の本を見つけた。それは魔法の力で中身が隠蔽されていると予想した俺達は、その魔力を枯渇させて真実を暴こうとする。

 その手段として用いるのが、魔導兵器タルタルの動力源として使う魔導石だ。これに魔力を貯めるために先ほどの本から魔力を奪う。2つの目的が同時に達成できる素敵な作戦である。


 真っ暗だった部屋の机にカンテラを置き、作業しやすいように明るくした。

 まずは魔力を込めるための魔導石の準備だ。


「まずは先程拾った魔導石を出して……そのままでは使えないから手順に従って初期化するぞ。スクロールを用意して……それぞれ1つずつ作るか」


「そうね。でも一緒に作りましょう。両方の石に2人の魔力を込めたいわ」


「もちろんだ」


 この魔導石は俺たちの子……という設定のタルタルのファーリィに使う予定だ。

 俺たちの子の動力源だからしっかり心を込めよう。

 つい先程までファーリィの存在を忘れていた俺だが、急に父性が湧いてきている。

 いい魔導石を作ってやりたいな。


「ではそこに並べましょう」


 俺とフラウは密着して座ったまま、テーブルの上に空の魔導石を2つ並べる。

 そしてその前に初期化魔法のスクロールを置いた。

 ちなみに俺は右手でフラウの肩を抱いているため左手しか使えない状態である。


「あなたの片腕の補助は任せてちょうだい」


「ああ、任せた」


 両手を使えるフラウが、俺の目の前のスクロールと魔導石をいい感じに並べてくれる。

 なんとなく介護されるおじいちゃんのような気分となる。

 いやいや、妄想するならば片腕を怪我して彼女に介護してもらうというシチュエーションがいいな。


「では始めましょう。詠唱はわたしがあなたに合わせるわ」


「よし……」


 こういう魔法スクロールは、他アイテムと同じように使おうとすれば自動で発動する。

 だが気分を高めたい人用に、書いてある呪文を読むことでも使える。

 当然フラウは後者なわけで、俺は書いてある謎の呪文を唱えていく。


「うんにゃろほんにゃー……」


 なお読もうとすると、自分でも何を言っているかわからない言語で自分の口から声が出る。

 かなりそれっぽく詠唱している感じが出るのだが、文字にするとさっぱり伝わらないのが残念である。


 この呪文をフラウと2人で声を合わせて唱えていく。

 協力魔法的なものの詠唱をしているようで気分が盛り上がる。

 女の子とカラオケで一緒に歌うとこんな感じなのかなと考えてしまうな。

 そして詠唱が終わると、魔導石が一瞬だけ光り輝きそのまま光を完全に失った。


「終わったようね。ふふ、共に詠唱をするのもいいものだわ」


「そうだな、またやろう。さて……次に使う道具はこれか」


 魔導石をぴったりはめられそうなくぼみのついた箱である。

 2本のコードのようなものも付いてるし、充電器を思わせる道具だ。


「わたしが支えておくから入れてちょうだい」


「よし……」


 この流れに第二思春期の俺は色んなことを考えてしまったわけだが、あえて言わないのでご想像にお任せします。


「次は接続方法ね。どう繋ぐべきだと思う?」


 装置から伸びる2本のケーブル。

 単純に考えれば普通に電池の如くつなげば良いだけだが、2つある装置をどんな感じでつなぐかだよな。

 なんか理科の授業でやった電池と電球の繋ぎ方を思い出すな。


 直列につなぐとたくさん電気が流れて電球が明るくなる。

 並列につなぐと電気はたいして流れないが長持ちする。

 あれ? でも今回は電池側が1つで電球側が2つか。

 いやいや、そもそもこんな理科の考えとかじゃないよな。


「2つの魔力の質を同じものにしたいよな」


「ええそうね。ここは確実にしたいからあなたに任せるわ。作業はするから指示してちょうだい」


 うーむ……そんな信頼されても俺も詳しいわけではない。

 よし、なんとなく並列でいこう。

 真っ直ぐつないだら溜まる魔力に偏りができそうな気がする。


「装置の先端同士をくっつけてくれ」


「わかったわ……こうかしら?」


「ああ、それでいい」


 理科でやった、むき出しの電線をこよってまとめるのをイメージして伝えた。

 でもこれは不思議な素材のようで、ケーブルの先端同士を軽く抑えるだけでしっかりくっついたようだ。


「あとはこれをどこにつなぐかが重要ね」


「そうだな、片方はその鎖との接合部にしようか」


「なるほど、どこかから魔力が送られてきている可能性を考慮しているのね。もう片方は本の反対側でいいかしら?」


「ああ、それでいこう」


 これで準備完了かな。

 あとは目論見通りにこの本から魔力を奪えるかどうかだが……。


「では同時に起動しましょう。この装置の上に手を置けばいいのよね」


「おそらくそうだろう。おおう……」


「どうかした?」


 装置の上に手を置いたのだが、その上にフラウの空いた手が乗せられてきたので驚いてしまった。


「いや、なんでもない。すまないな」


「これであなたとの同調も問題ないわね。いつでもはじめられるわ。合図をちょうだい」


「よし、俺も準備は問題なしだ。だが油断してはいけない。改めて心が平穏になっているか確認しておこう」


「わかったわ」


 そういう俺の心が平穏ではなかったりする。

 右手はフラウの肩を抱きしめているし、左手にはフラウの右手が乗せられている。

 こんなにも近いとドキドキしてもうあれ、言葉にできないくらいのあれになってる。

 え? 急にフラウが頭を俺の肩に乗せてきた。


「どうかしたか?」


「なんとなく……密着面積を増やした方がいい結果が出ると思わない?」


「かもな……」


「ならば出来るだけのことをしましょう。もっと強くお願い……」


 強く?

 今のところ俺に強く出来るのは、フラウの肩を抱き寄せる力しか思いつかないな。

 たしか伝説によると、彼女が寒がっている時にあっためてやるつもりで抱き寄せる行為があると聞いた。

 あんな感じでいけばいいのだろうか。


「ん……あなたの魔力の熱を感じるわ。もっと強くても大丈夫。限界まで高めましょう」


 ほんとよくできたゲームで、抱きしめる力を強めると、密着部分にしっかりと熱を感じる。

 それに合わせてフラウも頭を俺に強くくっつけてくる。

 そしてゲームのいいところとして、俺が力を込めても恐らくフラウは痛くないはずなので、心配することなく力を込めていい。

 俺は限界まで力を込めてフラウを抱き寄せる。


「うん……魔力きっと大丈夫。そろそろ……はじめましょう?」


 フラウがなんとなくいつもと違う感じ。

 もしかしたら照れているのかもしれない。

 いつものような俺の勘違いではない気がして、フラウのことをとても愛おしく感じる。


「では3,2,1と数えるから0で起動だ」


「うん……」


 俺の左手に置かれたフラウの手に力が込められるのを感じる。

 手の熱……いや魔力も高まるのを感じる。


「3……2……1……起動!」

「はい!」


 2つの装置は同時に起動し、セットされた魔導石が淡く光る。

 ちゃんと魔力を吸い取っているということだろう。

 あとはこのまま待てばいいだけだが、きっと俺たちは魔力の充填が終わるまでこのままだ。

 だって俺もフラウもそうしたいと思っているから。


「ねえ、今何を考えているの?」


「フラウと同じことだよ」


「そう……幸せにしてあげましょうね」


 俺たちの子……タルタルのファーリィ。

 コミカルな見た目の樽の形をした魔導人形。

 俺とフラウの子と思えば、とてつもなく愛おしい存在に思えてきた。

 魔力を込める間、フラウのことだけでなくファーリィのこともしっかり考えておこう。


「フラウ……俺はお前のことも幸せにするからな」


「え?」


 え? 俺は今何を言ったんだ。

 無意識に口から言葉が滑り出た。

 とてつもなく恥ずかしいことを口走ってるんじゃなかろうか?

 なんとなくフラウと密着している部分がさらに熱くなった気がする。


「ねえ……もう一度言って。よく聞こえなかった……」


 ええ……聞こえてないはずもないと思う。

 これはあれか……フラウ的には聞こえてたけど、空耳かもしれないからもう一度聞こうとしてる?

 てことは、フラウもちゃんと言葉通りの意味として受け取っているわけだ。

 ならばしっかり言って決める!


「フラウ……お前は俺が幸せにする。だからずっとそばにいて欲しい」


「ん……」


 今度はちゃんと聞こえたはずだ。

 でもフラウの返事は肯定なのか否定なのかわからない。

 照れて何を言えばいいのかわからなくなったんだと思いたい。

 よし、曖昧にはせず攻めよう!


「今度は聞こえたか?」


「うん……幸せになる……」


 おおう……なにこの可愛い反応。

 これは俺の勘違いでもなんでもない。

 フラウは照れて可愛い感じになっている!

 このままさらに決めていく!


「ずっと一緒だぞ。この世界でも……あちらの世界でもだ」


「うん……ずっと一緒……」


 いい返事をいただきました!

 これはもう恋人ってことでいいよね?

 いやいや、まだまだ油断はできないか?

 確認のためにもう確定的な言葉を言ってしまえば!


「フラウ……俺はお前のことをあ--」


「まって! その先はまた今度……また今度にして……」


「え?」


「えっと……あの……精神のね……集中途切れちゃうから……」


 愛の言葉を伝えようとした途端に遮られた。

 これ……俺が何を言おうとしたか解った上で止めてきたよな?

 え? 言ってほしくなかったってこと?

 それとも照れすぎただけ?

 もしくはファーリィのことを考えなきゃいけないこの時に余計なことを言いすぎた?


「わかった……すまないな」


「ううん……いいの……」


 とりあえず謝ってはおいた。

 本音はわからないまま時は過ぎていく。

 もしかしたらちゃんと告白しても断られるんじゃないかという不安を抱えたままで……。

 何か言いたくても何を言っていいかわからないまましばし無言で過ごした。


 そしてどのくらい経過したかわからないが、本に変化が現れた。


「フラウ、文字が消えたようだ」


「そうね、隠蔽の魔法は消え去ったようだわ。あなたの目論見通りよ。さすがね」


「お、おう……」


 フラウの口調はいつも通りのクールな感じに戻っている。

 ただ、俺の左手の上にあるフラウの手……なんかなでなでされている?

 くすぐった気持ちよくてなんか嬉しい。

 先ほどの無言時間にあった不安がなんか飛んでいく嬉しさである。


「本の魔力が回復する可能性もあるわね。魔力は吸収できる状態のまま読んでみましょう」


「そうだな、ならば俺は手が使えない。めくってくれるか」


 魔力を吸い取る魔道具にお互いの手を1つずつ置いている。

 俺の右手はフラウの肩を抱いている。

 ならば使えるのはフラウの左手だけなのだが、何故か俺の左手の上から動こうとしない。


「ねえ、手を離しても大丈夫?」


「ん? えと……寂しくはなるが大丈夫だぞ」


「問題はそこよ。その寂しさが魔導石に記憶されたりしてはファーリィが可哀想だわ」


 そこまでファーリィのことを考えているのか。

 えーとつまり、フラウも俺の手を離すのが寂しいってことになるよな。

 この場合、手を離しても寂しくないようにすれば……。

 よし、さっきは勢いを削がれがもう一度攻めの姿勢でいこう。


「こうすればどうだ?」


「あ……」


 とうしたかというと、フラウの肩に回していた手をフラウの頭にもっていき、フラウの頭を抱きよせる形にした。

 その際に猫耳に少し触れてしまい、フラウの体がぴくっとなる。

 わざとじゃないので許してもらおう。


「これで繋がりが増しただろう。今なら俺は手を離されても寂しくないぞ」


「耳触ったでしょう……」


 なかったことにはできなかったようだ。

 フラウの口調はいつも通りのクールな感じで、照れとか怒りとかがあるかどうかもわからない。

 とりあえずちゃんと謝ろう。


「すまないな、当たってしまったか。こういうのは慣れてなくてな……」


「構わないわ。あなただもの」


 怒ってはないか。

 てか俺なら触っていいってことは……いやいや、今は真面目に本を見よう。


「そうか……。さあ、本の中身をみよう」


「ん……今は大丈夫だけど、時間が経ったら寂しくなるかも……」


「その可能性はあるが……」


「どうしたらいいか考えて」


 なんか話が進まないな。

 フラウが寂しさを感じないように?

 これ以上どうしたらいいんだ。

 やばい、何も思いつかない。


「そうだな……」


「ん……思いついてくれないとずっとこのまま……」


「そう……だよな……」


 それはそれで幸せだが……。

 おおう……フラウの手がまた俺の手をなでてくる。

 明らかにイチャついてるようにしか思えないんだけどなにこれ?

 よし、俺もフラウの頭をなでてしまおう。


「ん……。それでいいかも……。そのまま止めてはダメ……」


 フラウの手が俺の手の上から離れ、本をめくりはじめた。

 これが正解だったのだろうか。

 フラウは俺になでてほしかった?

 だとしたらなにこれ可愛い。


「読み終わるまで続けるさ」


「うん、ファーリィのためにね。さあ、読んでいきましょう」


 俺の中ではファーリィのためというよりフラウのためだ。

 こんなので喜んでくれるなんて嬉しいし幸せである。

 さて、本の内容はと……。


『大問題だ。兵器に特化した型に暴走の可能性がある。なんとか秘密裏に対策を考えなくては。なんとなく作っていた隠蔽工作用の魔本をこんな記録のために使う羽目になるとは……』


 どうやら過去にタルタルを開発していた研究者の日記らしい。

 失敗作のタルタルを作ってしまって、なんとかこっそり直そうとしている記録。

 先を読み進めても解決するどころかひどくなっていくという、よくある展開のようだ。


「これはなかなかに興味深い記録だな」


「そうね。これを読み解けば狂いし魔導兵器について何かわかるのかも。まだまだ長そうだからしっかりと手を動かして」


「大丈夫だ」


 俺の右手はフラウの頭を優しくゆっくりなでなでしている。

 時々耳にも触れてるが、別に問題ないようなのでふわっと感を楽しんでいる。

 てかなにこの状況?

 ゲーム的にもとっても気になる展開なわけだが、今までで一番イチャついている感のある状況に戸惑っている俺である。


 果たしてこの後日記の内容はどうなるのか。

 俺とフラウの関係はどうなるのか。

 今のこの状況を動画に撮られていることを忘れている俺は後でとっても恥ずかしくなるのか。

 一緒に冒険に来たはずなのに完全に忘れきっているレオンとニャーノさんは今何をしているのか。

 様々な思いが巡りながらつづく……。

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