41.そらとぶかしわもち
前回までのあらすじ。
今日は俺とフラウだけでなく、かしわもちとユースとくーちゃんの5人で冒険をしている。かしわもちは俺のリアル母さんで、俺とフラウの関係に興味津々である。フラウも2人の仲が良い的なことを匂わすせいでかしわもちのテンションは有頂天に達して今にも空を飛びそうな勢いである。
「あー、今日はなんだか幸せだよ。幸せすぎて空飛べちゃうかも」
というかしわもちの一言から始まる。
「飛びますか?」
それを当たり前のように受け取り提案するフラウ。
「うん、やっとくれ」
「よーし、じゃあいちにのさんでいくぞ……。いち……にーの……さーん!」
俺も当たり前のように対応し、フラウと共にかしわもちを力一杯放り投げる。
かしわもちはゆっくりと空中に軌跡を描き、大きめな岩の向こうに落ちて行った。
この辺は岩が多いのでよく見えないが特に問題もないだろう。
フラウと共にその方面へと向かう。
すると岩陰から何者かが飛び出してきた。
目元をマスクで隠したホビホビ族の女性……なんと怪盗カーであった。
不思議なところに現れるものである。
怪盗カーは俺たちを見つけると話しかけてきた。
「やあタカシくん、偶然だね。おや、こちらは?」
「お久しぶりです。怪盗カーさん。俺の仲間でフラウといいます」
「そうか、さんはいらないよ。フラウさんよろしく。噂の怪盗カーとはわたしのことだよ」
「え? あ、はい……怪盗カー……様?」
突然のことでフラウは混乱しているようだ。
怪盗カーは人を戸惑わせる性質を持っているのか、初めて会った人は対応に困るような反応をする。
そんなことは気にせず、怪盗カーは自分のペースで話を続けていく。
「おや? わたしは怪盗だからわかるんだが、君はタカシ君に大変なものを盗まれたようだね」
「え? 特に何も盗まれてないと思うのですが……」
「あなたの……心です」
そう言って怪盗カーは踵を返して立ち去り岩陰に消えた。
あれが言いたかっただけなのだろう……。
残るのは呆気にとられたような顔をするフラウである。
「えっと……今のは?」
「あれが巷で噂の怪盗カー。チャンスをピンチに変える怪盗だ。生態のほとんどは謎に包まれている」
「謎……そうね、謎よね。謎は謎のままにしておかなくては……。それよりお母様を探しましょう……」
いろんな意味でわかってくれたようなので、かしわもちの最終落下地点へと向かって歩き出す。
自分から現れないってことは、隠れて驚かそうとしてるのかも?
「嫌な予感がするわね。急ぎましょう」
フラウが少し焦ったように走り出す。
「待て、このは足場が悪い。急ぐと危険だぞ」
このゲーム、足場が悪かろうと転んだりはしない。
本当に危ないのは別のことだ。
何かはあえて言わないが……。
「それならばなおのこと急ぐべきね」
俺の想いは届かずフラウは走り岩陰で曲がる、
でもよく考えると俺の母さんを心配してくれているわけで、すごくいい子である。
またひとつ好きになりました。
「お母様、大丈夫ですか?」
「あわわ! ちょっと待ってフラウちゃん」
フラウがかしわもちを見つけたようだが、何故かかしわもちは慌てているようだ。
「もしや異常事態でしょうか? 手伝えることは?」
「あ、えーと……うん。もう大丈夫。ダメかと思ったけどダメじゃなかったよ」
「そうですか。安心しました」
「そんな慌ててくれるなんて、フラウちゃんはいい子だねえ」
俺もそう思うよ母さん。
この子を嫁にできるようがんばるから。
なんて考えつつ、俺も2人の元へ到着した。
「2人とも大丈夫?」
「問題なしよ」
「あたしゃいつだって元気いっぱいさ」
何もなくてよかった。
あれ? かしわもちのポシェットから何かがはみ出ている。
見覚えのある赤い色の細長い布切れのようなもの?
んー……まあいっか。
「じゃあ冒険を再開だ」
「おー! そろそろ危険が危ない気がするから、全周囲警戒の呼吸に戻るよ」
かしわもちは少し後ろに下がり、俺とフラウが先頭でユースとくーちゃんが最後尾の陣形に戻った。
ちなみにさっきのかしわもち消失事件の間、ユースとくーちゃんはのんびり歩いていたようだ。
2人の方がかしわもちと遊ぶことが多いから、ああいうハプニングは慣れているのだろう。
さてさて、もうすぐ目的地の洞窟入り口だが、かしわもちの言うようにこの辺には少し危険な敵がいる。
この辺りは様々な動物の骨が散乱している不気味な荒野なのだが、時々人骨であるスケルトンも出没するのだ。
それを警戒して歩くとしよう。
「このたくさんの骨、ここでは何があったのかしら?」
「はるか昔、時洞窟の奥から瘴気が溢れ出たらしい。そして生物は死に絶え、荒れ果てた地になったと言われている。今はもう瘴気は出ていないし、安全は確認されているようだがな」
ゲーム内の設定なので安全だとわかるが、現実でこんな場所があったら絶対近づきたくないと思う。
「安全ね……そんな保証はどこにもないでしょうに。でもあなたが言うのだから信じるわ」
とても嬉しい信頼の言葉。
でももし将来シナリオが追加されて瘴気出てくるイベントあったらどうしよう。
なんか上手いこと言っとくか。
「そうだな。だが状況は刻一刻と変化していくものだ。注視しておくべきだろう」
「そうね。悪意ある者の介入もあり得るわ。わたしもあなたに頼るばかりでなく、予知の力を磨いておかなくては」
よし。いい感じに解釈してくれたし、これで何か起きてもそれっぽい理由はつけられる。
これが俗に言う事前言い訳である。
「さて……未確定の遠き未来より、身近な危険に警戒だな。スケルトンは周囲の骨に擬態し、不意打ちを仕掛けてくる」
「きゃー! 骨がスケルとんー!」
かしわもちの悲鳴に振り返ると、何処かから現れたであろうスケルトンが襲いかかっていた。
「あんな感じだ。行くぞ!」
「ええ!」
「キュア!」
「聖なる月の光よ……ホーリーライト!」
最初に動いたのはユースとくーちゃんだ。
本来は回復魔法のキュアだが、スケルトンなどの本来は死んでいる存在に使うとダメージを与えられる。
くーちゃんのかっこよさげな魔法っぽいのは魔法ではなく、フライパンに落とした目玉焼きの光である。
月の光を模したその光は、名前の通りゾンビやらにダメージを与えつつ、さらに数秒間怯ませることができる。
「バーニングッ!」
「ファイアーボォールゥ!」
俺とフラウの魔法も着弾し、戦闘開始だ。
「バラバラにしてやるよっ!」
かしわもちの盗む!
ミアスマボーンから骨くずを盗んだ!
出会った敵にはとりあえず盗むをしておくのが盗賊の嗜みである。
「きゃー、人骨だよー! タカシあげるー」
自分から奪っていおいて怖がるという、とても楽しそうなかしわもちである。
いろんな素材になる骨くずゲットだぜ。
この骨は急に襲ってくる厄介なやつだがそこまで強くはない。
運が悪いと複数の骨に同時に襲われることもあるが、ちゃんと警戒しておけばなんてことはない。
なお知り合いのかし○もちさんは初めてここに来た時、骨に驚いて逃げ回った結果……いろんなところでからまれて7匹の骨に追い回されるということがあった。
通りすがりの高レベルな聖騎士が一掃してくれたのでことなきを得たが、慌てては大惨事になるといういい例である。
「骨にはこいつだよ。ふんがー! ハンマーアターック!」
短剣から小型の木槌に持ち替えて殴るかしわもち。
骨は肉がないので、短剣などの突き刺す武器は効きにくい。
逆に鈍器は効きやすいので、ここで武器を持ち替えるのは有効なのだ。
あの逃げ回っていたかしわもちが敵に合わせて武器を変えられるくらいに成長したんだなとしみじみする。
「お母様を見習い、わたしもたまには魔法を封印します」
フラウも両手に構えた杖で骨をぶん殴る。
今の低いレベル帯ならば、力の弱い魔術師の殴りでもそこそこ効いていいのだ。
そんなわけで皆でタコ殴りである。
余談だが、もっと敵のレベルが高くなってくると強力な範囲攻撃を使ってくるので、こんなかんじでに皆で接近していると大惨事になります。
「タカシ、フラウちゃん。あれをやるよ」
「おう!」
「承知しました」
あれがなんのことかハッキリはわからないが、多分あれだろう。
俺とフラウの間にやってきたかしわもちはバンザイポーズ。
その手を俺とフラウがつかみ、勢いよく上空に放り投げる。
「親子の合体アタックを見せてやるよ!」
かしわもちが上空から落ちることで威力は通常の300%。
なんとなく回転を加えることでさらに50%の威力が加算される。
片手用のハンマーを両手で持つことでさらに威力は200%増す。
それらを合計することで実に900%の威力となる!
「なんやかんやで約10倍餅つきアターック!」
だがゲームシステム的に、かしわもち理論の物理法則は全て加味されない!
そんなわけで普通に殴る時の100%の威力の攻撃が骨を襲う。
「ぺったーん!」
なんかうまいことかしわもちの攻撃でトドメを刺した。
そろそろ敵が倒れそうなことを察した俺やくーちゃんが横を向いて攻撃の手を止めていることが功を奏した。
これぞ空気を読む連携である!
「これがあたしたち家族の絆だよ!」
人骨を足蹴にして勝利のポーズを掲げるかしわもち。
本物の人骨ではなく、怨念から形作られたものであるということを知っているからこそできる不届きな行為である。
戦利品の骨クズは人骨ではないけれど、骨と同じ成分の物質として錬金術の素材とさせていただきます。
「でもいきなり襲われるのは怖いから安全地帯に避難させてね」
かしわもちは俺の背中に飛んできておんぶの構え……もとい背翼の陣である。
とりあえず絡まれないよう洞窟まで向かうとしよう。
「わたしもお母様と同様に、敵に感知されない最善策をとるわ」
そう言ってフラウが俺の右腕に絡みついてきた。
おおう……なんだこれは!?
伝説でしか知らないのだが、これはもしや恋人っぽいくっつき方なのではないか?
冷静を装いつつあるくも、心の中は動揺しまくりの俺。
「ユースくん、わたしたちも絡まれにくいようにしよっ」
「あ、うん……」
くーちゃんのはしゃぐ声が背後から聞こえる。
おそらくはフラウが俺にしているように、ユースにくっついているのだろう。
それつまり、俺とフラウのこの状態をうらやましく思ったことに相違ない。
背中のきなこ、じゃなくてこなきかしわもちを子供と仮定すれば、誰がどうみてもラブラブカップルなのだろう。
「不思議だわ。先程からも感じていたのだけど、あなたとこうしているとわたしにも敵の位置がわかる気がする。普段よりあなたのことがよくわかる気がする……」
なにかドキドキする物言いだが、盗賊の能力をひとつ思い出した。
盗賊は周囲の敵の位置を少しだけ感じ取ることができる。
そしてそれはパーティーメンバーに触れることで共有ができるのだ。
つまりフラウの今の感覚は俺のおかげではなくかしわもちのおかげということになる。
でもそれを言うのも味気ないしどうしようかな……。
「フラウちゃん、いいことを教えてあげるよ」
「お母様、ぜひ聞きたいです」
悩む俺に代わって何かを言おうとするかしわもち。
いったい何を言い出すのか、ワクワク30%ドキドキ70%でお送りします。
「今の時点ではね、タカシのことを1番知ってるのはあたしなんだ。だからそのあたしと近くにいればタカシのこともよくわかるんだよ」
なんかいい感じのことを言っておられる。
おそらくフラウとかしわもちの考えていることは大きく違うはずなのだが、今言った言葉だと全く問題なく繋がっている。
「なるほど……お母様という存在の媒介を通して魔力の増幅が……」
「うんうん、でもそのうちタカシのことを1番知ってるのはあたしじゃなくなっちゃうのかもね」
フラウの言葉に適当に相槌を打って話を続けるかしわもち。
これは言いたいことを言い切る構えであろう。
「お母様を超える存在?」
「フラウちゃんがそうなるのかなって思うんだよ。悲しいような嬉しいような気持ちだなあ」
しみじみと語るかしわもち。
何故かほろりときてしまう。
これは結婚式の時にでもまた言ってほしい言葉だ。
「わたしがそうなれるのでしょうか」
「そりゃあ今すぐには無理かもしれないけどね、きっと時間の問題だと思うよ」
「そうですね、きっと……」
「うんうん、がんばってほしいな」
うんうん、がんばってほしいな。
現時点で2人の考えてることにはいろいろ違いがあるわけだが、うまく誘導してかしわもちの妄想を実現させたい。
母さん、可愛いお嫁さんを見つけるという形で親孝行するからね。
ほのぼのムードを感じつつ、その後は敵に襲われることなく目的地の洞窟へと辿り着いた。
これより洞窟探検が始まるのだ。
クラシャミの迷宮と呼ばれるこの洞窟は、その名からもわかるように天然の迷宮である。
ゲームだから自動マッピングで迷子にはそうそうならないが、それがなければこの立体的な迷路で迷子になる自信がある。
「それでは洞窟に入るぞ。様々な危険があるためその都度説明していく。俺の側から離れるな」
「わかったわ」
「そのつもりだよ」
かしわもちを背翼に、フラウを右腕でエスコートするこれまでと同じ形で侵入。
うーん、幸せ。
フラウとくっつきたい下心というもあるが、ここは落とし穴とかもあるのでこれが安全なのだ。
あと虫嫌いのフラウがそれらを避けやすくする処置でもある。
「フラウ、ここは地面より飛び出してくる魔物がいる。襲ってくることはないが、驚くかもしれない。心眼の陣の展開も状況に応じて行え」
「わかったわ。あなたの眼を借りるわ」
少し進むと、右方向より『こーん』という乾いた音と共に地面から巨大ミミズが生えてきた。
フラウは目を閉じてそれを見ないようにして俺にくっついて歩く。
俺としてはとても幸せな体勢なのである。
「フラウちゃんは虫が苦手なのかい? 見えなくするしすてむっての使うといいよ。あたしはその魔物がぬいぐるみに見えてるんだ」
「いえ、これはわたしに与えられた試練のようなものです。真実を虚構で隠すことは意に反します」
「そうなのかい? 若いのに感心だねえ」
感心しちゃうかしわもち。
修行僧的なものを想像しているのかもしれない。
そのまま歩き続け、問題なくミミズの生息地帯を抜けた。
「フラウ、ここからしばらくは大丈夫だ」
「ええ、あなたの眼のおかげでなにも問題なかったわ」
「タカシの背中のおかげでなにも問題なかったよ」
「それはなにより。さて、このあたりは骨地帯だ。スケルトンに注意しつつ採掘をするぞ」
この洞窟内には古代の巨大生物と思われる骨が埋まっている。
いろいろと謎だが、つるはしで採掘することで上質な骨素材をゲットできる。
ちょっとしたお小遣い稼ぎにはいいのだ。
「この骨……竜? いえ、それとも違う異質な存在?」
「そこは不明だ。わかっていることは、想像もつかないほどの昔に生きていた生物ということだ」
「恐竜みたいなものかねえ?」
「恐竜……なるほど、それならば様々な種類があり統一感がないのも頷けますね。でも不明ということは誰も研究していないのかしら? この世界ではそれほどの余裕がないのかも……」
いろいろと考察していくフラウ。
オランデー遺跡探検の時も思ったが、フラウはこういった場所を調査したり考察するのが好きらしい。
ゲームだからその辺の設定は想像にお任せしますって感じなんだよ、と言うのも忍びない。
俺も見習って何か考えてみるか。
「それもあるかもしれないな。人々が様々な脅威に晒されている世界だ。タルタルのように軍事的に扱えるもの以外は後回しになるのかもしれない」
「戦争が技術を発展させる理論と同じものね。愚かしいことだけどその可能性が大いにありそうだわ。とはいえこれらの生物が滅亡した原因を調べることも重要なはずよ」
「そうだな、俺たち人類も他人事ではない」
「その通りよ。共に力をつけ両立させていく道を模索すべき」
「うむ」
なんかすごい真面目な話をしてしまっている。
あ、背中のかしわもちが寝息を立てている。
そういえばずっと休憩してなかったし、現実ではお昼の時間だ。
近くの安全地帯に移動してログアウト準備である。
とりあえずきりのいいところで一旦仕切り直しである。
ここからまた楽しいことが起こると期待する俺であった。




