40.魔と魔が合わさる時
前回までのあらすじ。
今日はフラウが初めて大人数でパーティを組んで冒険する記念すべき日である。一緒にいるのが俺の家族と家族候補のため、和気あいあいと楽しく移動しつつ、フラウが来たことのない新しい地タルンギー山脈へやってきた。
ここでは一体何が巻き起こるのか、おもしろメーカーとして定評のあるかしわもちがいったいなにをやらかしてくれるのか、乞うご期待!
「ねえ、あれは何?」
フラウが指差す先には、首の長い大きな獣。
そのままキリンである。
「キリンだね。戦ってみる?」
「そうね……自身より巨なる存在とも戦っておくべきだわ。あの程度で臆していては竜にはとても挑めないもの」
「よし、みんな戦闘準備だ。あの見晴らしのいい場所で戦うぞ。かしわもちは釣りを頼む」
「任せな。発射しとくれ」
釣りというのは、敵に攻撃を仕掛けて戦闘場所まで連れてくること、なのだが……かしわもちは俺の背中によじ登ってきた。
さっきの戦闘でぶん投げたのか楽しかったのだろう。
というわけでかしわもちの体をつかんでぶん投げるべく構える。
「待って」
何故かそれをフラウが制止してきた。
「どうした?」
「わたしも力を貸すわ。2人で投げた方が力は増すでしょう?」
「そうだな……」
実は変わらないんだけど、それを説明するのは気が引ける。
かしわもちを投げて飛ばしたとしてもそれは見た目だけで、ゲーム的処理としてはかしわもちが走って移動していることになっている。
つまり投げる強さに関係なく、かしわもちの移動速度は走る速さと全く同じになるのだ、
以上、ゲーム仕様解説でした。
さて、かしわもちの右手を俺が持ち、フラウが左手を持つ。
さしずめ親子が子供と手をつないでいる状態。
もしくは捉えた宇宙人を左右からつかんで連行している状態となる。
「フラウ、合図は任せた。俺が合わせる」
「わかったわ。お母様、準備はよろしくて?」
「えーと……よくってよ!」
「わたしたち2人の魔力をお母様に注ぎます……」
「お前たち一人一人だと単なる魔だが、2人合わせると魔々となる。ママとなったお前たちはお母さんだよ!」
なんかのアニメのセリフを改変したらしき言葉を放つかしわもち。
意味がわからないが雰囲気はヨシ。
てかフラウにはお母さんとなって俺の子を……。
「唸れ柏の葉……月の魔力を餅いて魔弾と化せ……」
かしわもちの体からオーラが溢れ出す。
ふと背後を見ると、ユースとくーちゃんが光を出す演出用アイテムを使っているのが見えた。
ナイスだ2人、さすが劇団かしわもちメンバー。
ここでフラウが俺にアイコタクトをしてきたので、何かを言えということだろうから何か言おう。
「魔弾の魔力充填完了だ。時は満ちた」
「いきましょう。詠唱は古代ンチャーカ語で」
「おう……」
古代ンチャーカ語とは、俺が適当に考えて言ったらフラウがなんか気に入って覚えちゃった代物である。
もちろん詠唱も適当だし、正直言ってみんなの前では披露したくない。
まあ仕方ない……。
フラウとアイコンタクトをして同時に詠唱開始。
『ユースキィ・ゲックォー・フォラ・ゲッコー!』
力ある言葉と共にかしわもちをぶん投げる。
「釣り上げるよー」
いつの間にか釣り竿を手にしたかしわもちがふわふわと飛んでいく。
先ほど説明したように走る速度しか出ないので、ゆっくり飛んでいくのはなんともシュール。
「精神の昂りを感じるわ。時の流れが緩やかに見える……」
フラウがいい感じに解釈をしているので、俺も習うか。
映画の緊迫したシーンでスロー演出をしてると思おう。
テレビだったらここでCMに入るところである。
やがてかしわもちがキリンに到着した。
「今夜はジラフ鍋だよ!」
現実のキリンは知らないが、ゲーム内のキリン肉はなかなか美味である。
落としたら作ってもらおう。
かしわもちの一撃がキリンに決まり、キリンは当然反撃を開始する。
「あいたた……いたたっ……」
キリンにつつかれながらこちらへ走ってくるかしわもち。
知らない人のために説明しておくが、今のは正しい敵の釣り方ではない。
普通はブーメランとか遠隔武器を使い、敵に攻撃されないように戦闘場所まで連れていくのだ。
今回は効率より楽しさを追求したのでこうなった。
「フラウ、いつものように行くぞ」
「ええ、わかっているわ」
「燃え盛れ……バーニング!」
「瘴気に蝕まれよ……ポイズン!」
敵を弱体化するために魔法がキリンを襲う。
そして俺は剣を構え、向かってきたキリンを斬りつける。
「わたしもいきまーす」
「怪盗カーから見て盗んだナイフさばきを見せてやるよ」
くーちゃんもフライパンで殴り始め、かしわもちもナイフで切り掛かる。
多人数パーティによるフルボッコの図である。
今回は大きな敵だからいいが、もし相手がウサギとか小さい獲物だったら弱いものいじめをしているように見えたりする。
「よーし、良いもの寄越しな!」
かしわもちの盗む!
キリンからキリンの肉を盗み出した!
「ひゃっほー!」
盗賊の技である『盗む』を使うことで、敵のドロップアイテムを盗めることがある。
ゲームだと思えば納得はできるが、普通に考えると肉を盗むとか怖すぎである。
「今のは空間を削り取った? さすが次元が違うわ……」
それっぽく解釈したフラウの呟きが背後から聞こえる。
なんでもいいように考える君が好き。
「くーちゃん使いな!」
「はい、お母様!」
肉を受け取ったくーちゃんがその場で料理を始める。
これぞ調理師の醍醐味である、どこでも調理だ。
パーティーメンバーの能力を上昇させる様々な料理ができる。
食材が必要なので、お財布には優しくない職業である。
「みんなに力を……とうぞご賞味あれ!」
「いただきまーす」
料理の効果が振りまかれ、お肉の焼けたいい香りに包まれる。
さらには口の中にも香ばしい味が広がり……。
攻撃力アップ!
キリンキラーの効果を得た!
キリンキラーというのは、これを所持していると戦闘中のキリンが時々ひるんでくれる。
キリンの肉を食べることでキリンを怯えさせる……残酷な感じだがこれが弱肉強食の世界である。
というわけであとは問題なく戦い、キリンをやっつけて骨がドロップした。
「くーちゃんの料理は美味しいね。いいお嫁さんになれるよ。ね、ゆうすけ?」
「そうだね」
「お母様ったら……」
和気あいあいと楽しいムードで勝利を喜び合う。
この会話を聞いてフラウはどんな風に思ってるのかなと顔を見るが、特に表情には出してないのでわからない。
フラウも現実で料理上手だからいいお嫁さんになれるよ、と心の中で言っておく。
さてこの次だが……。
「せっかくキリン向けの料理効果もらえたし、もう少し狩ろうか。骨もいいお金になるしさ」
「そうだね」
「はい!」
「それがいいと思うよ」
「巨なる敵を倒すのはいい経験になるわ。風の力の増加も実感できているしね。そういえば精霊の姿はまだ見えないわね」
そういえばフラウは風のエレメンタルを見たがってたな。
実は今キリンと戦った場所は安全地帯だったりする。
見せてあげたくはあるが、キリン退治と一旦決まったのに今から変更は難しい。
また機会があればですいいかなと考えつつ、エレメンタルがいるであろう方角を見ると誰か走ってくるのが見えた。
必死な顔をしているので、何かから逃げているのかもしれない。
やがてその人が俺たちの少し前あたりを走り去った。
それを追いかけてきたのは……。
「フラウ、あれが風のエレメンタルだ」
「綺麗……」
エレメンタルは実体がないかのように透き通ってる。
うまく言い表せないが、自然そのものを体現したかのような姿形だ。
フラウの言う通り、安全な時に見るのはとても幻想的な光景なのである。
ただし追われている人はたまったものではないだろうな。
「あの人は助けるの?」
「いや、今の俺たちでは敵わない。残酷なようだが見捨てるしかないな。しばらく魔法は使わないようにな」
「わかったわ……それがこの世界の理ね」
風のエレメンタルは俺たちの前を通過した後、魔法の詠唱を始めた。
エレメンタルは強力な魔法を素早く詠唱する特徴がある。
詠唱はすぐに終わり、竜巻のような風の刃が逃げていた人を襲う。
あ、死んだ……。
「エレメンタルの近くで不用意に魔法を使うとあのようになる。覚えておくといい」
「わかったわ。魔の力に驕りし戦士に魂の安らぎを……」
両手を顔の前で組み、祈りを捧げるようなポーズをとるフラウ。
俺も死体に向かって合掌。
やがてその死体は消えていく。
「安息の地へ還ったようね。わたしもああならないようにしなくては……」
「俺がそうはさせないさ」
とりあえずかっこつけておくが、死んだといってもペナルティは経験値を少し失ってレベルアップが遠のくくらいだ。
先程の人も街へ戻って元気にしていることだろう。
そういえば、フラウはまだゲーム内で敵に倒されたことがなかったことに気づく。
今度体験させてあげねばな。
「頼りにしているわ。あら……精霊が消えたわ」
「ああ、あいつもいるべき場所へ戻ったはずだ」
「そう……また会えるといいわね」
モンスターにはそれぞれ生息範囲が決まっている。
戦闘中はどこへでも連れて行けるのだが、戦闘状態が解かれた時に範囲外にいたら消える。
これは強力なモンスターを他プレイヤーの元へ誘導したりする嫌がらせを防ぐためだ。
昔はこのシステムがなかったせいで、時々大リンクした人が敵を引き連れまくっていき、阿鼻叫喚の地獄絵図になったとか……。
さーて、偶然にもエレメンタルに会えたし狩りを再開だ。
かしわもちをキリンに投げつけては戦うを繰り返す。
このあたりは地道に戦闘してるだけなので省略する。
起きたハプニングといえば、投げたかしわもちが枯れ木に引っかかって降りられなくなったくらいである。
ある程度の戦利品も集まり、レベルも上がって強くなった。
というわけでメインの目的地である洞窟へ移動開始だ。
周囲に警戒はするものの、基本的にはピクニック気分である。
先程までのかしわもちミサイルが楽しかったのか、かしわもちは俺とフラウの間で手を繋いでいて子供のようである。
「んふふー、この位置いいねえ。フラウちゃんありがとね。こんなおばちゃんと手繋いでくれてさ」
「いえ、強き力を持つ方との繋がれるのはありがたいです」
「そうかい? じゃあおばちゃんパワーを注入してあげようねえ」
おばちゃんパワーはちょっと嫌である。
お母さんパワーとか、俺への愛が増す何かを注入してください。
「ところでお母様、わたしが今何を考えてるかわかりますか?」
「んー? なんとなくしかわかんないけど、楽しいなーって思ってるといいねえ」
「さすがですお母様」
「あはは、わたしもフラウちゃんと遊んで話して楽しいもの」
ほんと楽しそうな雰囲気が隣から伝わってくる。
そのままお義母さんと娘の関係まで発展してほしいなあ。
さて、俺も楽しそうな会話になんとか混ざらねば。
「やっぱりみんなで遊ぶのっていいね」
「そうだねえ、今までも楽しかったけどフラウちゃんが増えてもっと楽しくなったよ」
「そうですね、この世界はわたしには心地いい……」
フラウの言葉はきっとその通りなのだろう、
勝手な予想だが、中二病の子は普通に生活してて周囲には受け入れられない。
だがこのゲーム内では、それが問題にならないどころかいい方に向かうこともある。
母さんも楽しそうにフラウから中二病的な言葉を教わってたし。
「フラウはこういうゲーム自体が初めてなんだよね。実はかしわもちもちょっと前に始めたばかりなんだよ」
「うん、フラウちゃんより1ヶ月早いくらいかねえ」
「そうなのですね。それなのに神の力を行使できている。素晴らしいです」
「あっはっは、運がいいだけのおばちゃんだよ」
これは謙遜でもなんでもなく、ほんと強運の塊である。
他の人が滅多に巡り会えないランダムなレアイベントを引き当てた上にユニークスキルもらってるからなあ。
まるで物語の主人公かヒロインである。
そのヒロイン力をぜひフラウに注いでいってほしい。
「運も実力のうちです。抑えきれない魔力が幸運を必然的に招くのでしょう」
「そうかもねえ、時々神社にお参り行ってるし」
母さんが毎年お守りを買ってきては渡してくれることを思い出す。
そういえば今年は縁結びのお守りをもらったような気がする。
もしやフラウとの出会いはそのおかげ?
あとで探し出して飾っておかねば。
「ならば信仰しているのは、日本古来よりの神様ですか?」
「神社好きだからそうかもねえ。あ、でもクリスマスさんとかお釈迦座も好きだよ」
「様々な力を取り込むのですね。勉強になります」
会話がしっかり成り立っているな。
くーちゃんといい母さんといい、はたから聞いても問題ない会話だ。
俺がフラウとしている会話ははたから聞いたらおかしいもののような気がしているんだが、実際どうなんだろうなあ。
ちょっと混ざってみるか。
「フラウはどの神を信じているんだ?」
「聞くまでもないでしょう? あなたと同じよ」
「そうか……」
「タカシとフラウちゃんは仲良いんだねえ。タカシは何を信じてるんだい?」
え? 俺は何を信じてるんだろう。
かしわもちと同じと言ってしまうのが無難か?
いやでもなんか違うか。
悩んでいると、フラウが先に口を開いた。
「口には出せない存在。そうよね」
「ああ……そうだな……」
「あらあら、2人だけの内緒な感じかい? あたしも若い頃お父さんとそういうのあったなあ」
俺とフラウのおかしな会話にも普通に対応してくるかしわもち。
うーん……母さんの対応力が高いのか、このゲーム内なら問題ないのかはよくわからないな。
ま、気にせず楽しむとしようか。
「お父様との出会いは、やはり魔力に惹かれあったのでしょうか?」
「うーん、どうだろうねえ。知り合った時はなんとも思わなかったんだよ。むしろ苦手なタイプだったかも?」
「なるほど。つまり擬態していたということですね」
フラウがチラッと俺を見る。
別に俺は魔力を隠していたわけでもなく、ほんとに持っていない。
でも……フラウが母さんに恋バナを聞いてる感じだと、魔力に惹かれあったもの同士は夫婦になるってことか?
本当に魔力があればゲーム内だけでなく現実でも花ちゃんと恋仲になれるってことじゃないか。
魔力ほしいな……。
「そうだねえ、不器用な人だから自分の殻に閉じこもって、本音を隠すような人だったよ」
「それをお母様は見抜いたわけですよね」
「そうかもね。魅力を知ってからはベタ惚れだったかなあ」
母さんの恋バナをこんなところで聞くとは思わなかったが、それを聞き出しているフラウが興味深げなところが実にいい。
わたしもこの人の魅力に気づいてしまったわ、とか考えててほしい。
いや、妄想でなく本当に思ってる可能性が高くないか?
やばい、ドキドキしてきた。
「わかります。魔力の高い方には魅かれるものです」
フラウが言う『ひかれる』は俺に対してなのは間違いない。
果たしてこれが好きと言うことなのか、近づいて教えを請いたいだけなのか、そこはわからない。
てか、この中二病少女には恋愛感情というものがあるかどうかもよくわからない。
「なるほどねー。それでタカシとフラウちゃんはどっちの方から接近したんだい?」
かしわもちが俺とフラウを交互に見ながら聞いてくる。
フラウが答えるかと思ったのだが、俺の目を見て頷いてきた。
これは俺に言えということか。
近づいてきたのはフラウの方からなんだが……ここはこう言おう。
「正確にはわからないけど、きっと両方からだよ。お互い会うべくして会ったんだ」
「おやおやあらあらー」
やばい、なんかカッコつけすぎた言い方か?
よく考えると最近フラウと話す時には芝居がかった口調をしているが、普段の俺はこんなこというキャラじゃなかった。
やばい、穴があったら入りたい。
かしわもちはワクワクしながらフラウを見上げ、そうなのかい? って顔をする。
「そうですね。運命と言えばいいのでしょうか」
ゆっくりと、噛みしめるようにかしわもちに答えるフラウ。
かしわもちはきゃっきゃとはしゃぎ、俺はなんだか照れてしまう。
これってもうかしわもち視点だと、完全に両想いのかっぽーだよなあ。
あー、でも現実では恋人でもなんでもないもどかしきこの状況!
「あー、今日はなんだか幸せだよ。幸せすぎて空飛べちゃうかも」
ほんとに空を飛びそうなかしわもち。
でもこの後、空を飛んだかしわもちがあんなことになるなんて……。
いつも通りたいしたことでもないのにそれっぽく予告して次回へ続くのであった。




