39.みんなでわいわい
前回までのあらすじ。
今日は俺の隣に住む中二病JK花ちゃんがマイゲーム機を買ってもらって初めてゲームにインした記念すべき日。いつも通り2人で金策とレベル上げをしようと思っていたのだが、ゲーム内で俺のリアル母さんや弟に出会ってしまい、なんとなく流れで一緒に遊ぶことになった。基本的にこういったオンラインゲームでは人が多い方が楽しい。中二病フラウが皆と馴染めるか少し不安もあるが、きっと大丈夫のはず。だって俺の家族たちだもの。
今現在、フラウの魔術師レベルは18だ。
基本的に近いレベルで遊ぶ方がいろいろ楽しいし効率もいい。
そんなわけで他のみんなはそれに合わせて、何かしらの職業に着替えてきてくれることになった。
俺が闇騎士でフラウが魔術師はいつも通り。
かしわもちは最近始めたらしい盗賊。
くーちゃんは調理師。
空気を読めることに定評のある我が弟ユースはバランスを良くするため回復術師となってくれた。
今日は時間もあるし遠出しようということになり、フラウが未開の地へ赴くことになった。
まずは東オルカオルデ平原へ出て、のんびり遠足気分で歩き出す。
通りすがりのモンスターは気の向くままに狩っていくという野蛮な一行である。
平原を抜けるまでの模様は、ダイジェストでお送りいたします。
「紅蓮の炎よ……彼の者の全て焼き尽くせ……フレアランス!」
「わわっ、その呪文かっこいい! 使ってもいいかい?」
フラウの詠唱にはしゃぐかしわもち。
「紅蓮の右手よ、彼の者より全てを奪え!」
かしわもちの盗む!
オルデーフィッシュから魚の鱗を盗んだ!
かしわもちには中二病ワードブームがきたようである。
なお、右手には赤い軍手が装着されている。
「くーちゃんのあれはどう唱えるかねえ」
「そうですね。こういうのはどうでしょう?」
女子3人でわいわいとかっこいい技の使い方を考えている微笑ましい光景である。
「紅蓮の炎よ……命宿りし実の時を固定し新たなる力とならん。サンライズブライト!」
美味しそうな目玉焼きをくーちゃんが焼いている。
食パンを焼いて乗せて食べて大満足。
そして俺とユースは男同士の会話。
「ねえ兄ちゃん、フラウさんといつの間にあんな進展したの? 結婚ってのは冗談じゃないよね」
「なんかいつの間にかなあ……うまく説明できないんだが……」
女子たちがはしゃいでいるので、ユースと2人で男の会話。
この質問がくるのはもっともだが、自分でもよくわからないので説明できない。
「なんだかややこしそうだね」
「ややこしいんだよ。結婚するのは間違いないけど、過程をすっ飛ばしててな。まだ付き合ってはいない。何を言ってるかわからないと思うが俺にもわからない」
「うん、わかんないね。でも兄ちゃんさ、楽しそうだよね?」
「そう見えるか?」
「うん」
楽しい……のか?
まあ、これから何が起こるかわからないあたりは楽しいのかも。
よし、楽しもう。
「そうだな、楽しいのかもしれん。とりあえずあの子といい仲になりたいから応援しててくれ」
「わかった」
「ところでお前の方はくーちゃんとどうなんだ?」
「まあ上手くやってるよ。あー、そのうちなにか発表するかも」
「そうか、楽しみにしてるぞ」
発表とか言われるともう結婚しか思いつかないな。
兄として見守っているぞ。
「タカシー、ゆうすけー、助けてー!」
助けを求めるちびっ子(43歳)の声に振り向くと、かしわもちが何かに攻撃されながらこっちへ逃げてきた。
この辺りには危険な敵はいなかったはずなので、レアなモンスターが現れたのかもしれない。
それは愛くるしい姿の、カブに手足が生えたような植物型モンスター、トゥリー・ピータンだ。
ソロならあっさり負けるだろうが、今の人数なら問題ないだろう。
「バーニング!」
「ファイアーボール!」
俺が魔法を放つと同時に、フラウも別の場所から魔法を放っていた。
なんだか息ピッタリという感じで嬉しいが、威力のある魔法を放ったために敵はフラウを標的にする。
俺は剣を抜いて斬りかかり、ゆうすけはかしわもちに回復魔法だ。
そしてくーちゃんもフライパンを構えて走ってきて、戦闘開始!
「フラウ、『魔封の陣だ』」
「了解っ!」
かっこよさげに言っているが、序盤は呪文抑えてね、という意味である。
最近フラウとこんな感じで戦闘の合言葉を決めている。
「タカシ、あたしはどうしたらいいんだい?」
オロオロしてるかしわもち。
ゲームには慣れてきたようだが、こういったハプニングにはまだまだ弱いようだ。
打ち合わせしてないが、思いつく何かを言ってみるか。
「えーとあれ……背翼の陣?」
「わかったよ!」
俺の背中に飛びつくようにくっついてくるかしわもち。
そのままナイフを構えて敵に斬りかかる。
これは味方の影から敵を攻撃し、ヘイトを稼ぐことなく大ダメージを与える技である。
心の中に浮かんだ朧げな言葉を言っただけでもうまくいくものだ。
「さすがね……長年の経験から来る連携。勉強させてもらわなくては」
フラウが感心している。
俺の評価と共にかしわもちの評価も上がっているようだ。
そういえばパーティーメンバーに指示を出すリーダーを決めてなかったが、流れ的に俺がリーダーっぽい。
よし、かっこよく決めよう。
「みんな、こいつはHPが高い。長期戦になるから回復も攻撃も少しずつ確実にいくぞ!」
俺の号令にみんなが返事をしてくれて気持ちいい。
割とバランスのいいパーティーなのでまず負けないだろうから気楽ではある。
やがて敵もいい感じに弱ってきて、連携チャンスが訪れた。
「よーし、連携いくぞ。衝撃突貫、旋風の陣! 一番手はくーちゃん、2番手は俺でラストはかしわもちだ」
「はい!」
「え? え? 衝突接吻?」
「かしわもちは別途指示するので、背翼の陣にて待機」
「あいよっ!」
かしわもちが俺の背中に飛びつき、準備完了となる。
なおこのゲーム、他プレイヤーの邪魔はできないシステムとなっている。
つまり俺はかしわもちが背中にくっついていてもいつも通りに動ける。
戦闘状態に影響を与えずに楽しい写真が撮れたりするので、うまく利用すれば楽しい仕様である。
「1番手いきます! 灼熱の炎で鍛えられしフライパンのー……スマーッシュ!」
フラウの影響を受けたと思われるくーちゃんの雄叫びと共に、フライパンの重い一撃が敵を撃つ。
次は俺だな。
なんかよさげな言葉を叫ぶべきか。
「天高く舞え、俺の背翼よ……フライングハードスマーッシュ!」
「げぇこーっ」
両手剣を振りかぶって大ジャンプしつつ振り下ろす。
かしわもちも叫ぶのだが、突然のジャンプに驚いたのかカエルのような鳴き声となった。
重い攻撃の連続により技連携:衝撃が発生して敵がふらつく。
そこにフラウの氷魔法がぶつかり、魔法連携:氷結が敵を凍り付かせる。
「無詠唱ブリザード、あなたの時は既に凍りついているわ」
「よし……翼よ羽ばたけ! かしわもちミサーイル!」
「ひゃっはーっ!」
背中にいたかしわもちを敵に投げつけ、かしわもちは技を構えて敵に繰り出す。
「風もわたしのお友達! ウィンドスラーッシュ」
風を纏った短剣の一撃が炸裂し、敵の周囲の空気が勢いよく暴れ出す。
これぞ技連携:旋風である。
かしわもちは飛んで行った勢いでそのまま敵の向こうへ行き、そこにいたのはフラウである。
「お母様、つかまってください!」
「任せなっ!」
フラウの持つ大きな杖の先端にかしわもちがつかまり、そのまま杖はフラウの頭上に掲げられる。
かしわもちは上手いこと杖の上に立って、なんか中国映画に出てくる老子っぽいポーズ。
もちろんフラウは杖の重さを感じないので特に邪魔にはなっていない。
「風よ舞え……嵐となりて全てを切り裂け……ウィンドカッター!」
かしわもちの体から風邪の刃がいくつも飛び出す……ように見える!
それが旋風に包まれた敵にぶつかり、魔法連携:風刃の完成である。
凍った敵が空に舞い上がりながら切り裂かれていく、なんともかわいそうな光景である。
やがて落ちてきた敵は既に息絶えていた。
「よーしみんな、よくやったぞ! 集まって記念写真だ」
こういうレア敵は倒した後もしばらく死体が残り続ける。
みんなで思い思いのポーズをとって記念写真を撮るのが通例である。
戦利品は落ちなかったが、思い出プライスレス。
「いやあ勝ったねえ、タカシの指示がよかったよー」
「いやいや、みんながいい感じに動いてくれたからだよ。俺もあんな綺麗に連携できるとは思わなかった」
「わたしは連携の最初なのでタイミング気にしなくていいから気楽でしたー」
「フラウさん、まだ始めて間もないのに魔法連携のタイミングバッチリだったね。2連続はなかなか決められないよ」
「ふふ、師匠がいいのよ」
みんなでわいわいとお互いを褒め合う。
最後のフラウの言葉でかしわもちがニヤニヤしている。
俺もニヤニヤしてしまいそうになるのを耐えてと……。
「これなら次のエリアに進んでも問題なさそうだ。もう少しでオルカオルデ平原を抜ける。そこからはみんな固まって移動しよう」
基本パーティ移動は固まっていくものだが、先ほどまでは安全地帯なのでピクニック気分でみんなフラフラ好きに歩いていた。
ここからはちょっと危険もあるので慎重に行こうと思う。
大きな山脈が見えてきて、広かった平原から続く道は狭い山道へと繋がっている。
これがタルンギー山脈である。
「風の流れが変わったわね。この新たなる地には何があるのかしら」
フラウが風に髪をなみびかせながら呟く。
なかなか絵になるポーズである。
どうやら今、ここの天気属性は風のようだ。
「フラウ、特殊天候について説明しておくぞ。今このエリアは風属性となっている。表示があるだろう?」
「ええ、荒ぶる風の印が見えるわ。風の魔力が強まっているのかしら?」
「そうだ、今風の魔法を使うことで威力が増す。逆に風に弱い魔法は威力が落ちる」
「なるほど……天候を味方につけてこその魔術師ね」
魔法以外にも様々な影響があるのだが、細かいことは後でいいだろう。
あと1番重要なことを伝えておこう。
「その通りだ。それと、こう言った場合には特殊な存在が出現する。エレメンタルだ」
「精霊ね。この場合はさしずめ風の精霊かしら」
「その通りだ。そのエレメンタルはかなり強い。注意点として、魔法に反応して襲ってくることを覚えておいてほしい」
「不用意な魔力の行使は危険ということね。でも見てみたいわ」
「魔法さえ使わなければ近づいても平気だ。もし見つけたら観察してみよう」
フラウに説明しながら山道を歩く。
ふと、今日は2人きりではないことを思い出した。
なんとなく振り返ってみると、かしわもちがなんとも幸せそうな顔をして後ろを歩いていた。
「母さんどうかしたの?」
「んー、将来が楽しみだなって思ってさあ」
「そか……」
将来かあ……かしわもちの脳内では俺とフラウが現実でも仲良く付き合っている光景が見えているのかもしれない。
その妄想を現実にするという親孝行をしたい。
母さんのことだからいろいろ冷やかしてくるのかと思ってたが、暖かく見守ってくれるスタイルのようだ。
フラウとずっと話してても問題なさそうなのでいつもの感じでいこう。
「それで、これからどこへ向かうの?」
「今日は洞窟へ向かおう。採掘もできるし、普段見ない敵もいるはずだ」
「洞窟……普段見ない……少し不安ね。襲いかかってくる魔物もいるのよね?」
フラウが不安そうにしているのは珍しい。
あ、すっかり忘れてたが虫が苦手なんだったな。
確かあそこにはサソリがいたよな……。
「戦う敵によっては背眼の陣で行くか」
「ふふっ、それがいいわね。あなたの指示は信頼しているわ」
「任せておけ」
背眼の陣というのは、フラウが敵を一切見ることなく、俺と背中合わせで背後を警戒し続ける陣形だ。
要は、フラウが視界に入れたくないモンスターは見ない陣形。
ちなみにゲームシステムとして、見たくない敵のグラフィックをマイルドにすることもできるのだが、フラウは『世界の真実から目は背けられない』とそれを使うことは拒否した。
世界の真実から目を背けないために、虫から目を背けるらしい。
「そうだわ。移動の陣形も決めておかなくては。今日は5人もいるものね」
「そうだな……」
現状の先頭は俺とフラウ。
最後尾はユースとくーちゃん。
その間で幸せそうにくるくる回っているかしわもち。
このままでいいのだが、それっぽく名前と理由をつけておくか。
「移動陣形は月光の陣で行く。俺が先頭で警戒しつつ移動。フラウはそれを横で補佐してくれ」
「わかったわ」
「ユースは最後尾から警戒をしてくれ。ここが1番重要なポジションだ。くーちゃんは隣で補佐」
「了解」
「わかりました!」
「かしわもちはその中心で皆を見守っていてくれ」
「見守ること月の如し!」
かしわもちの自転速度が上がったことを確認して歩き出す。
横目に見えるフラウの尻尾が揺れ動いていて、ワクワクしている感じが伝わってくる。
今の作戦指示とか、中2病的には楽しいのだろう。
これまでゲーム内でやってきたロールプレイが役に立ったわけだ。
そういえばレオンのやつはどうしてるだろうなあ。
いつも俺と一緒におバカなロールプレイをして楽しんでいた友達だ。
リアルで彼女ができたからゲームを断つと言って結構日数が過ぎた。
ま、そのおかげでゲーム機をフラウが使えてありがたかったわけだが。
あいつのおかげで花ちゃんとの仲が進展したようなものなので、彼女とうまくやってればいいなと心から思う。
もし彼女に振られてゲームに戻ってきたとしても温かく迎えてやろう。
さて、この新たなる地ではいったいどんなことが巻き起こるのか。
人数も多いし、おもしろメーカーかしわもちも一緒なのできっと楽しいイベントが発生するに違いない。
ワクワクしながら俺たちは歩きだすのだった。




