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38.かしわもちは見た

 前回までのあらすじ。

 隣に住む中2病少女花ちゃんは、VRMMORPGに興味を持ち、俺のゲーム機を借りることでゲーム世界を楽しんでいた。だがそれも昨日までのお話。いろいろあって、彼女はようやく自身の部屋にマイゲーム機を手にしたのだ。今日は彼女が自分の部屋からゲーム世界にやってくる、記念すべき初めての日なのである。


 本日は土曜日である。

 そして花ちゃんの家にVR機器が届くはずの日でもある。

 さらには家庭教師の日でもある。

 機器が届いたらすぐにでもゲームができるよう、勉強を早めにしておこうということになった。


 現在は朝の6時。

 異様に早起きをさせられた俺は、テーブルに座って朝ごはんを待っている。

 台所にいるのはもちろん花ちゃんで、お味噌汁のいい香りがしてくる。

 気分は完全に新婚さんである。


 家庭教師として勉強する時間はだいたい2時間である。

 7時前に始めれば9時前には終わる。

 宅配は9時に指定したそうなので、なんともバッチリなスケジュールである。

 とは言えそれに付き合わされている俺は眠い。

 ま、花ちゃんがモーニングコールで起こしてくれたことを考えるとお得な気分である。


 やがて朝食たちが運ばれてきた。

 ご飯に味噌汁に漬物。

 わざわざ小皿に移されて混ぜ終えてあるであろう納豆。

 なんとなくつやつやした卵焼き。

 おまけにヨーグルトが置いてある。


「簡単な物で申し訳ないけど」


「いやいや、十分立派な朝ごはんだよ」


 なんていうかいかにも朝ごはんしている朝ごはん。

 普段はバナナ一本とか適当にすませている俺からしたら栄養満点な上に大満足である。

 てか、わざわざ別の小皿に入れられた納豆なんて家ではまず見ないぞ。

 お味噌汁の具は豆腐とわかめとなめこで、具沢山が好きな俺には嬉しい。


「そのキノコは特殊な物で魔力回復の効果があるはずよ」


 マジックマッシュルームというヤバげな単語が頭に思い浮かぶ。

 さすがにそんなの入れるわけないし、なにかの例えだよね。

 花ちゃんが魔法のおまじないをしてくれた的な、メイドカフェみたいなアレと妄想しておく。

 深くは聞くまい。


「それは楽しみだ」


「お先にどうぞ。わたしはこれを自宅へ転移させておかねば」


「いや、待ってるから一緒に食べよう」


「そう? では急いで術式を展開するわ」


 そう言って花ちゃんはお鍋その他を持って玄関へ移動。

 もちろんドアは俺が開けるという形の魔法で開かれる。

 花ちゃんは俺の目を見てニッと口の端をあげる。

 言葉はなくともアイコンタクトでお礼を言われているとわかってとてもヨシ。


 そしてすぐに帰還した花ちゃんと共に食卓に着く。


「いただきます」

「いただきます」


 由緒正しき食事前の挨拶。

 農家の皆様や加工業者や運送の方々に感謝。

 なによりそれらを最終的に俺が食べられるようにしてくれた花ちゃんに感謝を込めて。


 朝食は期待通り美味しかった。

 そのまま片付けをして勉強開始。

 やがて予定分をこなし、花ちゃんは荷物の受け取りのために戻って行った。

 次に会うのはゲームの中である。


 もし機器の接続等に手間取ったら手伝いに行くため、俺はゲームにインせず待機である。

 トラブルなんて無いに越したことはないが、何かあれば花ちゃんの部屋に入れるかなあという期待もある。


 それからしばらくして、『我、異世界への扉を見つけたり』とメッセージが届いた。

 無事終わったようなので時間を決めてゲームイン!

 違う場所にいるのに同時にゲーム開始するとか、なんかいいよね。



――Welcome to Eternal Fantasy――



 さて、ここはタルタロスの街の中である。

 昨日のうちに、花ちゃんが最後にいた場所まで移動しておいた。

 同時に起動したとはいえ、慣れとか機器のあれこれで花ちゃんが来るのは少し後だろう。

 俺は花ちゃんが出てくるであろう場所に背を向け、かっこよさげなポーズを決めておく。


 少し待つと、背後になんとなく気配を感じる。

 振り返らず、どんな風に話しかけてくるか様子を見よう。


「だーれだ」


 突如俺の目が何かに覆われた。

 恐らくは手なのだろう。

 声色を変えようとしたのか低い女性の声だが、花ちゃんがこんな行為をするとは思いにくいぞ。

 でもこないだのケーキのあーんしあいっこの時の花ちゃんのノリならあるいは?


「えーと、もしかして……」


「はい残念、答えは振り向いてみて」


 ワクワクしながら振り向くと、そこにいたのは男である。

 てか弟のゆうすけこと、ゲーム名ユースである。

 お前いつの間に女声に?


「ユース……声変わりしたのか?」


「違うよ、声の主はそっち」


 ユースが示す方を見ると、ちっこいホビホビ族の少女がドヤ顔で立っていた。

 これは俺とユースの実の母さんこと、ゲーム名かしわもちである。

 なんてこった、まさかこんな時に会ってしまうなんて。

 とりあえず花ちゃんが来る前にどこかに行ってもらいたい。


「偶然だね2人とも。何やってるの?」


「何して遊ぼうかなと思ってたらタカシの姿が見えたから声かけたんだよ。ね、ゆうすけ」


「うん、兄ちゃんは今インしたんだね」


「ああ、ちょっとここで待ち合わせをな」


 俺はユースに目で訴える。

 察して母さんを連れてここから離れてくれと。

 こないだフラウを紹介した時に、母さんには内緒と言ったはずなので大丈夫なはず。

 ユースは俺の期待通りに、何かを察した顔になってくれた。


「母さん、兄ちゃんは忙しいみたいだから行こうか」


「え? なんでなんで?」


「邪魔しちゃ悪いからさ」


「特に邪魔する気もないよ?」


 ユースの誘導。かしわもちには効果がなかった!

 仕方ない、ギャグ漫画とかでよくやってるお約束を使うか。


「あ! あっちの曲がり角に怪盗カーがいる!」


 俺は遠くの方を指差すが、母さんは無反応。

 あれ? 怪盗カーに会いたがっていたはずなのに?


「あんなところに怪盗カーがいるわけないだろう」


「なんでわかるの?」


「そういうもんさ」


 そんな冷静に答えられると、大袈裟に指を差して叫んだ自分が馬鹿みたいである。

 えーと、次の方法は……。


「何をしているの?」


 背後から聞こえたその声、これは聞き間違えるはずがない。

 振り返るとフラウが立っていた。

 遅かったか……。

 フラウはユース見て、誰か思い出したようだ。


「あら、あなたはくーちゃんの……」


「あ、どうもお久しぶりです」


「ねえねえゆうすけ、こちらの素敵なお嬢さんは?」


 挨拶をしている中に自然と割り込むかしわもち。

 こうなったら観念して紹介しておくか。


「俺の友達だよ。こないだ言った新しくゲームを始めた人。フラウって言うんだ」


「あー、タカシが案内してるって言ってた人ね。女の子だったんだねー」


 ちっちゃな体でぴょんぴょん跳ねてはしゃぐかしわもち。

 そしてフラウに向かって綺麗な姿勢でお辞儀。


「フラウちゃん、はじめまして。かしわもちです。うちのタカシと仲良くしてくれてるようでありがとね」


「こちらこそはじめまして。えっと……うちのと言うのは?」


 母さんがゲーム内にいるというのもなんとなく恥ずかしいが、ややこしくならないようにとっとと言っておこう。


「この人、俺とユースの実の母さんなんだ」


「母……つまりあなたと血縁関係の。つまりは……」


 フラウが何を考えているかなんとなくわかる。

 俺の母さんが魔力を持っていて、魔法が使えるとか考えてそう。

 フラウが姿勢を正し、相手を敬うようなモードに切り替わったので間違いない。


「お母様、お会いできて光栄です。どうか末長くおつきあいさせていただきたいですわ」


「あらあらあらあら!」


 浮かれた母さんがフラウの言葉をどう受け取ったかもよくわかる。

 嫁に来る予定の子が親に挨拶をしてきたと勘違いしていることだろう。

 俺は……成り行きに任せまーす。


「それでお母様はどのような魔法を嗜まれるのでしょう?」


「そうだねえ、基本的には月の力を借りる魔法かねえ。あと鳥の神様の加護もあるよ」


「複数の力を持つとは素晴らしいです。ぜひ拝見させていただきたいわ」


「そうだねえ、じゃあ……」


 なんか普通に会話してるぞ。

 最近の母さんはゲームに馴染んできたし、ゲーム内キャラとしてのロールプレイもバッチリだ。

 まさかフラウがゲーム内ではなく現実のことを聞いてきてるなんて思わないのだろう。


「エグディル!」


 かしわもちが呪文を唱えると、かしわもちの頭上に魔法陣が出現した。

 そこから半透明の鳥の姿が見える。

 たしかあれはオルカオルデ山の守り神だ。

 その鳥が羽ばたき、天高く鳴き声をあげて消えていく。

 そして後にはかしわもちの手に残る3つの卵。


 なにこの光景初めて見た。

 かっこよすぎじゃなかろうか。


「すごい! 今のはどういう魔法ですか?」


「あれはねえ、山の守り神様だよ。時々2-3個の卵を分けてくれるんだ」


「神の力を授けられるなんて……」


「美味しいんだよ。ちょっと待ってね」


 感動したのか興奮しているフラウとドヤ顔のかしわもち。

 おかしいな……たしか俺の記憶だと、かしわもちが学芸会の仮装のような鳥の姿になって卵を産み出す魔法だったんだが……。

 しばらく会ってない間に見た目だけ進化してたんだなあ……。

 かしわもちはフライパンに卵を落として料理を始めた。


「げっこう、そらげっこう!」


「神々しい……これが月光の魔法? 月の輝きがこうも眩しいなんて」


 謎の呪文と共に卵の黄身が月のように輝く。

 さらにかしわもちは複数の材料をフライパンに投げ込んでいく。

 そしてそれらが紅い炎に包まれ、それが消えるとフライパンには黒いケーキらしきものが乗っていた。

 もともと調理スキルを上げていたのだが、しばらく見ないうちに腕を上げたようだ。


「こっちのお皿に乗せて……。さ、食べてごらん。チョコレートケーキだよ。食べると魔力が上がるからね」


「魔力……いただきます……」


 フラウが目を輝かせながらケーキの乗った皿を手にし、添えられていたフォークで口へと運ぶ。

 そして一口食べ、感嘆のため息を漏らす。


「おいしい! それに魔力の上昇を確かに感じます。神聖なる食物を素材にするとこんなにも変わるなんて」


「あはは、喜んでくれて嬉しいよ。あ、紅茶も入れてあげるからね」


 かしわもちはポシェットからテーブルとイスとお茶セットを取り出して並べる。

 一瞬にして優雅なお茶会空間が出来上がり、フラウがそこに座らされてケーキとお茶を楽しむ。

 アニメとかでヒロインの子が魔法でもてなされているかのような光景。


「こんなにも素晴らしい魔法を使っていただき感激です!」


「いいんだよ。タカシのお友達だろう? またいつでも作ってあげるよ」


「はい、ありがとうございます」


 うーむ、母さんとフラウがあっさりお友達になった。

 母さんのおかげでフラウの俺への好感度も上がりそうだが、フラウのいろんな勘違いも進行しそうである。

 ま、みんなでわいわいは大歓迎である。

 フラウはあっという間にケーキを平らげたようで、あと一欠片となっていた。


「ねえ、あなたも魔力を上昇させておくべきよ」


「え?」


 突如俺に向かってそう言うフラウ。

 分けてくれるようだ。

 フラウの近くに移動すると、フラウは当たり前のようにフォークを俺の顔に近づけてくる。

 え? ここであーんされちゃうの?


「しゃがんでもらえるとありがたいわ」


 フォークをもらおうと手を伸ばしたのだが、フラウはそれに気づかないのかさらに追い込んでくる。

 拒否するのもアレなので言う通りにすると、ケーキが俺の口の中に差し出されてきたのでいただきます。

 うまい……そして恥ずかしい……。


「うわあーお」


 不思議な声をあげるのはもちろんかしわもち。

 恥ずかしくてそっちの方を見れない。


「どう?」


「ああうん、美味しい……」


「ふふ、そうよね? こうやって魔力を流し込んでるのだから」


 えーと、はたから見たら明らかにイチャつくカップルだよな。

 そういうんじゃないと説明したいが、この状況で何を言おうと照れ隠しにしか思われなさそう。

 よし、なかったことにしてスルーだ。

 解説モードに入ろう。


「さっきの卵を産み出す魔法だが、この世界で使えるのは今のところ1人だけなんだ」


「1人だけ……それは神に選ばれた存在ということよね」


「そうだ。時々こういう力を授けられることがある。フラウもそういうことがあるかもな」


「わたしもそのような存在になりたいものね」


 このゲームでは1つしか存在しないユニーク魔法や装備があったりする。

 なにかしらの賞品ということがほとんどで、稀に運良くもらえる人もいる。

 かしわもちなんかは運の産物だ。

 なお、ゲームバランスを崩すような壊れたものは存在せず、たいていは面白おかしいものらしい。


「そうなるよう、今日もレベル上げを頑張るとしよう」


「そうね」


 よし、説明してる間に俺のバッドステータス『照れ』の効果も切れた。

 かしわもちを見ると、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「2人は仲良しさんだねえ。ねえねえフラウちゃん。お友達登録しとこうよ」


「ええ、喜んで」


 母さんの中で、俺たちは完全に恋人同士だと思っているだろう。

 まあもうそれはそれでいいや。

 周囲がそう認識することで実際にそうなるかもしれないという期待。

 フレンド登録が無事終わり、かしわもちは俺に向き直る。


「ところで今日は何するんだい? あ、邪魔はしないから安心おしよ」


「レベル上げとお金稼ぎだよ」


「へー、仲良く色々やるんだね」


「ええ、結婚資金を貯めなくてはならないので」


 うげ、フラウが結婚のことまで言っちゃったよ。

 まあ考えてみたら偽装とか言ってるわけだし周囲に言うものだよなあ……。

 さてかしわもちの反応は?


「けっこん……結婚!? ゆうすけ、けっこん。ほらけっこん!」


「うん、聞こえてるよ母さん」


 母さんは唐突なことで混乱しつつはしゃいでいる。

 無駄かもしれないが、一応言っておくか。


「ゲームの中での話だからね」


「えー、ゲームと言ってもここもちゃんとしたひとつの世界だからねえ」


「その通りですわ、お母様!」


 かしわもちの何気ない一言に大きく賛同するフラウ。

 恐らくかしわもちは、ゲーム内だけどちゃんと中に人がいることを大切にしよう的な意味合いだろう。

 対してフラウは、ここはゲームではなく現実にある異世界的なものと思っている。

 まあ……こうしてよく考えてみるとそんな違わない気もしてきた。


「おやおや、そういうのちゃんとわかっててくれて嬉しいよ。最近の若い子は1人でやるゲームみたなものと思ってさ、相手を思いやらなかったりする子が多いからねえ」


「そうですね。真実が見えてない、まやかしに包まれた世界に生きる者たち。同じ世代として恥ずかしい限りです」


「え?」


「え?」


 会話が微妙に噛み合わず、一瞬時が止まる。

 しかしうちの母さんは細かいことをあまり気にしない。

 そしてフラウも話がうまく伝わらないことは慣れっこだ。

 つまりこの場合でも、次の瞬間に問題は消え去っている。


「とりあえず気に入ったよ。仲良くしようね。うちのタカシをよろしく」


「はいお母様。彼にはとても良くしてもらっています」


「おやおや、仲良いんだねえ」


「ええ、素敵な師匠です」


「あらあらー」


 素敵という単語で俺のテンションは一気に跳ね上がる。

 母さんの勘違いも加速するだろうが、もうこれでヨシ!

 こうなったらもう思い切ってワイワイするか。

 母さんと最近一緒に冒険してないしな。たぶん。


「それでどうしよっか。よかったら母さんとユースも一緒に何かする?」


「おやおや、邪魔しちゃっていいのかい? ゆうすけどうしよっか」


「兄ちゃんがいいならそうしようよ。人数多い方が経験値もお金も稼ぎやすいよ」


 そんなわけでくーちゃんも呼び出し、5人で遊ぶこととなった。

 今日は多めの人数で冒険ということで楽しみである。

 さてさてどんなドラマが巻き起こるやら。

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