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34.結婚資金

 組織の目を欺くため、俺とフラウはゲーム内で偽装結婚をして家を建てて一緒に暮らすことになった。ただし組織の目を完全に欺くため、偽装と言えども本物と同じようにしつつ自分たちの心も騙すことになる。何を言っているかわからないと思うが、俺にもよくわかってない。そもそも組織がなんなのか、なんで結婚したら欺けるのかも意味不明。

 とりあえず言えるのは、たとえごっこ遊びの結婚でも俺のテンションは最高潮に達しているということである。このままリアルでもそんな仲になりたい。


 今日はフラウと2人で今まで来たことのないフィールドへと来ている。

 と言っても、いつも出かけていたのは西オルカオルデ平原という場所で、今日は東オルカオルデ平原に来ただけの違いではある。

 景色は相変わらずのどかなままなので代わり映えはそんなに無い。

 明確に違うのは、これから行く予定のオランデー遺跡である。


「西側と違い東側の遺跡には暴走した魔導兵器はいないと聞いたわ。どうしてなの?」


 歩きながらフラウが聞いてきたので、この時のために予習しておいた歴史をいい感じに語ろうと思う。


「かつてこの世界では、後に月晶大戦と呼ばれる人と獣人との間での戦争があった。その時にタルタロスはここ、東サルタバルタ平原で迎え撃ったんだ。その当時の戦法として、敵を罠にかけてオランデー遺跡へ転移させ暴走タルタルと戦わせた。敵の戦力を削ぐことには成功したものの、遺跡もほとんどが破壊された。そして今や魔物が住み着く廃墟と化している」


 ふう、噛まずに言えて一安心。

 フラウは興味深そうに俺を見ているので、無事いいところを見せられたに違いない。


「なるほど……過去にもそのようなことがあったのね。月晶……もしかしてあのクリスタルの戦士も関わっていたのかしら?」


「ああいや、あれはまた違う存在なんだ」


「そうなのね……」


 フラウの頭にはクリスタルの戦士というパワーワードが根強く残っているようだ。

 体内で石を作る病気になったファームのおっちゃんが余計なことを言ったせいで、1人の夢見る少女の思考に影響を与えてしまっている。

 どうかフラウがネットでクリスタルの戦士を検索しないことを願うばかりである。

 さて、そんなこんな話をしてる間にオランデー遺跡の入り口へ到着した。


「なんだか禍々しい気配がするわね……」


「それがわかるとはさすがだなフラウ」


「ふふっ、このくらい当然よ」


 ゲーム的な効果なのだと思うが、この入口の前に立つとなんとなく寒気がしてくるのだ。

 のどかな草原を散策中にここを見つけた初心者は怖がって逃げ帰ると聞く。

 迂闊に入り込んで恐ろしい目に合わないようにしてあるのかもしれない。


「ではいくぞ、油断するなよ」


「ええ、何が来ようと問題ないわ。あなたと一緒ならね」


 なんとも嬉しいことを言ってくれる。

 俺は陽気な気分で陰気なる入り口をくぐって階段を降りることとなった。

 すると下からカタカタカタという乾いた音が響いてくる。

 さっそく敵がいるようだ。


「フラウ、戦闘準備だ」


「ええ、わたしの魔法はいつでも発動可能よ」


 そして見えてくる人影……だがその正体は人ではなく人だったもの、骨だけのスケルトンである。

 このゲームのスケルトンは俺たちのように職業的なものがあり、今ここにいるやつは剣を持っていて戦士のようである。

 攻防ともにバランスのいい能力ではあるが、シンプルな攻撃をしてくるので倒しやすい部類だ。

 だがこういったアンデッド族と戦う時には注意点がある。


「フラウ、少し下がってくれ。部屋から離れた位置で戦う」


「わかったわ」


 部屋の入口あたりでいつも通りに2人で殴りつつ魔法を唱えつつ戦う。

 敵の強さはレベル上げに最適だが、複数を相手にするときつい感じだ。

 敵のHPはいい感じに減っていくが、俺のHPもそこそこ削られる。


「フラウ、覚えておくんだ。こういったアンデッドたちは生命力の弱ったものを好み、それを感知する力がある。つまり、今の俺のように体力を削られた状態で奥へ進むと、あっという間に敵に囲まれる」


「なるほど、だから下がったのね。このような姿で現世に執着するだけでなく、生あるものに縋りつこうなど愚かね。わたしが無に還してあげるわ。燃え尽きなさい……ファイアーボール!」


 ちょうどいいタイミングで火球が放たれ、スケルトンは崩れ落ちて灰となりあとに残るは骨くずと頭蓋骨だ。

 今日ここに来た目的は、役に立ったり売れる素材を集めることだ。

 素材を敵から集めてアイテム作成することを略して素敵合成という。

 ただ、人骨を素材にとか普通に考えるとアレなので先にフォローしておく。


「よし、素材が出たな。ちなみにこれは人の骨を模しているが、実際には人ではなく魔物が周囲の怨念よりこの形をとったものだ。骨ではあるが、魔物の毛皮と同じようなものと思えばいいぞ」


「なるほど……魔物というのは様々な形を取るのね。人骨でないのであれば、これは儀式部屋の装飾に使えそうよね。うふふ……あちらの世界ではできなかったことがここでは叶うのね」


 楽しそうに怪しげな笑みを浮かべるフラウ。

 現実で怪しげな部屋にしようとしてお母さんに怒られている姿が見えるようだ。

 現実では出来ない部屋を作れるのもゲームならでは。

 フラウの妄想力を存分に発揮してもらおう。


「あとで家具のデザインをしてもらうぞ。いろいろ集めながらアイデアを練っておいてくれ」


「ええ、まかせてちょうだい」


 この後はレン樽を呼び出して敵をたくさん狩りまくった。

 そして素材はたくさん集まり、俺たちのレベルは12まで上がった。

 というわけでオランデー遺跡を後にし、街へと戻ってきた。

 いろいろ作業する場所を借りるべく、ファームさんの牧場へ向かう。


 牧場にファームさんの姿はなかった。

 おそらくは現実世界にて体内にできる結石とやらの痛みと戦っているのであろう。


「クリスタルの戦士は不在のようね。お話を伺いたかったのだけど……きっと今日も どこかで戦っているのね」


「ああ、そうだな……」


 遠い目をして思いを馳せるフラウ。

 サンタさんの正体と同じでいつかは真実に気づくことになるんだと思うが、今はそっとしておこう。

 てか、どう説明したらいいかさっぱりわからないし。

 さ、ちょっとした広い場所に到着したので本題に入ろう。


「ではこれよりオリジナルの家具作りをしてもらう。やり方を説明するぞ」


 俺はかばんから大量の素材と、既製品の家具たちを取り出して並べていく。

 そしてフラウとともにシステムコンソールを操作し、インテリアクリエイティブモードという状態にする。

 これは様々な家具や素材を組み合わせて好きなものを作れる状態。

 わかりやすくいえば空間をフルに使った積み木遊びのような感じでデザインができるのだ。


「フラウ、今この空間は重力等の物理法則を無視できる状態となっている。例えば……」


 俺は1枚の板を取り、空中にそのまま置いた。


「これは!? 空間に固定……そんなことまでできるの?」


「ああ、この世界の者は皆できる。フラウにもできるぞ。思いのままにやってみろ」


「わたしにも……えっと……」


 フラウは恐る恐るといった感じで、ひとつの魔法スクロールを手に取る。

 それを広げた状態で空中に置いた。

 そして杖をそれに向けてポーズをとる。

 魔法使いが呪文を唱えるワンシーンのような光景となっている。


「どうだ? 今この空間では全てが思いのままだ」


「素晴らしいわ! 向こうの世界では常々思っていたのよ。何故重力などというものがあり、人はそれに逆らえないのかと。この世界ではそれが可能だなんて……ああ……創作意欲が湧いてくるわ!」


 フラウはハイテンションで家具作りを始めた。

 どんなものが出来上がるか楽しみである。

 ちなみに俺はこういうセンスが無く、既製品よりいいものは作れないので見守ることにする。

 なんせ昔流行ったなんとかクラフトVRというブロックを積み上げて建物を作るゲームをやった時も、ただ単純に積み上げるだけの通称豆腐ハウスしか作れなかったからな。


「うふふ……空間固定は素晴らしいわ。砂で魔法陣を描いても散ることなく形を維持できるなんて……。掃除という時間の浪費行為が発生しないことの素晴らしさ!」


 フラウのお母さん曰く、部屋はちょっと人に見せられないから……というわけで家庭教師は俺の部屋でやっているわけだが、今言っていたようなことをリアルでやっていたのかもしれないな。

 どんな部屋なのか見てみたくはあるが、俺の中の女の子への幻想が破壊されそうな怖さもある。

 ま、これからフラウの理想とする部屋が見れるわけではあるが……。


 さて、俺はこの間に売ってお金になりそうな素材をよりわけておこう。

 何故お金が必要かというと、結婚や家を建てるためにはゲーム内でのお金がそこそこいるからだ。

 実際のところ小銭稼ぎが好きな俺の貯金で家を買えるだけのゲーム内貯金はあったのだが、フラウがこれから2人で貯めたものを使いたいと提案してきた。

 俺の脳はその提案を「あなたの貯金は子供のために取っておいて、家の資金はこれから2人で頑張って稼ぎましょう」と受け止めた。

 というわけで今日集めた素材をいい感じで高く売ろうとやる気に満ちた俺である。


 骨くずは接着剤になり、大量に使う消耗品なので加工してから売ればそこそこ儲けになる。

 今日の戦利品以外でも、これまでフラウと一緒に倒したモンスターの素材もより分けておく。

 そしてちゃんと家計簿をつけて管理である。

 こうしていると、なんかほんとに結婚する前にいろいろ準備をしている気分となれる。

 いやまあ、実際にゲーム内結婚するんだけども、こうしてるとなんか現実味を帯びてくるというかなんというか……体験した人にしかわからない不思議な感情である。


「よし、まずひとつできたわ。どうかしら?」


 顔をあげると、フラウがドヤ顔でひとつの完成品を指差している。

 見ると、なかなかにおどろおどろしい机があった。

 中心には骨の欠片で描かれた魔法陣があり、蝋燭の火が怪しくそれを照らす。

 そしてドクロで出来た祭壇は、いかにも怪しげな儀式といった感じだろうか。


「さすがだな、想像以上だ。これほどの品であるならば、地下の秘密部屋に置くのがやはり正解だな」


「ええ、そうね。隠すと決めたことで遠慮なくわたしの念を込めて作ったわ。うふふ……普通の部屋でカモフラージュした地下にこれを……完成が楽しみだわ」


 ほんと地下に封印しておかないとなにか呼び寄せそうなくらいに禍々しい物ができたようだが、フラウが楽しそうで何より。

 こちら方面限定だが、芸術センスがあるのかもしれない。

 そうなると、試しに公開してみるのもいいかも?

 こうやって作った家具を公開しておくと、同じものを欲しがる人がいた時に作り方を購入してくれるのだ。

 ちょっとフラウに許可をもらっておこう。


「フラウ、少し相談があるんだが」


「なにかしら? あなたの提案であれば断る理由はないけど」


「ありがたいが、もしかするとフラウは嫌かもしれないので一応な。これを皆に公開してみないか? 同じものを部屋に飾りたいという人がいるかもしれない」


「これを使いたがる人……いるのかしら? わたしの作るものは基本的に否定されてきたわ。理解者であるはずの母でさえもね……」


 なんか悲しそうに語るフラウ。

 そりゃまあ……普通のお母さんであれば娘がこんなものを作り出したら全力で止めるであろう。

 だがここはゲーム世界なので現実とは違う。


「この世界であれば事情が違う。こういったものを欲するも自分では作れない人がいるかもしれない。逆に他の人が作った家具を飾ることもできる、助け合いの世界だ」


「なるほど……こちらの世界であればわたしの理解者も存在するのね。ならばそういった同志のためにもこれを広めたいわ」


「そうか、ならばあとはやっておく。次の家具作りに取り掛かってくれ」


「わかったわ。ふふ……他者に広めるのであればあれも試してみようかしら……」


 フラウの創作意欲がさらに湧いてきたようでなにより。

 というわけでこれを公開登録してみようと思う。

 金額は一般的な相場を見て決めてと……気に入ってくれる人がいればいい感じの収入になる。

 フラウは家具をいくつか作るだろうし、ちょっとくらいは稼げるといいな。


 そんなわけでフラウは家具を作り、俺はいろんな素材をまとめて売りに行ったりとして過ごした。

 いやあ、結婚準備って楽しいなあ。

 結婚当日までに、振りではなく実際の恋人になりたいものである。

 そしてゲーム終わりの時間がやってくる。


 さて……現実世界の俺たちは1つのベッドの上で手を繋いで寝ているのだ。

 起きたら一体どんな感じになっているのか。

 というかすっごい照れちゃいそうだし、どんな顔でいればいいのだろうか。

 ドキドキしつつゲーム世界を脱出するのであった。

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