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31.心を重ねて

 前回までのあらすじ。ひょんなことから知り合った中二病少女花ちゃん。なんやかんやあって、俺はVRMMORPGエターナルファンタジーの世界を案内することになった。ゲームの魅力を伝えていくうちに、俺は彼女のことを普通に好きになってしまっていた。彼女の方も俺のことをそこそこ好意的に見てくれているような気がする(但し中二病的な思考で)。さて、今日も仲が進展するといいな。


 本日花ちゃんは補習のため午前中学校へ行っている。

 それがすんだらお昼を食べて遊びに来る予定なのだが、その前に花ちゃんから判断に困るメッセージが届いた。


『清浄なる水にて身を清めておいて』


 普通に考えてシャワーを浴びておいてねという意味だろう。

 これをどう取ればいいのだろう?

 実は俺が臭いとか? いや、言われずとも毎日会う前にシャワー浴びてるし、ネットで評判のミョウバン水も作って使用している。

 だから違う理由か。


 そういえば大学の知り合いでモテるやつが言っていた。

 『あらかじめシャワー浴びとけばすぐヤれていいんだぜ』

 つまりそういうこと……なわけないな。

 あっても怖い。


 とりあえず思考を中二病に寄せよう。

 俺の深淵に封じられし恥ずかしき思考召喚!

 あと最近の花ちゃんの行動を思い出して考えると……。


 体を清めたあとにすること……なにかの儀式だろうか。

 こないだマッサージしてくれたあとに、俺の前世を呼び起こす儀式とかいう謎の行為をされたことを思い出す。

 あと昨日、俺が記憶失ってるから呼び起こすとも言っていたような。

 儀式かあ……そういうのに詳しそうな心の中の悪魔さん、なんか囁いてくださいな。


『儀式とか手のこんだことはちょっと……いつでも正直にまっすぐ手っ取り早くがモットーなんで。てか儀式で俺を呼び出すのは人間の方だし』


 そういえばそうか。

 それに悪魔を呼び出す儀式の前に身を清める必要はないか。


『いやいや、そこはやっといてほしいぜ。臭いのやだし。あと生贄の女が汚かったら即ブラバよ』


 なんだよブラバって。


『悪魔界のスラングでブラックバ――』


『ああもうそんなのどうでもいいから、とっととお風呂に向かいなさい。今日はシャワーだけじゃなく湯船にも浸かるの。そこで計画を練りましょう』


 心の中の天使が急に割り込んできてしまった。

 でも一理あるな。

 シャワーだけ浴びるつもりだったが、時間をかけてキレイになってくるか。


 夏なのでぬるめのお湯で半身浴。

 では、今日の花ちゃん対策会議を始めます。

 意見のある方は挙手を……はい、天使さんどうぞ。


『先に言っとくわよ。あなたの期待するようなムフフな展開は100%ないからそこは胸に刻みなさい。天界の入り口にも書いてるのよ。ここを通るもの、すべての希望を捨てよ……ってね』


 天界ってそんな怖いところなの?

 それはさておき、言ってることは間違ってないよな。

 一般的な男女がシャワーを浴びてからするような行為には至らないだろう。

 でもこないだみたいにマッサージくらいならあるかもしれないし、そのくらいは期待してよくないか?


『そうなのよね。あれはあれで予想を超えた行為だったわ。あの子はわたしたちの予想の斜め上を行く。よし、前言撤回よ。もしかしたら、発展してそういう男女のまぐわいになる可能性も考慮しておきましょう。だって実際にそうなったらへたれのあなたは情けない姿を見せることになるもの!』


 たしかにそうだ、心構えは大切だな。

 仮に花ちゃんが裸で迫ってきても平常心を保つ……できるわけないな。

 てか、そういう想像すると会ったときに理性が飛びそうなのでやめておこう。


『ま、そうなるわよね。というかこの話し合いって無意味よね。いつもあの子のペースで流されるだけだもの』


 それを言われると痛い。

 まあのんびりお風呂に浸かっている時間つぶしだしさ。

 悪魔はなにか意見ないか?


『こういうのはどうだ? 実はあの子はお前に気があるんだよ。中二病とかじゃなく普通の恋愛としてな。でも照れくさいから中二病の皮を被ってお前に色々アタックしてるんだ。その前提で今までのことを思い返してみな』


 なんかラブコメにありがちな展開の、最初から好きでしたなあれか。

 今までか……まずは出会いだな。 

 あの子は俺が魔法を使えると思って話しかけてきたんだよな。

 実はあれ以前から俺のことを好きだけど言い出すきっかけが掴めずにいた。

 普通にアタックはできないから、魔法という言葉を使って搦め手を使って俺に接近してきた……。


 これ、真剣ラブゼミで見たやつだ!

 いやいやそんな展開無いってば。

 いやでも……もしそうだったら……花ちゃん超可愛い。萌えちゃう。


『だろだろ? いいよなあ、そういう展開って。俺の憧れだぜ』


『ちっ、この童貞共が。そんなご都合主義ラブコメみたいな展開あるわけ無いでしょう? 身の程を知りなさい!』


 天使の一喝により俺と悪魔の妄想は粉々に打ち砕かれた。

 まあそうよな……。

 はあ……最後にお待ちかね、心の中の母さんの意見をお伺いしますか。


『最初とかどうでもいいじゃない 大事なのは今と未来なんだなあ ははを』


 なんかすごくいいことを言ってくれた。

 確かにそうだ。

 実は最初好きだったとしても、後から嫌いになられたらなんの意味もない。

 今から花ちゃんに好かれるよう頑張るしかない!


 いい感じに脳が整ったので、風呂を出て水シャワーを浴び体も整える。

 これで身も心も清め終わったぞ。

 あとはご飯食べて瞑想して花ちゃんを待つか。



 やがてお待ちかねのチャイム音がした。

 玄関前で待機していたわけだが、5秒ほど深呼吸してドアを開ける。


「やあ、いらっしゃい」


「お邪魔するわね」


 花ちゃんがスッと家に入ってくると、シャンプーのいい香りが俺の鼻をくすぐる。

 直前に身を清めてきたのであろう。

 部屋へ入ると花ちゃんはテーブル前の椅子に座り、俺は麦茶を用意する。


「今日はどうする? 少し勉強してから向こうの世界に行く?」


「そうね、課題という枷をはずさなくては。見ていてくれる?」


「よしわかった」


 出された数学の宿題を終わらせたいようだ。

 いい感じにアドバイスして早く終わらせよう。


「今日は言葉での助言は不要よ。その代わり……横に来てくれる」


「ん? わかった」


 いつも俺は花ちゃんの正面に座っている。

 何故か隣に来てほしいと言われ、花ちゃんの左側に椅子を持って移動する俺。

 何だこの状況は!


「言葉ではなく心で……魔力で教えて欲しいの」


 花ちゃんは左手を俺の方に差し出してくる。

 これは手を握ってということか?

 若干パニくって固まる俺。


「えっと……」


「向こうの世界でも魔力による意思伝達はできた。こちらの世界でもできるはずよ。お願い……」


「お、おう……」


 お願いされては断れない。

 戸惑いつつも花ちゃんの手をそっと握ると、強めの力で握り返される。

 やばい……あったかいしやわらかい。

 昨日はゲーム内で手を繋いでいたが、その何倍も心地良い。


 いや待て……やばいぞ。

 ゲーム内とは違って、緊張すると手が汗ばんでしまうのではなかろうか。

 なにか話でもして気を紛らわせ……いや、言葉はいらないとか言われたんだっけか。

 昨日のように手をつないで相手の気持を理解しよう的なことを言ってた……あれ? 昨日もわからなかった気がするけど。


 と、とりあえず課題に目を向けて数学的力で煩悩を追い払おう。

 今花ちゃんが解いているのはこないだ教えた問題、細長い指がペンをスラスラと動かし正しい答えを書き込んでいく。

 手もキレイだよなあ……いやいやそっち方面に思考を持っていくんじゃない。

 ああやばい……手汗の湿りを感じる。


 この状態を花ちゃんは嫌がっていないだろうか。

 ちらりと顔を見てみるも、真剣な無表情のまま。

 何を考えているかさっぱりわからない。


 そして無言のまま30分ほど時が過ぎ、課題は終わったようだ。

 全問正解で先生は嬉しい。

 そして繋がった手はまだそのままである。

 花ちゃんはふうっ、と色っぽいため息をついてからようやく声を発した。


「あなたの心の助言のお陰でも全てつつなくこなせたわ。さすが師匠よね」


 えと、ごめんなさい。

 心の中で問題のアドバイスは一切していません。

 ひたすら煩悩と戦っておりました……。

 とりあえずは師匠っぽい返答をせねば。


「いや、フラウの努力の成果だ。俺の助言などほぼ不要だったろう」


「ええ、そうかもね……。ねえ、あなたは今わたしが何を考えているかわかる?」


 なんとなく寂しそうにそう聞かれた。

 ここはどう答えるのが正解なんだ?

 昨日みたいに正直にわからないと答えるか……でもこの寂しそうな感じ、なにかしら答えるべきか?

 ええい、思いついたことをそのまま言ってしまえ!


「もっと……俺と繋がりたいと思っている?」


 って、俺は何を言っている?

 なんかこのまま押し倒してしまいそうなことを口にしてしまった。

 花ちゃんは一体どんな反応を……。


「そう……やはりあなたにはお見通しなのね……」


 え? ほんとにそんな展開?

 そんなわけないよねという思いと期待が半々で花ちゃんの次の言葉を待つ。


「あなたの思っているとおりよ。実はわたしにはあなたの心の声が聞こえない。あなたはわたしの心の声を聞いてくれているというのに……」


 え? どゆこと?

 俺も花ちゃんの声は聞けてないんだけど?

 これ言っても信じてくれなさそうだしなんて言えばいいかわからん。


「やはり魔力の質……そもそもの素質が違うのかしら。でもあきらめたくない……だから今日はお願いしたいことがあるの。このまま向こうの世界に行かせて……」


 え? このまま?

 よくわからないが……予定通り俺は花ちゃんのペースに任せて流されることにした。



 それから15分後。

 なんかすごい状況となっている。


 俺と花ちゃんはひとつしかないベッドの上に並んで仰向けになっている。

 先ほどと同じように手をつないで……。

 さらには落ちてはいけないという理由からわりと密着して上からタオルケットをかけて……。

 まさに男女が愛を育む行為寸前のような状態だが、2人共VRヘッドセットを装着している点が違うところか。


「同時に起動してね。今まではばらばらに飛んでいた。今日は一緒に連れて行って……決して離さないで……」


「おう……」


 なんだろうか……花ちゃん超可愛い。

 俺に甘えているようなこの状態、いったいなんなんだこれは?

 あまりにも幸せな状態だが、このままゲーム初めて大丈夫なんだろうか?

 寝相が悪くて変なことになったりしないだろうかとか、変に興奮して体調に異常をきたして強制終了とか、いろんな不安が頭をよぎる。


「準備はいいわ。合図を……」


「わかった。では……5……4……3……」


 ロケットを打ち上げる時の宇宙飛行士とかそれを見守る人はこんな風に緊張してカウントダウンしているのだろうか。

 今までVRゲーム世界にインするのを失敗したことはないはずなのに、ちゃんと行けるのだろうかと考えてしまう。

 ちゃんと0で起動ボタンを押すのを忘れないようにしなくては……。


「2……1……0」

「ん……」


 ボタンを押すと同時に、花ちゃんの体がピクッと動くのを感じる。

 密着しているから僅かな体の動きも感じられるんだな。

 花ちゃんが今どんな事を考えているのか……ほんとに魔法でわかればいいのになと考えつつ、俺の意識は闇へと呑まれていった。

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