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03.ゲーム内の生活風景

 前回までのあらすじ。

 なんか隣の家に住む中二病少女が鍵をなくして俺の部屋で休むことになった。

 そしてVRMMORPGを異世界への入り口と勘違いした彼女にどんなゲームか教えてあげることになった。

 俺はゲームの中に入り、彼女は現実世界からモニターしているどきどき状態である。

 彼女がゲームをやりたくなるようにがんばろうと思う。


『さあ、次は何を見せてくれるのかしら?』


 外でモニターしている彼女に、先ほどは簡単な戦闘を見せた。

 何を見せるべきか

 もっと強い敵と戦うところを見せるのもありだが、ソロプレイだと地味な戦いになりがちで正直つまらないと思う。

 よし、希望を聞こう。

 ただ……自分から意見を出せない男は情けないと思われがちと聞いたことがあるので、案は出しておこう。


「いろいろと見せたいものはあるんだけど、希望はあるかな。この世界では戦う以外にも、ものを作ったり商売したり、ただひたすらのんびりしてる人とかもいるんだ。人の多いところの賑わいとか見るのもいいし、景色のいい場所とかもあるよ」


『そうね……。たしかにそちらの世界の住人がどんな生活をしているのか興味があるわ。こちらの世界と違うところを見せてちょうだい』


「よし、じゃあ街へと移動するぞ」


 このゲームでは、1度訪れたことのある場所には簡単にワープできる。

 ひたすら広い世界を歩いて移動していたら、遊ぶ時間がなくなるからな。

 目指すはここから一番近い街、大自然に囲まれた魔法大国タルタロスだ。


 次の瞬間に俺は街中に立っていた。

 付近にはたくさんのプレイヤーやNPCが歩きまわっており、とても賑やかだ。

 夏休みということも相まってか、いつもより人が多い。


『今のは何? あっという間に移動したわね。それも魔法?』


「まあそんなところかな。このゲームは1度行った場所には簡単に移動できるんだ。便利だろう?」


『ええ、とても効率的ね。わたしもそちらの世界へ行けばできるのかしら?』


「もちろん、いろいろ案内するよ」


『それは楽しみね』


 最後の方の会話だけで考えると、デートの約束をした気分だ。

 ゲーム内とは言え、リアル女子高生とデートとは素晴らしいことである。


『ねえ、この街には子供が多いのかしら? あと猫みたいな人もいるけど』


「ああ、この世界にはいろんな種族がいてな。一応人間ではあるんだけど……」


 子供みたいに小さいのはホビホビ族と呼ばれていて、大人でもそんな大きくならない。

 見た目の可愛さもあって、大きなお友達に大人気だ。

 手先が器用で頭も良くて魔法が得意なので、魔法を使いたい彼女にはおすすめかもしれない。


 猫っぽいのはニャコラ族といって、素早いのが特徴だ。

 猫耳と猫しっぽが可愛く少し毛深いけど、その獣っぽさが大きなお友達に大人気

 他にもいるけどそれはおいおいってことで、簡易に説明しておいた。


『なるほどね……わたしがそちらの世界へ生まれ変わったらどんな姿なのかしら。人間とは遠い姿の猫の可能性もあるわね』


「種族は自分で選べるよ。魔法が使いたいならホビホビ族とかいいと思うよ」


「そう? でもこれは運命だからわたしはそれに従うのみ。猫の可能性が高いわね」


 猫になりたいのだろうか。

 わりとニャコラ族が好きな俺にとってはありがたい。

 猫耳と尻尾なあの子の中身がリアル女子高生だなんて最高である。


 さて、妄想を捗らせながら移動だ。

 目的地までワープもできるのだが、街中の雰囲気を見せるために歩いていく。

 夏休みなだけあって賑やかで、いろんな声が飛び交っている。


「ギルドメンバー募集中ー。まったりのんびりと冒険します。面接あり」

「ドラゴン退治にいきませんかー。肉は主催側で回収します。主催側での参加は受け付けておりません」

「げっこう焼きそば販売中だよー。目玉焼きが乗ってるよー」

「製作依頼受付中です。初心者用の装備から上級者用までいろいろ作りますよー」

「ボサタルT40制限6連戦各自総取り戦盗募集」


 募集や商売の叫び声が聞こえてくる。

 暗号のようなやつは、わかる人にだけわかるよう略しまくっている。

 装備品をその場で作っている人もいて、その光景はなかなか派手で目を惹かれる。

 並べた材料が光りに包まれ、剣の形になって現れる光景はまるで魔法のようだ。


『ねえ、あれも魔法なの?』


「うーん、ある意味魔法みたいなものかな。素材を集めて役立つものを作ることができるんだ。いろいろ作れるようになるには訓練に時間かかるけど」


『そうなのね。やはり魔法には修業が必要かしら。わたしには才能があると思うのだけど、あなたはどう思う?』


「うーん……この世界では才能とか関係なしでみんな条件は同じだよ」


 だってゲームだもの。

 基本的にこういったオンラインのゲームは、かけた時間に比例して強くなれる、

 ここが別世界と思いたい彼女には悪いが、ちゃんと教えておかなくてはな。


『なるほど……そちらの世界の理はそうなのね。今のわたしの力では世界の有り様に逆らえそうにないから従うしかないわね』


 なんかわかってくれた。

 わりと素直で良い子なのかもしれない。


『それであなたもなにか作れるの?』


「ああ、簡単なものなら作れるよ。今からそれを見せようと思ってね」


『そう、楽しみだわ』


 目指すはギルドメンバーの一人が作った農場だ。

 このゲームは戦いに出ずひたすら生産をするだけでも楽しめる。

 そんなわけで農業ばかりやっているファームさんのところへきた。

 畑を耕しているドワーフのおっちゃんの姿を見つけ、俺は奥の方にある林の方へ向かいつつ話しかける。


「おーいおっちゃん、ちょっと素材分けてくれる?」


「おう、勝手に好きなものもっていきな。あと俺が急に落ちても気にするなよ。最近クリスタルの戦士に選ばれちまったからな……」


「そ、そうか……大変だな」


 クリスタルの戦士とは、体内でクリスタルを生成……もとい尿結石とかいうのができる非常に痛い病気らしい。

 このゲームは寝ている本体が大きな傷みを感じると、安全装置が作動して強制ログアウトするようになっている。

 もしファームのおっちゃんが急に消えたらそういうことだ。


『クリスタルの戦士……そういった存在もいるのね。興味深いわ』


 なんか彼女の中二病心をくすぐるワードだったらしい。

 しかし彼女に真実を教えるなんて、5歳の子供にサンタはいないよと言うようなものだ。

 適当にごまかしておこう。


「うん、ただひたすら苦難の道を進む苦行者のようなものらしい。俺たちの知っていい世界じゃないのさ」


『そうなの……? まあいわ、あなたの忠告に従っておく』


 誤魔化せたところで本題へいこう。

 今ほしいのはこの林の奥にあるキノコだ。

 魔法使いと言えばやはりキノコである。


『すごく広い農場ね。さっきの人はこの街に土地を持っているのかしら?』


「えっと、この土地はさっきのおっちゃんのものなんだけど……」


 実際にはここは街中の空間ではなく、仕切られた専用の空間だ。

 ここに入る前に通った入り口で、実はワープしている。

 なんせ何千人もプレイヤーが居る状態でそれぞれの土地を配分していたらカオスになるからな。

 彼女の好きそうな言葉はと……。


「ここはさっきの街の中に存在する異次元空間なんだ。わかりやすく言うと――」


『それだけ聞けば十分よ。そちらの世界では空間を制御する技術もあるのね。ううん、科学文明が発達している感じには見えなかったし、それも魔法の一種ね。素晴らしいわ!』


 なんか興奮して喜んでくれているようだ。

 これでますますこのゲームに興味を持ってくれたに違いない。

 ここに来たのは正解だったな。

 さあキノコを収穫だ。


『そのキノコは魔法の触媒かしら? 魔力を高める道具を作るのね』


「まあそんなところだよ。作るのは道具じゃなくて食事だけどね。キノコを食べると魔法力が上がるんだ」


『え!? 毒キノコのように見えるけど……そんな派手なキノコ食べられるの?』


 彼女の言うとおり、俺が手にしたキノコはネムリタケという毒キノコだ。

 周囲には他にもシビレタケやマヨイタケといった危険なキノコが沢山である。

 こいつらは不思議な特性があって、焼いてしまえば食べられる料理となる。

 まあそういうゲームと割り切ればいい。


「ああ、火を通せば問題ない。今から調理をするよ」


 材料を並べて手をかざして念じる。

 キノコが炎に包まれ、鮮やかなオレンジ色の輝きを見せる。

 やがて炎は消え、どこから出たのかお皿に乗った焼きキノコが現れる。


『なんだか魔法というより手品のようね……』


「そう言われればそうだな。ちょっと食べてみるから俺のステータス画面を見ていてくれ」


 食事をすると能力が上がることを説明しようと思った。

 だが、すぐに返事がなく……少し困ったような声が聞こえてきた。


『ん……わからないから放っておいたんだけど、このずらっと並んだ記号と数字は何?』


「あれ? もしかしてゲームとかやったことない?」


『ええ、魔法の研究に人生の大半を費やしてきたわ』


 そうか、ゲームを知らないのか。

 魔法がたくさん出てくるのはゲームという気もするが、なんとも不思議な子だ。

 ゲームにおけるHPやMP、STRやらVITという単語の意味を教えてあげた。


『なるほど、この世界は個々の能力を数値として見ることができるのね。もしわたしが魔法の修行をした場合、強くなればすぐわかるってことかしら?』


「そうなるね。あと他にも装備を変えて魔力を高めたりできるよ。今俺が持ってる杖も魔法の威力が上がるんだ」


『なるほど、魔力を秘めた道具を集めることも重要なのね。そちらの世界でやるべき事は多そうだわ』


 おお、いい感じに興味を持ってくれている。

 ここまできたら実際に体験してもらうのがいいかもしれない。

 実はこのゲーム、勧誘用として体験版もあったりするんだ。


「試しにこの中に入ってみる?」


『え!? わたしもそちらの世界へ行けるの? ぜひ行きたいわ!』


「一応できるよ。ただヘッドセットはひとつしかないから俺が一旦戻ることになるけどね」


『ふむ……わたしがそちらの世界へ行くには、あなたの魔力を借りる必要があるってことね。ぜひお願いしたいわ』


 特につっこみは入れずそういうことにし、俺は現実世界へ帰還することにした。

 ログアウトボタンを押し、システムの応答を待つ。

 さあ、女子高生の待つ俺の部屋へ帰ろう。



   ***



 目覚めると、全ては俺の妄想で部屋には誰もいなかった……。

 といったこともなく、美少女が俺を見つめている。


「おかえりなさい、無事に帰還できたようね」


「ああ、ただいま」


 なんと素晴らしき会話だろうか。

 単なる挨拶ではあるが、相手は家族でもない他人の美少女女子高生。

 この新鮮さで死んでしまいそうだ。

 っと……暴走せずにちゃんとしよう。

 ヘッドセットをアルコール除菌はエチケット。


「じゃあこれをかぶってそこに寝てくれるかな? 俺のお古だし俺のベッドで申し訳ないけど」


「問題ないわ。早くわたしをあちらの世界へ連れて行ってちょうだい」


 ためらうことなくヘッドセットを受け取ってベッドに横たわる少女。

 嫌がられなくて一安心。

 では体験版のゲーム設定をしてと……。


 しかしここで俺は気づいてしまった。

 そう、気づいてしまったのだ。

 女子高生が俺の部屋のベッドに無警戒で横たわっているという事実に……。

 そして俺は健康的な好奇心旺盛男子。

 やばい……非常にやばいぞ……。

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