25.タルタルがいっぱい
前回までのあらすじ。中二病少女フラウと一緒にエターナルファンタジーを楽しむ俺。少し遊んだ中でフラウが興味を持ったのは、魔導兵器タルタルであった。コミカルな見た目に似合わず、魔力の粋を結集した高性能な樽型ロボ。その秘密に迫るため、最初にタルタルが発掘された地下遺跡を目指すことにした。だがそこには暴走タルタルが侵入者を阻むべく彷徨っている。今日は今までで一番冒険する予感である!
草木に囲まれ、のどかな景色が広がるオルカオルデ平原。
その緑の中に、人工的に作られたと見られる石造りの建造物がいくつかある。
そこは遥か昔に作られたと推測される巨大な地下施設、オランデー遺跡への入り口である。
今日はそこへ行くわけだが、危険地帯であり貴重な歴史的資料の塊なので許可証が必要だ。
俺は当然持っているが、フラウはまだである。
入場許可証を得る条件はいくつかあるのだが、その中のひとつにタルーガ博士と知り合うというものがある。
昨日こなしたクエストでフラウは条件を満たしているので、すぐに許可を得ることができた。
「貴重な遺跡に入る権利にしては、やけにあっさりと許可が出るのね」
「そういうものだ。俺たち冒険者は国から一定の信頼を得た存在だからな」
ほんとよく考えると謎だが、冒険者は何故かそういった許可を得やすい。
俺たち冒険者というのは、よくよく考えると定職についていない根無し草たち。
そんな怪しげな存在がいろいろ優遇されている謎の世界観は、ゲームだからといったところか。
理由をつけるとすれば、過去に冒険者達が様々な偉業を成し遂げたからってことらしいので、きっと俺たちも何かしら偉業を達成することを期待されているのだろう。
「ふふ、わたしたちの潜在的能力を見抜いているということよね。この世界の上の存在は話がわかるようね」
「そうだな。それが正しかったと証明して見せてやらねばな」
「そうね。あとタルタルを使役する術も教わったわ。早速使ってみたいのだけど」
タルタルを使役……要はタルタルを借りて一緒に戦ってもらう、通称レン樽である。
戦う仲間がいない寂しい人でも安心なゲームシステムである。
中に人がいるプレイヤーと比べるとちょっと弱いが、たいした問題ではない。
なにより、これから行く場所はそこそこ危険地帯なので、俺とフラウの2人だけでは不安なのだ。
友だちを呼んで一緒にわいわいという手もあるが、まずはNPCであるタルタルと練習するほうが気楽だし、いろいろ知識を習得しやすい。
それに正直なところ、フラウと2人で遊びたいという気持ちがある。
いいとこ見せやすいし……。
「そうだな。集団戦闘にも慣れておく必要がある。俺たちの足りない部分を補えるタルタルを呼ぼう」
「そうね、選定はあなたに任せるわ」
さて、どの職業のタルタルを呼ぶか検討だ。
俺は闇騎士、フラウは魔術師で、双方ともに攻撃を得意としている。
だから必要なのは回復薬と盾役だな。
「俺は治療タルタルを呼び出す。フラウは騎士を呼び出してくれ」
「わかったわ。えーと……この術式を選んで……」
システムメニューからレン樽を探し、いろいろ選んでいくお手軽方式。
まずは俺が選んだ治療タルタルが出現だ。
名前はウスタルで、手のタルからちっこい杖が生えている。
これで敵を殴りつつ、傷ついたら回復してくれる衛生兵だ。
次にフラウが呼んだナイトなタルタルが現れる。
剣と盾を持っていて、騎士の鎧っぽい装飾をまとってちょっとかっこいい。
名前はプリケー……どこかで見たような?
「この子はあの時の……」
「ん?」
「最初にこの世界で魔法を行使した際、詠唱中に盾となってくれた存在よ。ふふ、またよろしくね」
そういえばフラウが体験版でパーティー演習をやった時、こいつが出てきたんだったか。
前も言った気がするが、タルタルナイトはHPと防御が高く頼りになる存在である。
魔術師のような攻撃力は高いが打たれ弱い職業と組むのは相性がいい。
「それにしてもこの名前……タルーガ・プリケッツァー博士と似ているわね。なにか関係があるのかしら?」
「うーん、どうだろう?」
なんとなく気になったので調べてみる。
えーと……タルーガ博士は過去に自身の子供を事故で亡くしていて、その子を守れなかったことを悔やんでいるらしい。
その悲劇が繰り返されぬよう、次は確実に守ると決意した博士は、仲間を守る立場であるタルタルナイトに自分の名前の一部を与えたと……。
なんか感動できそうな重めの話が出てきた。
なおこの情報は、そのうち出てくるクエストの中で語られるらしい。
俺はすでに見てしまったが、フラウにネタバレはしたくない。
そっと胸にしまっておこう。
「よくわからないが、そのうち博士が教えてくれるかもな」
「そうね、また教えを請うこともありそうだし」
「うむ。それでは……まずはこの編成で入口付近を偵察するか」
「ねえ、タルタルはまだ呼べるみたいだけど増やさなくていいの?」
このゲームは最大6人までパーティを組める。
今2人と2タルで4人なので、あと2人は入れるわけだ。
でもいきなり大人数になるより、少しずつ人数を増やすほうがいろいろ勉強になる。
「まずはこの状況に慣れてからだ。そしてフラウに課題を出そうと思う。この編成で何が足りないを考え、次に呼びたい存在を選んでもらうぞ」
「なるほど……あなたからわたしに対する試練、受けて立つわ」
嬉しそうな感じで納得するフラウ。
学校の課題は嫌いだが、こういう課題は好きなようだ。
ま、みんなそんなもんだよな。
では冒険の始まりだ!
「では行くぞ。まだしばらくは安全地帯だが、油断するなよ」
「ええ、覚悟はできているわ」
遺跡の入り口に入ると、まずは下に降りる長めの階段がある。
地下2階分ほど降りたところで小部屋があり、正面のドアをくぐればそこはもう危険地帯。
ちなみに魔法技術で作られた明かりが設置されているため暗くはない。
「あのドアの先には制御不能となった暴走タルタル、通称ボサタルがいる」
「わかったわ。でもこのドアはどう開くの? 手をかける場所がないということは魔法仕掛けかしら?」
ドアは手をかざし、調べるアクションをすると自動で開く。
普通のゲームと同じように調べると開くわけだが、この場合はフラウの言う通り魔法ってことでいいだろう。
「さすがだなフラウ。その前に手をかざして念じてみるんだ。資格があれば開く」
「資格……きっと大丈夫よね。わたしのなかにある魔力の血脈……さあ、受け入れなさい」
少し嬉しそうに、だけど緊張もしている感じでドアに手をかざすフラウ。
当然誰がやっても開くのだが、こういう雰囲気を出すと楽しい。
フラウの魔力によって、ドアは音もなくすっと開いた。
ほっとした顔のフラウ可愛い。
「よし、慎重に進むぞ。このドアは少し時間が経つと自動で閉まるからな。挟まれないよう気をつけろ」
「わかったわ」
ちなみに挟まれたときは、前か後ろの近い方にすっと押し出されるので怪我をすることはない。
でもシュールな光景になるので、こういう雰囲気を楽しんでいる時には避けたいものだ。
ドアの先に進むと、そこはかなり広い空間が広がり、ちらほらとボサタルの姿が見て取れる。
ぱっと見でもたくさんの小部屋があり、全てを探索しようと思ったらかなりの時間がかかることだろう。
「フラウ、どの部屋を調べたい?」
「そうね……順番に行きたいところだけど、地図を書かなくてはいけないかしら」
「大丈夫だ。フラウが持っているマップは魔法が込められている。移動した場所を自動で記憶してくれるぞ」
「ふふっ、わたしは知らない間に様々な魔術を行使しているようね」
自動マッピングもゲームではよくあるものだが、経験のないフラウはその程度のことでも喜んでくれるので俺も楽しくなる。
ちなみに俺が持っている地図だと、このあたりはもう埋まっている。
それを見せることもできるのだが、冒険にネタバレは興醒めなのでフラウの地図は自分で作ってもらおう。
「では近いところから行くか?」
「そうね、まずはあなたに任せるわ。敵の強さもよくわからないしね」
「よし、では向こうに見えるボサタル2体と戦うぞ。あれは戦士タイプと狩人タイプだ」
「それぞれ剣とボウガンを持っているのね。ターゲット指示を頂戴」
タルタルに職業が設定されているように、ボサタルにも職業はある。
戦士は単純で戦いやすいのだが、狩人タイプは遠隔攻撃をしてくるので、戦いたい場所へ誘導するのが少し大変だ。
でも今の俺達には頼れるタルタル仲間がいる。
ではかっこよく指示をするぞ!
「プリケー、ボサタルアーチャーに攻撃を仕掛け、そのあたりに誘導しておいてくれ。しばらくソロ戦闘を頼む」
「了解!」
「俺とフラウとウスタルはボサタルウォーリアを攻撃するぞ。まず俺が攻撃を仕掛ける」
「了解!」
「承知したわ!}
プリケーが剣を構えてボサタルアーチャーのいるところまで移動し、攻撃を仕掛ける。
それに合わせてボサタル2体がプリケーをターゲットとして攻撃を開始する。
俺は魔法を詠唱し、ボサタルウォーリアの注意をこちらに引き付ける。
さあ戦闘の始まりだ!
「フラウ、短時間で決めるぞ。一気に攻めるんだ」
「わかったわ……彷徨えし過去の亡霊よ。わたしが終焉に誘うわ。凍りつきなさい!」
フラウのアイスボールが炸裂し、タルタルウォーリアはフラウに攻撃を仕掛ける。
普段ならそんな危険なことはさせないが、今日は回復役のウスタルがいるので問題ない。
「フラウ、攻撃を受けながら呪文の詠唱だ。タイミングはわかっているな」
「ふふ、この程度の攻撃で止まる詠唱ではないわ。……炎よ唸れ!」
敵に殴られると詠唱が止まってしまうので、タイミングよく詠唱を必要があるが、フラウはそのタイミングもバッチリつかんでいるようだ。
「回復シマス! キュア!」
こんな感じで攻撃を優先しながら戦い、フラウが魔法を4発ほど放ったあたりでボサタルウォーリアをやっつけた。
複数と同時に戦闘になるのが怖いが、1体ずつならそんな危険ではないのだ。
次のボサタルアーチャーは、プリケーが上手いこと俺の指定地点に誘導している。
遠隔攻撃してくる敵は、攻撃をくらいながら誘導しなければならないので厄介。
だからこそ硬いナイトが役立ってくれるのだ。
「よし、もう1体に全力で攻撃だ!」
「ふふ、好きなだけ魔法を行使できるのは気持ちいいものね。炎に氷よ、乱れ落ちなさい!」
今までの戦闘では抑えながら戦わせていたわけだが、それをしなくていい状態で今のフラウはテンションが高い。
MPがしっかりある状態ならば最強の攻撃力を持つ魔術師だし、大活躍の今の状況が楽しいのだろう。
ボサタルアーチャーは攻撃力が高いが防御は低い。
4人がかりで攻撃しているのであっさりと倒せた。
「よし、あいつらがいた部屋の前まで移動だ。部屋内を偵察し安全を確保する!」
「わかったわ」
ダンジョン内での移動はスピーディに行う。
このあたりのボサタルは。倒してからだいたい15分くらいで再度出現する。
そんなにのんびりはしていられないのだ。
目的の小部屋を覗くと、戦士ボサタル3体がいるようだ。
これも先ほどのように各個撃破すれば問題はないだろう。
だがまずは回復だ。
「まずは少し休んでMPを回復する。その後プリケーにつっこんでもらい各個撃破するぞ」
「わかったわ。1分もあれば回復してみせる」
フラウは体育座りとなって、MPの回復を始めた。
座る時のポーズで癖になっているのかもしれないがなんとも可愛い。
タルタルは手足が引っ込み、まさに樽が置いてあるような状態で休んでいてコミカル。
「それにしても……倒したら何故消えてしまうのかしら? 証拠は残さないということ? だとしたら設計者は用心深いのね……」
倒したら消えるのはモンスターと同じでゲームだし……としか言えないのだが、それを言ってしまうのも味気ない。
フラウが納得してくれるような理由付け……それっぽくなにか答えるか。
「もしかしたら再利用するために回収しているのかもしれないな。ここのボサタルは倒しても、時間が経てばまたどこかから召喚されたかのように現れるんだ」
「なるほど……ならばこの遺跡はまだ稼働しているということよね。はるか太古に作られ、今もそのまま……ふふ、探究心が疼く。早く調査したいわ」
「そうだな。ではそろそろいいだろう」
フラウの言うように1分ほどで回復したようなので、次の戦闘開始だ。
「プリケー、任せたぞ」
「了解!」
プリケーがボサタル3体の群れに突っ込み、タコ殴りにされる。
その中の1体に魔法を唱えて引っ張り出して、こっちがタコ殴りだ!
そして数分後、俺たちはあっさりと勝利!
これも頼りになるタルタル達のおかげである。
ついでにレベルも上がった。
あ、ちなみにタルタルは呼び出した俺たちと同じレベルの強さになるので、タルタルたちも強くなったことになる。
「よしフラウ、部屋を調べよう。ただし他のボサタルが来るかもしれない。調査時間は5分だ」
「ふ、この小さな部屋ならば余裕ね。戦いの最中にもすでに目星は付けてあるわ」
「さすがだなフラウ」
この部屋にあるのはぼろぼろになったテーブルと椅子がいくつか。
あとは本棚らしきものの中にぼろぼろの本が数冊ある。
本はぼろぼろすぎてタイトルがわずかに読める程度だ。
ちなみにゲーム的には役立つアイテムとかいったものはない。
ただ、世界観を考察したりする楽しみはあるので、遺跡や廃墟マニアは探索を楽しむらしい。
フラウもそんな感じらしく、本を手にしてみたりあちこち触ったりと捜査を楽しんでいるようだ。
椅子の埃を払って優雅に座る姿が、どっかの探偵のようでもある。
「ねえプリケー、あなたは椅子に座ったりする?」
「イイエ、不要デス。下手に座ルト、壊すオソレモアリマスシ」
「なるほど……つまりここは昔人がいたということよね。この本はほとんど読めないけど、日誌のようなものに見えるわ。古代人はここで研究をして魔法兵器を創造した。しかしその人達はいずこかへ消え、暴走した兵器と遺跡の機構だけは今なお生きている。早く他の部屋を調べたいわ」
ここに連れてきたのは正解だったようだ。
現実ではそうそうできない遺跡探検。
なにせ、他の人が調べたあとでも荒らされてない状態を維持できるゲーム世界なんだ。
言ってみれば前人未到の遺跡で、フラウが始めて足を踏み入れたような状態なわけだ。
よし、俺も子供の頃の冒険心を呼び起こして探索するぞ。
ついでにフラウの心をつかめるよう努力もしていきたい。
いやまあ……そっちがメインかもしれないがな。




