23.ミニタルの真実
前回までのあらすじ。正義の一味ムーンオニオンズ団は、タルタル研究の第一人者であるタルーガ・プリケッツァー博士の家からひとつの卵を戦利品として持ち帰った。するとその卵から小さなタルタルが生まれてくる。重大な秘密を盗み出してしまったことに焦るムーンオニオンズ団は、泥棒ニャコラであるニャニャーゴに相談することにした。使者としてニャニャーゴのアジトへ向かうはフラウと俺。果たして交渉の行方は?
女盗賊クリムゾン・ニャニャーゴ。
その拠点はオルカオルデ平原の奥地、狼が出没する危険な場所にある。
俺とフラウの目の前にある洞窟が入り口である。
「ここね、女盗賊の拠点は。戦闘になるかもしれないわ。警戒していきましょう」
「そうだな」
「まだ頼りないかもしれないけど、先陣はわたしに任せてくれるかしら」
「ああ、そのつもりだ」
俺にとってはもう終了したクエストで、フラウのつきそいでしかない。
今展開しているお話の主人公であるフラウが先陣を切るのは当然のことだ。
でも今のやり取り、信頼しあってるパートナーという感じでとてもよき!
「さて……罠はないか確認しなくてはね。あなたは待っていて」
「おう」
罠はないはずだが、それを伝えるのも興醒めだろう。
俺はここでのんびりと見守ろう。
キョロキョロしつつ、猫のように鼻でくんくん匂いを嗅いでいたり、緊張のせいかしっぽがピンと立っていたり、全てが可愛らしい。
ゲームをふんだんに楽しんでるフラウを見て俺も楽しむという素敵な連鎖と言えよう。
「うーん……炎球を撃ち込んで確認したいけどできないのね」
「ああ、あれは敵に対して発動する魔法だからな」
なかなか物騒なことをしようとしているが、たしかに罠があれば手っ取り早く確かめることができるだろう。
ただ、ここへは襲撃でなく交渉に訪れているわけで、フラウはその事を忘れてないだろうか。
まあ忘れてたらそれはそれで面白い展開になりそうだが。
「むむっ! だれだーニャ!」
突如知らない声が聞こえてきて、素早く後ろに飛び退くフラウ。
やがて奥からニャコラ族らしき人影が現れた。
たしかあれはニャニャーゴの部下で、ミケネパタとかいう名前だったかな。
短剣を手に持っていて、今にも襲いかかってきそうである。
「あんたらなにものーニャ? ここは入っちゃいけない場所ーニャ」
短剣をちらつかせながこちらを威嚇するミケネパタ。
対するフラウは動じた顔も見せずに返答する。
「ここはニャニャーゴのいる場所よね。話があってきたんだけど」
「むむ? 来客の予定なんて聞いてないーニャ! お前たちあやしいーニャ」
「ここで言い争うのも時間のムダね。ニャニャーゴに伝えてくれるかしら。おみやげに珍しい石を持ってきたと」
「むむむ?」
フラウは最も効率よく話が進む方法で交渉をした。
展開が早くてありがたい。
ミケネパタは耳に手を当て、遠隔通信でニャニャーゴに報告をしているようだ。
そしてちょっとの間に話がついたのか俺たちに話しかけてきた。
「そこで待つーニャ。ニャニャーゴのあねごがこっちにくるーニャ」
「わかったわ、ありがとう」
そしてすぐに奥からニャニャーゴが現れた。
「石を貢ぎに来たんだって? おや……あんたはちびっ子らと一緒にいた奴だね。まあいいや、石を見せておくれよ」
「ええ、これよ」
フラウの手元には鈍い光を放つ砕けた石。
タルタルの心臓部であるコアが砕けた破片である。
それを見たニャニャーゴは目を輝かせて石に手を伸ばすが、フラウはそれをひっこめる。
「む? くれるんじゃないのかい?」
「もちろん渡すわ。でもその前にお願いがあるの。あなたが子どもたちをそそのかせて盗ませたものについてね」
「ああ、あの卵かい。あれがどうしたってのさ」
そして今の状況をニャニャーゴに説明である。
卵からミニタルが産まれてきて困っていること。
街の運命を左右しそうな秘密を知ってしまって難儀していること。
持ち主であるタルーガ博士はニャニャーゴが盗んだと思っていること。
だからニャニャーゴが盗んで捨てたのを、ムーンオニオンズ団がたまたま拾ったことにしてくれないかということをだ。
この話を聞き、ニャニャーゴはこう言った。
「ふーん、まあそれでいいよ。あの子らに泥棒の肩書は重いだろうしね。あたいはたいして苦労せず珍しい石を2つも手に入れられるんだ。文句なしさ」
「あら、あっさりと乗ってくれるのね。話がわかるようで安心したわ」
「ふん、面倒なことは嫌いだからささっと終わらせたいのさ。それにね、あんたたちに恩を売っておくといいことがありそうな気がするのさ。じゃあ石はありがたくいただくよ」
「ええ、受け取りなさい」
特に何も起こらず終わった。
ま、もともとこのクエストは危険なこの場所に来るのが大変ってだけである。
フラウ特有のなにかやらかしを期待したが、何も起きなかったな。
おそらくだが、早くニャモちゃんピルルちゃんを安心させたいという優しい下心で解決までの最短ルートを選んでいるのだろう。
「では帰りましょう。急いで皆に伝えなくてはね」
フラウは早足で洞窟を後にした。
やはり予想通りに急いでみんなを安心させたいのだろうな。
よし、俺も後を追わなくてはな。
立ち去る直前、ニャニャーゴの独り言が聞こえてきた。
「それにしても……発売前の子供用のおもちゃを見たってだけで街の運命を左右だなんてね。子供の世界は大げさというかなんというか……」
すでに遠くまで行っているフラウには聞こえていないことだろう。
クリア済みのクエストに付き合うと、たまにこういう1回目では聞けないセリフを聞けたりすることがある。
ちょっとお得な気分である。
少し小走りでフラウを追いかけると、洞窟の入口で待っていてくれたようだ。
「待たせたなフラウ」
「ええ、帰りも油断せず帰りましょう。狼の群れはおそらく仲間をやられて警戒しているわ」
フラウは俺の背中に寄り添ってきた。
またも全方向を警戒しながら歩ける陣形だ。
正直背中のぬくもりが心地よくてそのまま進みたくはなるが、もっと早く帰れる方法を教えよう。
「フラウ、新たな魔法を伝授しておこうと思う」
「今? それは急いで街に帰ってからのほうが……」
「まさに街へ帰るための魔法だ。前に見せたことがあるだろう」
「転移の呪法……あれがもう使えると言うの?」
フラウが目を輝かせて俺を見つめる。
最近はたいていのRPGゲームに備わっている機能であるが、ゲームというものが初体験のフラウにはとてもすごいことに感じるのだろう。
この純粋な心と瞳が眩しくて俺の心もぽかぽかである。
「ああ、この世界の住人は皆使えるんだ。当然フラウにもその才能がある」
「ということはわたしは間違いなくこの世界の住人ということよね。安心したわ。さあ、早く跳びましょう」
「うむ。ではシステムメニューを開いて……」
魔法と言いつつ、使い方は全く魔法っぽさのない方法である。
ま、この空中に浮かぶシステムコンソールすら魔法と考えるフラウには何の問題もない。
そして無事に使い方を教え、タルタロスの街へワープだ!
黒い靄に包まれ、視界が回復してくるとあたりはのどかで賑やかな街並みである。
現実でもほしいと皆が熱望する便利機能である。
「戻ったのね……ふふ、転移酔いも無いみたいだわ。さあ早くいきましょう!」
「お、おう……」
テンションが最高潮っぽいフラウは、なんと俺の手を握って走り出した。
突然のことに動揺を隠せず、つまづきそうになりながら走り出す俺。
これはあれだ。まるでデート中に目的地へ早く行きたい彼女がやる行動のあれだ。
やったことないけどきっとそう!
俺の脳が今までにないことでヒートアップし、何を考えてるのかわからないままムーンオニオンズ団の秘密基地へと到着した。
なお立ち止まっても、繋がれた手はそのままである!
「もどったわ」
「おお、早かったな。どうだった?」
「おかえりにゃー。あ、おねえちゃん手繋いでる。ニャモもつなぐにゃー」
ニャモちゃんがフラウの左手に飛びつき、フラウが嬉しそうにそれを受け入れる。
そして……ピルルちゃんが少し羨ましそうにこちらを見ている。
それに気づいたフラウは、俺の手を離してその手をピルルちゃんに差し出す。
ピルルちゃんも嬉しそうにフラウの手を握り、後には寂しそうな俺が残った。
まあそんなもんだよな……。
「交渉は上々に終わったわ。ピルルちゃんはたまたま卵を拾って親と思われただけ。そうなっているわ」
「わああ……おねえちゃんありがとー」
「そうか、よくやってくれたぞフラウ。あとはタルーガ博士のところに行くだけだな」
ムーンオニオンズ団の皆がホッとしたような顔となっている。
あと少しでめでたしめでたしとなるだろう。
本日ゲームを始めてからわりと時間が経っているが、そこまでは終わらせたいところだ。
皆がわいわいとする中、団長がフラウに次の依頼を出す。
「フラウ、ピルルとミニタルと一緒にタルーガ博士のところへ行ってくれるか? 悔しいが、子供の俺たちだけで行くよりお前がいたほうが話を信じてくれると思うんだ」
「もちろんそのつもりよ。行きましょうピルルちゃん」
「うん! よろしくおねえちゃん」
「ニャモもいくにゃー!」
フラウは楽しそうに答えつつ、手を繋いだまま移動を開始しようとする。
しかし、女の子2人はフラウから手を離して走り出した。
ピルルちゃんはいつのまにか大きな箱を抱えている。
おそらくはあの中にミニタルが隠してあるのだろう。
「おねえちゃーん、先に行くからタルーガ博士の家で会おうね」
「にゃー」
女の子2人はすぐに見えなくなり、フラウはあっという間のことに唖然とした顔で立ち尽くす。
おそらくその顔は、先ほどフラウに手を離された俺と似たような顔なのだろう。
NPCとはそういうものだよ。
俺と手を繋げば、俺から離すことはないよ。とフラウに思念派を送ってみる。
「さあ、急いでいきましょう」
悲しそうな顔をしたのも束の間、フラウはいつものクール顔に戻って歩き出す。
俺の思念派は届かなかった……。
そして本日2度めのタルーガ博士の家へ到着し、ピルルちゃんたちと合流できた。
一緒に門まで移動すると、警備タルタルが話しかけてきた。
「ナニカゴ用デスカ? タルーガ博士ハ今オ忙シイノデスガ」
「緊急の用があると伝えて頂戴。盗賊のニャニャーゴが落としたものをたまたま拾ったの。もしかしたらここから盗んだものかも……」
「カシコマリマシタ。少々オ待チクダサイ」
ニャニャーゴの交渉のときと同じく、的確な言葉選びで最短ルートを取ろうとするフラウ。
スムーズにクエストが進行するのはいいが、面白いことが起こってくれないなとがっかりする不謹慎な俺である。
まあよく考えると、フラウはゲームでなくこの世界で起きている事件と考えているわけで、うまく解決しようとがんばっているわけだ。
つまりとてもいい子である!
俺の中でフラウに対する好感度が上がっている中、タルーガ博士が現れた。
「やあやあ、お待たせしたね。おや、君は先ほど見学に来た子だね。それで何を見つけたんだい?」
「タルーガ博士、先ほどはどうも。ピルルちゃん、あれをお見せして」
「うん……これなの」
ピルルちゃんが箱を開けると中からミニタルが飛び出してきた。
そしてピルルちゃんの足にぴとっと抱きつく。
それを見たタルーガ博士は驚いた顔となる。
「これは……生まれたのか。この状態で拾ったのかい?」
「いえ、はじめは卵の状態でした。その子……ピルルちゃんが見つけたときに産まれて親と思っているようです」
「そうか……ふーむ……」
悩むタルーガ博士と、不安そうな顔のピルルちゃん。
怒られないかとか、ミニタル取り上げられるかなとかいろいろ考えているのだろう。
ちなみに俺は、尊敬できる人に対して出てくるフラウのお嬢様モード可愛いなと考えている。
タルーガ博士はしばらく悩んだ後、ピルルちゃんの前にしゃがみ込んで言った。
「君はこの子に懐かれているようだね。もしよかったら育ててあげてくれないかい?」
「え? いいの?」
「うむ、君なら大丈夫そうだ。ただし、時々ここへ様子を見せに来て貰う必要があるのだが……調子を見ないといけないしな」
「うん! 見せに来る!」
「ニャモも一緒に育てるにゃー!」
ピルルちゃんが育てていいことになった。
皆が願っていた一番理想的な終わり方である。
「じゃあちょっと家に来てくれるかい? いろいろ説明しておくことがあるから」
「うんわかった! あ、おねえちゃん。先に帰って団長に伝えてくれないかな?」
「ええ、わかったわ。タルーガ博士、この子たちをよろしくお願いします」
「うむうむ、ちゃんと後で送っていくよ」
そして女の子たちはタルーガ博士の家へ行き、俺たちは2人きりとなった。
あとは秘密基地へ帰ればクエストも終わりだ。
「お疲れ様フラウ。全てうまくいったな。見事だったぞ」
「そうね。この程度余裕よ……と言いたいところだけどあなたがきっと裏で手を回してくれていたのよね。全てがスムーズに行き過ぎたわ」
「そんなことはないが、想像に任せるさ。では帰ろうか」
なんかまた勝手に俺を過大評価している。
ま、必要アイテムを先に準備とかしてたし、かなり時間短縮できたのは間違いないだろう。
「それにしてもタルーガ博士……秘密を見られたというのに動揺もなかったわね。タルタルが卵から生まれるのはたいした秘密ではないということかしら?」
「どうだろうな、そのうちわかるさ」
答えを知っているので、適当に流すしか無い俺である。
もうすぐ真実を知ることになるが、その時のフラウはがっかりするのだろうか。
それともいつも通りにクールな顔で「やはりね」とでも言うのか。
たぶんどっちでも、俺は可愛いなと感想を抱くのだろうな。
この後ムーンオニオンズ団秘密基地へ戻って結果を報告するが、それはたいしたこともないので省略する。
今日は割と長時間インしていたので、その後でゲームを終了して花ちゃんは家へと帰った。
ちなみに真実はこうである。
タルタル研究の第一人者であるタルーガ・プリケッツァー博士は人格者であることで有名だが、子供好きでもある。
そんな博士が開発した子供向けおもちゃの試作品が、先程見たミニタルである。
ピルルちゃんは発売前のテスターに選ばれ、ミニタルと共に子どもたちの人気者となるがそれはまた別のお話。
なおもうすぐ発売!
話のストックが減ってきたため、ここから週1,2回の更新とさせていただきます。
のんびりとお待ちいただけると幸いです。




