22.タルタルの秘密?
前回までのあらすじ。正義の一味ムーンオニオンズ団は、タルタル研究の第一人者であるタルーガ・プリケッツァー博士を疑い、家へと潜入した。そこで戦利品として持ち帰ったのは、ひとつの謎の卵。それは秘密基地で孵化し、中から小さなタルタルが生まれてきた。果たしてタルタルは兵器ではなく生物なのか? その謎に迫るべく、今日もムーンオニオンズ団は動き出す。
鳥は産まれて初めて見たものを親と思い込む。俗に言う刷り込みである。
たった今卵から産まれたちっちゃなタルタルが最初に見たのは……ピルルちゃんであった。
ちびタルタルはピルルちゃんの元へと移動してぴょんぴょん飛び跳ねている。
「かわいいにゃー」「うん! かわいいー」
「むむむ……ピルルを親と思っているのか?」
ニャモちゃんとピルルちゃん女の子2人はのんびりとはしゃいでるが、団長はちょっと頭を抱えている。
なにせタルーガ博士のところから、かなり貴重であろうものを盗んでしまったのだから。
「よし……緊急会議だ! パピプッポ、いつものように頼む!」
「了解!」
ムーンオニオンズ団の頭脳であるパピプッポ君は、どこからともなく黒板のようなものを運んできた。
そしてみんなでミニタルタルを囲んで観察し、いろんな意見を言い合っていく。
パピプッポ君はそれをうまいことまとめて書き込んでいく。
今わかっていること。
盗ってきた卵はかなりの貴重品である。
タルタルは魔法のからくり仕掛けではなく、生物の可能性がある。
これのことはとりあえずミニタルと呼ぶ。
ピルルのことを親と思っている
可愛い。
通常のタルタルは2本足だが、ミニたるは小さいからか、補助輪となる樽が尻尾のようについている。
喋ることはできるが、今のところ単純な単語だけを喋る。意味がわかっているかは不明。
問題点。
タルーガ博士は卵がなくなったことにすぐ気がつくはず。
動き回るミニタルを隠し続けるのは難しい。
解決策案。
ニャニャーゴに責任を押し付ける→正義のやることではない。
ニャニャーゴに相談に行く→もっと厄介なことになるかも?
こっそりタルーガ博士の家にミニタルを返しに行く→警戒が厳重になっているかも?
タルーガ博士の家付近に置いてくる→ピルルちゃんの元に帰ってくるかも?
どこかでこっそり育てる→かなり難易度が高い。ピルルちゃんの親に確実にバレる。
こんな感じである程度話し合いが終わるも、解決策だけはいいものが出ない。
「ふむ……こんなところか。あとは解決策を相談しなくてはな。とりあえず偵察を出してみるか。ゴンマダーゴ、また頼んでいいか?」
「うん、タルーガ博士の家だね。いってくるよ」
ゴンマダーゴ君は元気いっぱいに走っていった。
まだタルーガ博士が帰っていなければ、こっそり返しに行くという手もあるのだが、そうそううまくいかないのが現実なのである。
ちなみに今ミニタルは、お母さんであるピルルちゃんが楽しそうに面倒を見ている。
「名前覚えてくれたかな? わたしの名前はなーに?」
「ピルル! ピルル!」
「うん、そうだよー。えらいねー」
「にゃー、にゃーの名前はなんだにゃー?」
「ニャーニャー!」
「ちがうのにゃー、ニャモだにゃー」
「ニャモダニャー!」
「うにゃあ……」
団長が悩むのと反対に楽しそうで微笑ましい。
ちゃんと言葉を理解しているようで、教えれば名前を覚えてくれるようだ。
フラウはと言うと、ニャモちゃんを眺めつつも考え込んでいるようでぶつぶつと独り言を言っている。
「魔導兵器……いえ、魔法生物? 樽……魔術具……作られ生物? 猫……魔法猫……ニャモちゃん可愛い……作り物などではなく現実……こちらが真の世界……」
タルタルの悩みからニャモちゃん、そしてこの世界についてまで思考が広がったようである。
ゲーム世界にはまってしまうあまり、この世界が現実と思ってしまう現実逃避者は割といる。
特に感性豊かな若い人ほどそうなる傾向が高いとかなんとか。
魔法が存在しない現実を好きではないであろうフラウがそうなるのも無理はない。
でも心配するなかれ。
こういったゲームにはまって現実をおろそかにしてしまう人はほとんどいないらしい。
このゲーム内にいるとストレスを解消していく効果があるらしく、不思議と現実でも頑張れるようになると言われている。
実際に引きこもりがこのゲームをやっていく間に現実に目を向けだして、社会復帰できたという例もある。
というわけで俺は心配せずフラウを温かく見守っていこうと思う。
そんな悩めるフラウのもとに団長がやってきた。
「そうだフラウ、さっきはがんばってくれたからな。これをやるよ。」
「あら、ありがとう」
先ほどのクエスト報酬をもらったようだ。
月玉の帯という、それだけ聞いたら神秘的な力が宿ってそうな名前の装備品である。
裁縫が特異なピルルちゃんお手製で、魔術師等が着るローブを結ぶのに最適な一品だ。帯という名称だが紐に近いかもしれない。
呪文の詠唱中に敵の攻撃を受けても、詠唱が中断されにくくなるという効果を持つ。
「おねえちゃんつけてあげるね」
「つけるにゃー」
「ツケルー」
女の子2人とミニタルがフラウのもとへやってきて、ローブの上から月玉の帯を結んでいく。
なんともほほえましい光景であるが、俺がクエストをやったときにあんなイベントはなかった。
女性キャラクターだけの限定イベントなのかも知れない。
ちょっとだけうらやましい。
「おねえちゃんにあうにゃー」
「うん、素敵!」
「ニアウゾー」
「ふふ、ありがとう2人とも」
今のフラウは中二病感のないお嬢様モードである。
俺の前でもあんなふうになってくれないものかと思うが無理だろうな。
和気あいあいな皆を眺めていると、団長とパピプッポ君が深妙な感じで話しだした。
「なあ、あのミニタル。少しずつ賢くなってないか?」
「そうですね、さっきは産まれたばかりで全然話せなかったけど、今は言葉を理解して使ってるようです。すごく学習能力が高いのかも?」
「ううむ……このまま賢くなってくると、こっそり返してもオレたちのことがばれちゃうぞ。ほんと大変なものを持ってきちゃったな。ニャニャーゴめ……」
「やっぱりニャニャーゴと関わるとロクなことがないのですね」
ニャニャーゴは正直に価値のあるものを教えてくれただけなのだが、団長的には余計なことを教えやがってという気分のようである。
タルーガ博士が悪事を働いていないか調べに潜入したわけで、これが仮に悪事の証拠だとしても、子供たちにはかなり荷の思い事件だ。
知ってはいけない秘密を知ってしまったという感じで、団長らは葬式ムードである。
女性陣と男性陣の温度差がすごいな。
そうこうしている間にゴーマダーゴ君が戻ってきた。
ずっと走っているだろうに息切れ一つしてないのはさすが元気っ子である。
「団長、タルーガ博士の家が大騒ぎになってたよ。なんかニャニャーゴが、はんこうせいめい、って言うのを出したらしいんだ。なんのことだろう」
「はんこうせいめいだな……えーと……パピプッポ、みんなに教えてやれ」
「犯行声明っていうのは、犯罪者……この場合はニャニャーゴですね。ニャニャーゴがどんな悪事を行ったかタルーガ博士に発表したんですよ。ゴマダーゴ、どんな内容かわかりますか?」
「うん、『宝物はいただいた』って言ったらしい。それでタルーガ博士は、だいじなものが2つも盗まれたって騒いでるみたいだよ」
「ふうむ。ニャニャーゴが何をしたいかわからんが、今のところこのミニタルが入ってた卵もニャニャーゴが盗んだことになってるわけか」
ニャニャーゴが犯行声明を出したのは、単純に目立ちたいからだと思われる。
とりあえずこの状況をうまく利用できれば、ミニタルの件をなんとかできるかもしれない。
これを元にもう1度会議が行われるのであった。
「いっそのことニャニャーゴにミニタルもあげちゃうってのはどうだ? 厄介事が一気に片付くぞ」
「あんな人のところにミニタルちゃんを預けたくないー」
「きっとひどいめにあうにゃー」
「タルー」
「ニャニャーゴから卵を奪ってきたことにするのは?」
「それなら返す前に産まれちゃってピルルちゃんに懐いた言い訳もできますね。ただしニャニャーゴがどう出るか……」
「嘘はだめだにゃー」
「いっそニャニャーゴに相談するか。あいつが間違って持ち出して落としたとかにしてもらってさ」
「それができればいですが、ニャーニャーゴのこと、またなにか要求してきそうですね」
「でもうまくいけば、ピルルちゃんと普通に一緒にいられるかも?」
「だったらいいなあ……」
「イイナ!」
そんな感じで話がまとまっていった。
タルーガ博士がニャニャーゴに盗まれたと思われてるわけだし、そこから偶然ムーンオニオンズ団の元にきたというシナリオができればいろいろ解決する。
「というわけでフラウ、お前を交渉人として派遣しようと思う。やってくれるか?」
「いいけど、何故わたしなの?」
「俺たち子供だとどうしても舐められちゃうんだ。あいつが攻撃的になったら手足も出ないしな。だから腕っぷしもある程度ありそうなお前に頼みたいんだ。頼む」
「おねえちゃんおねがいにゃー」
「任せなさい。ネゴシエイターとして全てに終止符を打ってくるわ」
ニャモちゃんのお願いにより、あっさりとフラウは引き受けた。
まあ引き受けないと話が進まないので、ニャモちゃんに感謝である。
「ではよろしく頼むぞ。そうそう、ニャニャーゴは珍しい石とかが好きなんだ。なにかお土産を持っていくといいかもしれないぞ」
「ええ、考えてみるわ」
「カーター、お前も一緒に行ってフラウをサポートするんだぞ」
「おう、任せとけ」
団長がついでにという感じで俺にも声をかけてきた。
というわけでさっそく出発である。
フラウがニャモちゃんに名残惜しそうに手を振りつつ、俺たちは秘密基地を後にした。
「ねえ、ニャニャーゴが欲しがりそうなものは何かしら。自分で探したいところだけど、急ぐ必要があるの。ニャモちゃんとピルルちゃんのためにもね」
ニャモちゃんだけでなくピルルちゃんも気に入ったようである。
ま、クエストをちゃちゃっと進めてほしいのは俺も同じだ。
実はそのアイテムをもう用意しているので使ってもらおう。
俺はかばんから割れた魔石のような物を取り出す。
「こういうこともあろうかと用意してある」
「これは?」
「タルタルのコアの欠片だ。遺跡にいる暴走タルタルが落としたものだ。すでに魔術具としての価値はないが、ニャニャーゴはこういった石を好むはずだ」
「なるほど、さすが頼りになるわ。ありがとう」
俺の株が0.2アップ!
「さてフラウ、ニャニャーゴのアジトの場所だが……」
「ええ、街の外よね。まずはオルカオルデ平原へ向かいましょう」
フラウは地図を見ながら、悩むことなく目的地方面へ歩き出す。
道順は問題ないようだが、ひとつフラウが知らないことがある。
「フラウ、向かう先には今までにない危険がある。こちらに積極的に襲いかかってくるモンスターがいるんだ」
「それは強敵?」
「今の俺達なら、1体ずつ倒す分には問題ない。但し、集団で襲われると全滅の可能性もある。危険地帯に近づいたら俺の指示に従ってもらう」
「わかったわ。頼りにしてるわね」
別にかっこつけてるわけでなく、今の俺たちのレベルでは危険な場所を通る必要があるのだ。
今までフラウが戦ってきたのは、こちらが攻撃しない限り無害なモンスターだけである。
いきなり襲いかかってくるモンスターも知ってもらわねばな。
と言いつつ、ちょっとかっこつけれる場面が来て嬉しいのは確かである。
さあいざいかん。
なんとなく久しぶりに街の外へ冒険に行く気がするな。
レベル7の闇騎士と魔術師の出陣である!
なお冒険ではあるが、俺の心の中ではピクニックデートである。
こちとら現実で女性とデートとかしたことのない人材である。
こんな思考になってしまうのは許してほしい。
というわけでかばんからアップルパイを取り出す。
「フラウ、これを食べておけ。魔力が上がる食べ物だ。備えておかねばな」
「あら、ありがとう。いただくわ」
俺も同じものを食べたくなるが、さすがに剣メインで戦う俺が魔力をあげてもしょうがない。
似たようなものとして、攻撃力上昇の肉料理であるミートパイを食す。
歩きながら食べるのは冒険者には日常茶飯事さ。
あー楽しい!
そんなこんなでニャニャーゴのアジトが近づいてきた。
そろそろ警戒が必要だ。
「ここからは慎重に行くぞ」
「わかったわ、背中は任せて」
俺に背中を密着させてきて、全方位警戒の構えとなるフラウ。
いやいや、そこまで警戒しては歩きにくいだろう……と言いたいが、背中の柔らかなぬくもりがまあいいかと思わせる。
このままじわじわと歩こうか。
おっと、前方に警戒対象が現れた。
「フラウ、前方10時の方向だ。確認してみろ」
「わかったわ」
俺の肩に手を乗せ、俺の背後から覗き込むような体制となるフラウ。
ノリノリで警戒しているのだろうが、俺は別のことを考えてドキドキしてしまう。
だって第二思春期中なんだもの。
「あれは……狼かしら?」
「そうだ。何故かニャニャーゴは狼と仲が良くてな。人が近づきにくいこの奥をアジトにしているわけだ」
「ふむ……猫にあるまじき暮らしね。どうするの? 倒す?」
「そうだな、周囲に仲間がいないのを確認して戦闘へ移行する。ここで待っていてくれ」
「了解したわ」
背中のぬくもりが消えていくのを名残惜しく思いつつ、俺は前進する。
ありがたいことに、近くに見える狼は1匹だけだ。
オルカオルデ平原の狼ということで正式名称はオルデウルフなのだが、愛称は略してオルフである。
さっそく敵を引き付けるために、呪文の詠唱を開始する。
「火に追われよ……バーニングッ!」
ほとばしる炎がオルフの毛をじわじわと焼く。
それを受けたオルフはまっしぐらに俺の元へダッシュしてくる。
Uターンしてフラウの元へ戻ろうとするも、こいつは脚が速いので戻るまでに攻撃を食らってしまう。
「足の速さはさすが狼ね。さあ、燃え尽きなさい」
フラウの火球が着弾し、俺も両手剣を振りかぶってオルフに攻撃を仕掛ける。
時間をかけて他のオルフが来ても厄介だ。
手加減とか考えず攻撃を仕掛けていこう。
そして……わりとあっさり倒せた。
フラウも戦闘に慣れてきているし、2人がかりで1匹相手なら余裕なのだ。
「ふふ、こんなものね。でも油断は禁物、そうよね?」
「その通りだ。もし群れに襲われたら逆にやられるだろう。警戒して進むぞ」
「ええ、そのことで提案があるわ。警戒を左右で分けましょう」
どういうことかというと、俺が右側、フラウが左側を警戒しながら歩くということだった。
もちろん背中合わせで!
なんていうか楽しいし、いろんな意味でヨシ!
歩みこそ遅かったが、警戒しまくったせいで道中のオルフは各個撃破できた。
そして無事にニャニャーゴのアジトである洞窟まで到着したのだった。
「わりとあっさりたどり着いたな」
「あなたの的確な指示のおかげよ」
「いや、フラウのサポートあってこそだ。俺たち、いいコンビかもな」
「ふふ、そうかもしれないわね」
このドラマとかでありそうな会話も楽しい。
誰かと一緒にロールプレイ的にゲームをするのは楽しいものだが、それが異性となると楽しさは倍増である。
ではここからが本番である。
ニャニャーゴのアジトへ乗り込む……スパイ映画の主人公のような気分となっている俺たちであった。




