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21.正義の泥棒 VS 悪の泥棒

 前回までのあらすじ。魔導兵器であるタルタル研究の第一人者タルーガ・プリケッツァー博士。その博士がタルタルを用いて悪の企みをしているのではないかと疑う正義の一味ムーンオニオンズ団は、博士の家に潜入する作戦を決行する。その手助けをするのは子供の心を忘れたくない大人であるフラウと俺。与えられた役割は子供たちが潜入するために警備の注意をひくことである。


 タルーガ博士の家の周囲を2体のタルタルが警備している。

 そのうち1体の注意を引けば、団員たちが侵入する隙を作ることができるはずだ。

 さっそくフラウが行動を開始し、門付近に立っているタルタルの元へと歩き出した。

 俺も後に続きフラウのお手並みを拝見だ。


「ソコノ二人、止マッテクダサイ。博士ハ今オ留守デス。オ引取リクダサイ」


 さっそくタルタルが制止してきた。

 もちろんフラウはひるむことなく返答する。


「ええ、知っているわ。今日はあなたに会いに来たのよ。魔術の叡智に祝福されたあなたにね」


「私ニデスカ? ソレハ嬉シイデスガ、今ハ警備中デス。オ相手ハデキマセン」


「ではいつになったら相手してくれるのかしら?」


「警備ノ仕事ハズットデス。役目ヲ終エル時、ソレハ壊レル時デス」


 タルタルはちゃんとした会話ができるので心でもありそうに感じるが、しょせんはロボである。

 命令されたことした実行できない悲しい存在だ。


「あなたは自由になりたいと思ったことはないの?」


「特ニアリマセン」


「そんなはずはないわね。おそらくあなたの感情は洗脳により封印されている。その呪縛を解いてみない?」


「理解不能デス。私ハ今ノ役割ニ誇リヲ持ッテイマス。サア早ク帰ッテクダサイ」


 タルタルが手にした槍を構えてこちらを威嚇してくる。

 不審人物と判断されたのだろう。

 フラウはタルタルとの距離を保ちつつ移動し、タルタルはフラウの動きに合わせて向きを変える。

 タルタルの向きが門からかなり離れたあたりで、フラウが急にうずくまった。


「くうっ……右腕が疼く……」


「大丈夫デスカ? 必要デアレバ医療班ヲ呼ビマスガ……」


 タルタルが槍を下ろしてフラウに話しかける。

 不審人物といえども人命救助が第一なのはやはりロボットである。

 でもその病気は中二病という不治の病だ。


「あなたを呪縛から救いたかったけどごめんなさい……。どうやらわたしは監視されていた。妨害の思念が飛んできている。まだ早かったようね……」


 そのままフラウは地面へと倒れ込んだ。

 タルタルは慌てるも、警備の定位置からは動けないようで俺を見てきた。


「ソコノオ方、ソノ女性ハ大丈夫デショウカ? 確認ヲオ願イシマス!」


「よし、任せとけ」


 俺はフラウのもとへとしゃがみこみ、脈を取っている振りをする。

 その時、耳にあるオニオンリンクがかすかに振動して声が聞こえてきた。


『お前たちなかなかいい感じだぞ。オレたち3人は博士の家へ侵入した。怪しまれないよう離れて待機してくれ。脱出する時また連絡する』


 よし、フラウの演技と言うかいつも通りの行動で陽動は成功した。

 あとは違和感なく退避するだけだ。

 俺はタルタルに向かって話しかける。


「こいつはちょっとした病気持ちなんだ。向こうで休めば大丈夫だ。邪魔したな」


「ソウデスカ。ソレデハオ大事ニシテクダサイ」


「よし、行くぞフラウ。立てるか?」


「ええ……でも肩を貸してくれると助かるわ……」


 フラウを抱き起こし、俺の肩につかまらせて一緒に立ち上がる。

 まるで本当に調子が悪い人のような動きをしているな。

 演技でなく本気でどこかから攻撃を受けたと思いこんでいるのかもしれない。

 自身の体調まで影響を受けるとは、本物の中二病恐るべし。


 そのまま一緒に歩いて、タルタルが警戒しない距離にある草むらに座らせた。

 とりあえず深刻なシーンを演出するために顔には出さないでいたが、肩を貸して歩くのはとっても良かったとだけ言っておこう。

 さて、後は団長の連絡を待つばかりか。

 フラウはまだつらそうな感じを出している。


「大丈夫かフラウ? どこから攻撃をされた?」


「わからない。今までになかったことだわ。あのタルタルたちを支配している力は並大抵のものではないわね。開放するなら命がけだわ」


 なお、タルタルにそんな設定はないとだけお伝えしておく。

 でも脳内設定をふくらませると楽しいのも事実、その話に付き合っておこう。


「そうか、俺も強力するから無茶をするなよ」


「ええ、頼りにしてるわ……」


 なんとなく良いムードである。

 気分的には映画で緊迫シーンを2人で乗り越えた後のようである。

 たいしたことはしてけどさ……。

 まったりした気分になっていると、耳のオニオンリンクに叫び声が響いた。


『にゃにゃにゃっ! あいつがでたにゃっ! あくのわるものそしきのあいつだにゃー!』


「ニャモちゃん?」


 動けないほど弱っていたはずのフラウが颯爽と立ち上がって走り出した。

 ニャモちゃんに何が起きたのか、俺もフラウを追いかけよう。


『どうしたニャモ、もしかしてあいつか?』


『そうだにゃっ、わるものとうぞくだん、にゃーのしっぽのあいつにゃ!』


『クリムゾン・ニャニャーゴだなっ!』


 団長が叫ぶその名前、タルタロスでは有名なニャコラ族の盗賊だ!

 欲しいものは何でも盗む気まぐれ盗賊。

 いろいろなところに出てきては敵になったり味方になったりする名物キャラである。


『ふにゃにゃ? なにするにゃー!』


『……まったくおかしな名前で呼ぶんじゃないよ。あたいの盗賊団はキャットテイルって言うんだよ』


 どうやらニャモちゃんのオニオンリンクがニャニャーゴに奪われてしまったらしい。

 フラウの足が速まり、やがて停止する。

 その目線の先にはニャニャーゴにつかまったニャモちゃんの姿だ。


「その子を離しなさい。命が惜しくばね」


「あん? なんだいあんたは。ちょっと話をしてるだけさね」


「おねえちゃんたすけてにゃー、こいつはわるものにゃー」


「ふん、話をしているようには見えないわね」


「ああもううるさいね。ほら、離してやるから静かにしな」


 ニャニャーゴはあっさりとニャモちゃんを解放した。

 元々人質を取るような行動はしない。

 善人だからというわけでなく、そういう手の混んだ行動は嫌いというだけであるが。

 ニャモちゃんはフラウの元へ走ってきて抱きついたようで、これにはフラウもにっこり。


「ニャモちゃん大丈夫?」


「へいきだにゃー」


「ふむ、話の通じる相手のようね。でもどうしてニャモちゃんをいじめたの?」


「そいつが勝手に騒ぎ出したんだよ。あんまりうるさくされると困っちゃうんだよ。ああほら……」


 ニャニャーゴの視線の先には、3体のタルタルがいた。

 どうやらニャモちゃんの悲鳴を聞いて集まってきた警備タルタルのようだ。


「ええい退散だ。でも邪魔したあんたたちに協力してもらうよ」


 そう言ってニャニャーゴは草むらの中へと消えた。


「気配が消えた……? かなりの使い手ね」


 それを追うように警備タルタルもどこかへと消えていった。

 なんとも騒がしい盗賊だった。

 そこへ団長の心配そうな声が響く。

 

『お前たち大丈夫か? ニャニャーゴは?』


「おねえちゃん、オニオンリンク盗られちゃったのにゃ。団長に伝えてほしいのにゃ」


「ニャモちゃんの通信魔術具が奪われたわ。あいつは何かを企んでいるはず」


『むう、てことはオレたちの作戦も筒抜けになってしまうな』


『その通りだよ』


 耳にニャニャーゴの声が響く。

 オニオンリンクはわりと近くにいないと使えないので、まだこのあたりに潜んでいるのだろう。


『おいニャニャーゴ、目的を言え!』


『んふふ、あんたらがタルーガ博士の家に潜り込むのは知ってたんだよ。あたいも入りたかったけど、あいにく家は侵入できる経路がなくてね』


『ふふん、お前ら大人にはそうだろうな。でもオレたちの小ささなら入れるんだぜ』


『ああ知ってるよ。だからちょっとお願いがあるんだよ』


『ふん、盗賊のお前がお願いだと?』


 今回のニャニャーゴは敵ではなく味方という感じになりそうだ。

 果たして何をさせようというのか。

 フラウはひとつのオニオンリンクをニャモちゃんと共同で聞いている。

 その状態が幸せなのか、口を挟むことなく話を聞いているようだ。


『そうだよ、そこから持ってきてほしいものがあるんだ』


『なんでお前なんかのためにそんなことをしなきゃならないんだ』


『もちろん見返りはあるよ。あんたらさ……その家に入ったはいいけど何をどうしたらいいかわかんないだろう? あたいがそれを教えてやるよ』


『ぐぬぬ……そ、そんなことはないぞ。今パピプッポが分析をしてるからな』


 団長の反応がわかりやすい。

 侵入してから結構時間が経っているが、今のところ成果がないのだろう。


『ほらほら、早く決めないと博士が帰ってきて、あんたら捕まっちゃうよ』


『むうう……よし、団員決議を取る。ニャニャーゴの案に乗るってやつは1回、反対なら2回だ。あ、フラウは知らないか。オニオンリンクを指で叩くんだぞ。では今からだ』


 ムーンオニオンズ団は困った時は多数決で決めるらしい。

 オニオンリンクを叩いて票を入れるのだが、だれがどっちに投票したかはわからないという素晴らしい仕組みである。

 通常メンバー5人とオレとフラウの7票があるが、ひとつはニャニャーゴが持っているな。

 俺は賛成に投票しようか。


『よしもういいか? 投票を締め切るぞ。えーと……賛成5票で反対が2票だな』


 ニャニャーゴもちゃっかり投票に参加してるようだが、気にするまい。

 今ここで、正義の盗賊団と悪の盗賊団の一時的な同盟が結ばれたのである。


『よしニャニャーゴ、お前の依頼と情報を言ってもらおうか』


『んふふ、そうこなくっちゃね。まずあたいの欲しいのは黒い魔石だよ。普通の魔石と違って輝いてもないから単なる石に見えると思うけどね』


『む、あのなんの変哲も無さそうな丸い石っころか? 大事そうにおいてあるから変だとは思ったが』


『ああきっとそれだよ。じゃあ次はあんたらのぶんだ。卵みたいな変なのがないかい? それは重大な秘密が隠されてるよ、あたいが保証する』


『これに重大な秘密が? 博士のお昼ごはんかと思ってたが……まあ信じるとしよう』


 ニャニャーゴは油断のならないやつだが、嘘はつかない。

 これもいいやつだからではなく、欲望に真っ直ぐ進む正直者と言うだけであるが。


 そして団長ら潜入組は仕事を終えたようである。


『よし、あとは脱出するだけだ。また先ほどのようにタルタルの注意を引いてくれ』


「任せなさい、ニャモちゃんいきましょう。ここは危険だわ」


「はいにゃー」


 フラウがニャモちゃんを引き連れ、どちらかといえば危険の大きい博士の家の門へ走っていく。

 もちろん俺もついていこう。


『おいフラウ、卵爆弾を使うのか?』


「そのつもりよ。門のところにいるタルタルの注意を潜入時と同じ方向に向けるわ」


『だったらもう1体のタルタルが離れたタイミングで頼む。ピルル、合図を出してくれ』


『わかったよー』


 ピルルちゃんはどこにいるのかと思いきや、ニャニャーゴ騒ぎの間も巡回タルタルをしっかり見張っていたようだ。

 周囲の状況に囚われず任務を遂行する、ちょっと天然の入った良い子である。

 フラウはニャモちゃんと一緒に草むらにしゃがみ込み、合図待ちである。

 なんとなく疎外感を感じて寂しくなっちゃう俺であった。


『こっちのタルタルはそっちに背中向けてるよ。もう少しあっちに行ったらチャンスかもー』


『よし、フラウ。5秒後に起爆だ。5,4,3,2,1……』


「チェックメイトよ」


 なにか違う気もするが、恐らくはフラウが言ってみたかったセリフのひとつなのだろう。

 何故それがわかるかというと、俺も言ってみたいセリフだからである。

 という俺たちの中二病語録は置いといて、卵爆弾はなかなかに大きな音をたてた。

 当然門のタルタルはその方向を向く。


「いまよ!」


『よし、撤退だー!』


 門番タルタルは明らかに戸惑っているもその場からは動くことなく、槍を天に掲げてぐるぐるしている。

 おそらく槍をアンテナのようにして通信をしているのだと思われる。

 少しすると、どこからともなく別のタルタルが2体ほど現れた。


「次は10時の方向ね。わたしの手の平の中で踊りなさい」


 また別の場所で卵爆弾が大きな音を立て、タルタルズは音源を一斉に注目する。

 応援のタルタルは当然のごとくその場所に向かい、盾を構えつつ接近する。

 しかしその場所には卵の殻と中身がが少し散らばっているだけと思われるので、タルタルは首を傾げる。

 兵器だけど細かな動作が人間味を感じさせて可愛らしくもある。


『よし、無事に脱出したぞ。このまま基地へ帰還せよ!』


 団長の言葉を合図に皆撤退を始めた。

 フラウはというと、最後の卵爆弾スクロールを手に構え、なんかかっこいいポーズを決めている。


「華麗に散るは花の美学、跡を残さぬ猫の歩み。これで最後よ」


 なんかよくわからん決め台詞とともに最後の爆発が起き、それに合わせるかのようにフラウは駆け出した。

 が、急に立ち止まってあたりをきょろきょろと見回し始めた。


「ニャモちゃんは?」


 フラウがなんかしてる間に、跡も残さず子猫は消えた。

 まあNPCは用がなくなると悲しいくらいササッと消えるのがお約束。

 フラウを促して秘密基地へと戻るとしようか。


「もう基地へ戻ってるはずだ。俺たちも行こう」


「でも……もしまた誰かに捕まってたりしたら……」


「あの子はああ見えて素早い。普段はそれを隠しているがな。お前も気づいているだろう?」


「え? そ、そうね……あの子も我ら種族の末裔……この程度のこと造作も……早く戻りましょう!」


 フラウは走り出し、俺も後を追う。

 ニャモちゃんをそこまで気に入ってしまうとはな……。

 なんとかニャモちゃん離れをさせないと、ずっとつきそってそうである。


 そして光の猫の如き速さで秘密基地へと帰還した。

 そこには団員5人の他にニャニャーゴも来ているようだ。

 俺たちが到着すると同時に会話が進み出す。


「ふふん、作戦は無事終わったね。さあ、魔石をもらおうか」


「お前は何もしてないだろう。まあいい、これがお前の希望の品だな」


「そうそう、これだよ黒い魔石。ああ……いいわあ……」


 ニャニャーゴが黒い石を眺めてうっとりとしている。

 宝石のように輝いているわけでもないので、ぱっと見だと価値がわからない。


「それは何に使うんだ?」


「さあ? あたいの宝石コレクションにほしかっただけだよ。じゃあねぼうやたち」


 そう言ってニャニャーゴは素早く消え去った。

 あの石がなにかの伏線なのか、はたまた意味がないのかはよくわからない。

 だがニャニャーゴにはこれからもちょくちょく出会うことだろう。

 さて、本題はもう一つの戦利品だ。

 人の顔よりちょっと大きいサイズの卵である。


「さて、ニャニャーゴによると重大な秘密がるらしいこの卵だが、なんだろうな?」


「おいしそうだから食べるにゃー」

「山の守り神様の卵かも?」「にしては小さいかなあ」

「これも実は宝石だったり?」「あっためてみればわかるかもかも」

「魔力の脈動を感じるわ……」


 みんなでわいわいと予想を言い合うが、当然何かはわからない。

 俺はこの後の展開を知っているが、もちろん知らないフリで過ごす。


 皆が意見を言い尽くしたのか、静寂が訪れた。

 すると、パリンッ……という心地よい音が聞こえてきた。

 音の発信源は地面においてある卵だ。


「な、なんだ?」


 団長が戸惑いの声を上げる中、卵にはヒビが入っていき……。

 中から現れたのは、とてもちっこいタルタルだった。


「な、なんてこった……タルタルは……生き物だったんだ!」


 魔導兵器であるはずのタルタルが卵から生まれてきた。

 団長の言うようにタルタルは生き物だったのか?

 様々な謎を残して次回へ続く!

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