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20.正義の泥棒出陣!

 前回までのあらすじ。強力で無限の可能性を秘めた魔導兵器タルタル。それを悪い大人が悪事に利用しようとしていると疑う正義の一味ムーンオニオンズ団。仲間になりたてのフラウはタルタル研究所への潜入を試みるも、高セキュリティと高性能タルタル警備員の存在によりたいした情報を持ち帰ることは出来なかった。その報告を受けたムーンオニオンズ団の団長であるモコラモコが次に取る一手とは?


 ムーンオニオンズ団の秘密基地へと戻ってきたフラウ、さっそく偵察任務の報告である。


「面目ないわ。隙間なく配置されたタルタルガード、全ての場所で360度監視された環境よ。持ち帰れた情報は、あの中で事を為すのはまず無理ということね」


「そうか……しかしそれも予想通りだ。オレはお前が馬鹿なことをしでかさず、冷静に物事を観察できるかどうかをテストしていた。合格だな」


 団長は満足気にフラウを見下ろし指をさす。

 なお、ちっちゃな団長がフラウを見下ろすためには木箱を三段積んだ上に乗らなくてはいけない。

 若干ふらつきながらもポーズを決めつつ話す団長がコミカルで可愛い。

 対してフラウは、いつものようにわかっていたわよという顔で応える。


「ふふ、やはりそういうことだったのね。ということは次の作戦も考えているのよね。聞かせて頂戴」


「よし、次は博士の家へ侵入する。あそこは研究所ほどのセキュリティはないからな。資料でも日記でもなにかしら陰謀の証拠が出てくるはずだ」


「なるほど……わたしの役割は?」


「潜入はオレたちのように小さい方が向いている。お前たち2人には見張りを頼みたい。何かあったときには陽動もしてもらうぞ」


 2人というのはフラウと俺のことだろう。

 俺はこのクエストを過去にクリアしているのだが、初めてのフラウとパーティを組んでいるから参加できる。

 フラウが楽しめるよう、いかにも初めてですという感じでネタバレしないように行動だ。

 なにせフラウがワクワクした顔を隠せない感じで団長と話をしてるからな。


「任せて頂戴。具体的には?」


「ちょっと待て。もうすぐ偵察が帰ってくる」


 ムーンオニオンズ団のちびっ子は5人だが、今は4人しかいない。

 団長の言葉に合わせたかのように、ツンツン頭の少年が走ってきた。


「団長ー、ただいまー、偵察してきたよー」


「うむ、よくやったぞゴーマダーゴ。それでどうだった?」


「家の周りを警備してるタルタルは2体で、タルーガ博士はまだ帰ってきてないみたいだよ」


「よし、ではさっそく向かうぞ。フラウ、お前たちも現地集合だ!」


 そう言ってムーンオニオンズ団の5人はさささっと走って、曲がり角の向こうへ消えてしまった。

 フラウは慌てたように追いかけるが、曲がり角の向こうにはもう彼らの姿はなかった。

 これもゲーム特有の仕組みで、実際にNPC5人は消えてしまっている。

 現地のイベントエリアに行けば出てくるが、それまでは街のどこを探しても見つかることのない世にも奇妙な物語。


「ニャモちゃんと行きたかったのに……」


 フラウが本音をポツリと漏らす。

 ゲームの仕組みを説明するのも野暮なので、それっぽくフォローしよう。


「子どもたちが俺たちを一緒に歩くと作戦を悟られる恐れがある。子どもたちは遊んでいるという擬態で大人たちを欺いているんだ。俺たちは別ルートを急ごう」


「そうね、作戦に遅れは許されないわ。行きましょう」


 調子を取り戻したフラウは走り出しながら地図を取り出す。

 その手順にはもう慣れたようで、俺が案内することもなく正しい道を走っていく。

 頼もしさを感じるとともに、俺が教えることが少なくなっていくという寂しさも感じる。


 そして無事にタルーガ博士の家の前まで来た。

 ムーンオニオンズ団のみんなはすでにそこで待っている。

 ちなみにだが、俺たちは知らない間にイベントエリアへ足を踏み込んでいるので、他のプレイヤーキャラと出会うこともないし、クエストを受けてない他プレイヤーがここに来てもムーンオニオンズ団のみんなは見えない。

 要は大人数参加型オンラインゲームと言えど、こういう時はオフゲーと同じ状態になっているというVRMMORPG豆知識でした。

 では本筋へ戻って団長の話を聞こう。


「お、来たなお前たち。さっそくだがタルタル片方の注意を引いてほしい。あとこれを持っておけ」


「これはなにかしら?」


「パピプッポ、説明を頼む」


 フラウが渡されたのは3枚の小さな紙で、小さな魔方陣が描かれている。

 団長に言われ出てきたパピプッポという少年はメガネを掛けており、見た目のとおり頭がいい。


「これは魔法スクロールのようなものです」


「魔法スクロール……あなたが作ったの? 火の魔法陣に似ているけれど……」


「はい。火魔法をご存知なのですね。僕はまだこの程度の簡単なものしか作れないのですが、物を温めることのできる魔法陣です。あちらに目印があるのがわかりますか。あとあちらとあちらと……」


 パピプッポの指差す方向を見ると、草むらに竹串のようなものが立っている。

 その竹串には玉ねぎマークの可愛らしい旗がついているようだ。

 それは全部で3箇所あり、旗の色が赤青黄色とそれぞれ違っている。


「ええ、見えるわ。あそこには何が?」


「さっき持ってきてもらった卵が置いてあります。そして3つの卵にはそれぞれ、その3枚のスクロールと対になる魔法陣が書いてあります。旗と同じ色が目印です」


「そうね、わかりやすいわ」


「魔法スクロールを使うことで卵の内部が熱を持ちます。するとどうなるかご存知ですか?」


 中学生の時、理科の先生が実験して見せてくれたことがある。

 電子レンジで生卵を温めるとどうなるかという実験だった。

 内部が温まることで一気に膨張し、破裂する……というか一種の爆弾のように爆発しちゃうのである。

 実験は袋に入れた小さなうずら卵だったが、通常サイズの卵だったらさぞ大惨事になることだろう。

 果たしてフラウの返答やいかに?


「ええ、知っているわ。あの時は大変だった。耳を穿つ轟音と黄土色に広がる惨劇、そして怒れし女帝の雷撃……ふふ、若かったわ」


 家でやったのか……。

 掃除大変だったろうし、お母さんはさぞかし怒ったことだろう。

 ちなみにこれを聞かされたパピプッポ君はよくわからないといった顔をしている。


「えーと……大きな音はしますしちょっと周囲は汚れますが、そこまでの惨劇ではないですよ。雷のような衝撃もないですし」


「ああごめんなさい。違う規模でやった時のことを思い出しただけだから気にしないで。要は大きな音を立てて敵の注意をひくのよね」


「はい、その通りです。といっても、最初はタルタルに話しかけて注意をひいてもらえばいいので、いざという時にだけそれを使ってくださいね」


「ええ、任せておいて」


 フラウがどう使うか楽しみである。

 聞いた話によると、どのタイミングで使ってもNPCたちがうまく立ち回って成功するらしいが、どうせなら活躍した感が出るように使ってもらいたいものだ。

 ちなみに俺がやった時は、使うタイミングを慎重に考えすぎていて、使うことなくクエストが無事終わったというつまらない結果だった……。

 情けない思い出は置いといて本題へ……卵爆弾の説明が終わり、団長がまた喋りだす。


「よし、説明は終わったようだな。カーターはフラウの補助だぞ」


「任せとけ」


「家への潜入は俺とパピプッポとゴンマダーゴ。ピルルとニャモは少し離れたところで見張りだ」


 ここでムーンオニオンズ団の団員を改めて確認しておこう。

 ホビホビ族の男の子3人と女の子が1人、ニャコラ族1人の5人だ。


 団長のモコラモコは元気いっぱい男の子で、玉ねぎ頭がトレードマーク。団長だけあって偉そうな態度なのはご愛嬌。

 メガネの男の子パピプッポは頭がよく、簡単な魔道具も作り出す末恐ろしい子。

 ツンツン頭のゴーマダーゴは運動神経抜群だが口数は少なく、なんとなく女の子にモテそうで悔しい。

 ニャモちゃんは団員唯一のニャコラ族、玉ねぎ好きのちょっと天然ちゃん。フラウがとってもお気に入りの子である。もっとも、フラウ以外の大きなお友達にも大人気であるが。

 ピルルちゃんは一番年下。運動は苦手でいつもみんなを必死に追いかける姿が可愛いとこちらも大きなお友達に大人気。手先が器用でみんなのアクセや服の飾りを作ったりしている。


「おっと、忘れるところだった。フラウ、カーター、これを耳につけておけ」


 渡されれたのは、ふにゃふにゃとした柔らか素材で玉ねぎの形をしたアクセサリー。

 小さな魔石が着いており、耳栓のように耳に入れて使うものだ。

 俺は知っているが、当然フラウは知らない。


「これは何?」


「俺達のひみつ道具、オニオンンリンクだ。これで離れていても会話ができる。あまり離れ過ぎるとだめだけどな」


「便利なものね。魔道具までず使いこなすとはなかなか優秀な組織よね」


「ふっふっふ、オレたちはそこらの大人よりよっぽど頭がいいんだぞ」


 感心するフラウと誇らしげに威張る団長。

 ちなみにこれは子供用のおもちゃとして普通に出回っている魔道具である。

 現実世界で言えば子供用のトランシーバーといったところか。

 玉ねぎの形と、オニオンリンクというおいしそうな名称はムーンオニオンズ団だけのオリジナルである。


「よし、だいたいはこんなところか。なにか質問はあるか?」


「あるわ。一番危険なのは潜入するあなた達というのはわかってる。その次はわたしたちね。それらは問題ないわ。ニャモちゃんと、えーと……ピルルちゃんに危険がないのか心配だわ」


 フラウの心配はやはりニャモちゃんであった。

 ピルルちゃんはついでのように言われてしまったが、まあ言っただけ良しとしようか。


「うむ、あたりの様子をオレたちに言うだけだから大丈夫だぞ。なにかあってもオレたちの方には来ないで遠くへ逃げることになってるしな」


「それなら安心したわ」


「そうか。団員の心配をするとはなかなか見どころがあるな。期待しているぞ。ではお前たちがタルタルの注意を引き付けたら作戦開始だ。いつでもはじめてくれ」


 こうして作戦は開始され、子どもたちが散っていった。

 フラウはと言うと、ニャモちゃんについていってしまった。

 なにかを話しかけているその姿は、妹離れの出来ないだめなお姉ちゃんのようだ。

 そんなに気に入ったのか……。


 こんな時に思う。

 マンションがペット禁止でなければ猫を飼いたかった。

 そうすれば現実でも猫にデレデレな花ちゃんが見られるというのに……。

 家庭教師のバイト代で猫のぬいぐるみとか、エタ公式グッズにあるニャモちゃんぬいぐるみでも買おうかな……不審者扱いされるだろうか?


「ねえ、何をぼーっとしているの」


「うお?」


 いつのまにかフラウが俺のそばに戻ってきていた。

 ほんのちょっとのつもりだったが、長めに妄想していたのだろうか。


「では作戦を開始するわね。今回もわたしに任せてもらっていいのよね?」


「もちろんだ、期待しているぞ」


 こうしてムーンオニオンズ団の潜入作戦は開始される。

 いったいどんなドタバタ劇が見られるのか。

 それに対するフラウの行動やいかに?

 とってもワクワクしている俺なのであった。

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