02.ゲームの世界へ
前回までのあらすじ。
俺は某VRMMORPGを楽しみたいのだが、なぜか俺のことを魔法使いと勘違いした中二病の女子高生が部屋にいるというよくわからない状態だ。
その子はVRゲームを異世界に行く方法とかわけのわからないことを言って、俺がゲームしている姿を見たいと言い出す。
正直わけがわからない。
「ねえどうしたの? わたしのことは気にしないで早くゲームを初めてちょうだい」
「いやあの……なんでゲームしているのを見たいの?」
「このゲーム世界に興味があるのよ。面白そうならばわたしも行ってみたいわ」
お? てことは、そのうち一緒にこのゲームをできたりするのか。
ネカマも多いVRMMOゲームの中、中身がリアル女子高生と一緒に冒険ができる。
これはいいかもしれない。
ちょいとゲームの魅力を教えてあげようかな。
ただ……問題は本当に大丈夫なのかということだ。
女子高生とゲームを楽しんでいたと思ったら、おまわりさんがやってきて逮捕……なんてことにはならないだろうか。
なにかの罠の可能性も無きにしもあらず……は考えすぎか?
そんな俺に、心の中の悪魔がささやいてくる。
『いいじゃねか、あこがれの女子高生だぜ。そもそも警察になんかばれやしねえよ、いい感じに仲良くなっちまえよ』
それもそうかなと考えていると、対抗するように心の中の天使が話しかけてくる。
『何言ってるの。ほんとうに安全とは限らないでしょ。この子が罠にかけてくる恐れだってあるわ。慎重に行かないと人生終わるわよ』
そうだよな、冷静になろう。
しかしそうはさせまいと悪魔のささやきが声を荒げる。
『そんなわけねえだろうが。そんなありえないこと考えてたらチャンスを逃すぞ』
『ふんっ、チャンスってことはわかってるわよ。だから先手を取るのよ。先になんとかしてあの子の恥ずかしい写真でも撮って弱みを握るの。そうしたらもうこっちの思いのままよ。チャンスはこうやって利用するの』
『お、おう……』
なんか犯罪めいてきたので、天使と悪魔にはお帰りいただこう。
うーん、困ったな。
考えすぎてもあれだし、見せるくらいは問題ないか。
「なにぼーっとしてるの? このノートパソコンからVR世界をモニターできるのよね? 設定をお願いするわ」
「ああ、ちょっと待って……」
とりあえず流されるままにPCを設定しようとして俺は気づく。
もしこの少女が俺のPC内の恥ずかしい画像やらを勝手に見てしまったらどうなるのだ。
中には女子高生もののエッチなやつとか、さっき見つけた中二病少女とにゃんにゃんする的なマンガもある。
俺はPCを前に固まり、やはりお帰りいただくべきかと考える。
「どうしたの? 早くしてほしいのだけど」
「あのさ、考えてみるとまずくないかな。俺と君って知り合ったばかりだろ。俺はそのヘッドセットをつけてベッドに横になって動けなくなるわけでさ……」
「ん……? そう、わたしはあなたの信用に足る人物ではないということね。ならばこうしたらどうかしら。わたしをあの椅子にでも縛り付けておけば、あなたの安全は保証されるわ」
ほうほう……出会ったばかりの女子高生を俺の部屋の椅子に縛り付け、俺はベッドに寝転がってVRMMOPRGを楽しむか。
いやいや……犯罪の匂いしかしない上に、まったくわけのわからない状況だ。
さっきの天使のささやきが現実になろうとしている。
何を言い出すんだこの子は。
「いやいや、そんなことをする必要はないんだけどさ」
「そうよね、あなたの力を持ってすれば物理的な力を行使する必要はないわね。でもそれならば、いったい何を心配しているのかしら?」
そういえば、この子は俺が魔法を使えると勘違いしているんだった。
この感じだと、悪さをすることもないだろうけど……。
そうだ、中二病のこの子が喜びそうな言い方をしてみようか。
「そこまで言うなら仕方がないな。そのPCだけどさ、今から教えること以外の操作はしないでくれよ。命の保証はできない」
俺はアホみたいなセリフを真剣な表情で言う。
対する少女は、目は前髪に隠れたままだが真剣っぽい表情で俺を見つめてきているように思える。
「ふふっ、あなたは呪術にも精通しているのかしら? わたしだって命は惜しいもの。あなたの言うことに従うわ」
そして前髪をかき分けてニヤリと微笑んできた。
うーん、やっぱり可愛い。
そして、なにか嬉しそうに見える。
もしかしたら俺がこんなおかしな事を言いだしたのが嬉しいのか?
「それでは教えてちょうだい。あなたの魔力の一端を垣間見るその方法を……」
相変わらずおかしなことを言っているが、まあいいかと俺は流されることに決めた。
中二病とは言え、せっかく女子高生と仲良くなれるチャンス。
細かいことは気にせず今の状況を楽しもう。
そしていろいろと説明を終え、俺はベッドに寝転んだ。
VRヘッドセットを付けてゲームの準備はできた。
そんな俺を見守るは美少女女子高生だ。
「じゃあ行ってくるよ。なにかあればチャットで遠慮なく話しかけていいから」
「わかったわ。その間、あなたの仮初の体の守りは任せてちょうだい。最も、あなたの力であれば何が起ころうと平気なんでしょうけど。その右手を見ればわかるわ」
この右手のサポーターは、まさにゲーム中に変な寝方をして痛くなったからつけている。
決して抑えられない力を封印しているわけではない。
不思議な勘違いからはじまったことを思い出しつつ、俺の意識は落ちていった。
***
――Welcome to Eternal Fantasy――
「おいすー」
「お、カーターインしたな」
「やっほ」
「兄ちゃん、今日は遅かったね。寝坊?」
「タカシー、目玉焼き送っておいたから食べてね」
「今日もどっかいくかー?」
インするとギルドメンバーからあいさつが飛び交ってくる。
うちのギルドは、平均10人ほどがインしていて最大30人ほどだ。
社会人も多く、まったりとした雰囲気のいいギルド。
俺が飽きずにEF(エターナルファンタジー)を続けているのは、このギルドにいるおかげだと思う、以下略。
俺はこのゲーム世界でカーター・Cという名前でやっている。
本名のタカシをもじっていい名前ができたと思っていたらばればれだったのも、今となってはいい思い出。
皆に適当に返事を返しつつ、今日は1人で行動すると伝える。
なんせ今、俺の部屋で中二病女子高生がモニターしているからな。
このゲームの魅力を伝えねばならない。
まずは魔術師に着替えるとするか。
このゲームは職業ごとにレベルを上げていくタイプのもので、いつでも職業を変更できる。
戦士を鍛えて高レベルとなった後で、レベル1の職業になればまた弱っちいところから楽しめるって寸法だ。
ちなみに今現在、レベル上限は75。
俺のやってる職業の中で1番レベルが高いのは盗賊で60ちょいなのだが、やんごとなき事情により封印中だ。
そんな中で俺の魔術師レベルは20と、ぶっちゃけ低い。
あの中二病少女が満足してくれるか不安なところではあるが、まあなんとでもなるだろう。
全身を覆い隠すローブを着て杖を持って出発だ。
さて、外にいる少女と会話ができるか試してみよう。
外部との専用チャットメニューを呼びだし、声をかける。
「聞こえてるかな? これから外で魔物と戦うよ」
『感度は良好よ。お手並み拝見といったところかしら』
ちゃんと通じているようで、返事が聞こえてきた。
てか、見せてくれと言う割には偉そうな態度だよなあ。
あの喋り方では仕方ないのだろうか。
というわけで外に出ると広大な草原が広がっていて、あたりには不細工なうさぎがぴょんぴょん跳びはねている。
街付近の敵ならばレベル20の俺にとって、魔法1発で葬り去れる雑魚だ。
とりあえず少女に魔法を見せてあげるとしようか。
「ファイアーボール!」
俺の叫びと共に、火の玉がウサギに向かって飛んでいく。
このゲームは音声入力で魔法を発動でき、その音声も自由に設定できる。
中二病的な人であれば、ここにそれっぽい呪文を設定できるわけだ。
ウサギは炎に包まれ、あっさりと息絶えた。
後に残るのは、戦利品であるウサギの肉だ。
さてさて、この魔法に少女はどんな感想を抱くのかな。
『うさぎさん可哀想……』
心底悲しそうなつぶやき声が聞こえてきた。
いやいや、なんでそこで急に普通の女の子らしくなるのさ。
この子やりにくい……そしてちょっと可愛い。
さあ、言い訳をしようか。
「あれは一見ウサギだけどね、実は凶悪な魔物なんだ。可愛さで人間を油断させてるんだよ。ほらよく見て、凶悪な顔してるでしょ」
俺は他のウサギを見つけ、首根っこをつかんで持ち上げる。
俺の背後からの光景を少女はモニターしているはずなので、その方向にウサギの不細工な顔を見せる。
可愛いと倒しにくいので不細工にしてあると開発インタビューで言っていた。
『そうなの? たしかに顔は不細工だけどおとなしくしてるじゃない』
「それはあれだよ。俺の魔力に恐れをなしてこうなってるんだ」
『だとしたらあなたは今、魔法で弱い者いじめをしたことになるわよ。どういうことか説明してちょうだい』
なんでこんなめんどくさい展開になるんだ……。
所詮ゲームだって言うのにさ。
なんとか言い訳を考えた結果、とあるクエストを受けていたことを思い出した。
その画面を表示させて少女に見せよう。
《ウサギに畑を荒らされて困っています。退治して来てくれませんか》
「というわけで困ってる人のために俺は魔法を行使したわけだよ、裁判長」
『なるほどね……。まあそれならよしとしましょう。でもどうせならもっと凶悪な悪魔なりをたおしてほしいところね』
悪魔か……デーモン族と呼ばれる敵がいることはいるが、かなり強いので今の俺では倒せない。
「うーん、悪魔はこのへんにはいないんだ。とりあえず狩り場を変えるよ」
なんとか誤魔化せたので、街から少し離れることにする。
基本的に遠くへ行けば行くほど強い敵がいるのがRPGの定番だ。
そしてちょっとした丘を登ると、そこには新たなモンスターがいた。
一言で言うならば、巨大な芋虫を丸っこくして少しだけ可愛くした感じだ。
さすがにこいつをリアルにされると恐怖なので、デフォルメ成功と言えよう。
「次はあれと戦うけどいいかな?」
『む、虫……? き、許可するわ……燃やし尽くしておしまい!』
なにか上ずった声で悪の女首領みたいなことを言う少女。
もしや虫が苦手なのだろうか。
中二病少女は虫が苦手と……俺の心の中の萌えメモ帳に書き込んでおく。
そしてまたも心の中の悪魔がささやいてくる。
『よし、あの子がゲームを始めたらここに連れてきて、きゃー怖い、抱きつかせて! 的なイベント発生させようぜ』
その楽しそうな悪魔のささやきに、当然天使が反論する。
『まったくもう、あなたはいつだって無計画。こんなところ連れてきた時点で嫌われちゃうわよ。ここじゃなくてあっちの丘にしましょ。あの木の下を調べるクエストがあったからいい理由になるわ』
『む……そうか』
『あとね、いきなり抱きつくのも早過ぎ。まずは驚いた彼女が手を握ってきて、きゃ、ごめんなさい……わたしったらつい……ってイベントから始めるべきね。だって童貞だものー!』
うっせえ!
って自分の思考に怒っても仕方がない。
本筋に戻って芋虫を焼き殺すとしよう。
こいつも俺のレベルからしたら弱いので、一撃で葬れるはずだ。
「ファイアー……ボォールゥッ!」
気合を入れて巻き舌で叫ぶと、火の玉が現れて芋虫を焼き尽くす。
そして、今回は戦利品が落ちることなく芋虫は消え去った。
さあ、観客に感想を聞こうか。
「どうかな? まだ俺もレベル低いんで初歩的な魔法だけどさ」
『ふふ、その威力をもってして謙遜するとはさすがね。でもわかっているのよ。まだまだ力を隠し持っているのでしょう?』
この程度では満足してくれないか。
魔法を強化するスキルがあるので、次はそれを使おうか。
次に唱える魔法の威力をアップする魔力の印。
このスキルを発動すると体勝手に動き、手が印を結び小さな魔法陣が浮かび上がる。
『かっこいい……』
俺の脳は、魔法陣に対して言ったであろう彼女言葉を、俺自身に言っていると妄想変換する。
では向こうに見えている芋虫に狙いを定めよう。
ついでに俺の中に潜む中二病心を少し開放して……。
「紅蓮の炎をもって焼き尽くせ……」
『ふふっ、力ある言葉を乗せるのね。先程は無詠唱だったようだけど、呪文の詠唱がどんなものか楽しみだわ。いったい何語を使うのかしら』
え!? そんな急に言われても……。
と、とりあえず頭に浮かんだ意味のない言葉を言ってみるか。
「ンチャーヵ・シィヮモチ・ユースキィ・ゲックォー・フォラ・ゲッコォ……はああああああ! ファイヤアアアァァ……ボールゥゥゥゥ!」
先程より大きな火の玉が現れて芋虫を燃やしていく。
あとに残るは戦利品の、よくわからないでっかい石だ。
大して役に立ちそうに見えないが、つけもの石くらいには使えるらしい。
さあ、中二病少女はお気に召しただろうか。
「ど、どうかな? 一度使うとしばらくは使えないけど、魔法の威力を上げることができるんだ」
『ふふっ、あなたの力しっかりと見せてもらったわ。やはりあなたに魔法を教えてもらうべきだと確信したわ』
若干の勘違いは残しつつ、意味不明な呪文にも満足してくれたようだ。
でもこうやってゲームの説明するのって意外と楽しいな。
俺はこの少女と一緒にゲームをするため、がんばろうかなという気分になっているのだった。