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19.タルタルは危険な兵器?

 前回までのあらすじ。子供だけで結成されたムーンオニオンズ団。それは大人たちの陰謀を打ち砕くための正義の集団だ。そしてフラウという体は大人、心は中二病の少女が新たな団員となった。さっそく彼女にはスパイ任務が与えられることとなる。タルタル研究の第一人者タルーガ・プリケッツァー博士が危険な思想を持っていないか調査してくるのだ。がんばれフラウ!


 せっかくのフラウの初クエスト、俺が道案内をするのは味気ない。

 フラウの地図の見方を教え、自力で向かってもらうことにした。

 この任務において俺は助手という立場で行動しようと思う。

 気分的にはフラウちゃん、はじめてのおつかいである。


「では打ち合わせ通り、あなたは何も口出さないし手助けもしてくれないということでいくわ」


「そうだ。フラウのお手並拝見といく」


「ある意味安心だわ。なにせ失敗には死……失敗の責任にあなたを巻き込まなくてすむもの」


 漫画で見たことのあるスパイの掟……失敗には死を。

 子どもの遊びみたいなものなのでそんなわけはないが、フラウはとても生き生きとしている。

 中二病をいかんなく発揮しても問題のないゲーム世界だからであろう。

 だから俺も心の中の中二病を解放したくなる。


「ふっ、その時は一緒に逃げるさ。2人なら死を免れるのは容易だろう」


「ええ……その通りだわ。ありがとう、少し落ち着いたわ。さて、向かいながら作戦を考えておかなくては……」


「わかった。俺はここより影となる」


 俺は透明になれるアイテムを使って文字通り姿を消した。

 ちなみにこのクエスト、スパイ任務といった形ではあるが依頼者が子供なわけで、そんな難しいものではない。

 目的へ向かえば自動で話が展開して終了と、序盤のクエストらしい難易度だ。

 でも感情をしっかり入れ込んでいるフラウなら楽しめると思う。


 フラウは目的地への道を正しく歩いている。

 女の子の多くが持っていると言われる方向音痴スキルは備わっていないようだ。

 安心ではあるが、ドジっ子中二病というのもありだったのになとか思ってしまう。

 なお、見守るだけの今日の俺は、いつもの数倍妄想をすると宣言しておく。


 そして無事にたどり着いた。

 街の離れにある大きな建物がそれだ。

 一応兵器を扱う場所のため、有事に備えられる場所に建っているらしい。


「ここね、魔導兵器秘密研究所は……いかにカモフラージュしようとわたしにはお見通しよ。潜入できそうな場所を探さなくてはね……」


 建物には『タルタル研究所』と大きく書かれている。

 近くには看板が立っており、『見学希望の方は受付まで。予約不要』と書かれている。 それらはフラウの視界に入らないらしい。


「まずは周りを見るべきね」


 外には広場があり、タルタルの様々な実験をしている。

 あっちのタルタルは魔法の練習をしているようだ。

 見た目は樽でもさすがは魔法兵器である。

 フラウは臆することなくそのタルタルに近づいていった。


「ちょっといいかしら?」


『ビビビ、ナンデショウ?』


 タルタルは普通の住人と同じように、話しかけると応答してくれる。

 ちゃんと会話できるので、ロボ好きとかには好評らしい。

 人との会話は苦手というフラウはどうなのだろう。


「あなたはだれに魔法を教わったの?」


『教ワッタノデハナク、魔法プログラムガ体内ニ書キ込マレテイマス』


「書き込まれている……なるほど、魔法スクロールが体内にあるようなものなのね。ねえ、あなたの体の中身を見せてもらうことはできないのかしら」


『ワタシノハ無理デスネ。デモ受付で見学ツアーヲ申シ込メバ見ラレルカモシレマセンヨ』


「なるほど、ありがとう。邪魔したわね」


『イエイエ、イツデモドウゾ』


 フラウは少し考え、入り口へと戻ることにしたようだ。

 そして受付に向かって話しかける。


「いいかしら? ここで魔導兵器の内部構造を見せてもらえると聞いたのだけど」


「はい、タルタルの仕組みコーナーで見ることが出来ますよ。見学を希望されますか?」


「ええ、お願いするわ」


「はーい、では2名様ご案内です」


「なっ!」


 フラウは驚き、受付から後ずさりる。

 そして左腕を口元に持っていき、俺としか会話できないモードで話しかけてきた。


「ねえ、あなたの存在がばれているようよ。その完璧な擬態を見破るなんて……」


 俺はたしかに姿を透明化しているのだが、ゲームシステム上ではフラウとパーティーを組んでいる。

 NPCからしたら2人パーティを組んだ人が来ただけの単純な話だ。

 だがここはフラウに合わせてスパイっぽい会話で行くぞ。

 俺も右手を口の前に持ってきて、スパイグッズを使用している感じで話すのである。


「そのようだな。ぱっと見は見学ツアーだが何が起こるかわからん。怪しまれる行動はせず、普通の見学客に擬態するんだ」


「わかったわ……でも情報を入手しなければ帰れないわよ」


「情報収集が困難なセキュリティということも立派な情報だ」


「そうね、わかったわ……」


 というわけで俺は透明化を解き、フラウと普通にタルタル研究所を見学することにした。

 とはいえここに来るクエストを受けているのはフラウで俺は付き添い。空気のような状態である。

 フラウは見学客を装いつつ情報収集をするつもりで、俺は見学に来たデート中のカップル気分で中へと入っていく。

 すると中には、白髪で立派な白ひげを貯えたホビホビ族がこちらを見ていた。

 ホビホビ族特有の小さな体ではあるが、そこそこのご年配であることがうかがえる。


「やあやあ、見学者の方かね。今ちょうど休憩中なんだ。わたしが案内してあげようか」


「あなたは?」


「わたしはタルーガ・プリケッツァー。ここの所長をやっとるものじゃよ」


「あなたがあの……」


 ご存知タルタル研究の第一人者であるタルーガ博士だ。

 ぱっと見は温厚で人の良さそうなおじいちゃんである。

 その中身はと言うと……やっぱり見た目そのまんまである。

 フラウはまた俺にしか聞こえないよう話しかけてきた。


「ターゲットが出てきたわ。どうする? 捕獲する?」


「落ち着くんだ。ここでそんなことをしたら警備タルタルにあっという間にやられるぞ。普通に情報収集だ」


「くっ……そうよね。ここの守りは堅固すぎるわ。ありがとう、あなたのおかげで冷静になれた」


「よし、では当初の予定通り俺は口出しせずに見守るぞ。幸運を祈る」


 この研究所内にはたくさんタルタルがいる。

 街中なので武器を出したり魔法で攻撃はできないが、暴れたり入ってはいけない場所に行こうとしたらこちらを足止めに来る。

 と言っても怪我するでも逮捕されるでもないので、それをやって楽しむ人も時々いるらしい。

 ではあとはフラウにお任せだ。


「はじめましてタルーガ博士。お会いできて光栄です」


「ほっほっほ、これはこれはご丁寧な挨拶をどうも。そんなかしこまらんでいいよ。しょせん長く生きてきただけの年寄じゃて」


「そんなご謙遜を。あなたのような偉大な方に案内いただけるなんて感激ですわ」


 なんか優雅に挨拶してるな。どっかのお嬢様っぽくなっている。

 人との会話は苦手と言っていたが、こういう非日常的な会話は得意なのだろうか?

 もしくはスパイとしてお嬢様的な存在になりきっているのか?

 どちらにせよ……なんか可愛いからヨシ!


「ではさっそく案内しようか。なにか希望はあるかね?」


「はい。タルタルが魔法を行使する仕組みに興味がありますの」


「ほほう、魔法に興味がお有りか。ああ、君は魔術師なんだね」


「ええ、我が魔導技術の向上の参考になればと思いまして」


「ほっほっほ、それは感心感心。ではこっちに来るといい。まずはタルタルの基本構造からじゃな」


 そして連れてこられたのはタルタルの秘密コーナー。

 タルタルの断面図や内部構造のイラストがあって、子供にもわかりやすく解説がされている。

 それを見ながらタルーガ博士が説明してくれているのでさらにわかりやすい。

 人で言えば心臓となる魔導石が体の中心にあり、そこから全身に魔力が駆け巡って動いている。

 魔力は無限ではないので、それらを供給する仕組みも複数あり、口から接種する樽型の携行魔石もあるようだ。


「それでは魔法を使える秘密じゃな。君は魔法スクロールを知っているかな?」


「もちろんです。作ったこともありましてよ」


「ほっほっほ、それはそれは。さすが勉強熱心なことはある。その魔法スクロールじゃが、一度しか使えないものと何度でも使えるものがあるのは知っているかね?」


「いえ、わたしが知っているのは一度きりのものだけです」


「そうじゃろうな、基本的にそっちのほうが使い勝手がいいし作りやすい。何故かというと……」


 以前フラウが作った魔法スクロールは、詠唱の手助けをする使い切りだ。

 簡単に言えば予め魔法を詠唱する準備をしておき、いざ使いたい時に短時間の詠唱で高威力にするものである。


 対して何度も使えるものの場合は、作る時点で複雑な魔力を込めなければならなく時間もかかるらしい。

 さらには使用時も魔力を多めに込める必要があり、普通に魔法を詠唱するより燃費が悪いと言える。

 だから人間はそれを使うくらいなら普通の魔法を詠唱した方がいい。


 そこでタルタルの場合である。

 普通に魔法を詠唱することは出来ないが、魔力のコントロールはできる。

 体内にあるそのスクロールに魔力をこめて発動させ、あたかも普通に魔法を使えるように見せているらしいのだ。


 実際にどんなものか見せてもらうと、タルタルが持つ杖の中に仕込んである場合もあれば、左手の樽に仕込んであることもあった。

 これらは持ち替えや付替えで使える魔法が変わるので汎用性があるらしい。

 介護用タルタルなど用途のはっきりしたものは、ボディに回復魔法スクロールを埋め込んでいるらしい。

 中心の魔導石に近いほうが若干効率が上がるのだとか。


「こんなところかのう。参考になったかね?」


「はい、素晴らしいですわ。魔導兵器だけでなく、魔道具についても少しわかりました。これからの製作に役立てられそうです」


「ほっほっほ、魔道具も作るのかね。将来が楽しみなお嬢さんじゃ」


 フラウは目を輝かせて聞いている。

 お嬢様風な演技はしているものの、見学自体はかなり楽しんでいるようだ。

 錬金術スキルを上げていけば魔道具を作れるようにもなるしな。

 あとは現実でも魔道具を作りたいと言い出しそうなのがちょっと怖いが。


 そんな感じでタルタルについていろいろ教えてもらい見学ツアーは終了した。

 といってもほとんどはタルタルの仕組みコーナーで過ごした。

 タルタルの歴史とかタルタルのお仕事コーナーはほぼ素通りである。


「タルーガ博士、ありがとうございました。有意義な時間を過ごせましたわ」


「ほっほっほ、ワシも楽しかったよ。最近珍しい、向上心のあるお嬢さんに巡り会えてよかった。また会うことがあればいつでも話しかけておくれ」


「はい、よろしくお願いしますわ」


 こうして俺たちはタルタル研究所を後にした。

 あとはムーンオニオンズ団の秘密基地へと戻ればクエスト完了だ。

 フラウはうきうきな感じで今にもスキップしそうな足取りである。


「どうだフラウ、収穫はあったか?」


「ええ、虎穴に入らずんば虎子を得ず。タルタルについてよくわかったわ。あとは団長が言っていた危険性よね。あれはいくらでも応用が効くわ。タルーガ博士がその気になればこの街を征服するなど容易いこと」


「じゃあ博士が怪しいと疑っているのか?」


「まだわからないわ。団長から聞いた意見に先入観を持たず、先ほどの有意義な時も忘れて中立的に考えて見たけれど……今は注視するしかない状態ね」


 実際のところタルタル研究所に見学に行って楽しく教わっただけだからな。

 でもしっかりとスパイ任務を忘れず悩むフラウ、ゲームを楽しんでいるようでいいな。

 俺も見習って、ゲームだからと覚めた感じではなくもっと入り込んでみたくなる。


「そうだな、お互いに新しい情報があれば報告し合おう」


「そうね、まずは団長に報告よ。あとニャモちゃんが寂しがっているかもしれない。急ぎましょう」


 早足だったフラウはついに走り出す。

 ニャモちゃんの名前を口に出したら我慢できなくなったのだろう。

 俺はそんなフラウを可愛いなと思いながらついていく。


 フラウはもうこのゲームの虜だなという確信があった。

 きっとこれからも一緒に楽しく遊べることだろう。

 だからちゃんと現実で勉強を教えて、このゲームに来れる時間をたくさん作るようにしよう。

 家庭教師をがんばるべくさらに気合を入れる俺であった。

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