18.我らムーンオニオンズ団
前回までのあらすじ。ニャコラ族のちびっ子ニャモちゃんは大の玉ねぎ好き。今日もおつかいで買った玉ねぎを帰る前につまみ食いしてしまったよ。しかしそれは彼女に取り憑いていた悪霊の仕業。通りすがりの中二病魔法少女フラウによって悪霊は祓われ、玉ねぎも取り返した。おつかいは家に帰るまで、ということで魔法少女フラウはニャモちゃんの護衛をすることになったのさ。
フラウはニャモちゃんと楽しそうに話しながら歩いていた。
高度なAIで会話してくれるNPCとの触れ合いもこのゲームの楽しみのひとつ。
俺は暖かい目で見守りながらついて行く。
そしてニャモちゃんに案内された場所は港方面、倉庫が並ぶ奥の方である。
そこにいたのは、4人の子供NPC。ホビホビ族の男の子3人と女の子1人。
もともとちっこいホビホビ族、子供はさらに小さく可愛らしい。
ニャコラ族の子供と並び、やはり大きなお友だちに大人気である。
「だんちょー、ただいまにゃあ」
ニャモちゃんが声をかけると、みんながこちらを振り向く。
その中で、木箱の上で偉そうにしているたまねぎ頭の少年が喋りだす。
「遅かったなニャモ、それでそいつはだれだ?」
「このおねえちゃんが玉ねぎを助けてくれたのにゃ。そのまま送ってくれたやさしいおねえちゃんにゃ」
「ふーん、おいそこの女。お前は大人だよな? ここは大人は来ちゃいけない場所なんだぞ」
その少年はフラウを指差し問う。
フラウはいつものように澄まし顔で返答する。
「ふっ、大人というのは世の中の理を知らずに歳だけ重ねた存在。わたしはあのような存在ではないわ」
「見た目は大人だが違うのか。まあいいや。ニャモを助けてくれてありがとな」
「当然のことよ」
「うむ、いい心がけだな。俺はこのムーンオニオンズ団の団長モコラモコだ。お前を我等の仲間に加えてやってもいいぞ。入りたいか?」
ここは子どもたちだけの秘密基地。
体は大人でも、精神的には子供の俺たち冒険者は仲間に入れてもらえるのだ。
さて、この場合のフラウの反応は……何故か俺の方を見てきたので、とりあえず頷いておいた。
するといつものようにニヤリと微笑んでから団長に向き直った。
「ええ。ぜひ入れて頂戴。現実が見えていない大人たちにひと泡吹かせましょう」
「ふーん、お前も大人になにか思うところがあるんだな。では入団試験として持ってきてもらいたいものがある。タルタル、マンドラゴラ、ゴブリン、これらの頭を持ってくるんだ」
さっそくクエストが始まった。
言葉通りに考えると高難易度と思うが、子供のお使いでそんなものを要求されるはずがない。
ちょっとしたなぞなぞの答えとなるアイテムを持ってくるというものだ。
「ふむ……ではいってくるわ」
「うむ、次の作戦に必要だからよろしくな」
「おねえちゃんがんばるにゃー」
フラウはニャモちゃんに微笑んでから背を向け歩き出す。
もちろん俺も一緒に歩き、子どもたちから見えない位置までやってきた。
さあ、フラウの思考力を試す時間だ。
ちなみに俺はこのなぞなぞが解けず、人に教えてもらったというのは内緒にしておこう。
「タルタル、マンドラゴラ、ゴブリン……わたしの今の力では頭を奪うなんて無理よね。入団試験にしては厳しすぎると思わない? それともわたしの可能性を見抜いたのかしら」
うーん、ヒントを言うべきかどうか悩むな。
でも真面目に考え過ぎると、なぞなぞと判明した時にがっかりしそうだ。
些細なヒントを出しておこう。
「今のお前でも簡単に手に入れられるものだ。柔軟に考えてみるといい」
「ふむ、あなたはすでに答えを知っているのね。少し考えてみるわ……。相手は子供……子供の猫……ニャモちゃんは可愛い……」
フラウは後ろを振り返り、さっき曲がってきた倉庫の角を見つめる。。
たぶんだけど、早く答えを出してニャモちゃんに会いに行きたいと思っているのだろう。
猫がからむと欲望に正直になり過ぎる……とても好感が持てちゃうなと思う俺である。
よし、俺も欲望に正直に……俺の好感度が上がるように誘導しよう。
「師匠として弟子を導きたいが、自力でその試練を終わらせたいか?」
「そうね……時間を無駄にする訳にはいかないわ。こうしている間にも闇の魔の手がニャモちゃんに迫っているかもしれない。お願いするわ」
「あの子達は大人を嫌っている。同じ目線に立って考えるところからだ」
「やってみるわ……悪い大人はニャモちゃん可愛さに誘拐を企てるかもしれない……わたしは子供……ニャモちゃんと遊んでも自然な子供……」
いつもの中二病感が台無しになるほどにニャモちゃんにはまってるようだ。
今度猫を捕まえて部屋に連れてきたいな……。
リアルでもデレデレな花ちゃんが見れるかもしれない。
っと脱線せずにヒントをあげねば。
「子供は持っている知識がまだ少ないが、大人を負かすための工夫をする。子供の頃を思い出せ」
「子供の頃……そう、あの頃は魔法を使えば周りの人は褒めてくれた。いつからか魔法を禁じられてしまった。わたしの成長の著しさに恐れをなしたのね」
子供はなぞなぞが好きだよねって話に誘導したかったんだが、なんかうまくいってないな。
ちっちゃな頃の花ちゃんは魔法少女の真似をしてたんだろうなと考えると微笑ましくなってくる。
「だからわたしは魔法の才能がない振りをして過ごした。そして知識を様々なものに擬態させて今日まで隠し通してきた。だから……わかったわ、あの子達も言葉の中に何かを擬態させているのね」
なんかうまいことそっち方面にたどり着いてくれた。
いや、早々に気づいてたけどいい感じの言葉を選んでたのかもしれない。
「ほう、よく気づいたな。では答えは何だ?」
「タルタル、マンドラゴラ、ゴブリン、それぞれの頭を取ればタマゴね。まだ若いというのに素晴らしい擬態のさせ方だわ。あの子達の将来が楽しみね」
よくある形のなぞなぞに対して高評価である。
ニャモちゃんのおかげなのか今日のフラウはテンション高いし楽しそう。
そしてそれを可愛いなあと思ってしまう俺。
よし、もっと喜ばせるために俺はタマゴを取り出した。
「よく答えにたどり着いたな。さっそくこれを持っていくがいい」
「ふっ、やはり用意してくれていたのね。あなたが師で本当に良かった。ありがたくいただくわ」
フラウは満面の笑顔で卵を受け取ると、早歩きで子どもたちのいる方角へ向かった。
俺も楽しい気分になりつつ追いかけていく。
「卵を持ってきたわ」
「お、ちゃんと意味がわかったんだな。よし、入団試験は合格だ! フラウだったな、我らがムーンオニオンズ団へようこそ!」
「ようこそー」
「ようこそにゃー」
皆が新たな仲間を歓迎している。
フラウはちょっと嬉しそうだ。
「ニャモ、あれを……」
「はいにゃ! おねえちゃん、しゃがんでほしいにゃ」
「こうかしら?」
ニャモちゃんがフラウの頭の上になにかをかぶせるような動き。
あれは金メダルのように首からかけるタイプの団員証だ。
手作りで玉ねぎのような形をしている。
戦いには役に立たないが、使えば涙をながすことができる魔法アイテムで、泣くシーンを演出したい時に役立つ。
「おねーちゃん、よく似合うにゃあ」
「ええ、ありがとう」
フラウはニャモちゃんと楽しく出来てご満悦である。
無邪気な子どもたちと無邪気な中二病少女が見ていて微笑ましい。
これでフラウの俺に対する株も上がるなと考えている汚い大人は俺だけである。
「よし、では新団員フラウを歓迎するためにあれをやるぞ。お、そこにいるのは使える下っ端団員のカーターか。お前も来い」
新団員歓迎の儀式には俺も参加できるらしい。
いい記念写真が取れそうだと思いつつ皆のもとへ向かう。
ちょっとおしゃれ装備に着替えるか。
「む? なんだそれは?」
団長が俺の腕を指差す。
どうやら俺が今身につけた月光の篭手のことを言っているようだ。
これは某イベントで手に入れた激レア装備で、満月のような装飾がついている。
戦闘で役立つわけではない趣味装備みたいな代物だがな。
「これは月光の篭手という」
「むむむむむ……」
「お月様だー」
「すんごいにゃー」
団長がうなり、子どもたちは盛大に称賛してくる。
月の名前を背負う団だから月が好きなのかな。
まさかこの装備でこんな楽しい特典があるとは。
そしてうなっていた団長が決意した顔で俺を指さした。
「よし、カーター。今日を持ってお前は下っ端団員は卒業だ。今日からお前は……月光の戦士カーターだ!」
団長がそう宣言し、子どもたちは大盛りあがり。
なんか称号をもらえてちょっと嬉しい。
ニャモちゃんをずっと見ていたフラウも俺の方を見て微笑んでくれた。
「ふふ、また2つ名が増えたようね。力ある者から名を受けるなんてうらやましいわ」
「ああ、ありがとう」
ふと考える……今度フラウにかっこいい2つ名を考えてあげたら喜んでくれるだろうか。
なにかの記念となるタイミングで授けられるよう考えておくか。
心の中の中二病をひねり出さないとな。
「よし、少し脱線したが改めてフラウ歓迎の儀式だ。カーター、ここで月光の篭手を構えろ」
「了解だ」
俺は木箱に乗った団長の後方に立ち、右手を高く掲げる。
そこにちびっこたち3人が集まってきて、フラウは俺の横でポーズを決める。
「みんな声を合わせろよ。では……我ら……」
「正義の味方! ムーンオニオンズ団!」
全員で叫ぶと同時に、俺の右腕が光り輝いた。
さらに後方でなにかが輝いているのか、異様に明るくなる。
こういったイベントシーンでは、自動で記念写真を撮ってくれるので後で見てみよう。
「よし、これをもってフラウ入団の儀は終了だ。よろしくな!」
「ええ、よろしくお願いするわ。それで、わたしはなにをすればいいの?」
「そうだな、お前は見た目は大人だから、大人たちのスパイをしてもらいたい。できるか?」
「余裕よ。異能の力を持ちながら一般大衆に溶け込んで生きているのがわたしだもの」
いやいや、全く溶けこんでなくて浮いてるよ。
と、心の中だけでつっこんでおく。
「よし、ではこいつの様子を探ってきてくれ」
「ふむ……この男は?」
団長がフラウに似顔絵を手渡す。
わりと上手なその絵にはホビホビ族の男が描かれている。
「タルーガ・プリケッツァー博士。タルタルの研究の第一人者だ。タルタルは知っているな?」
「もちろんよ。高性能な魔導兵器ね」
「大人たちはそう言っているな。しかし、危険な面も持ち合わせている。大人たちはそれを隠しているんだ。その証拠を探ってきてほしい」
「大人たちのの陰謀を暴くわけね。いいわ、任せておきなさい」
タルタルというのは体も頭手足も樽でできたぱっと見はコミカルなロボット。
樽型Tactical Auto Robot、略して樽TAR。愛称は今言っていたようにタルタルだ。
見た目はあれでも、魔法の力で動く兵器なのでフラウ的には好きなはずだ。
「よし、では任せたぞ。だが無理はするなよ。情報だけ持ち帰ってくれればいいぞ。その情報を元に全員で作戦を実行するからな」
「わかったわ。ちなみにニャモちゃんは?」
「ん? ニャモはオレたちと一緒に玉ねぎと卵の爆弾づくりだぞ」
「そう……」
物騒なことを言う団長と、ニャモちゃんと一緒に行けなくてがっかりなフラウであった。
団員に頭のいい子がいるので結構凶悪なものを作るのだが、それは後のお楽しみ。
「ではフラウ、スパイ任務は任せたぞ。この国の将来はお前にかかっている」
「わかったわ、この世界はわたしが守る」
ニャモちゃんを見て決意を固めたフラウは後ろを向いて立ち去った。
なんだかとっても楽しそう。
中二病的にはたまらない展開なのかもしれない。
さあ、フラウのスパイ任務はどうなるのか。つづく!
ちなみにムーンオニオンズ団の記念写真はちょっとした動画になっていた。
俺の篭手から出た光が満月のように頭上に輝き、次第にその形が玉ねぎの形になって玉ねぎ型の月が完成していた。
子どもたち4人の後ろに立つ俺とフラウ。
まるでお父さんとお母さんみたいだなあと妄想するのであった。




