11.中二病少女と天然少女
前回までのあらすじ。
隣に住む中二病女子高生が某VRMMORPGに興味を持ち、なんやかんやあって、俺はその子にゲーム世界を案内することになった。
さっそく一緒にゲームをしていたのだが、その様子を俺のゲーム内フレンドが隠れて覗き見をしていたことが判明した。俺が女の子と一緒なのが気になって見てたとか、ラブコメにありそうな展開ではある。だが、この子は俺の弟と付き合っているので、そうではないとわかってしまうのが悲しい。
「さあ、答えなさい。いったいあの茂みで何をしていたの?」
茂みに隠れていたクーピーちゃんに対し、フラウが問い詰めるように言い放つ。
対してクーピーちゃんは困ったよう顔で答えた。
「え、えっとあの……ごめんなさい……そういうつもりじゃなくて……」
「はっきりしないわね。まずはどこの組織の者か答えてもらおうかしら。言い逃れは不可能よ」
「そ、組織?」
フラウがよくわからない問い詰め方をするものだから、クーピーちゃんが困っている。
よし、なんとかしよう。
俺の方をちらちら見てくるし、頼れるお兄さんということを見せなくてはならない。
フラウが喜びそうなはったりを思いついた俺はゆっくりと拍手をしながら口を開く。
「お見事だフラウよ、よくぞ見抜いたな」
「え?」
「え?」
二人の女の子が同時に疑問の声を発して俺を見る。
クーピーちゃんがそうなっちゃうと俺の計画がやりにくいのだが……まあこのままいこう。
「その子は俺の用意した刺客だ。フラウ、お前の力量を測るためのな」
フラウに人差し指をビシッと向ける。
クーピーちゃんはキョトンとしているが、なんとか話を合わせてほしい。
当のフラウはというと、驚いた顔をするでもなく、髪をふさっとかきあげつつ横を向いて目を閉じた。
「ふっ、そんなことじゃないかと思ったわ」
とりあえず横を向いている今がチャンス。
クーピーちゃんに向かって、とりあえず俺に話を合わせてくれと身振り手振りで伝える。
ホビホビ族特有のちっちゃな顔のおっきな目がくりくり不思議そうに動きつつ、最終的にはうんうんと可愛く頷いてくれた。
とりあえず紹介するか。
「フラウ、体験版の時に会ったはずだが覚えているか?」
フラウは少し不思議そうな顔でクーピーちゃんに振り返った。
そして2秒ほど固まって悩んだのち、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ええ、もちろんよ。それを見越してのテストだったのね。さすがだわ」
見た感じ忘れていたっぽいが、なんか可愛かったのでよしとする。
クールな振りを装っている割には、表情に出やすい子なのがとてもよい。
おっと、不思議そうな顔で見守っているクーピーちゃんに説明してあげねば。
「クーピーちゃん、見た目が変わってるからわかんないと思うけど、昨日この子が体験版やった時に会ってるんだよ」
「あ、昨日のあの子ですか? わあ……お兄さんの知り合いだったなんて偶然ですね。でもゲーム機買ってもらうの難しそうって言ってたけど、どうなったの?」
クーピーちゃんは俺の言葉に目を輝かせ、フラウに話しかけ始めた。
ゲーム内で新しい友達ができるかもって喜んでいたので、とても微笑ましく感じる。
「大きな声では言えないけど、隠された闇のルートを使ってこちらへ来ているの」
「そうなんだー、来れてよかったね。あ、名前はフラウちゃんだよね。そう呼んでいい?」
「ええ、所詮は仮の名前。好きに呼ぶといいわ」
「ありがと! あ、わたしも改めて自己紹介するね。クーピーだよ。好きに呼んでね」
「そうね……じゃあくーちゃんって呼ぶわ」
どんな呼び方をするのかと思いきや、意外にも普通の女の子がつけるような可愛いあだ名が出てきて、ちょっと吹き出しそうになった。
俺もくーちゃんって呼びたいかな。
当のくーちゃんはすごく嬉しそうな会話で返事をした。
「うん! 仲良くしようね」
「ええ。私はまだこの世界に馴染みきれていないの。いろいろ教えてくれると嬉しいわ」
よし、なんか会話も盛り上がってるし、いろいろ誤魔化せた気がする。
くーちゃんがなんで茂みに隠れていたかは後で聞こう。
そして……なんか3人で一緒に狩りをしようという流れになった。
両手にリアルJKという素敵な状態である。
くーちゃんは上げたい職業として、料理人レベル1に着替えてやってきた。
料理を作って味方をサポートできるのだが、食材の準備にお金がかかるせいで強力ながらも不人気な職業である。
「ふふっ、わたしにはお見通しよ。料理という仮初の姿でごまかしているけどその実態は魔法の一種よね」
「そうなのかなあ? えへへー、フラウちゃんは物知りだねー。じゃあ調理魔法見せるね」
くーちゃんはフライパンを取り出し、そこに材料としてリンゴを置く。
更に追加でバターと砂糖となんか香辛料を投げ込んでいく。
くーちゃんが目を閉じて念じると、フライパンが炎に包まれ……数秒後にそれは消えて出てきたのは焼きリンゴ!
「はいどうぞ。魔術師にはおすすめの食事なんだよ。あったかいうちに召し上がれ」
「ありがとう! 魔術を用いた料理を食べられるなんて感激だわ。あ……美味しい……」
うっとりした顔でリンゴを頬張るフラウと、それを笑顔で見守るくーちゃん。
この焼きリンゴは簡単に作れて魔力が少し上がる効果があり、魔術師が序盤によく食べる定番だ。
なお調理師でなくとも料理はできるのだが、調理師が作って一定時間内に食べると効果が上がるというおまけつきである。
さらにくーちゃんはなにかを作り出した。
「はい、お兄さんにはこれです」
「おお、ありがとうクーピーちゃん」
もらったのはウサギのグリルで、攻撃力が少し上がる。
くーちゃんも戦闘ではフライパンで殴るので、同じものを作って食べた。
そんなわけで食事も終えたし、狩りを再開だ!
「ではこれより芋虫退治を再開する。作戦はみんなで囲んで殴って、ある程度HPが減ったらフラウの魔法で一気にとどめをさす」
「はい! お兄さん」
「ふふっ、さっき身につけた新技を使うわ」
元気よく笑顔で応えるくーちゃんと、不敵な笑みを浮かべるフラウ。
さっきと言っているが、レベルが上ったわけではないので何も特技や魔法は増えていないはず。
まあ何かしら面白いことを見せてくれそうなので特には聞かない。
俺は適当な敵に狙いをつけて石つぶてを投げる。
芋虫がころころと可愛く迫ってきて俺に攻撃を仕掛けてくるので剣を持って迎え撃つ。
くーちゃんもフライパンを構えて殴る構えだ。
そしてフラウはというと、相変わらず敵に背を向けて杖を構えて立っている。
「あれれ? フラウちゃんは殴らないの?」
「ええ、わたしはさっき精神の集中によって敵に対峙せずとも戦う技を覚えたの。もう少し魔力を充填したら披露するわ」
「わあ、すごいね。どんなんだろう?」
相変わらず芋虫を見たくないようだが、何をするか気になるので黙ってみていよう。
先ほどと違って2人で殴っているので、敵のHPの減りが早い。
「そろそろいくわ。あなたの目を借りるわね。ふふ……敵の様子がよくわかるわ。では紅蓮の炎よ、我が意のままに動き敵を燃やし尽くせ……ファイヤー!」
フラウが掲げた杖の先から炎の球が現れ、それが芋虫に飛んでいきダメージを与える。
そのまま俺とくーちゃんが敵を殴り倒し、先程のように技を使われることはなかった。
「わーい、倒せましたね」
「ああ、それでフラウ。さっきのはどういう技だ?」
「ええ、わたしは先程の戦いで第6感に目覚めたようなの。後ろを向いていても敵の様子が手にとるようにわかったわ。さらには敵を見ずとも心の目で敵を見据えて魔法を放てたわ。ふふ、我ながら才能が怖いわ」
パーティを組んでいるメンバーが対峙している敵は、視界に入れなくてもHPゲージとかが見える。
そしてパーティメンバーが戦闘している敵は視界に入れなくとも魔法の対象に選べる。
これらは2つともゲームシステム内で当たり前のようにできることである。
初心者にはありがちの、なんかすごいこと見つけてできた! というやつである。
「わあ、フラウちゃんもう初日にそれができたなんてすごいよー。わたしは教えてもらうまでなかなかできなかったんだもん」
「ふふっ、魔術の才と知識への飽くなき探求心の違いよ」
おそらく後ろを向いて何もしてない間に、システムコンソールを色々確認してわかったのであろう。
まあでも、みんなこうやって少しずつゲームシステムを覚えていくのである。
ここはくーちゃんと同じようにほめ、才能を伸ばしつつゲームの楽しさを知ってもらう方向で行こう。
「ふふふ……フラウよ。教えるまでもなくそれらの技を身につけるとはな。やはり俺の見立てに間違いはなかったようだ」
「いいえ、これは師匠のおかげでもあるわ。あなたがわたしをさりげなく導いてくれたことは知っているもの」
「わあ、お兄さんすごいんですね」
「ふふっ……」
なんか知らんが俺の株は勝手に上がっているようだ。
適当に中二病的な会話をしていれば好かれるようなのでこのままいってみよう。
なおくーちゃんは何にでも感心してくれるいい子なのでいつも通りではあるのだが、やはりほめられると嬉しいものである。
さて、いい気分のまま続けようか。
「よし、この調子で敵を殲滅していくぞ」
「はーい」
「ふふ、やりすぎると闇の者達に私の存在がばれてしまうかもしれないけど、どうせ時間の問題だもの。遠慮なくやりましょう」
というわけで敵を倒して順調に経験値を稼いでレベルアップしていく。
なお敵は倒してもどんどん湧いてくるので、殲滅は実質不可能である。
なんやかんやで俺たちはレベル5となり、使える技や魔法がちょっと増えた。
そんなわけで少し休憩。
「ふふふ、わたしの新たなる力が開眼したわ。ただこの力を闇の者に察知されないといいけど……まだ見つかるわけにはいかないわ」
フラウは遠く山の向こう……ゲーム的には未実装で何もない方角を見ながらつぶやく。
そういえば俺もゲームを始めた当初はあの山の向こうに何があるんだろうと考えたりしたなあ、と初心を思い出す。
しかしあれだね。こういうゲーム内だと中二病でも違和感なく普通に見えるな。
くーちゃんも普通に接してるし。
「フラウちゃん大丈夫だよ。おっきな街の近くはすごい魔導師さんが作った結界で守られてるらしいの。だから弱めの魔物しかいないんだよ」
「そうなのね。いつかはわたしもそんな魔導師になりたいわ」
「フラウちゃんならきっとなれるよー」
「ええ、見ていて頂戴」
なんかほのぼのしていいなあ。
勉強をどう教えようか悩んでいるのを忘れてしまいそうになる。
とりあえず今を楽しむかな。
「あ、そうだお兄さん。手を怪我されたって聞きましたけど大丈夫でしたか?」
「ああ、たいしたことなかったよ。ちょっとゲーム中に手を圧迫しちゃってたみたいで湿布貼ってる」
「ふふ、そういうことにしてあるのね」
くーちゃんの問いに対して普通に答えただけなのだが、何故かフラウが意味深なことを言い出す。
それに対してくーちゃんは興味深げに身を乗り出してきた。
「え? どういうことなのフラウちゃん」
「あれはそういった怪我ではないのよ。ま、真実は言えないからご想像におまかせするけどね」
「えっと……あ! も、もしかして……」
謎の発言をするフラウと顔を赤らめるくーちゃん。
一体何を考えているのだろうと思っていると、俺の方を見て恥ずかしそうに言ってきた。
「わたしもこないだ丘でピクニックした時にやってもらって……あ、もちろんゲーム内なので大丈夫なんですけど、現実だとそういうこともあるんですよね」
「ん?」
くーちゃんが何を言っているのかわからないので聞き返す。
少しの間、しーんと静かな時間が流れる。
すると何故か慌てたようになって、ちっちゃな手をぱたぱた可愛く振りだした。
「あ、違いますよ。そんなすごいことをしたわけじゃないんですよ。ただ腕枕してもらってお話しただけで……」
「ああなるほど……」
つまりくーちゃんは、俺がフラウに腕枕をしたせいで腕を痛めたと勘違いしたわけか。
くーちゃんの頭の中は割りと恋愛脳のようである。
もしそんな幸せな理由で痛くなったんだったらどんなによかったか。
てか……くーちゃんがしてもらった相手はやはりゲーム内恋人のユース、つまり俺の弟……?
ゆうすけのことかーっ!!
ゲーム内とは言え、恋人といちゃこらしている弟に少しだけ嫉妬。
いやいや、いいことだし喜んでやらないといけないよな。
ゆうすけ……兄ちゃんもこの夏がんばるからな!
家庭教師と生徒から始まる恋もあっていいじゃない。
「お兄さん、どうかされました?」
おっと、どうやら妄想の世界に入り込みすぎていた。
とりあえず誤解は解いておくか。
そういえば何故かフラウは黙っているなと思い見ると、少し離れた場所にいて、先ほど覚えた技で魔法陣を空中に描いて楽しんでいた。
よし、好都合なのでこのまま小声でくーちゃんと話そう。
「残念ながらクーピーちゃんの勘違いなんだよ」
「あら、そうなんですか? わたしったら勘違いしてすみません。でもあの……残念なんですか?」
「うん、実のところあの子ともっと仲良くなりたいなと思っててさ。ちょっと協力してくれたら嬉しいな」
「わあ……お任せください!」
俺の意図はあっさり伝わったようだ。
これでくーちゃんにいろいろ相談もできるし、普通に協力してくれそうだ。
ただ、他の人には知られたくないので口止めだ。
ゆうすけとかに知られても恥ずかしいし、もっと知られたくない存在がくーちゃんの友達にいる。
「ただあの……他の人には言わないでね。恥ずかしいからさ」
「わかりました。わたしとお兄さんだけの秘密ですね」
これで安心。
よーし、いい味方ができたぞ。
「ねえ、そろそろ再開しないかしら? わたしの腕から魔力が溢れ出て暴走する前にね」
ここでフラウがそう提案してくる。
よし、十分休んだしそろそろ狩りを再開だな。
気合十分! がんばるぞ!
ちなみにくーちゃんが茂みで何をしていたのかを後で聞いたところ、茂みのあたりで友達とかくれんぼをしていたらしい。
子供みたいと笑うなかれ、ゲーム内かくれんぼは実はかなり楽しいのである。
んで、その友達はリアルで雨が降ってきたということで、洗濯物を取り込むために急ぎ落ちてしまったのだ。
そのまま雨の日セールのお買い物に行ったらしく、マイペースなお友達である。




