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最終話 中二病は永遠に

 前回までのあらすじ。世界を滅びに導かんとする闇の王。俺たちは激闘の末それを撃破することに成功した。これで平和が訪れると思っていたが、真実は違っていた……。

 闇の王は魔界へ繋がる扉から魔の者の侵入を食い止めていたのだ。過去には英雄だったが、扉から溢れる瘴気により異形の闇の王と化していたのだ。

 捻じ曲げられた伝説の真実を知った俺たちは、魔界へ扉の向こうへ赴いた。だがそこは、強敵だった闇の王より強いウサギが闊歩する世界。そのウサギたちがこの世界の最弱の存在。それほど魔界は恐ろしい場所だった。

 あまりにも絶望的な状況の中、俺たちのリーダーであるかしわもちがその身を犠牲にして俺たちを魔界より帰還させ、自身は魔界に残り扉を塞いだ。1人の勇気ある英雄の犠牲によって、世界はまた一時的な平和を手にしたのだった。

 そこから10年の時を経たところから今回の物語は始まる……。


「どうかしら、お母様の気配は探知できそう?」


「ああ、間違いない。この空間に干渉すれば再度魔界への扉を開くことができるだろう」


「ようやく……長かったわね……」


「そうだな……。だがまだ遅くはない。かしわもちを助けにいこう」


 かつてかしわもちが身を挺して塞いだ魔界への扉は、こちらの世界から見ることすらできなくなった。 俺たちは長い間調査を続け、ようやくその扉を見つけ出す術を見つけたのだ。

 さらには魔界の敵に対抗するべく修行もした。必ずかしわもちを助け出すという誓いの元に……。俺、フラウ、ユース、くーちゃん、レオン、ニャーノさん……この少数精鋭で挑む!


「空間を固定する楔、定位置に打ち込み完了だよ」


「こっちもだ」


「では号令をお願いするわ」


 俺は深呼吸をひとつ。絶対にうまくいくのだと自分に言い聞かせつつ……。


「ではこれよりミッション、最果てにて黄身を待つ母を開始する!」


「おー!」


 こうして失敗の許されない作戦が開始された。まずはこの闇の王の城の地下深く、決して届くことのない光を作り出す。俺とユースはクリスタルを取り出し、頭上に掲げる。


「二つの光をここに!」


「太陽の光を!」


「月の光ニャ!」


 くーちゃんの持つフライパンに作られた目玉焼きが太陽のように力強い輝きを放つ。

 ニャーノさんの手にしたフライパンの目玉焼きからは月のような優しい光が放たれる。

 それぞれの光が俺とユースの手にしたクリスタルに集まり、強き力が流れ込んでくるのを感じる。


「神々しい光景……強き石を生み出す……まさにクリスタルの戦士と呼ぶに相応しいわ」


「成功しそうだな」


「必要な魔力は溜まってる……。いけるよ、兄ちゃん!」


「よし、やるぞ……。今ここに拓け、柏葉の扉よ!」


 隠されていた扉が開き、そこにいたのは扉を塞ぎ動かなくなったかしわもち……ではなく、ちゃぶ台の前に座ってお茶を飲みながらお煎餅を食べているかしわもちだった。

 一旦扉を閉め、再度開けると、空中に固まったまま動かないかしわもちの姿が見て取れた。


「今の光景は?」


「俺たちの楽しかったおもいでがフラッシュバックしたんだろうな。魔界は俺たちの心の隙にも忍び込む……恐ろしい場所だ」


 魔界からの瘴気をかしわもちが食い止めているとはいえ、扉が開いた瞬間に僅かに流れ込んできて俺たちに幻を見せたのだろう。


「幻覚攻撃とは怖いですね。でも……これで作戦の一段階は成功ですね!」


「うん、次は母さんを目覚めさせよう」


「そこはお前ら兄弟に任せるぜ」


「ああ……。母さん、聞こえるか?」


「母さん、助けにきたよ」


 俺とユースでかしわもちに呼びかける。かしわもちは自分の強固な意思でここに封印されている。だから外部からの干渉は受け付けない。自ら解いてもらうしかないのだ。

 俺たちの呼びかけは無事届いたようで、かしわもちの心の声が俺たちの脳内に届いた。


『だめだよ……あたしがここから動いたら世界が滅んじゃう……』


「大丈夫だ、俺たちはそれを食い止める方法を見つけてきた」


「そうだよ母さん、誰も犠牲にせず扉を封印できるんだ」


『ふふ。母さんね、あんたちちの嘘は見抜けるんだよ。犠牲が全くないなんてことはないだろう?』


 鋭いな……かしわもちの言うことは正しい。実際にはほんの少しだけ魔界と俺たちの世界は繋がったままとなる。そこから少しだけ魔物は侵入してきてしまい、世界は脅威にさらされるだろう。だが、世界はそれを了承済みだ!


「その通りだよ母さん。確かに世界の平和は少しだけ崩れる。でもそれは問題ないんだ」


「うん、外には僕ら以外の冒険者が待機してくれている。最初さえ防ぎきれれば、後はなんとかなる算段は立ってるんだ」


 自分でも驚いたが、豪華なメンバーが集まった。最大ギルドメンバーはもちろん、皇帝、四天王、10傑、3本柱などの超一流揃いだ。もうこの世界で倒せない敵はいないほどの最強集団といえる。


『そうかい……みんながんばったんだねえ。でも……この平和な時をもう少し長く楽しんでもらうのもありだと思うんだよね……』


 平和を愛するかしわもちらしい発言だ。だが俺たちはかしわもちに戻ってきてほしい。説得の材料は用意している。


「母さん、初孫は女の子だ」


『タカシの子……もうそんな時が経ったんだねえ』


「2人目は僕の子で男の子だよ。母さんに抱っこしてほしいな」


『あらあらまあまあ……。それは抱っこしなくちゃ……。でもそれなら尚更平和な世界のままにしておいたほうが……』


 孫は見たいが孫の暮らす世界を守りたいかしわもち。だが説得しきらなくてはここまで来た意味がない! 俺達のわがままを押し通させてもらおう。


「母さん、俺達は子供におばあちゃんという存在のすばらしさを教えたいんだ。それは俺達にとって世界より大切なこと。いや、世界の未来を担う子どもたちの教育に必要なことなんだ」


『孫たちのため……そうだね、あたしがいないとお年玉とか少ないし、普段自分では買わないお菓子の存在を知らずに育っちゃうよね……』


「そうだよ、それに考えてみてほしい。かしわもちはここで10年間時を止めていた。つまり、若いおばあちゃんなんだ。この意味がわかる?」


『もしかして……一緒に歩いてるとお母さんに間違えられるイベントとかあるかもしれない……』


「そうだよ、そんな楽しい未来のために今こそ帰ってきて!」


『あ、でもそれならもう何年かいたほうが年の差が少なくなって楽しいかも……』


「それだと今度は別の問題が発生しちゃうよ。これ以上時間が経ってしまったら、会ってもおばあちゃんではなく、よく知らない親戚のおばちゃん扱いになっちゃう」


『それは……いやだね……』


 かしわもちの封印に揺らぎが感じられる。どうやら説得は成功したようだ。ここからは気合を入れなくては。脳内に『本当によろしいですか』のメッセージが浮かぶ。もちろんかまわない。はじめるぞ!


「フラウ、みんなも手はず通りに頼む!」


「承知したわ。魔結界陣展開開始!」


「空間座標固定……成功ニャ!」


「擬似月光陣展開……再現率92%……いけます!」


 女性陣3人が立体的な魔法陣を作り出しかしわもちを囲んでいく。そして出現するは月のような目玉焼き。使用したのは山の守り神の鳥の無精卵。魔力が最大限に高まった満月の日に生まれた卵を譲ってもらった。必ず成功するはずだ!


「かしわもちよ、蘇ってくれ……聖なる月の光よ……封印を解き放て、月光!」


『あたたかい光だね……。これなら大丈夫。そっちの世界に帰るよ、孫を抱っこしなくちゃね……』


 かしわもちが月の光に包まれ、ゆっくりと地面に降りてくる。それと共に周囲の結界も消えていくのが見える。つまり魔界とこの世界は再度繋がったわけだ。その証拠に瘴気が流れて来ているのか寒気がする。


「来るぞ、警戒しろ」


「月の結界はまだ展開されているわ。侵入してきた敵はわたしたちを避けて進むはず。後ろの精鋭達に期待しましょう」


「なにか様子が変だよ?」


「結界に侵入してきた!?」


 結界がなくなったことで魔界のウサギがこちらへやってくると予想はしていた。そして確かに来たのだが、何かおかしい。あれだけおぞましかったはずのウサギが何か可愛いのだ。


「ふふ……うまくいったようだね……」


「かしわもち、動いて大丈夫か? そしてこれは……」


 10年間固まっていたかしわもちだが、くーちゃんが手を貸してよっこらせと起き上がった。


「夢の中で近くのうさぎ達と会話してたのさ。そして、仲良くなることに成功したんだよ。5匹だけだけど、その子達は味方さ。夢じゃなかったんだねえ」


「すごいな、かしわもち」


 5匹のウサギがかしわもちを守るように囲んでいる。ウサギといえどもかなりの猛者、これは心強い。その後、凶悪な敵のままのウサギが扉より現れ、作戦通り結界に守られた俺達を無視して移動していく。集まっている冒険者達がなんとかしてくれると信じよう。

 やがてウサギの群れが現れなくなった。


「よし、攻め込むぞ。魔界側から扉を塞ぐんだ」


「あたしも行くよ。この子達の力は役立つだろう?」


「ああ、かしわもち。大丈夫ならお願いする!」


 かしわもちは既に元気いっぱいでありがたい。仲間になったウサギのおかげで戦力がかなり上がっているからな。テンションいっぱいで突入だ!


「のりこめー」


「わぁい」


 魔界への扉を俺たちはくぐる。そこには荒れ果てた大地が広がっていた。あとはここで扉を封印する儀式をする。


「フラウ、手筈通りに頼んだぞ。俺たちは敵を食い止める」


「任せて。わたしたちは無防備になるわ。しっかり守ってね」


 フラウ、くーちゃん、ニャーノさんと6体のタルタルに封印を任せている。俺とユースとレオンとかしわもちで守る。元々3人で守る予定だったので、かしわもちの参戦は嬉しい誤算。そのかしわもちの連れているウサギたちがくーくーと鳴き出した。ウサギってこんな鳴き声なのか。


「来るって言ってるよ! あれはカニかな? 美味しそうだね。数は少ないけど、うさぎの1.2倍の強さらしいよ」


 強敵であるウサギよりさらに強いカニか。数が少なくとも、倒すのには時間がかかるだろう。確実に撃破していかなくては。さっそく1匹だけ姿が見えた。誰が言い出したか、漢字の『為』に似た可愛らしいフォルム。


「まずあたしが行くよ。10年間貯めた力をくらえー!」


「待てかしわもち!」


 かしわもちがカニに殴りかかり、そのまま反撃を受けて弾き飛ばされた。瀕死になったかしわもちの元に3匹のウサギが駆け寄りジャンプすると、なんとニンジンが現れた。それをかしわもちが食べてHP回復である。残り2匹のウサギはカニと戦い出した。あれは余裕で勝てそうだ。


 かしわもちが仲間と共に倒した闇の王より強いウサギを従えるかしわもちを一撃で倒すカニを力合わせ圧倒する2匹のウサギを見守るかしわもち。10年前と同じ強さのままのかしわもちに戦闘は荷が重いので、後方で待機していてもらおう。


「かしわもち、前は危ない。後ろからウサギ達に指示を出していてくれ」


「ふう、死ぬかと思ったよ。その方が良さそうだね。応援してるよ。チアチェーンジ!」


 ウサ耳をつけてチアガールとバニーガールを混ぜたような格好となるちびっこかしわもち。不思議な踊りを踊ると、謎の光が飛び出しウサギに飛んでいく。あれはウサギ専用バフであろう。


「カーター、次のカニが来ているぞ」


「よし、俺たちも戦おう」


 こうして世界の命運を決める戦いが始まった。小さなカニを取り囲みフルボッコする3人の男達。ウサギとカニはじゃれ合うかのように戦っている。迫力に欠けると言わざるを得ないが、物語とは違う真の戦いはこういう風に地味なものである。後々伝説として語り継がれる時に尾ひれがつくはず。


 わりと長い戦いだったのだが、地味なので割愛。なんやかんやで準備は完了したっぽい。後方では多種多様な魔法陣が空中に描かれている。こちらは派手で優雅で良い。6体のタルタルで六芒星を描いているのもかっこいい。


「いつでもいけるわ!」


「よしみんな、魔界と俺たちの世界を繋ぐ扉を閉じる。退避するんだ」


「タカシ、うさぎも連れてっていいかい?」


 かしわもちが使役しているとはいえ、魔界のウサギ。連れていくとどんな危険があるかもしれない。だが、たぶん大丈夫だろう。


「お世話は頼むぞ。あともし何かあればその時は……」


「ああ……悲しいけど迷惑をかけたら夕飯に並べるよ……」


 というわけで俺たちとウサギは魔界の扉の付近まで退避。当然カニも追いかけてくるが、扉を閉じてしまえばこちらのものだ。


「むむむ? あのカニのハサミは危険だニャー! おそらくあれは魔力をも切断するニャ、封印の魔法陣もヤバイニャ!」


 魔力をカニに切断されるなんて聞いたこともないが、さすが魔界のカニは一味違う。とりあえず少し前に出てカニを食い止めなくては。


「カニを接近させるな。ギリギリまで抑えるぞ」


「気をつけて。タイミングはシビアよ。下手をすると魔界に取り残されるわ」


「それは避けたいな……」


 それは覚悟の上だ、とかっこよく決めたくもあるが、そういうのがダメだからかしわもちを助けるためにここへ来たのだ。全員が助かる道を模索しなくては。


「くーくー、きゅーい」


「ええ? ダメだよお前達それは」


「くきゅー」


「でもでも……」


 かしわもちがウサギと会話をしている。


「かしわもち、どうした?」


「この子達が自分達に任せろって言ってるんだよ。自分達の住む場所はここだからやっぱり残るって」


 なんてこった、俺たちはこの闇の王より強い……いたいけなウサギを犠牲にしなくてはいけないのか。なんて思ったけど、正直それが一番助かる。ぜひそうしてくれと言いたいけど言いにくいので、それっぽくかしわもちを説得だ。


「かしわもち、ウサギ達の意思を尊重しよう。俺たちの世界に連れて行ってもその子達は不幸になるかもしれない。外来種として駆除されたりとか」


「そっか……テレビでも問題になってるもんね……。仕方ないけど、仕方ないか……。みんな、10年間ありがとう!」


 かしわもちはここで扉を守る10年間ウサギと共にすごしたわけで思い入れが俺たちと比べて半端ないのだろう。カニと戦っているウサギがかしわもちを振り返って親指を立てた……ように見えた。


「ではウサギに任せて下がるぞ。いけるか?」


「時限展開陣、設置完了よ」


「合図から30秒後に起動します」


「よし、撤退だ!」


「起動準備……ポチッとニャー!」


 カニと戯るウサギを残し俺たちは元の世界への扉をくぐり、魔界を後にした。振り返り扉を見守っていると、時間通りにそれは音もなく消えていった。あとは本当に消えたかチェックして完了だ。


「魔力の残滓あり、だが不安定なためすぐに散りそうだ。この扉を復活させようとしても今の技術や魔術では無理そうだな」


「別の場所に移動した可能性も無さそうね」


「後はこの世界に他の扉が無いことを願うばかりか……」


「よし、作戦成功だ。最果てにて黄身を待つ母……ミッションコンプリートだ」


 こうしてひとつの物語は終わりを告げた。一切の犠牲は出さないハッピーエンドと言えよう。いや、ウサギの犠牲があったか……。

 なおこの日以降、かしわもちが作る目玉焼きの中心にはウサギの絵が描かれるようになった。それと同時に空に浮かぶ月の模様が少し変わった。ウサギが餅つきをしているような模様だったが、そこに補助をする小さな人影が追加されたように見え、それは何となくかしわもちのように見えるのであった。


「よーし、カットー」


 レオンの声で、皆が緊張感から解き放たれる。

 俺たち劇団かしわもちは今日、投稿用の動画を撮っていたのだ。

 以前レオンと2人で撮ろうとして半端だった『闇の王の真実』をメンバーを増やしてフルリメイクである。

 ある意味続編と呼べるかもしれない。


「お母様、お疲れ様です」

「ですニャー」


 フラウ、くーちゃん、ニャーノさんがかしわもちに花束を渡している。

 映画とかの撮影シーンとかで最後にやってるあれっぽいことをして気分を出している。

 あとは編集作業があるが、皆でじっくりやっていく予定だ。


「お疲れ様、あなた」


「ああ、フラウもお疲れ様。いい演技だったぞ」


「ふふ、あれが撮影と見せかけた世界の真実と知っているのはわたしとあなただけ。いえ、わたしは自分すら騙して演技に入り込んでしまったわ」


 フラウが俺だけに聞こえるよう耳打ちしてきて、耳がこそばゆ気持ちよし。


「うむ、それでいいんだ」


 なにがいいかよくわからないけどヨシ!

 フラウはいつも通りに、中二病全開。

 俺も、そして仲間たちもそれに引きずられている今日この頃。

 ゲーム世界では、むしろそれが普通のことのように思えるので問題なし。

 いや、問題なしどころか、前よりいっそう楽しくなった。

 以前はこういうことに照れがあったのだが、最近は開き直って照れとか無くなった。


「ゆうすけ、げっこう、ほら、月見うさぎげっこう」


「それほんとすごい技術だよね」


「お母様すごいです。わたしも練習してるんですがなかなか……」


 かしわもちは今回の撮影用に編み出した、目玉焼きにうさぎを描く技を楽しそうに披露。

 先程の物語のエンディングのワンシーンに、かしわもちがウサギを思い出しながら料理をするシーンがある。

 あの部分はCGや編集を使わず実際にやっているのだ!

 そのために練習しまくった努力の結晶である。

 てか、練習してあんなこと出来るようになれるこのゲームがすごいとも言える。


「その目玉焼きはなにか特殊効果あるのですかニャー?」


「うん、耳が少し良くなって、隠れてる敵を見つけやすくなるよ。あとは街中限定でジャンプ力アップ。混んでるところで周りを見渡しやすくなるよ。ぴょーん」


 かしわもちが俺たちの背より高いところに飛び上がる。

 もともと背の低いホビホビ族は周囲見やすくするためにジャンプ力が高いのだが、さらに高く飛んでいて面白い。


「お母様、わたしにも食べさせていただけますか?」


「もちろんだよフラウちゃん。はい、素材の味を活かすために塩コショウでどうぞ」


「いただきます。美味しいですね。ふふ、猫もいいけどウサギもいいかも……」


 フラウがイタズラっ子の笑みを浮かべる。

 最近は表情豊かになってきて可愛さが増していると俺の中で評判である。

 そんなフラウが俺から離れていったかと思うと、俺に向かってダッシュしてきた。


「覚悟しなさいっ!」


 俺を殺そうとでもするように大ジャンプして跳びかかってくるフラウ。

 そのまま思いっきり抱きつかれて俺は後ろに倒れ込む。

 押し倒されるという幸せな形で俺たちは地面に転がった。

 ゲーム内だから痛くなくていいけど、現実でやられたら怖い……でもやってほしいそんな行為。


「フラウちゃん楽しそう! お母様、わたしにも焼いてください」


「うちもニャー!」


 最近積極的にユースにアタックしているくーちゃん。

 ニャーノさんもジャンプ力をアップして想い人に飛びかかる。

 このリージョンは女性支配です。


「はは……くーちゃんテンション高いね」


「うん!」


 ちっこいホピホピ族のくーちゃんが飛びつくのはなんともアクロバティック可愛い。

ユースは照れながらも嬉しそう。


「ニャーノ、好きだ」


「ウチもにゃ」


 レオンとニャーノさんはわりと人目を気にせずイチャついている。

 リアルでは男と男のはずだが、なんら問題は無い。

 あのまま末永く仲良くしていただきたいものである。


「あれー? この場合あたしは誰に飛んで行けばいいんだい?」


 かしわもちがポツンと寂しそうに、でもニッコニコ顔で言う。

 俺たち6人は一斉にかしわもちの方に向き直り、こっちに来てと手を広げる。


「えー、どこにしようかなあ。えーい、真ん中だー!」


 その場で真上にジャンプするかしわもち。

 俺たちはその下までダッシュして全員で受け止める。

 かしわもちはみんなのかしわもちなのである。


 いつものようにワイワイしつつ俺は思う。

 このまま何年先もこうしていたいなって。

 そのうち俺たちに本当に子供ができてかしわもちはおばあちゃんになって……現実でもゲーム内でもみんなで楽しく過ごすんだ。

 なんとなく……それは本当に叶うような気がしてる。


「なんだか嬉しそうね、何を考えているの?」


 フラウが俺に問いかける。

 このワクワクした気持ちを共有したい。


「少し未来が視えた。10年後か20年後か、さらに未来なのか……ここにはさらに人が増え、今のようなことをしているんだ」


「ふふ、最近はあなたの力が覚醒してきているもの。それはきっと真実。だってわたしもそうなる予感がするもの。2人ともが同じ予知をするならそれは真実よ」


「そうだな、間違いない」


 この予知は必ず現実のものになる……いや、してみせる!


「兄ちゃん、僕もそうなると思うよ」

「わたしもです」


「俺もだ、これだけの人数が同じことを思うならそれは確定した未来だ」

「確定ニャー」


「じゃああたしも予知しちゃうよー」


 全員で空を……楽しい未来を見つめる。

 このゲームを始めて本当に良かった。

 いつかサービスが終了する日は来てしまうだろう。

 でも思い出は永遠に残るんだ。


「よーし、今日もどっか行くかー」


「おー!」


 俺たちは一斉に走り出した。

 目的地は決まっていない。

 でも、そこが楽しい未来ということはみんなが知っていた……。

ご愛読ありがとうございました。

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