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選択の裏側

「アルフレッド、と…結婚したいと」

想像していなかったリリの台詞に、王の言葉が濁る。


「はい!アル様が王太子として頑張っているのを助けたいんです」

「それは、立派な心がけね。…ねぇ、聖女リリ。王太子の婚約者になるということは、今の聖女教育、淑女教育に加えて王太子妃としての教育も加わるということよ。貴女にこなすことが出来る?」

王妃は言外に「平民の貴女には出来ないでしょう」というが、それこそ平民のリリには伝わらない。

「はい、頑張ります!」


「君の意思はわかった、聖女リリ。追って連絡するので、本日は下がりなさい」

リリは拙いカテーシーをして、退室していく。


「はぁ、いったいどうすべきか…」

「…父上、聖女の選択は優先されるべきなのですよね」

グイードの言葉に、王は頷く。


聖女の選択は、人の生死に関わらないこと、国政に関わらないことならば、基本的に制限されず、優先的される。

もちろん、選択したからといって、なんでも叶えられるわけではない。

衣食住が保障される代わりに国の象徴として生きること、王族もしくは王族の近縁者との婚姻が強いられる。

聖女は、年数回の各地の神殿や年始の祭祀にて乙女を務めたりする。


そもそも聖女とは、神託と聖痕によって選ばれる。

神が選ぶ少女、神がまだこの地を見放していないと証明する存在が聖女だ。


今回の神託は「イヴェーロを13度迎えた娘が選ばれた。このまま、彼の花嫁にならないように」との言葉だった。

イヴェーロとは、この国で信じられている主神デュカンダの4姉弟の末弟であり冬と終わりを司る男神だ。

この神託はイヴェーロ…つまり冬を13回超えたことがあるということになり、彼の花嫁とは、死に迎えられないようにという意味だと神官たちは判断し、同時期にアイビーの聖痕をを持つリリが報告された。


「認めることは出来ないと断る理由を考えましょう」

「なぜですか、母上」

「なぜ?アルフレッド、貴方本気で言っているの?まさかと思うけど、聖女に惚れたなんて言わないわよね」

王妃はアルフレッドを睨み付ける。


「エカテリーナ嬢を王家に迎え入れることが出来ないのは、国益を損ねると断ればいいのでは?」

「エカテリーナ嬢と聖女どちらを王太子妃として迎えようと得られる国益としては変わらん。変わるのは、得られる国益の種類だ」


エカテリーナには10年間の王妃教育の成果と、内政外政の確かな知識がある。王宮で働くものとしては、エカテリーナが王太子妃になるほうが益が大きいだろう。


リリは聖女としての立場がある。民衆にとって聖女とは目に見える信仰だ。聖女を王太子妃として迎えれば、知らない侯爵令嬢を妃として迎えるよりも、民はアルフレッドに好感をもつだろう。

そして、聖女としての立場は外政としても役に立つ。知識・礼儀については多少目をつぶって貰うことも出来るし、これからの伸びしろもある。


聖女の選択を断るには、もっと明確な理由が必要である。

表向きとはいえ、リリを王太子の婚約者として迎え入れることが出来ない理由を作らなければならない。



「エカテリーナ嬢には、別の形で国政に関わって貰えばいいのでは?」

「兄上、本当に聖女に惚れたんですか?」

アルフレッドの発言に、グイードが馬鹿にするような言い方で質問をかえす。


「好き嫌いの問題ではない。効率の問題だ。現状、聖女と婚姻を結べる年齢の王族は僕たちしか居ない。ならば、彼女を婚約者として迎え、エカテリーナ嬢を聖女の教育係や侍女として迎えてそのサポートをしてもらえてばいい。

エカテリーナ嬢は一人娘だが、侯爵家では既に後継として養子を迎えている。婚約破棄をした場合、彼女は侯爵家へ戻ることは難しいだろう。かといって、爵位が釣り合う婚約者も居ない。だったら、聖女の、未来の王妃の侍女として仕えてもらうのがいいと思う」


これ以上ない案だと、アルフレッドは感じた。

王も乗り気な様子で頷く。

そうすれば聖女の人気も、エカテリーナの能力も国の為に使うことが出来る。


「ふぅむ、それも一つの案ではあるな」

「父上、お待ちください」


しかし、アルフレッドのその意見にティーガンが異議を申し立てる。


「アル兄さんが、聖女と結婚するっていうならそれでいい。けれど、エカテリーナ嬢のことについては、きちんとした手続きを行うべきだ」

「手続き…?」

「本人になんの過失もなく婚約破棄された令嬢に対する当たり前の対応ってことだよ。婚約破棄の通達や慰謝料の支払いとか…そういった、当たり前の対応をしたあとに、次の選択肢を出すべきでは?」


ティーガンは、王、王妃、そして2人の兄の顔を見つめる。

「当たり前のことですよね、父上。エカテリーナ嬢はモノではないんだから」

語気を強めながら言うと、4人はしぶしぶという形で肯定を示す。


「そもそも、一度迎え入れた令嬢を聖女の選択とはいえ手放すのですから、次の選択に王家は関わるべきでないと僕は思いますが」

「それでは、エカテリーナ嬢の10年間の王妃教育はどうなるの」

「その責任を問われるのは、王家であってエカテリーナ嬢ではないですよね」

10年間息子二人の婚約者の王妃教育の一端を担っていた王妃が一番エカテリーナの資質を手放すのが惜しいのだ。

彼女を正妃とし、聖女を側妃として迎えることが出来れば一番だが…聖女を側妃とした場合、正妃派と聖女派に別れることになるだろう。

無駄に王宮に派閥争いを起こしたくはない。

それに、学園入学前に聖女の婚約者を発表したいという考えから、この時期に婚約者の話を持ちかけているのだ。

婚姻を結んでいないのに、初めから側妃を迎える前提で話は出来ない。


だから王妃は聖女を王太子妃とし王太子妃の未来の王妃の侍女として、エカテリーナが政治に関わることが一番望ましいと思えた。


「エカテリーナ嬢へ選択肢を用意するというなら、俺の婚約者として残って貰うこともできますか」

「グイード、お前何を言っている」

「兄上もわかっているでしょう。彼女の能力をもってして侍女だなんてもったいない。第2王子とはいえ王子妃の方が力を発揮できるのでは?」

グイードは挑発するようにアルフレッドを見る。

エカテリーナがグイードと婚姻を結ぶ場合、エカテリーナの生家であるコリンズ侯爵家は第2王子派になるだろうか。

コリンズ侯爵の考えはわからないが、グイードが王太子になる可能性は今よりもぐっと上がるだろう。

だからこそグイードはこの選択肢を提案したのだから。


「リスティー嬢のこともある。そう簡単には出来ん」

「父上、それはわかっています。ただ、聖女を兄上の婚約者とする場合、エカテリーナ嬢の婚約破棄は必ず起きます。それなら、俺の婚約も破棄し、エカテリーナ嬢と新しく縁を結び、リスティー嬢をティーガンの婚約者とすると一斉に発表するのもいいのではないですか」

そうすれば、1つ1つの婚約破棄が目立つことはない。とグイードは続ける。


「ふむ…」

王は考えるように目をつむる。

アルフレッド、グイードどちらの意見も、今後のことを考えるとどちらも捨てがたい。

むしろ、そのどちらかで行くべきだと考える。

国としての国益を考えた場合、それ以上はないだろう。

ただ、エカテリーナ嬢がどちらにつくかによって、王太子派、第2王子派に影響が出るだろうと。


(これも、王としての資質の一つか)


アルフレッドとグイードどちらが自分の陣営にエカテリーナを引き込むことが出来るか。


二人の王子はにこやかに笑いながらお互いを見つめあっている。

その二人を外側から見つめるティーガンは、苦々しげに眉をひそめた。





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