戦争兵器“ダウンロードゲーム”
「やるゲームを決めるのにさ、僕は最近、そのゲームの製造元がどんな国かってのを気にするようにしているんだ」
そう友達が言った。
俺の家にそいつは遊びに来ていて、俺が「このゲーム面白いんだよ」と言って、パソコンの電源を入れたタイミングだった。
「どうしてだよ?」と俺は尋ねた。
俺はそんなのを気にしてゲームを遊んだ事はなかったからだ。
「だってさ」と、そいつは言う。
「その国の法律がどうなっているか分からないだろう? ゲームって個人情報とか登録したりするんだぞ? もし、法律が甘くって自由に利用できたりしたら怖いじゃないか」
俺はその説明に肩を竦めた。
「気にし過ぎだって、そういう話は偶に聞くけどさ、何か問題になった事なんてあるのか?」
「あるかもしれないじゃないか。知らないけど」
友達は俺の態度に不服そうな顔をしていた。
「それに、」と続ける。
「もし仮に、そういう話がなかったとしても、それは上手く隠しているだけなのかもしれないぞ?」
そう友達が言っている間でパソコンが立ち上がった。俺はパソコンにインストールしてあるゲームを起動させる。それを見ると、そいつは少し驚いた顔で言った。
「そのゲーム、C国のやつじゃないか。パソコンにインストールしちゃっているのか?」
大袈裟な反応をする奴だと思いながら、俺は返す。
「そうだよ? 何か問題あるのか?」
「C国は法律で企業の情報を自由に使えるってなっているんだぞ? しかも、チート対策で入っているアンチチートプログラムは、スパイウェアまがいの代物だ」
俺はそれを聞いて再び肩を竦めた。
昔から、こいつには少々心配性なところがあるのだ。
「だから気にし過ぎだって。パソコンであの国のゲームをやっている連中なんて山ほどいるぞ?」
俺の説明に納得がいかないらしく、友達はこう反論して来る。
「だから、上手く隠しているだけかもしれないだろう? それに、皆がやっているからって安全だとは限らないぞ? 突然、危険なプログラムをアップデートで入れられる可能性だってある」
「大丈夫だよ。世界中の人間が、ゲームを監視しているんだぞ? 問題があったら直ぐにバレる」
「バレるまでにはタイムラグがあるだろう?」
「しつこいよ!」
俺だけじゃなく、世の中のたくさんの連中がC国のゲームで遊んでいるんだ。問題があるはずがない!
ところが、そんな事を俺が思っているのを察したのか、それからそいつはこんな事を言って来るのだった。
「“赤信号みんなで渡れば怖くない”とも言うぞ。むしろ、みんながやっているからこそ危ないのじゃないか?」
俺はそれに何も返せなかった。
良い反論が思い浮かばなったからだ。
ただ、だからといってそいつの忠告には従わなかった。やっぱり気にし過ぎだと思っていたからだ。
一回でも悪用すれば、その会社はほぼ終わりだろう。そんな馬鹿な真似をゲーム会社がするとは俺には思えなかったのだ。
もっとも、仄かな不安を感じてはいた。
例えば、「悪用するのは一回だけで良い」のだとすれば? 会社が潰れそうで、最後に個人情報を盗んで何かやらかすとか……
いや、ま、やっぱり考え過ぎか
それからしばらくが経った。
俺はその時の議論をすっかりと忘れていて、相変わらずC国のゲームをパソコンで遊んでいた。最近、この国とC国の関係が悪化して、軽くではあるが軍事的な衝突してすらいたが、問題なくゲームは遊べていた。やっぱり気にし過ぎだったんだ。何事も起きない。
が、その日は違った。
パソコンを立ち上げると、いきなり画面全体が真っ赤に染まったのだ。
何だ?
俺はそれを見て軽くパニックになった。何が起こったのかまるで分からない。しばらくが過ぎて画面に文字が現れる。そこにはこのように書かれていた。
『遺憾ながら、貴君の所属する国家は我が国と敵対し、不当な要求を我が国に対しし続けている。その為、貴君のパソコンは人質として、使用不可能にさせてもらった。貴君の所属する国家が、我が国への敵対行動を止めない限り、機能は正常には戻らない』
「……嘘だろ」
と、それを見て俺は茫然となりつつそう呟いた。
急いでスマートフォンで検索をかけて世間がどうなっているのか確認してみる。誰かの悪戯やどっかの企業の悪さではない。国中で似たような事が起こっている。
C国のゲームで遊んでいた連中は、ほぼ全員、パソコンが使用不可能になっているらしかった。いや、そればかりか、情報を盗まれてもいるらしい。
俺はそこにいたって、ようやく自分が仄かに抱いていた不安の正体が何であるのかに気が付いた。
C国のゲームが国内に蔓延している状態で、もし、C国製のゲームが一斉に危険なプログラミングをアップデートしたなら、ゲームに対する監視も何も関係ない。
そして、パソコンは現代において既に社会を成り立たせる上で重要なインフラとなっている。
そう。
それはつまりは、直接的な攻撃の手段ですらあるのだ。
「ゲームが、戦争兵器になるなんて」
俺は愕然となりながら、そう呟いた。
少なくとも、原理的にはこういった事も可能です。有事の際に悪用される危険性もそろそろ考慮すべきじゃないでしょうか?