二人は出会う
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レイブランド国の兵士たちは、なんだか物々しかった。これから国境を越える。ここから先に、アリアディールの人間は許可なく入ることは出来ない。
ジルベルト様達とはここで本当にお別れだ。
「今なら間に合います……。年老いた王に貴女を奪われるくらいなら、俺は国を捨てたって良い」
ジルベルト様がそんなことを言ってくれる。幼いときから、正義感がとても強い人だった。そこまで私を心配してくれることに感謝しながらも「いいえ」と一言だけ伝える。
その時に、王の来訪が告げられた。私以外の全員が臣下の礼をとる。私は妃として迎えられるため、一人正面で優雅に見えるよう気を使いながら礼をした。
私の目の前に誰かが立った気配がした。それなのに、いつまでたっても声が掛けられることがない。まさか、何かすでに不興を買うようなことをしてしまったのだろうか。
それとも祖国で気味が悪いと良く罵られた、ピンクブロンドの髪がお嫌だったのだろうか。
そんな私の戸惑いは「ミア」という一言ですべて吹き飛んでしまった。
許しを得ていないのに顔をあげてしまった私と、呆然と瞳を見開いてこちらを見るアメジストの瞳が交差する。
「騎士様……」
黒騎士様は、レイブランドのお方だったのね……。黒騎士様のいる国で、私は王の側妃として過ごしていくのかと、心に暗い影が差すのを感じた。
そんな気持ちを誰かが察してしまったら、黒騎士様の立場が危うくなってしまうかもしれない。私は聖女の微笑みとよく言われた笑顔でその気持ちを覆い隠す。
「ユーミアと申します。アリアディールからレイブランド王に嫁ぐため参りました。国王陛下はどちらにいらっしゃいますか」
「先代の国王は崩御した。俺が、現国王のアランだ」
まさかの黒騎士様は国王陛下だった。そのまま、アラン様が私の足元へ跪く。国王陛下がたかが属国の姫君に跪くなんて、周囲が息をのむ音が聞こえてくる。それはそうだろう。私自身が一番驚いてしまった。
「ユーミア姫、あなたのことを以前からお慕いしていたかのように……。これは運命なのでしょうか。どうか俺の妃としてともに歩んでいただきたい」
「あの……私は」
「ああ、ミアと呼んでも?」
「は……はい」
なぜか、魔女がひどく楽しそうにクスクスと笑っている姿が脳裏に浮かぶ。こうなることを魔女は知っていて、砂時計を私にくれたのだろうか。
「俺のことはアランと呼んでください。貴女だけに俺は跪く、そしてこの名を呼ぶのを許すのも貴女だけです。愛しいミア」
なぜ騎士様がこんな風に目の前にいるのか、あまりのことにまったく理解しきれないのに。
目立たないように生きてきた。日陰の姫であるはずの私の運命は、この日から目まぐるしく、激しい波の中にいるように変化してしまうのだった。
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