黒騎士2
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いったいこれはどういうことなんだ。
気が付くとミアの前にいるのは三回目だから流石に慣れてきた。
ミアは何でこんな腕の立ちそうなやつらと対峙しているんだ。
総毛立つ感覚がした。時間がない。
過去二回とも、ミアと一緒にいられたのはほんのひと時だった。
おそらく砂時計が落ちる程度の短時間だ。その間にミアを取り囲む敵を倒さなければ、恐らくミアの命は散ってしまうだろう。
その瞬間、ミアが後頭部に打撃を受けて倒れていく。淡いブルーの瞳と目が合った気がした。
「助けてみせる」
こんなに、強く決意したことがあっただろうか。たとえこの身がどうなろうとも、ミアだけは誰にも触れさせない。もともと、誰よりも剣の腕には自信がある。最後の一人を倒しきって、ミアを抱き上げた。
温かくて、柔らかくて、とても軽い体だった。
こんな軽い体で、それでも敵を見る目には諦めが見受けられなかった。
そんな姿さえとても好ましい。
御者がこちらに駆け寄ってきたので、そのままそっとミアを横たえる。おそらく時間だ……。この後追手が来る可能性もあったが、遠くに見えるのはおそらくミアを守る護衛の騎士だろう。一瞬、その騎士と目が合った気がしたが、次の瞬間には再び執務室に座っていた。
「……本当に、ミアはなぜあんな目にあっているんだ」
それに随分と長い旅をしているようだった。国中を探させているが、まだミアの情報は俺の元に届かない。いったいどこの御令嬢なのか。
安全な場所に閉じ込めてしまいたいという欲求が心のどこかにある深く暗い沼から浮き上がってくるようだった。
どうしてこうなってしまったのか、自分にもよくわからない。こんな気持ちを俺が持っていると知ったら、あの優し気なミアは眉をひそめるだろうか。
「そろそろ、アリアディールの姫君を迎えに行かなければならないな」
アリアディールでは聖女の血を引いた姫君が正統な後継者のはず。そして貴族と平民の隔たりの大きい国だ。聖女で王女。どれだけ甘やかされて育った高慢な姫が来るのだろうか。
顔も知らない姫君を迎えに行くより、ミアを迎えに行きたいが……。
ため息を一つつくと、手早く装備を整える。ミアと出会った時に、いつでも守ることができるようにいつの間にか、気が付くと剣に手を添えている自分に苦笑した。
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