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砂時計と黒騎士


 空っぽの砂時計を手にして、気が付くと自分の部屋へと戻っていた。

 魔女との出会いは、夢の中のようだと母が言っていたけれど本当のことだった。

 それでも、私の手の中には銀の栞と空っぽの砂時計が握られていて、過ごした時間が確かに現実のものだったのだと、教えてくれていた。


「これ……貰ったけどどうすればいいのかしら?」


 色々な角度から砂時計を眺めてみる。

 その瞬間、キラキラと光が瞬いて、不思議なことに光でできた砂粒が砂時計の中に現れた。私は驚きながらも、まるで何かに突き動かされるように砂時計を逆様にして机の上に置いた。


「きれい……」


 光の粒が零れ落ちていく。それはまるで、いつか読んでもらったお伽噺の中の砂漠の砂が夕日に照らされる光景のようだった。

 母からの贈り物としてこれから先の人生、時々眺めることができるだけでもとても幸せなことだと思えた。


 ────でも、魔女からの贈り物がそれだけのはずなかった。


 私は、目をこする。砂時計を机に置いて振り返ると目の前には黒い鎧を身に纏った一人の騎士が立っていた。そのまま、騎士が私に向かって倒れこんでくる。慌ててその体を支えたけれど、荒い息遣いと血の匂い。ひどい怪我をしているようだ。


「あの……大丈夫ですか」


 その瞬間、剣を首元に突き付けられる。


「誰……だ」


(何が起こったのかさっぱりわからないけれど、この人を助けたい)


 幸いなことに、私は回復魔法が得意だ。


 そしてフルフェイスで表情の見えない騎士に害される未来は、首元に刃を突き付けられているのに、不思議とこれっぽっちも浮かばなかった。私の勘は聖女だった母ゆずりなのか、未来視に近く良く当たる。


 ────ミア!


 その低い声で懐かしい愛称を呼ばれた気がした。初対面だから、そんなはずないのに。


「それよりも、助けなきゃ」


 金色の回復魔法特有の光が、黒い鎧の騎士を包み込む。


「これで、きっと大丈夫です。この鎧のせいで傷が全く見えないので心配ですけどね。痛くなくなりましたか?」


 フルフェイスの兜のため、その表情は見えないけれど、まるで不思議なものを見るように黒騎士様が自分の手を見つめた。そして、勢いよく私に詰め寄る。


 元気になったみたいで何よりだ。


「君の名前を教えてくれないか」


 黒騎士様に名前を聞かれたから答えたいと思った。でも、それよりも砂時計の砂が落ち切ってしまう方が先だった。

 砂が落ち切るのと同時に、私の目の前から誰もいなくなる。床に落ちたはずの赤いシミさえ跡形もなく消えてしまっていた。


 再び静かな室内に一人取り残される。


「夢でも見たのかしら……?」


 私は呆然と、黒騎士様が消えてしまった空間を眺めた。夢ではないと主張するみたいに胸がドキドキと激しく高鳴っている。


「すごい……理想の騎士様が目の前にいた」


 アリアディールでは、黒い鎧なんて悪の象徴だと忌避される。色ひとつでそんなことないのに。


 もしかしたら、これは初恋もまだだと言った私への魔女からの贈り物だったのだろうか。


「明日……この国から離れて嫁ぐのに」


 諦めていた。でも、こんな風に誰かの事を思ってしまったその瞬間から、義務として割り切ることができたはずのそれが、とても苦しいことのように感じられる。


 もし叶うなら、嫁ぐ前にもう一度だけ会いたい……。できれば元気な姿を見せてほしい。


 空っぽになってしまった砂時計を握りしめて、私は眠りについた。


 もし叶うのなら、少し低いあの声をもう一度聞いてみたいと思った。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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