魔法の力は無限ではなく。
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目を覚ますと、目の前にルナがいた。
「――――あなたも、あなたのお母様も無茶ばかりするから嫌いです」
黒い瞳と黒い髪のルナが言う。
どうしてすぐに気がつかなかったのだろう。こんな髪色と瞳を持った人は、この国にはほとんどいないのに。
「ごめんなさい」
起き上がった瞬間、額に当てられた濡れた布が落ちる。それはまだ、冷たくひんやりしていた。
「――――魔法は、無限に使える力じゃないんですよ? ユーミア様は、大神官にもそんなレベルの魔法を使ってはいけないと言われたでしょう? それは……あなたが聖女であることを隠すためだけじゃないんです」
「ルナ?」
「多くの結果を得るためには、やっぱり対価もたくさん必要になるんだから」
音もなく、ルナが私のそばに歩み寄る。私の頬に触れた手は冷たくて。たぶんそれは、私の額を冷やしてくれた布を絞っていたせいだけではないように思えた。
「魔法を使わない善意すら、対価の対象になる。私の不便すぎる強力な力とは違うのだとしても」
ルナの瞳がゆらゆらと揺れている。
この瞳を知っている。たくさんの悲しみを見てきた人の……。
「まあ、その力も陛下のために使うのは仕方ないでしょうね? そうでなければ、きっと釣り合いが取れないでしょうから」
「え?」
――――急に何の話なのだろうか。
「まあ、私としてはハッピーエンドの方が好きだから、二人のことを応援しているけれど」
「そう……。まあ、私も幸せな結末の方が好きだわ?」
フォード様は、もうアラン様に追い付いたのだろうか。早く戦など終えて帰ってきて欲しい。
「……まあ、じきに帰ってくるでしょう。……あなたの願いが叶いますように。さて、でもやっぱり夢を引き寄せるためには努力が必要ですね。お勉強の続きです」
そう言うと、ルナはどこから出してきたのか、古いものから新しいものまで分厚い書物を机の上に積み上げた。
勉強するのは嫌いではない。でも、お妃教育を短期間で終えることの困難さを、この本の山が表しているみたいだ。
私はそっと、砂が入ってない砂時計に視線を移す。この砂が落ちていないと言うことは、きっとアラン様も無事でいるに違いない。
――――それなら私も、目の前のことを解決していくのがいいに決まっている。
私は机の前に座ると、一番古びた一冊の本を広げて勉強を始めた。
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