信頼のおける侍女
アラン様が出かけてしまうと、何もない室内はひどく寂しく感じる。
さっきまで、アラン様がいたベッドに思わず頬を寄せる。
ハーブのようなさわやかな香りが鼻腔をくすぐった。
――――どうしよう。もうすでに会いたい。
そのとき、控えめなノックの音がした。
「どうぞ……」
振り返ると、おとなしそうな見た目の侍女服を着た女性が立っていた。
「本日から、ユーミア様付きの侍女を拝命いたしました。ルナと申します」
二つの三つ編みにまとめた黒髪と黒い瞳を、なぜだか懐かしく感じたけれど、この人がアラン様が信頼できると言っていた人なのだろうか。
「まずは、お召し物をご用意いたしますね」
そういって、ルナは手際よく私の髪の毛や衣服を整えてくれた。
ある程度であれば自分でできないこともないのだけれど、ドレスは装飾品が多く、コルセットを締めるのも自分ではできない。
「それにしても、あまりにも殺風景ですね?少々お待ちください」
そう言って消えたルナは、次に現れた時には小さなテーブルと可愛い装飾の椅子。そして軽食と紅茶をもって戻ってきた。
「この部屋には休む場所もないことに気が付かないとは。まあ、ご自分の事もおざなりでしたし、本当に戦いとユーミア様を愛すること以外はダメなお方ですねぇ」
「え……?」
アラン様のことよね?
国王陛下に対して、そんなことを言う人を初めて見た私は、思わず瞳を瞬いた。
「ゆっくり召し上がっていてください。その間、私にもすることがありますので」
ミルクが入った甘い紅茶をちびちびと飲んでいる間に、あっという間に模様替えされていく室内。いつの間に用意したのだろう、カーテンも暗い色彩の重厚なものから、レースをあしらった可愛らしいものに、窓際には美しい花が飾られて、ベッドカバーも明るい色に変更される。
そして、私の向かい側にはもう一つ、椅子が置かれた。
朝食を食べるほんの短時間の間に、陛下の私室はまるで違う部屋のようになった。
「すごい……ルナは有能なのね」
「これくらいは。……これは少しお釣りが残ってしまいそうなのでサービスです」
「え……?」
「いいえ。ユーミア様にお褒めいただき光栄です」
そう言って一礼し、年に似合わず艶然と微笑むルナに一瞬見惚れる。
「さあ、陛下が戻ってくるまでにこの国の歴史と文化、貴族の名前と関係。それから妃としての心構えをお教えしますね」
「え?ルナが教えてくれるんですか?」
「ええ……私は何でも知っていますから。それに、ユーミア様が王族と結婚した場合にと前金でいただいてしまっているので」
陛下とルナの間に何か取引のようなものがあったのだろうか。
私は不思議に思いながらも、ルナの見た目と違ってスパルタな詰め込み教育に真剣に取り組んだ。
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