陛下は聖女に癒される
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戦勝祝いの席で煽った毒は、解毒剤と聖女の回復魔法で癒された。
ミアの側から戻ると、そこは元の控室だった。そのままアランは会議場へと引き返す。
今回の議題は戦争の終結講和条約。
そして正妃を迎えることについてだった。
「それで、異論がある人間はいるか?」
戻ってすぐに体調不良のかけらもなく、不敵に笑うアランを前に意見をする者はもういない。
直前に全員の目の前で毒杯を煽ってみせている。
それを知っている者の顔色は幾分か悪いようだ。
ミアを正妃に迎えるにあたり、反乱分子は始末しておく必要がある。
特に父の代からの重臣たちにとって、自分の方向転換が面白いものではないという自覚がアランにはあった。全員の表情や挙動を隈なく確認する。
まあ、すぐに死ぬような毒ではなかった。
毒が入っていると分かって飲まないことで、祝いの席での作法も知らない国王だと難癖の一つもつけようとしたのだろうが。
「それでは閉会とする」
踵を返してアランは会議場から去る。
会議場にいた一部の人間の運命は、既にアランの中で決定していた。
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私室は、アラン以外は入ることができない。
今まで誰も入れたことはなかった。
だが、今日からは違う。たった一人、入ることのできる人間が現れた。
ミアと初めて出会った時は、兄弟達の裏切りにより命を落としかけた。そして、王宮の中でも子どもの頃からいつも命を狙われてきた。
──命の価値が低いこの場所は、ミアにとって過ごしやすい場所ではないだろう。いや、王宮で育ってきたミアにとっては、当たり前の環境か。
短く息を吐いて、扉に手を掛ける。ミアの様子はどうだろうか。
ドアを開くと予想に反してすごい勢いでミアが腕の中に飛び込んできた。
「無茶ばかりする人は嫌いです!」
嫌いと言いながらも、半泣きでぎゅうぎゅう抱きついてくるミアは、アランのことを全く恐れていないらしい。
初対面からそうだった。
ミアは首元に刃を突きつけられてすら、恐れることもなくアランのことを癒してくれた。
「ああ、すまない」
誰かにこんな風に心配されることなど受け入れられないと思っていたのに。
アランはそっと、ミアを抱きしめ返す。
「温かいな……」
この温もりを守るためなら、どんな手でも使うとアランは密かに誓った。
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