②-3-1
魔物はいなくなったが王都の混乱はしばらく続いた。
俺は全く気付かなかったが、王都には今が好機と謀反にやってきた兵たちが詰めかけていたらしい。
全てプロパドールの仕込みらしく、奴のシナリオでは今回の騒動で王都は陥落し王家は処刑され断絶し姫は一般人になる予定だったとか。
勇者は魔王を倒し姫を救い出すという宿命を持つ存在であるため、その根底を覆してしまえば魔王が完全復活するまで勇者に姫を奪われることなく時間が稼げるとジュラが考えたようだ。
王都の聖域結界機能が回復した今、王家に害意を持つ者をはじくことは容易い。
現在絶賛王立騎士団らによる反乱軍の殲滅掃討戦の真っ最中。今回の粛正によって貴族さんらは大幅に減ってしまうのだろうなぁ。
「これはまた出世を押し付けられるパターンかもしれない」
辺境伯の次はなんだ。侯爵か? 権力的には同じで呼び方が変わるだけだな。
まぁ姫の責任を取らされて王家の身内になっちゃうことは不可避だからそんな感じのが妥当だろう。
何も無かったフリをして逃げられる事態ではない。でもヤってもいないのに子供が出来てそれを認知しなきゃいけないとかひどいと思うんだ。
いや姫が嫌いというわけじゃない。俺的には姫に対して悪い感情はない。むしろあの優れた容姿は俺にはまぶしく俺なんぞにはもったいないと思えるし、彼女との結婚を発表すれば世の男どもから嫉妬を集めること間違いないだろう。ちょっと性格がアレだけども。
俺が嫌なのはそこじゃない。嫌なのは彼女に紐づく権威という奴だ。
王族になるのは嫌だ。そんなものただの腹芸大会の代表ホストではないか。下々に働かせて財を吸い上げ、持て余した時間でマナーだの貴族の規範だの非生産的な技術に血道をあげてマウントを取り合うお仕事。相手の腹を探り合う技術に磨きをかけいかに自分の優位を築くため相手を騙してやろうかということばかりに懸命になってる暇人。
そんなの絶対に嫌。
そんな生活は耐えられない。無理だ。嫌だ。魔王討伐の旅の方が百倍マシ。
――それに今の俺には、なさねばならないことができた。
そう。今の俺は魔王復活の事実を確認してしまった勇者という立ち位置だ。
結婚どころの騒ぎではない。式を待たずに単身赴任確定である。結婚即日で単身赴任確定案件である。これはもうダールに頼むしかない。俺の手には負えない。王への報告とか一切合切丸投げしたい。助けてダルえもん!
姫がどうなるかは今後の容態を観なければはっきり報告できないし、姫を危険にさらしたことについて責任を問われるだろうから丸投げってわけにはいかないだろう。でも俺には無理。
俺はそれをダールに伝えさせるべくダールの商会へ行ってみた。
するとダールはいなかった。店の者もいつ帰ってくるかわからないという。
この非常事態だ、もしかしたら王宮にいるのかもしれない。
ならば王宮に向かうか?
いや、ダールを探しに王宮へ行くなど本末転倒だ。この件は出来るだけダールに処理させなければならないのであるからにして。
そういうわけで俺は店の者に伝言を残し直帰である。
「あの、じゅうきゅ……アトラス。私もついていってもいいですか?」
その提案はネイルズ時代の後輩からであった。
「? ……何故に?」
「え? えっと、その……人手が不足していませんか? もしよければお手伝いをと」
「あぁ、そういうことか。それならぜひお願いしたい」
人手、マジ足りないっす。主に姫の面倒を見る人材が。
人間の世話は人間の方がいいに決まっている。プロパドールとか何をしでかすかわからない雰囲気あるし雌鶏に任せるなど論外、絶対に無理だ。
であるならば。そうだな、彼女にはお礼代わりに彼女の仲間の仕事の世話でもしようか。もし同意が得られるなら回復後王女の世話を手伝ってくれると助かるし。
俺は自称魔法少女の後輩の申し出をありがたく受け入れ、プラス提案をする。
「はい! みんなにきいてみます! ありがとうございますじゅ……アトラス!」
良い笑顔でお返事してくれる後輩ちゃん。名前呼ばれるのなんか久しぶり。
船に乗ってきていた烏女らに指示して姫様と意識のない後輩ちゃんの仲間を船に収容。
パンデモニウムはプロパドールに浮遊機能の応急修理を終え次第キルヒギール領へ移動させるよう命じた。
「勇者。ボクはどうしたらいい?」
「お前は……船で寝てろよ。出来れば永遠に」
「添い寝は得意。夜伽はもっと得意。まかせて。咥えるのもお手の物。おしゃぶり姫しずかちゃん(新)とはボクの事」
「おいそのエロゲネタはやめろ。ドラえもん(新)さんのファンにぶっ飛ばされるぞ。サイダーの瓶でも咥えてろよほら、大和サイダーやるから」
「……しゅわしゅわして、新食感。美味しい」
はぁ。俺の自由な日々が遠のいていく。
人生の重荷だけが増えていくのを感じますちくしょう。




