②-2-1
繋留流産。
本人に自覚症状はない。
子宮内に胎児の姿はなく、胎囊だけがそこにある。
この世界の医療に子宮内容除去術は存在しない。
回復魔法は細胞の再生であり、寄生型異物の除去には対応できない。今姫の腹を掻っ捌いて異物を除去しそこに回復魔法をかけたならば、異物も一緒に再生してしまうだろう。
異物という概念は第三者の認識であり、本人にとってはもはやそれは自分の一部なのだ。それが出来ればがんという病で人が死ぬことはないだろう。
「一つだけ方法がある」
ノアは自らの心臓を差し出し、姫の救出案をちらつかせる。自分の要求を受け入れるなら手を貸そうというスタンスだ。
要求内容はプロパドールと同じもの。亜神の心臓は亜神の行動の全てを縛る。それを差し出す行為は絶対の忠誠を捧げるに等しい。俺にデメリットは何もない。
だけど何かやなんだよそういうの。気分的なアレで。
「お前は逃げられるだろう。俺の前に立ちはだからなければ俺にはお前を追ってまで討伐する理由がない。もし姫を助けてくれるというなら、お前に一度だけ助力してもいいとすら思っている」
「勇者がボクの心臓を縛ってくれない限りボクはまた縛られる。亜神は十六闘神には逆らえない」
「なるほど。そういうものなのか」
確かに次敵対されたら殺さなければならない。保護という意味を理解し、俺はノアの心臓を受け取り呪いをかける。プロパドールと同じくこの場でノアも眷属化した。
「彼女の妊娠は普通ではない。だから対抗するには非常手段で攻めるしかない」
「非常手段……それは、どのような?」
「強制睡眠姦」
「は?」
「寝てる女にズコバコ」
「わかりやすさの問題じゃない!」
ノアが提案したのは精流天破というスキル。
それは夢精転送を打ち破る唯一無二の神の奇跡。
十六闘神エイレテュイアの御業――魔闘気によって因果改竄空間を作り出し、夢精を転送したという事象の夢精部分を別の精にすり替えるという概念魔法。それによって魔王だった細胞は組み替えられ被術者は新たな精による通常妊娠状態となる。
それはまさに中絶を許さない神らしい御業。遺伝子情報をまるっと書き換えるというまさに生命誕生の根幹を揺るがす秘術。
「なるほど……そういうことですか」
「ッ?! 知っているのかプロパドール!」
「ええ、聞いたことがあります。確か、遥か昔、托卵気を極めた魔闘琉拳の使い手に神が与え、その後は一子相伝によって口伝されていた技だとか。あまりにアレな技なので封印され歴史とともに風化し技術は既に失われたものと考えていたのですが、まさかこの時代にまで後継されていたとは――」
「なんてたくらんけな技だ」
「だけど、これ以外に姫を救う手立てはない。稽留流産を放置しておくと、進行流産に移行して、大量出血と強い痛みが出る。さらに放っておけば、夢精転送で作られた胎囊に、母体は魔力中毒を起こす。そうなれば、母体の命は、助からない。姫は死ぬ」
「なんと、いうことだ……まぁ、話は理解した。では具体的には何をどうすればいい? まずは何から始めたらいいのだ?」
「生死を彷徨う彼女を助けるのには精子がいる」
「……そ、そうか。ならばすぐに姫に相応しい貴族をさがして――」「魔王の術を打ち破るには勇者の精子が必要。それ以外では助からない」
「な?! ……んだと? そんな馬鹿な!」
「体を回転させる必要があるから、注入にはボクがバックアップする」
「待って何その方法、無茶苦茶だよ!」
急に目を伏せ顔を赤らめる不死鳥の亜神。すごくもやもやする。
「安心して勇者。処女膜を破って彼女の子宮を精子で満たすだけ」
「給油か! レギュラー満タンか! いや違うそうじゃない、そういう突っ込みをしている場合ではなく手だな――」
「まさか勇者、認知を拒否? それは許されない。この交尾は神々の儀式。やり逃げは人としてどうかとも思う」
「違う! そういう事じゃない!」
「大丈夫。介添えは任せて」
「それもいらない! そもそも俺にはスキルがある、重力制御も回転も問題なく行えるアオシフラッシュというスキルが」
「そう。理解した。ならお母さまを呼ぶから勇者は勃起してて」
「観客増えるの?! そういうのどのくらい来るの? じゃなくてなんで俺が公開処刑されなきゃならんのだ!」
くそっ! なんて日だ!




