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さしゅごしゅ! ~好き好き大好きご主人様~  作者: にーりあ
第二章 目覚めよと呼ぶ声が聞こえ。晴耕雨読な『二度寝の人生』を決め込むぞっ!

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幕間①-3 メタトロンの失墜

悪魔王に王都を襲撃させ、妖精王に姫を拉致らせた。


魔王は私の警告を一応気にしていたらしく保険をかけていた。


その術式は『夢精転送』


魔王の作ったオリジナル魔術究極奥義。


その真髄は、無より転じて生を拾うこと。


実体を捉えられない無の状態から、意思を持たぬ姿無き精を放つ。


相手はただ防ぐ手立てのない無想の精をその胎内に受ける。


哀しみを背負った者のみが成しうるとされている魔道の究極。


「流石魔王。その高みに、よくぞ辿り着いた」


魔王が何故、そしてどうやってその境地に至ったのかはわからない。


けれどよほど絶望的に悲しい出来事があったのだろう。


絶望は人を成長させるという。


魔王も、例外ではなかったという事か。


女の身としては凄く怖くて気持ち悪くてサブイボでたけどまぁいいだろう。


姫に宿った魔王の分身。


たった一つの要塞(モンモン・ランシー)が億の攻撃から逃れられる術はない。


着床し鳴動しているそれは間違いなく魔王である。



「処女受胎?」


「そうだとも。さぁ妖精王ノア、彼を祝福してくれたまえ。君は十六闘神が一柱、エイレテュイアの使徒だったろう?」


「そうだけど、これは、なんか違う」


「何が違う。生まれようとする一つの生命に正解も不正解もない」


「人は、こんな産まれかた、しない」


「ふむ。確かに。だがノア。彼だって数多あるヒト科の人型なのだ。霊長類に違いはない」


「かあさまは、たりないって、いうと思う」


「何が足りないのかね」


「……あい?」


「プッ!」


「……きたない」


「失礼、思わず吹き出してしまったよ。なるほど愛か。しかしノア。私は思うのだが――」


受胎に愛が必要なのか。愛の結果行為に至って受胎というのはわかるが――。


私はそう考えてすぐに思い直す。


そして言葉にする。


「恐らく、愛はあったのだろう。でなければ悲しみは起こりえず、そうなれば彼の術式は完成を見なかったはずだ」


夢精転送とは哀しみを背負った者のみが成しうる業。


私には想像も出来ないが、きっと魔王には――彼には――愛があったはずなのだ。


「精子だけを、飛ばす愛?」


「そうではない。精子を飛ばすに至るその過程に――むぅ? 令術が……どうやら悪魔王が敵の手に落ちたようだ。長居は無用だな」


私は伏魔殿の転移準備をする。


悪魔王にかけた勅令印が破壊された今、彼の安否は絶望的と言っていい。


まさか王国にアレを退けるだけの戦力があろうとは。


それとも世教教会大僧正ダールの絶対魔法破壊か。


――奴は今、例の件でここを離れていると思ったが。しかし、まぁいい。


既に魔王は我が掌中にある。飛車角の片方を落としはしたが全く問題はない。


「さっさと帰るとしよう。帰ったらお産の準備だ。……しかし、私も長いこと生きてきたが、処女の出産を見るのは初めての経験だな。刮目して見よう」


「いい趣味では、ない」


「学術的興味だ。魔王でもあるまいし」


伏魔殿が転移シークェンスに入――ろうとしたその時。


周辺警戒モニターに巨大構造物を転移させるときに現れる時空断層が映し出された。


「早いな。追撃に敵の船がお出ましだ」


「迎撃、する?」


「いや、このまま飛ばせてもらおう。無駄なエネルギーを使うことはない。37秒の差で我々の勝利だ」


伏魔殿のライブラリ照会で敵船がアルゴー級巨大戦艦と割り出された。


データベースにはない船種だ。改造船の類だろう。


船首には見覚えのある模様が施されている。


――見たことあるな。アレは……確か――。


ひと間置いて、私はハッとする。


――まさか……?


思考が巡り私の記憶が掘り起こされる。


以前、東方世界という固有領域を持つ亜神が討伐された時、その能力を奪われたと聞いたことがあった。領域内は四方を海に囲まれた海洋都市で、亜神は自分の庇護する奴隷をそこに住まわせ海賊業などをさせていた。そこの住人は船の扱いに長けていて、造船技術もかなりの高みにあったらしい。


彼らは菊を象った家紋を持つ一族をオサとしていた。


「……そうか……あの紋は、確か奴の……」


そういえば勇者の持っていた剣の柄に似たようなマークがあった気がする。


――見間違いとかだったら嬉しいけど……。


あ。たぶんこれ、フラグだ。


そうだったのか。


アレ()ったの、お前だったのか。


はは。


やばい。


そりゃ悪魔王も落ちるわ。


今ぶつかるのはマズイ。


決して出会ってはならない存在が来ちゃってる。


「いくら勇者とはいえ、早すぎるだろう!」


魔王はまだ生まれていない。


その息吹は女の胎内にあれどこの世に誕生したとはいいがたい。魔王を嗅ぎつける勇者の鼻は無効なはずだ。その状態でどうしてここへ来たのか。偶然か? 偶然なのか?


だとしたら規格外とかそういう話以前の問題だ。ラッキーマンかよ!


「待て慌てるな慌てる時間じゃない。今回のシナリオは私にアドバンテージがある。このシナリオがどういうものか知らない勇者に逃げに徹した私をとらえることはできな――ファっ?!」


グラっという不意の衝撃。私はその場に転んだ。突如加えられた凄まじい衝撃が伏魔殿全体を揺らしたのだ。


《――システムメッセージ

浮遊機構(フロートシステム)が破壊されました。

姿勢制御自動運航を緊急作動。

伏魔殿は浮遊落下により六千百四十秒後、地表に到達します。――》


――なにがおこった!?


私は障害発生直前の全周囲映像を呼び出し再生確認。


そこには槍のようなものを投げる人影と、多重層防御障壁(ウォールズオブゼビウス)がぶち抜かれる光景が映っていた。

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