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さしゅごしゅ! ~好き好き大好きご主人様~  作者: にーりあ
第一章 魔王倒して勇者退職、悠々自適な『第二の人生』を楽しむぞっ! (奴隷購入編)
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奴隷購入 ①-2-2

キルヒギール領へ送る物資を積んだ一団が出発するのは明日。


それらが領地に到着するのには一か月ほどかかるという。


一か月間、あの奴隷を連れて馬車で旅するのか。


話すらしたことのない人といきなり密室空間での旅とかどうなんだろう。


厳しいな。


息が詰まるよ間違いなく。


そういうのは気心が知れるくらい仲良くなってからじゃないと俺にはきつい。


以前似たようなことがあって、その時「勇者君はコミュ障なんだね」って言われたことがあるんだけどそのシーンを思い出してしまう。


これって巷ではトラウマっていうらしい。


「…………」


どれいとわたし。


俺は考える。


大枚はたいて買っておいて、後から「やっぱいらん」とは言えない。体裁的に。


「勇者さま、怖気づいたんですね、ぷぷっ」とか思われながら返品対応されたら卒倒するかもしれん。少なくとも立ち直れる気はしない。


とはいえ奴隷を買ったら生活の面倒を見なければいけないという規則がある以上、放り出すこともできない。


返せない捨てられないとなると面倒を見ざるを得ないわけだけど、はぁ、どうして俺は奴隷を飼うとか簡単に決めてしまったのだろう。


お世話もできないのに奴隷を飼うなんて絶対にやっちゃダメなことじゃないか。


「…………」


あぁいかんな。


俺、悩んでる。


勇者は悩んじゃダメなのに。


何をしているんだ俺。逃げちゃだめだ。


勇者はいつだって「退かぬ・媚びぬ・顧みぬ」の精神をなくしてはならないのだ。


どうしたら奴隷と仲良くなれるのかを考えよう。慣れられるか(俺が)を考えよう。


「…………そもそもだよ」


仕事をしてもらうために俺は奴隷を買ったのだよ。


ならばさっさと仕事をしてもらったらいいんじゃないのかな。


仕事をさせて、俺がそれをチェックする。


そうやってわずかずつ接点を設ける。


そうすることで日々発生するだろうちょっとちょっとの触れ合いから、少しずつ仲良くなっていく、というのが理想なのではなかろうか。


なるほど一理ある。


いいじゃないか。


そういうのでいいんだよ。


ふむふむ。ならばそこから始めよう。


旅はキャンセルだな。まずは仲良くなる準備が先だわ。


そう思った俺は次の瞬間、空へと飛び出していた。


キルヒギール領へ向けて飛翔。滑空。時速三百㎞で半日かけて現地へ飛んだ。




◆◆◆◆◆◆




もらった領地はへき地だった。


もうすんごい端っこのほう。


ここマジでこの国の領土なの? って感じのところ。


険しい山々に囲まれた樹海のような場所。


魔物とかひしめき合ってそうな怪しい雰囲気。


これが俺の治める領地かぁ。


ははは。笑っちゃうね。


お前は一生魔物退治してなさいってことか。


でもまぁちょくちょく呼び出されて貴族ごっこさせられるよりはマシかもしれない。


いや、万倍マシだ。遠いからあんまり王都には顔出せないんだよごめんねーって言えるもんな。


王都側の山のふもとにある建物が伯爵として俺に用意された屋敷だ。


伯爵領を管理するための館はそれなりに広かったが、造りはそれほど豪華なものではなかった。町の宿屋くらいなものか。


普通貴族と言えば無駄にでかい敷地に城のような馬鹿でかい家を建てて周りにいくつもの離れなんかを建てちゃったりなんかしているイメージだったから、現地についた時俺はえらく拍子抜けした。


中はどうだろうと入ってみたらば二度びっくり。


埃と蜘蛛の巣でデコられた内装。


その様相は手間と時間がかかっているだろうことを来訪者に容易に想像させる。


圧巻である。踏み出す足を思わず留めさせるほどだ。


なるほどビンテージ加減にプレミアがついているな。


――そうか。これが俺に与えられた伯爵というラベルの正体か。


なんでも数十年前ここを治めていた元伯爵は政変によってどこだかの国に亡命し、それ以降館は放置三昧だったとか。


でも普通さ、与える前に掃除くらいしようとか思うんじゃないかな。


爵位と一緒に屋敷もやるから自分で掃除しろ、とか、それ絶対貴族待遇じゃないよね。


伯爵ってそんな二束三文な地位じゃないと思うんだけどどうなのさ。


でもまぁ、構わない。


そもそも王家に対して忠誠心がある訳でもない身だ。


生涯ここに住むわけでもないし新品である必要もない。生涯住むなら新品に限るけれども。


――使用しないという手もあるが……。


汚かったので使いません、とかいうと貴族らに上げ足とりの材料にされないかな。


王にたまわった館を! とかいわれたりなんかして。


ありうるな。貴族どもは頭おかしいから。


それに仮にも領主さまの館だ。自分の住む領地の領主さまの館がこんなんじゃ領民のテンションもダダ下がりではなかろうか。今は領民いないみたいだけど。


「領民の手前もある、のか?」


そう。この地には領民がいない。


何でかというとこの領地、魔物がわんさか住んでいる森に隣接している。ぶっちゃけると人間と魔物の緩衝地帯である。


元居た領民は、政変によってここの元領主さまが亡命して以降逃げてしまったらしい。


だから領民の心配はしなくてもいいのだけど、でも館は住めるようにした方がいいのかもしれない。貴族対策で。


――そして俺には掃除スキルがない。……素晴らしいな。奴隷の仕事があっけなく見つかったじゃないか。


魔物を焼き払うのは得意でも、建物を掃除するなんて俺にはできない。


そもそも俺はビンテージというものが嫌いだ。


触りたくもない。


俺が好きなのは新品なのだ。未使用品なのだ。


何故中古に手間暇をかけなければならない。ばっちぃ。


デコレーション極まるこんな場所の掃除なんか絶対にごめん被る。丸投げ待ったなしだ。


俺はさっさと転移点を設置し、即王都へ転移帰還した。

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