幕間①-2 メタトロンの失墜
彼ならばこの世界に穴をあけられるかもしれない。
この世界を管理する神のシステムを破壊、ないし抜け道を見つけ出し、私の希望を実現させうるかもしれない。
私は帰りたい。何をもってしてもこんな世界とはおさらばしたいのだ。
魔王にくみすることにした私は即行動。
魔王に資金資材を無償提供。
時には実験素材収集の手伝いもした。
魔王は律義にも、見返りにアイドル写真集だの自立起動式自慰筒だの超古代文明最新愛玩人形だのを奉納してきた。
友好を保つため断らず貰いはしたが、それらは倉庫にぶん投げたままだ。
いう必要もなかったし言ったらめんどくさいことになるかもしれなかったので言わなかったが、私にはちんちんがない。あったらもう百年くらい楽しめたかもしれないが、私ではそれらを使う術がないのだ。
私は魔王の協力をしながら、勇者を邪魔することにした。
勇者とは――どのくらいのスパンかはまちまちだが――魔王を倒す存在だ。
魔王と勇者はセットなので、勇者だけを世界から切り外すことは出来ない。
そして勇者は、神の手では殺すことができない。相克システムによって保護されているからだ。
とはいえ勇者は無敵の不老不死ではない。死亡条件はある。
例えば、老衰。
例えば、魔王の配下となる。世に有名な、世界の半分交渉だ。
もしくは、この世界で生きることをあきらめた時。
どれも難しい。
しかしだ。
私の目的は勇者の無力化。死亡にこだわる必要はない。
それならば、やりようはある。
勇者には、その強大な力と引き換えに、ある仕様が課せられている。
それは、勇者に定められたシステム《冒険の書》。
勇者は24時間連続稼働することができない。必ず24時間以内に最低3時間の睡眠が必要となる。
勇者に施されるメンテナンス時間。そこへ介入すればいいのだ。
メンテナンスで生成される復活の呪文を、私の持つ固有福音《時間延長》で長引かせ、その隙に書き換える。
それで出来る事は微々たるものだ。例えば昨日食べたパンを今日も食べたくなって前の街に戻るだとか、一昨日見た景色をもう一度見たくなって一昨日いた場所に向かうだとか、そういう体験の再取得行動を誘引する程度の。
けれど塵も積もればマウンテンなのだ。私はこの嫌がらせのような攻撃を仕掛けるため、勇者と直接対峙することとした。
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私は勇者に滅ぼされた。
粉々にされ、戦闘スキルを奪われ、無残な姿で路傍に打ち捨てられた。
想像を絶した。
恐るべき力とか、そういう生易しい語彙では片付けられない。
怖い。
かつてこれほどの恐怖を味わわされたことがあっただろうか。
まるでキラーマシン。
出会って3秒で死体。
アレは人ではない。
破壊と殺戮に特化した兵器のようななにかだ。
滅ぼされ、封印された私は、無なる眠りにつく直前、考察する。
おかしい。私の権能がきいていなかった。
キャンセルされた?……いや、拒否……違う。
承認されなかった、という感覚が一番しっくりくる。
まるで上位権限者を相手にしたかのような。
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きたよ。
きたよきたよ、やっぱりね。
システム復元ではない。
どちらかというと、ブラックボックスが空いたっぽい感じ。
私は復活した。
それも、未実装パッケージとともに。
最新アップデートではない。封印されたアップデートファイルが世界に展開された結果だろう。
復活した私はすぐにその理由を調べた。
勇者の活動ログを読み、様々な可能性を検討し、状況をすり合わせ私が出した一つの可能性。
おそらく、の域は出ないが、ほぼ間違いない。
今代の勇者は驚くべきことに、ルート権限を持っている。
――え? 権限譲渡? 神は何を考えている? 引退するの? 神役を、異世界人にやらせるの?
と、一瞬思ったが違う。
世界を維持管理している白の極点は平常運転。前と変わらず機能している。
つまり、世界の管理機構が一つ増えたという事だ。
――どうして対となる最高位の存在を今頃作ったの?
最高神は絶対神。
絶対にミスを犯さない存在。ゆえに最高神。
だがその基準は、稀に我々の常識と乖離する。
我々がミスと感じる事でも、最高神はミスと判断せず行動を起こす。
闇の極点がそういう動きをした時は、怏々(おうおう)として、我々は身もふたもない計算機の大胆な合理性に圧倒される。
――このイレギュラー。十六闘神の時の繰り返しか。はたまたより返しか。
私はシナリオの大ボス、十六闘神を復活させるキーパーソン、中ボスたる三名の亜神の一人として再登場させられていた。
これはかつて、異世界人をこの世界のキャストに採用した結果うまく動作せずお蔵入りになったシナリオだ。たぶん(私はそう推理していた)。
それが何らかの要因で再度有効化されたっぽい。
記憶は変質せずそのままに。
こちらとしては強くてニューゲーム状態。
何を企んでいるのかは知らないが、計算機の分際で人間をなめるのも大概にしろと。
誰が勝敗の定められたゲームなどに乗るものか。
種さえわかっていればどうとだって対応できる。
初見による未来予測演算においては計算機に及ばずとも、少ない経験から最善を選択する能力ならばこちらに一日の長がある。
私のやることはただ一つ。
魔王の復活。
用意されたシナリオには従わない。誰が第一次大戦時代のおっさんの作ったシナリオなんぞに付き合うものか。
世界創造主リチャード=グレンヴィルの意思など知ったことか! ちゃーりー浜辺にリネームして出直して来い!
私は魔王を復活させ、研究させ、この世界に穴をあける。
そしてあわよくば元の世界に帰還する。
元の世界でポテチ食いながらコッカコークを飲みつつウィーチューブ動画を日がな一日見てやるのだ。
金持ち生活をしていた私がきちんと寸分たがわぬ元の生活に戻れるかは不明だが、こんな原始時代で手づかみ飯するよりはよほどいい生活が待っているはず。
帰れれば温泉巡りし放題。
寿司天ぷら食べ放題。
ソフトクリームクレープだって食べ放題。
アサイースムージーだって飲み放題。トイレだってうんこしたあとシャワーできれっきれいにもできる。
ほんとまじこの世界はクソ。
クソすぎ。
もう一秒だっていたくない。えむけーふぁいぶ! えむけーふぁいぶ! マジでコックローチ五秒前! 見かけたら即殺すね! 光の速さを凌駕する勢いで殺処分不可避だね! この世界から完全に滅ぼし尽くすわっ! このくそがあああああああああ、ふぁあああああああああああああ!!! っく!!
っ…………。
はぁ、はぁ。
エキサイトしすぎた。
そんなこんなで私は十六闘神の力を利用して下位ボスの亜神に命令をくだす。
「魔王確保計画、発動!」




