①-3-2
飛行ユニットに乗ってしばらく。到着した王都は炎に包まれていた。
が、よく見ると燃えてない。火は周りに燃え広がることなく、その場で揺らめいている。
どこかで見た気がする光景。確か、宙に浮遊し続ける島、天源郷にあんなのがあったような。空間座標に多次元乱数を割り込ませ時空間軸そのものを揺らめかせる大昔のなんとかという術式だった気がする。
――あー、駄目だ、名前を思い出せない。
まだネイルズで働いていた時の話だからな。だがあの明かりの正体は火ではなく幻燈という光なのだ。それは覚えている。
地上を見れば今まさにガーゴイルによる市民蹂躙ショーの真っ只中。宴もたけなわといった様子だ。
この数を掃討するには手間がかかる。俺一人であれらを駆逐するより王都を取り囲む術式を破壊して援軍を呼び寄せ処理させた方が手早くゴミを駆逐できるだろう。
『推定レベル百の個体を検知しました』
兜の中にシノビのアナウンスが響く。レベル百と言えば超越者の位階だ。レベル的には初期魔王を凌ぐ存在、亜神級の何者か。まず間違いなくこの事態を引き起こしている元凶だろう。
『シノビ。飛行ユニットは滑空モードで上空待機。戦神鎧の能動性空力弾性翼展開。十秒後ロケットダイヴ』
『アクセプトアンオーダー』
こちらは目標へ向かって弾丸訪問。
超越者の元へアポなし突撃取材の敢行である。
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「……城の周りに移動阻害の結界を張ったのは、どっちだ?」
白いタキシードを着こんだ口ひげ男。
それに相対しているのは派手な衣装に身を包んだピンク髪の覆面魔導士。
仮装大会かな?
こんなのどっちがやったとしてもおかしくない。
っていうかどっちもやりそう。外見的に。
「19! 私です! 31です! 元ネイルズとして応援を求めます! 悪魔の討伐にどうか助勢ください!」
――サーティワン? ……え、この女、何者?
19。それはネイルズ特務部での俺の番号だ。
特務部所属員・ナンバー持ちの素性は厳重に秘匿されており、ナンバーと人物を紐づけて認識できるのは組織の上層部か過去パーティを組んだことがある同じナンバー持ちくらいなものだろう。そういった点を考えるとこの女が関係者、同じ特務部所属の者だろう可能性は高い。
しかし、変だな。俺の仲間でこんな戦場にピンクのドレスを着てくるような頭のおかしい奴なんていなかったと思うのだが。
――31番なら面識があってもおかしくない番号ではあるが。
31だと11次席なので8次席の自分と組むのは六人編成業務の時だ。その場合自分は小隊長補佐だったか。
ナンバーズがチームを組んで対処した事件はそう多くない。天空城を撃墜した氷の女王討伐の時か聖皇国の天使暴走事件の時かトラネキア帝国の地底幻獣討伐の時か……どれも勇者を始める前の話だしあの頃の事は多忙すぎてあまり覚えてない。
思い出そうとしても(こんな子いたっけな?)って疑問ばかりが浮かぶ。が、かけられた声のニュアンスには俺を仲間扱いしている的温度も感じる。
やっぱり彼女は俺の元後輩の一人なのかもしれない。
「――了解した」
仮面女が知人だった時のことを考えるとここでまごつくのはまずい。そういう打算だけで俺はその場を繕う。動揺によって生まれた謎の空白を取り返すかのように俺は少女を背に隠し、亜神と思われる男を正面に見据える。
「お初にお目にかかります今代の勇者。貴方様のお噂はかねがね伺っております。私は亜神・魔将プロパドールと申します。お名前をお伺いしても?」
「勇者アトラス、と、人は俺の事を呼ぶ」
「っ!?」
その問いに驚き息を飲んだのは仮面魔法少女である。
え、何でお前が驚くの。俺のこと知ってたんじゃなかったの? って、俺もちょっと一緒になって驚いたが顔はポーカーフェイスを貫いた。
「なるほど。では、勇者アトラス様。貴方がこちらへお越しになった理由をお聞かせいただいても?」
「この国の姫の回収だ。王家より護衛を依頼されていた」
姫の魔王化阻止については語らない。事は極秘事項である。
「さようでございましたか」
「そちらの目的はなんだ。まさか物見遊山ではあるまい?」
「これはお応えしずらいご質問で御座いますね」
「魔王関連か? 魔王関連ではないのか?」
直球。
腹芸が苦手な俺は情報戦の空気を感じ取った途端守秘義務を放棄した。
殴り合いをしようという時にそんなものは勢いをそぐだろ。俺は間違ってない。
「おやおやこれは。右から左へ受け流すことは得意なのですが、そうやって左からも来られますと右へは受け流さないのが流儀でございますので答えざるを得ません。ええ、おっしゃる通りですとも。魔王は私共で回収させていただきます」
「姫の回収も魔王討伐も昔から勇者の勤めと決まっている。邪魔をするならお前も討伐することになるが、構わないか?」
「それは困りますので抵抗させていただくとしましょう」




