①-2-2
「――……何をしに来た?」
やってきたのは、自称魔王の手先の少年であった。
「人とは即物的なものです。私の呼びかけに応えなかった居るのか居ないのかもわからない邪神より、目の前にお姿をおあらわしになられた聖神様にこそ我が信仰は捧げられるべきだと、恥ずかしながら、今更ではありますが、私は気が付いたのです」
今までとは打って変わって別人のような表情。彼は穏やかにそう語った。
うん。
狂ったのかな?
ボコボコにやられ過ぎた後遺症か?
「なんの話だ?」
「私は神を見ました。人が神を垣間見る時、神は既に人のすべてを見透かされておられるのです」
「は? いやおま……うむ。お前の人生だ。興味はない。見なかったことにしてやるから早々に立ち去るがいい」
「ははは。何をおっしゃられるのです。私にはわかっているのですよ? えぇすべて理解できましたとも。あなたこそがあの亜神戦争を終結させたメシアの再来なのですね」
「……なんの話をしているのか意味がわから――」
「いえいえみなまでおっしゃらなくても結構。この邂逅は世界の選択せしさだめ。私は、貴方のような御方の出現を待ち望んでいた」
「…………」
顔を伏せたまま嗚咽を絞り出すような声で呟く少年。
対して俺は声を絞り出すことができなかった。迂闊に言葉を発して言質を取られることを本能的に恐れたから。
「あまりの強大さゆえ世界に疎まれし我が禁断の力を貴方も、魔王と同じく求めているはず! 何故ならば貴方は神によって遣わされた我が魂の救済者なのだから!」
「は? 求める? 何を?」
「…………」
「…………」
ピクリ。と、少年の顔が歪む。
その途端。
「貴方は今ぁ! ここに大いなる力を手にした! 私という力をぉ! 神の名の元にィッ! 貴方は今ッッ! 私を求めるぅぅ! えぇいいでしょう! 私は貴方の元にはせ参じた預言者としてぇぇェッ! この身を預けましょうう! 大いに役立ててくださいこの力をッ! 私は貴方の為のこの身を捧げ――」
「え、求めるってお前を? いやいやいや求めてない。まったくいらな――」
「なんだってやって見せましょう! そう! なんだって! なんでも! 何でもやりますから! あーあーわたしはあなたとともにあなたのもとであなたにじょりょくをいたしましょうこれはかみにさだめられたうんめいなのだから!」
「こぅら抱きつくな! いらん。はなれっ拒否する! 断固おことわりだ!」
「わあああ! あああー! あああああああ! あぁーそうですか! 俺を助けてくれと?とても嬉しいと? そうですかそうですか! あなたにそこまでよろこんでもらえるとわたしもここにきたかいがありましたあ!」
「うるせーはなれっっろ」 「やだやだなんでもします! なんだってしますぅにもつもちでもくさむしりでもぉ、よるのとぎだってやぶさかではないくらいつくしまくりますのでぇどうかおそばにおいてくださいぃ、もちろんれいなどいりませんおかねとかすべてこちらのもちだしできょうりょくさせていただきましょうともだからおねーおおねえがああいいいいい!!」
「やめろ馬鹿っ、くっ、なんて力だっ、こんのっ、はぁなぁれぇろっ、うっとおしいわ!」
抱き着く少年を無理やり引きはがす俺。はがされてもはがされても半狂乱で喚き散らし足元に縋り付く少年。どさくさにまぎれてちんちん触ってきたから秩序のない現代にドロップキックよろしく吹き飛ばしてやった。
飛んだ先にあった木に背をしたたかに打ち付け「んがッ!」と息を詰まらせた少年がその場にずるずると滑り落ちる。
「ッハッ、ッ、な、なにをするのですメシア!」
「このクソガキ! ホモは死ね! ジェンダー問題とか知った事か! 思い出すがいい俺の言葉を。言ったはずだ、魔王の部下に人権は無いと。殺処分せず許してやるからどこへなりとも行くがいいと。あとお前の伽はいらん!」
「そんなことですか、では私も言っておきましょう! 私は先ほど改宗したのです! 魔王? 邪神? なんのことですか? 私は聖神様に仕える信徒。そして聖神様が遣わされたメシアたるあなたを導くのは預言者たる私なのです! あと性差別ダメ絶対」
「うるせぇっ! 寝言は寝てから言え!」
「寝言ではありません! しかしなんならピロートークも下手じゃないことを証明致しましょうか!」
「いらんわ! 絶対にいらん! 絶対にだ!」
「なぜ抗うのです? ご安心ください、こう見えて私は床手です。新しい世界に身を任せればそこはもう極楽浄土です」
「黙れこの腐れ〇〇〇が! ならば今すぐにでもその悪ふざけをやめさせてやろう! スキル発動〈迷える子羊への賛歌〉」




