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さしゅごしゅ! ~好き好き大好きご主人様~  作者: にーりあ
第二章 目覚めよと呼ぶ声が聞こえ。晴耕雨読な『二度寝の人生』を決め込むぞっ!

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①-4

慇懃にして無礼。


丁寧に頭を下げる悪魔を前に、私たちは絶句します。


恐怖が駆け抜けて、全員の鼓動を早めます。


「悪魔め! もう勝ったつもりか!」


全身鎧の同僚がバスタードソードを構え吠え、その後ろではベージュのフード付きローブをまとった同僚が長杖を構え戦闘補助の魔術を行使しました。


でも私は動けません。


私には見えます。


あの男の周りに揺蕩う禍々しい魔素の残粒が。


下手に動けばあの禍々しい力が、変幻自在に形を変えて私たちを貫くでしょう。


魔法を放ってもかき消されるか、反射されるのがオチです。


魔法使いの私に成す術はありません。


ショートロッドを手にしたまま、呆然とその場に立ち尽くしていると


「どうしたマキ。しっかりする」


それに気付いた黒装束覆面の同僚が声を掛けます。


彼女は短刀を構えたまま、私の隣に立ち檄を飛ばしました。


けれど私は動けません。声を発することすらできない。まさに蛇に睨まれた蛙状態。


「なるほど。彼女だけがこの状況を正確に理解されているようですね。しかしだとすると疑問です。どうしてあなたたちは、仲間なのですか?」


「……なんだと?」


「いえ、あまりに実力差がありすぎるのではないかと疑問に思いまして。色々考えてはみたのですが、貴方たちはパワーレベリングを受けている寄生虫という理解でよろしいでしょうか?」


「なんだと!?」


その挑発に重鎧の同僚が激怒します。


それはそうです。


私は魔法少女ポジションなのです。


うっかり天然なかわいいマスコット的立ち位置なのです。


それがこの中で最強とか言われても笑えません。


真実を明かしても誰も喜ばないというのに、そんな理屈さえこの白スーツ口ひげ男は右から左に受け流してしまったのです。


「この腐れ悪魔が!」


重鎧を着ているとは思えない速度で悪魔に迫る同僚。


剣の切っ先を前に押し出すように、その重量を活かした重い突進が悪魔の腹部を捕らえました。


「っ?! ――な……」


「――この程度の突進では、指先一つで止まってしまいますね」


腹部につきたてられたと思われた切っ先が、悪魔の小指の腹に受け止められています。


皆には男が小指で受けているように見えるでしょうが、本当は魔素が彼女の全身を受け止めているのです。


なので同僚がどんなに力を込めても、それは微動だにしません。


しかし小指で受けられていると思っている私以外の全員には、その力量差を効果的に示されたことでしょう。


チラ見すると、全員の顔が引きつっていました。流石芸人、エンターテイナーです。


〈忍術・変わり身〉


間をおいて、戦士の同僚がその場から消えたかと思おうと、代わりに小石が現れます。


依り代を媒介とした変性魔術・忍術です。小石が地面に落ちる前に、女戦士は覆面同僚の真横に移動です。


「助かった」


「礼は早い。アレは強い」



覆面女と女戦士が再度、悪魔に向かって身構えます。


けれど悪魔は彼女たちを一瞥することすらなく、一方的に告げました。


「さて。結界術の阻害に現れたのかと思ったのですが違うようですし、私はこの辺で失礼させていただきます」


「結界? あれの事? あの大きな炎の壁は、お前の仕業?」


「そうですが、なにか?」


「やっぱりそうか! 悪魔の悪行を目の前にして見逃す訳にはいかねーんだよ! てめーにはここで死んでいきな!」


いや。


いやいや!


見逃しましょうよ!


ここは全力でおかえりいただきましょう!


私は心の中で絶叫しました。


この女無謀すぎます。私は勇敢だと思っていた彼女の評価を取り下げます。この人は馬鹿でした。


「ふむ。そこの立派な鎧のメス人君。あなた達の脆弱さは先ほどのやり取りで分かりました。そして私たちの出会いもどうやら偶然。事故(アクシデント)だということもね。ならばこれ以上関わり合う必要はありません。あの方たちが死んでしまったのはお気の毒でしたが、貴方達の人生に事故(ハプニング)はつきものでしょう」


「ふざけるな! 仲間を殺されて事故で納得できる人間はいねーんだよ!」


私は血の気が引いて眩暈を起こしました。


ふざけているのは貴方です。


相手を見て口を開きましょう。


相手は大儀式魔術を行使する悪魔です。


大典礼ゲッセマネの虚灯(うろび)は伝説に出てくる亜神の能力なのです。


こんなのを相手にしたらどう考えても私たち死にます。死んでしまいます。


「そう声を荒げなくても聞こえておりますよ。わかっていますとも、別れの挨拶ですね? ではこのくらいで。〈生命力霧散(エナジードレイン)〉」



「「「――っ?!」」」



その一撃で、私を除く三名はその場で意識を失い地に倒れました。


私がレジスト出来たのは、ひとえに魔法少女補正のおかげです。受動型パッシヴ特殊技巧エクストラスキル〈愛の2-4-11〉の効果です。


アイドルは沈まないって奴です。


でも油断しました。


どうして私は杖を構えたまま悪魔を見据えているのでしょうか。


一緒になって倒れて死んだふりをするのが正解でした。


ですがタイミングを逸しました。


肝心なところでミスった自分のうっかりを責めます。


馬鹿馬鹿私のバカ。これでは戦意アリと見えますよね。


はぁ。


こうやって、悪いことの全ては、全部私から始まるんです。


きっとそうなんですよ。


はぁ。もう駄目だ。


もうダメですぅ。


しっかりと悪魔を見据える私に、悪魔はニヤリとします。


「――おや?」


死んだ。私がそう思っていたらです。


悪魔の動きが止まりました。


そして、ぴくぴくと耳が動きました。


やや間をおいて、上空から風切り音。


急に、悪魔がとても大きく後方へ飛び退きます。


そこへ入れ替わるように、隕石が落ちてきたのかと見まごう程の落下物の飛来。


私は瞬時に身を伏せました。


伏せながら、もうもうと舞い上がる煙に目を向けます。


土煙の中に現れたのは、一人の人型。


「……城の周りに移動阻害の結界を張ったのは、どっちだ?」


その声に、私はドキリとしました。


こんなところで。こんなタイミングで。


信じられません。しかし、私がその声を聴き間違えるはずはないのです。


土煙が晴れていくその中には、青・白・金の全身鎧を着た人の姿が。



その姿は、市井の噂する勇者の姿そのものでした。




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