①-3
エランシアの城下町は炎に包まれていました。
丘から見える景色に、転移した私達は絶句です。
城壁のように街を取り囲んでいる炎。
その炎に、私は見覚えがありました。
消火不可能な、しかし接するものを燃やすことのないその淡い揺らめき。
「これって……ゲッセマネの虚灯なんじゃ……」
考える前にうっかり呟いてしまいました。
当然、私はみんなの注目を集めます。
そこへ
「ほう? それを知っているとは、なかなかやりますね」
と、空から声。
見上げればそこには、一人の人型が宙に浮かんでいます。
「ムーディ勝谷?!」
またもやうっかり口走ってしまいました。
だってびっくりしたんです。こんなところに吉元のお笑い芸人がいるんですよ? びっくりしない方が無理というものです。
「おや。私の姿を見てそう言ったのはあなたで三人目です。お嬢さん」
困ります。お嬢さんとかいわれても。貴方に口説かれる気はありません。
ゆっくりと高度を下げ、やがて地に降り立つ口ひげ男を私は睨みつけました。
「おい。この男、やばいぞ」
漆黒の全身鎧を着た同僚が、背負っていた身の丈ほどもある大剣の留め具を外しながら囁いてきました。
確かにやばいです。高そうな白いスーツはこの世界になじんでいません。
見るからにTPOをわきまえない自分に自信があるタイプです。
私は戦闘態勢に入る天使リコ捜索隊二十名に守りの魔術をかけました。
「失礼。あなた方は、見たところとても脆弱に見えるのですが、どういう役割でこちらへ?」
白いスーツの男は丁寧な口調で尋ねました。
この鼻につく言い回しは、経験上クソ貴族か上位悪魔族に多い感じです。
気になって男の背後をよく見れば、背中側で細長い尻尾のようなものが見え隠れしています。
あぁ、なるほど。上位悪魔ですか。厄介ですね。
悪魔は人の天敵。
悪魔にとっては人など道具程度の存在に過ぎないようですが、人にとっては不倶戴天の存在です。
誰が悪魔の問いなどに答えるものか。当然その場にいた一団はそう考えていたはずです。
「俺たちは天使リコを探しにここまでやってきたんだ」
なのに一団の中の男の人が答えてしまいました。
第三級冒険者、砂漠の狐の若手メンバーです。
「強制の呪いだ! 全員後ろへ走れ!」
すかさず漆黒鎧の同僚が叫びました。
彼女も敵の正体が悪魔だと感づいていたのでしょう。即座に指示を飛ばす指揮官ぶりはさすがです。
その声に一団は弾かれるかのように、一目散に走り出しました。
「おやおや、お会いしたばかりだというのにお帰りになられるとは寂しい限りです。せめてご挨拶くらいはしたいじゃありませんか」
人間とは言え第三級冒険者の能力は高いのです。走り出したらあっという間に遠くへ移動しました。私たちを出し抜いて追いつくことは不可能でしょう。
そう思っていたのですが。
彼らの姿が見えなくなるくらいの距離で、大きな炎が吹き上がりました。
やや遅れて届く人の絶叫。
その断末魔は、その場に残った私達漆黒の薔薇のメンバーの心胆を寒からしめるに十分なものでした。
「みなさん、仲間を逃がすため決死のお覚悟でここに残られたようですが、残念な結果になってしまいましたね。手加減したつもりだったのですが、まさかあれほど弱いとは思いませんでした。お悔やみ申し上げます」




