①-1
神がこの世界を去る間際の事。
神はこの地にメッセージを残した。
万物はやがて塵となる。神はそこを考えていて、最も耐久力のある素材にメッセージを残した。
その素材とは、私たちがいうところの、命。
神が自分を模した「人」を創造したのは、この地にメッセージを残すためだ、と、アリスJ教は伝えている。
人も万物と同じく劣化するが、人は子孫を残すことで新しく生まれ変わり、劣化を回避する。
そうやって、人はこの地に、神のメッセージを残す媒体として存在している。
私たちは神の記録媒体。私たちという存在そのものが、神のメッセージ。
私たちが生き続け存在し続けることは、すなわち神の御意思なのである。
亜神は悪魔を殺し、悪魔は亜神を殺すが、どちらも人を殲滅しようとはしない。
体制側を自称する亜神も、反体制側とされる悪魔も、等しく人を能動的に滅ぼそうとしないのは、人に課せられた神の意思を知るからなのだ。
ゆえにアリスJ教の教義は、人の繁殖を礼賛する。
人よ。
産めよ、増やせよ、地に満ちよ。
それだけが、神が人に望むことわり。
アリスJ教の教義は、快楽を追求するだけの売春を否定する。
快楽の追求は肯定せども、避妊と堕胎を否定する。
出産を助け、子供たちを保護し、積極的に性教育をする。
アリスJ教は子供と、子を産める女性だけを守護する十六闘神が一神、エイレテュイアを信仰している。
唯一神と争った十六闘神ではあるが、彼女もまた、過程は違えど、人を愛した神であった。
人が増えることで人が飢餓に苦しみ、やがて死ぬのは仕方がない。ただの死だ。
彼女もまた邪神ではあったが、それは万能神ではなかったというだけのことなのだ。
◇
アリスJ教を国教としていたマウントマウス王国では混乱が起きていました。
巫女をしていた天使リコが、天界に帰るという書き置きだけを残して失踪してしまったからです。
「第一級冒険者チーム漆黒の薔薇よ。急ぎ国を出て天使リコを捜索せよ」
私たち冒険者が国外での活動を命令されたのは初めての事です。
それは冒険者という存在が、騎士団では対処しない国家内の厄介事の解決を図るために組織された集団だからです。
世界に北の巨人と呼ばれるアルビオン。
正式名称グレートヒル及び北部マウントランド連合王国。
その国内を行ったり来たりして諸問題を解決する便利屋集団。それが、冒険者。
冒険者はその活動によって地位身分を保証される出来高制公務員といったものでしょうか。
貢献量で等級が上がり、その高さによっては国の極秘機密を知りうる存在ですから、おいそれと国外に出ることは許されません。
それを外に出すというのです。
よほど内々で処理したい事情があるのでしょう。
深くは追及しません。
言われたことだけを淡々とやります。
それが、第一級冒険者まで上り詰めた私たちのノウハウです。
好奇心猫を殺すなのです。




