巻末
魔の森に広がる影響は世界を揺るがした。
魔の森は支配者を得たことにより、魔の森ではなくなった。
それまで投棄されていた様々な不正なプログラムはその存在を認識され、それらの集まりであったブラックボックスは、世界樹の自動起動術式によって破棄された。
危うい均衡を保っていた世界は、押し付けていた暗部を追及され正されたことにより、飽和した。
今まで抑えていたものが世界に溢れ、混沌が世界を蝕み始める。
勇者により強制排除され、あるべきものを、無いものとして、処理された世界の都合のしわ寄せは、反発を伴って世界に放逐される。
その一つ、伏魔殿。
本来は追い詰められた魔王が使うべきだった、魔王の最終形態を納めたパッケージ。
圧倒的力により魔王が瞬殺されたためお蔵入りとなった世界の設定。
ドミノ倒しのように世界の都合が修正されていく中で、無かったこととされた世界のギミックが、その時強制解放された。
魔王なき伏魔殿を司るのは、同じく中途で退場を余儀なくされたキャラクター。
始祖ジュラ。
彼は十六闘神の一柱・黒き主神ハーゼデウスの力を呼び出し、亜神・魔将プロパドールを従えて、魔王のやり直しを目論む。
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伏魔殿が現れた座標は、エランシア王国・首都西部。
夕暮れの太陽はあっという間に隠され、にわかに夜が訪れる。
空に星は無く、人々は急ぎ明かりを炊く。
光の灯った空に降りたのは、月でも星でも雲でもない。
黒い体に蝙蝠の翼をはやした悪魔の化身――ガーゴイル。
夜目の利く彼らは次々と街灯を潰し、地に降りて殺戮を始める。
街に繰り出した松明やランタンを持つ冒険者。
本来なら戦える者たち。
しかし逃げ惑う市民たちの右往左往に巻き込まれ、思うように戦えないまま、その命は摘み取られる。
「エランシア王国の皆さん。
お忙しい所恐れ入ります。
私は亜神・魔将プロパドールと申します。
具体的にどのような存在かと申しますと、まぁそうですね、分かり易く言うなら、超悪魔です。
お静かに。
これより僭越ながら、新しい恐怖の時代を迎える皆様へご挨拶させていただきます。
えー、コホン。では。
『慎みたまえ。君たちは悪魔王の前にいるのだ』
あぁ、そうでした。私としたことがお伝えするのを失念していました。
王国を守る〈幻想結界〉は、私の権能で無効化させていただいております。
今町を取り囲むように炎が上がっているのがそうです。
城を守る騎士のみなさん、慌てずに。
これから私が魔王復活イベントのイントロを致しますので。
そこの貴方達。魔法や矢を射かけないでください。収録中ですよ?
逃げ惑う町の一般人のみなさんも落ち着いてください? それはただの旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火です。
ラーマ・ヤーナのインドラの矢とは別物です。
焦らなくてもちゃんとみなさんにお配りする絶望はありますからご安心ください。
では続けます。
『全世界は再び、魔王のもとにひれ伏すことになるだろう』」




