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さしゅごしゅ! ~好き好き大好きご主人様~  作者: にーりあ
第一章 魔王倒して勇者退職、悠々自適な『第二の人生』を楽しむぞっ!(敗残将掃討編)

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世界変革の鬨 ④-3-3 エピローグ

「では始めるか」


森の中でも木々の無い開けた場所の中心に、一メートル四方深さ五十センチくらいの穴を掘り苗木を植えた。


その後先ほど集めた血玉を苗木の真上に誘導する。


位置を微調整後、俺は血玉を聖粒輝に少しずつ変換し真下に降らせた。


光の雨――純粋な万物の根源たる聖粒輝が、苗木と掘り起こした周りの土に染み込んでいく。浸透した力が苗木の根を刺激し、その力を徐々に目覚めさせていく。


「根の活性化を確認しました」


血玉がすべて変換し尽くされ光の雨が止むと、ディオネは苗木を診断しそう告げた。


作業に一区切りがつく。世界樹がただの植物として生きていくだけでいいならこれだけでもいいそうだが、今後俺の利益となってもらうためにはここからの工夫が重要だ。


植樹は最後の工程へ。


「次だな。調律作業に移る」


血玉を聖粒輝に変換し使用できたため俺のMPはかなり温存出来た。


地脈への干渉は大ごとだが、今の俺ならばそれにも十分応えられるだろう。


「よし。来いディオネ」


俺の合図でディオネが苗木の前へやってくる。


その右手には杖を持ったまま、彼女は左手をそっと苗木にそえた。


俺はディオネが飛ばされないよう左腕でその細い腰を回し抱くと、右手を苗木の根元に向け翳した。



――〈全状態回復・S〉――



聖粒輝による調律。


前回神樹庭園の世界樹を再生させた時と同様、世界樹の苗木の周囲の空間がうねる。


世界樹の苗木を中心に渦巻く衝撃波が竜巻となり、それが周りの土砂や落ち葉を巻き込んで空へと舞い上げた。


世界樹としての力を呼び起こされた苗木が注ぎ込まれる力に反応し、やはり先に見せた世界樹の反応と同様に緑色の光を発し始める。


それは苗木が自己の主を認め、自己のすべてを主に無抵抗に晒すという完全なる服従・隷属・恭順を示す反応だ。


そこで、ディオネが耳慣れない不思議な言葉を紡ぎ始めた。


――ッ?!


その音に、俺は驚かされた。


それは拍子を伴う音階のない歌だった。


そしてかつて一度だけ耳にしたことのある、死の淵をさまよい、神の間によばれた時に流れていたあの歌でもあった。


俺の命を救ったのは確かにこの世の最高神であったが、そこで俺に新たなる知恵と知識――或いは名も知らぬ赤の他人の人生――を授けたのは、神ではなく神の代行者。


――神霊樹の……姫巫女。


唐突に、俺は忘れていた記憶を呼び起こされた。


この歌は、世界樹の巫女の中でもその頂点に位置する役職・姫巫女にのみ継承される巫術、典礼・漣唄さざなみのうた。――そしてそれは、俺をこの世界に産み落とした神々の神が俺の中に封じた小さな予言を呼び覚ますトリガー


――そうか。今まで見てきた既視感はそういう……だから俺はこんなにもこだわって……。


俺の混乱を置いてきぼりにして、儀式は粛々と続いていく。ディオネの問いかけにより、世界樹がぐんぐんと伸び始める。成長を続ける。


小さな枝には葉の蕾ができ、それらは急速に成長して開き、葉となった。


開いた緑に輝く葉から、空に向かって火の粉のような橙色の光の屑が立ち昇っていく。



『〈Zum Augenblicke dürft ich sagen.Verweile doch, du bist so schön!〉』



ディオネによる吟詠とも呼べる詠唱が完唱され、紡がれた力が顕現する。


長いようで短い、永遠に続くかと思われた奇跡の時間はやがてそのナリを潜めていき――終わりが訪れる。


光の噴出は収まり、風の渦がなくなった世界樹の周りに、空へ舞い上がっていた聖粒輝が音もなくゆっくりと舞い落ちていた。


「調律できました。世界樹は無事、この地に適応しました」


「よくやってくれた。流石は女王だな」


「いいえ、これは全てご主人様のお力によるものです。私のやったことは微々たるもの。流石なのはご主人様です」


そうじゃない、これは君の力だよ。


そう脳裏には浮んだが、俺はそれを言葉にはしない。


俺の選択は【つよくてニューゲーム】ではなく、過去の継承だった。彼女はそれに気が付かせてくれた恩人だ。


俺はこの地に平和をもたらさんがために生み出された人間――彼らの言葉では確か、殻の入れ物(エヌピーシー)。魔王を滅ぼす者を勇者と呼ぶのは正しいことだが、それはこの世界のひとつのコンテンツに過ぎなくて。


――今の俺ならば、いや、今の俺だから、か。


「そうか。うむ……ならばこれは、俺とお前の共同作業という事にしておこう。

次はこの辺りを整備していかなければならないな。ここからはお前たちにも手伝ってもらってより――って、は?」


振り返れば、世界樹を向いて烏女の誰もが平伏していた。


遠くに見えるアークビショップに至っては、顔を左右に小刻みに振り続けたまま大げさに震えていた。


よく見れば平伏する烏女達の誰もが感涙にむせび泣いている。


片膝をつくマルギットでさえ興奮に顔を赤らめその眼に涙を湛えていた。


「えぇっと? お前たち、どうした?」


そんな彼女らにどう声をかけたものかと俺が戸惑っていると、そこへディオネが歓喜に満ちた表情で俺に微笑みながら言う。


「みな、初めて見る新しい世界の誕生に喜んでいるのです。

えぇこんな喜ばしいことはありません。この地は今をもって、ご主人様を王とする新しき領界として生まれ直したのですから――ほんとうに。さすがご主人様です。ね、みなさん?」


ディオネの言葉に皆が弾かれたかのように一斉に顔を上げ、口を開いた。



「「「「さしゅがです! ごしゅじんさま!!」」」」





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