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さしゅごしゅ! ~好き好き大好きご主人様~  作者: にーりあ
第一章 魔王倒して勇者退職、悠々自適な『第二の人生』を楽しむぞっ!(敗残将掃討編)

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世界変革の鬨 ④-3-2

世界樹の植え替えをする前に打ち合わせ。ディオネに色々注意事項を聞く。


世界樹を植え替え育てるには三つの条件をクリアする必要がある。


一つは聖粒輝を一定以上含有する土壌。

一つは世界樹の根に備わる障壁を稼働させるための聖粒輝。

一つは世界層、地脈へのリンク。


土壌については問題がない。放っておけば魔物がガンガン湧き上がるお土地柄。負の腐葉土といっていいくらい栄養一杯である。


地脈へのリンクは巫女であるディオネができるという。


問題はあと一つ。


「おい」


「なんです?」


「お前は自分の事をハーゴン級って言っていたな。イタコの類ということだろう?」


ハーゴン級。それは祈りの儀式で魔物を召喚する魔物系白魔術者の位階。すなわち悪の最上位神官アークビショップ


赤の磁界歪曲。青の魔素還元。黄の空間操作。白の生体強化。黒の放出破壊。という五色の魔術の中で、白の召喚術は自分自身を削って召喚獣を紡ぐものだ。


「は? ディスってるんですか? 勇者とはいえ許しませんよ?」


「違う違う。お前に活躍の場を与えてやろうと思ってな。さぁ逃がしてやる。全力で抗って見せるがいい。お前の得意な召喚とやらを見せてくれ。ほらエリクサーだ、くれてやる」


魔法具ジェイルキュービックに捕らえていた魔王の手先を名乗る眼帯少年を解放した俺は、魔力と体力を完全回復させる秘薬を彼の足元へ投げた。


「はぁ? 勇者だからって調子に乗っていますか? こんなものまで渡していいんですか? ふっふっふ、愚かな。知りませんよ? この私を自由にして、しかも完全回復させて召喚までしろとは。見たところ周りには脆弱な天使しかいないみたいですし、その思い上がり、高くつくことになるでしょう!」


自由になったアークビショップは足元のエリクサーを拾うと飲み干し、キメ台詞「ファイト―!」「一パーツ」のセリフを一人二役でこなす。


その途端、少年の身体がまばゆい光に包まれた。


『〈ひとごろしき

らんらんたるまなこ燃やしたる

横たわる死体より、刎ねたる首をば小脇にかかえ

けしにぐの剣、手に取りて

食らいつくその顎、かきむしるその爪

おぐらてしき森の奥より、ひょうひょうと風切り飛びきたり〉』


完全回復した少年が嬉々として魔術行使を始める。


少年が何やら呪文を唱えると彼の足元にその身の丈ほどの直径を持つ魔法円陣が浮かびあがり、彼の頭上はるか上にも同じ魔法円陣が数倍の大きさとなってあらわれ輝いた。


「さぁ、我が前に顕現せよ!〈熱嵐翼狂蛇ジャバウォック〉」


空の魔法円陣が反転し、黒く分厚い雲となる。


やがてその中心が割れ、そこから巨大な蝙蝠の羽が付いた蛇の魔物が次々と吐き出され始めた。


魔物は巨大な蛇の体にいくつもの目を持っていて、今はすべての目が半眼となっている。


「素晴らしい。想定外の大物を出したな」


熱嵐翼狂蛇ジャバウォック


顔部分にある巨大な一つ瞳には、全開にすることでその視界に収めた景色に存在する全ての魔法動力をかき消すという特殊能力が備わっている。


また体中にある小眼にも同じく全開にすることで石化や分解や即死をもたらす光線を発するという能力があるが、こちらは使用時体を自由に動かせなくなるという欠点がある。


したがって普段の熱嵐翼狂蛇ジャバウォックの小眼は半眼状態であり、代わりに半眼状態時には頭頂や背中に生えている炎の触手を自由に動かすことが可能である。


空飛ぶ魔物でこれほど厄介な存在はない。遠距離魔法攻撃や空飛ぶ魔法武具などは巨眼によってすべて無効化されるし、近づこうとすれば距離を取られ魔法光線で一方的に攻撃され、近づけても炎の触手に絡めとられる。


そんな化け物が大量に召喚され、空に揺蕩っている。


その総数、八十八。


「どうです! 見ましたか! 最高記録! 二匹増えました! さぁ反撃の開始です! 恐れなさい! 震えなさい! おのが行いを後悔なさい! これから始まる我が切り札による蹂躙劇が――」

「やれ」


「はいでありんす」「は!」


俺の合図でジュンコの両手からトリモチ弾が一秒間に十六連射され空に浮かぶ魔物の目という目を次々と潰していく。


その間に俺の後ろに控えていたディオネが空に向かって術を行使した。



――〈破刃旋風ハリケーンミキサー〉――



ディオネが手にしている魔道具は風神の杖(グリダヴォル)


細い虹銀を幾重にも編み込み神の園にあるとされる知恵の大樹をかたどった杖は、所有者の消耗を抑え行使する能力を何倍にも引き上げる神器級アイテムだ。対となる雷神の槌(ミョルニル)が破壊に特化しているのに対し、この二メートルある大杖は支援特化の宝具である。


ディオネは事前の打ち合わせ通り、巨大なつむじ風によって魔物同士を激しくぶつけ合わせ擦れ合わせ、ないし真空刃で切り刻みすべての魔物を半死半生にする。


そこへ――



――〈血の祭壇(ブラッドプール)〉――



俺のスキルによって血しぶきが上空へと吸い上げられていく。


巻き取られていく血の嵐の中で魔物たちの断末魔が響いた。


「ふぁっ!? はあああああぁっ!?」


それを見て大口を開け絶叫する少年。恐れおののきその場に尻もちをつくハーゴン級アークビショップ。


眼前で起こった惨劇に理解が追い付かず、しかし体は生存本能に従い、必死に後ずさりしていた。


「ふむ。想定より力を絞りとれた。さすがは呪いの真名を持つ魔物というところか」


遥か上空には巻き上げられた血が集まり、血の玉ができている。ミキサーの中で拡販され動けなくなっていた魔物は、風が収まると無抵抗に地面に落ちた。


その光景に、アークビショップはうめく。


「なんという……あなたは鬼ですか! なんてことをするんですか!」


「勘違いするな。俺は鬼ではなく勇者だ。そして何を驚く。俺はただお前の魔物を没収しただけではないか」


「いや、没収って。そんなものもう一度召喚し直せば……って、あれ? これ、どうなっているんでしょう。使役対象を素子に戻せない……メモリが回復しないのですが……」


「お前の召喚能力は俺が奪い取った。俺が能力を返還しない限りお前のリソースが回復することはない。そしてこの説明をもってお前には俺と敵対することにより魔力が枯渇する呪いがかかる」


宣言を終えると同時に少年の体は赤く発光し、数度明滅した後光は消えた。


「はああああ!? この私に呪詛!? まさか……さっきの薬に細工を? な、なんてことするんですか! 人でなしですか頭大丈夫ですか!? なんの権利があってそんなことを――!」

「魔王の部下に人権は無い。殺処分せずこれで許してやるというのだ。十分な慈悲である。さぁ、どこへなりとも行くがいい」


「ちょ! そんな! ここって魔の森ですよね!? 赤鍬熊マスターピーがめっちゃ苦労してた魑魅魍魎危険生物てんこ盛り地域ですよね!? 魔法の使えない状態で放り出されたら死んでしまうのですけどっ!?」


「さて、では次の作業だ」


「待って! 待ってください! なんだか体が動かなくなってきたのですが? 呼吸が苦しくなってきたのですが?」


アークビショップは苦し気に息を吸ったり吐いたりを繰り返す。呪いが体に刻まれている影響によるものだ。


運が良ければ死なないし悪ければ窒息死するだろうが、そんなものは俺の知ったことではない。


俺は喚き散らすアークビショップを放置してその場から移動した。


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