奴隷購入 ①-1-3
ダールの紹介状を持って向かったのは王国屈指の大手奴隷商会である。
「あんまり有能なのはいらないぞ。俺の小間使に有能な人間を従事させるのは社会の損失だからな」
ダールの事だ。奴にすべてをお任せしたら選りすぐりのオーバースペックな人材が派遣されてくるのは目に見えている。そんなのはお断りだ。俺の監視任務程度に将来ある有望な人間をつき合わせるわけにはいかない。
俺は使いつぶしてもいい無能で適当な奴が欲しいのだ。
そういう要望を迂遠にあれこれ胡麻化しながらも頑張って伝えたところ、ダールはここで奴隷を買えと推薦してくれた。
「では廃棄寸前のワケアリ奴隷を買えるよう手配しておきましょう」
「そうか。それなら心も痛まないかもしれないな。宜しく頼む」
なんてやり取りをして書いてくれた紹介状。
きっといい買い物ができるはず。俺は淡い希望を胸に商会の扉を開く。
「奴隷を買いたい。これが紹介状だ」
「お待ちください」
店の丁稚に紹介状を渡し店主が来るのを待つ。
まさか勇者たるこの俺が奴隷を買う日がやってこようとは。
わくわくしすぎてテカテカしてきたよ。
「今日はどういったモノをお探しで?」
しばらくし、商人がやってきた。
俺は舐められないよう精一杯の虚勢を張って、ちょっと横柄に見えるだろう感じな態度で迎えた。
「紹介状にかかれていなかったか?」
「書かれておりましたとも。これは店頭での形式的なものでございます。ささ、こちらへ」
商人は満面の笑みで俺を奥へといざなう。
今回訪れた奴隷商会は老舗であるため人間以外にも様々な種族の奴隷を取り扱っている。
種類も品数も豊富。
店内には色々なタイプの奴隷が展示されている。
通り道を移動しながら、俺はこの独特の空気に新鮮さを覚えていた。
奴隷というくらいだから嫌そうにしているのかと思ったらとんでもない。
女性奴隷たちはみな興奮していた。
無理やり引き立てられ、衆人の前で値踏みされるのに快感を覚えている様子だ。
そしてそれはここにいる客らも然りっぽい。
どうやらここには、この状況を楽しむ輩たちしかいないようだ。
――こんな世界があるとは……。
奴隷売買を楽しむ。
それは社会的成功者たちと、その真逆な者達との間でなされる娯楽。
檻に入れられ全裸で後ろ手に縛られている女たち。
その体には首輪だけでなく、手錠や手枷、脚枷が付けられている。
股間には貞操帯。
檻にはシチュエーション(犯罪奴隷、借金奴隷など)プレートが張られている。
「いかがです? よいものでしょう?」
奴隷商が声をかけてくる。
「そうだな」
「買い手は奴隷のしぐさなどを楽しみますので、壊さない程度に手入れをしてございます。羞恥心が強い奴隷のほうが人気があるのですよ」
「ほう」
俺の短い答えに奴隷商は目を細める。
「失礼ですが、旦那様は奴隷を飼われたご経験は?」
「ないな」
「さようですか。でしたら一言だけ、奴隷を扱う際のコツを申し上げても?」
「聞こう」
俺がそう返すと、奴隷商人はまた満面の笑みを浮かべて言う。
「奴隷に慈悲をかけ過ぎてはなりません」
「……どういうことかな?」
「奴隷とは、家畜同然に扱われる屈辱に快感を覚える生き物です。ですので、その辺りを配慮してやることこそ、真のご主人様といえましょう」
目を細め遠くを見るような顔で、にやにやとする奴隷商。
そんな彼を一瞥し、俺は並べられた奴隷たちを流し見ながら考える。
――優しくしては駄目、という事か。
「物言う道具とは言え、奴隷もいきものでございます。特に今回は、家内用にご使用なさるとの事でしたので、メスをご用意させていただきました」
その言葉に俺は妙に納得する。
そういえば家の掃除をするのはメイドだ。
執事が部屋の掃除をするという話は聞いたことがなかったし、しているとこを見たこともない。たまたまかもしれないが。
「そうか。色々気を使ってくれたようだな、礼を言おう。確かに私は奴隷について無知だ。奴隷の主人として経験のない私への貴重な忠告、しかとこの胸に止めておく。他にも助言があれば聞かせてもらいたいものだ」
「私などが貴族様にご指南させていただくなど恐れ多いことでございます。が、ではひとつだけ。――オスはナニで物事を考え、メスはナニで物事を感じ入るというのはこの業界の常識でございますれば、ゆめゆめお忘れなきよう」
「なるほど。覚えておこう」
ナニが何? 考える? 感じる? ……うん。ナゾナゾかな? 意味がさっぱりだよ。
よくわからなかったが、とりあえず無難な返事をしておく。
そうこうしているうちに目的の場所に通された俺は、室内に陳列されている商品を見て思わず息を飲む。
だってそこに並んでいたのは、目隠しをしたまま自慰にふける十代のメス奴隷らであったのだもの。