世界変革の鬨 ④-2-1
王城敷地内で待機していた一団。
油断なくあたりを見回していた元牙犬ギンに主人から思念が届く。
『ギン。休憩中すまないがオルトロスを集めてくれ』
それは予定されていた合図ではない。
なにごとか。
ギンだけではなく、隣で伏せてぼんやりしていたリキも警戒し立ち上がる。
『いつでも動けます大親分。ご指示を』
『王城に翼竜が向かってきている。北西方向。数は八十か九十くらいだ。全オルトロスを率いて追い払ってきてくれ』
『かしこまりました大親分』
オルトロスはケルベロスに比べて備えているスキルが一つ少ないが、走破性や俊敏さではケルベロスを上回る。
一団を統括する白銀の魔獣が一声吠えると、広場に散っていたオルトロスらが一斉に走ってきて長の前に整列し始める。
彼らは、この群れの長である白銀の魔獣――ギンの合図を待つ。
『大親分、殲滅してしまっても?』
『リキか。構わないが、儀仗兵は動かすな。ギン以外のケルベロスは留守番し守備に徹してくれ。留守の指揮はリコに任せる』
『承知しやした』
思念伝播はそこで途絶える。
軽いため息をつくギン。
それを見てニヤリとするリキ。
「親父、難易度をあげないでくれよ」
「馬鹿野郎。芋引いてんじゃねーぞ。イケる時にぶっこまないでどうするよ。てめえのキンタマは飾りか?」
「ったく、ほんと脳筋だな。家長は俺だってのに」
「いいからほら、早く行くぞ。羽根付き蜥蜴がきちまう」
「わかってるって。――よしお前らいくぞ! 観光気分のトカゲどもに流れ星一家の漢気を見せてやれ! サーチアンドデストロイだ!」
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王城のとある一室。
そこで王は、一人の商人と密会をしていた。
「魔王軍の残党があれほどの翼竜を集めるとは」
魔法の水晶に映された像を見て、王はうめくように漏らす。
「ダール。お前の言うとおりだったな。勇者を飼うことにしたのは正解だった。魔王なき敗残の魔物など恐れるに足らんとは多くの貴族たちの言だが、あのまま流れに任せて勇者を処分していたら今頃どうなっていたことか」
「排除を願った諸侯のお気持ちは当然と言えましょう。猛獣というものは、野に放てば危険極まる存在となりますからな」
震えながら水晶を見る王に相対するのは恰幅の良い四十路の男。
彼は抑揚のない、冷徹さすら感じさせる声音で静かに語る。
「しかしそれは愚策というものです。化け物なら化け物であるほど、目の届くところで鎖に繋いでおくべきでしょう。それ以上の安全対策はありますまい。ほどほどに褒美を与え続け番犬として飼いならしていくことこそ、結果的に最もコストを抑えられるのです」
水晶の映像は翼竜から地をかけるオルトロスへと切り替わる。
その背中に積まれた槍が天を指すと、勢いよく空へと打ち出された。
槍は一直線に翼竜の胴体へ。その胸を穿ち、心臓を破壊する。
「主人に噛みつく可能性を考えると、気が気ではないがな」
「それを言うなら世界に利をもたらすすべての発明もまた、悪となりましょう。使いこなす器量こそが重要であり、また求められる才覚でしょうな」
「うむ。そうだな。うむ。お前には期待しておる。我が娘第一王女も公爵の地位も手はずは全て整えた。今後もこの国と余を支えてくれ」
王は商人に頭を下げる。
商人の表情は無。
この男が笑みを浮かべたことは、少なくとも王の前では一度もない。
彼は無機質かつ事務的に、頭を下げる王の心をそっとなでる。
「勿論でございます陛下。私は陛下の忠実な臣なれば。今後とも微力を尽くさせていただきます」




