世界変革の鬨 ④-1-2
「むぅ? 女はどこです? マーキングの位置がずれているじゃありませんか」
辺りを忙しく見まわし状況把握に努めるローブ姿の何者か。
聞こえてきた声は高い。女か。はたまた子供か。
「あの、伯爵?」
「お静かに」
「おんやぁ?」
姫の声を拾ったのか。ローブ姿の何者かはバルコニーの下を覗き込む。
「ふはははは! 見つけましたよ生贄の女! さぁ早速、魔王様復活の儀式を始めようじゃないか!」
その姿は子供。
右目を眼帯で隠した、十代前半と思われる少年のようだ。
見るからに只者ではない、悪い意味で。
いきなり現れて三流漫画のようなことを言うあたりにとても気持ち悪いものを感じる。
「すみませんが、どちら様でしょうか」
でも、もしも何かの催し物とかで王国関係者とかだったら跡が面倒くさいことになるので、俺は念のため敬語で対応する。
「ふはははは! 我が名は新魔王四天王が一角! 魔魂祭司イスカ=プタゴラトン! さぁ! 震えるがよい! 怯えるがよい! 震えて怯えて月を見る度思い出せ!」
全然関係者じゃなかったわ。
むしろ害敵だわ。俺を前にして魔王関係者とか名乗ったし。
昼間なのにどこから月を見る話しが出てきたのか気になった俺、ちょっと負けた気がしてムカついた。
「きゃあ! あなた! たすけて!」
これ見よがしに抱き着いてくる姫殿下。
ノリがよすぎ――いや違うわ。これ外堀を埋めようという企みだわ。あわよくば的な。
この姫さん、利用できるものはフルに利用しようとするタイプか。
「ふっふっふ。生贄の女は確かニンゲンの国の姫であったはずですから、しかるに貴方は姫の従者……あなた? まさか貴方は、従者ではなく夫?!」
「いや違――」
「そうよっ!! 私はこの人の嫁なのよ!!! この痴れ者っ! 下がりなさいっ!」
「ちょ、ひめっ――」
待って、勝手に姫から嫁にジョブチェンジしないで。
あとこの姫声がめっちゃ通る。声量も大型拡声器並み。それ魔術なの? もしくは〈戦覇咆哮〉とか持ってます?
一方そんな姫のその声に度肝を抜かれた少年は、憎々しげな表情を浮かべこちらを睨む。その形相はリア充爆発しろと言わんばかりだがそれ誤解です。
「なるほど。既に婚姻していたとは。ならば急がねば。子を産まれるとアレが割れてしまいますからね」
「あ、いやまず訂正を――」
「いったいなにをしようというの!!」
少年の勘違いを訂正しようとした途端に入るインターセプト。
これ絶対ワザとじゃん。報復が怖くて思わず声を詰まらせてしまった俺は完全に小市民ですはい。
「ふはははは! 知りたいですか? ならば冥途の土産に教えてあげましょう! 貴方は魔王様が死んだ時の保険なのです!」
「えっと――」
「えっ! それはどういうこと!?」
そして尚も俺に訂正をさせてなるものかとばかり話しを進めるレイバープリンセス。
この局面に推して参るとか肝が据わり過ぎだよ。どんな人生を歩めばそうなってしまうのか。
「貴方の知るところではないですが、今回は特別に教えましょう。魔王様は成長した貴方に飽きた頃、貴方にある術をかけました。自分が万が一死んだ時にそなえ復活できるようにと」
「な、なんですって!? それはいったい?」
「ふっふっふ。いいでしょう教えてあげましょう! そして知って絶望なさい! いいですか? 貴方が十七歳になった時、魔王様の生死に関わらずその儀式術は完成し、貴方は生きた魔道具となるのです!」
「っ! そんな!」
「ふははははは! 姫には可哀そうですが、悲観してももうどうしようもありません!何故なら我々は、今日の襲撃計画に備え準備を整えてきました! もうじきここへは魔王軍が押し寄せます。空からは地を焼き尽くす我が翼竜軍団が! 地上からは人間どもを引き裂く豪傑熊一族が! しかも驚きなさい。地上軍の指揮をしているのは我と同じく新魔王軍四天王が一角、通称赤カブトの破壊熊王マスターピーなのです! なので貴方たちの運命はこれまで! 絶対に助からないのですよ! ふははははっ!」
「そんな……じゃあ私は、もう生きていけないの?」
「…………」
悲嘆にくれる悲劇のヒロインをもろ演技するお姫様十七歳。
チラッ、チラッと俺を盗み見てくるのやめてくださいプレッシャーで吐きそうです。




