幕間④ シシィ
私の名はエリザベート=コンラキュケル=テュレルゲン=ヴァルブレ=ド=エランシア。
名前が長いのよ。
だから愛称のシシィでいいわ。
エリザベートの愛称は普通リザだけれど、それをかわいく言うとリシィ。
さらに可愛さを追求してLをより丸みの帯びたSにしたからシシィなの。
かわいいのよ?
可愛いは正義だから、私は正義の乙女なの。
だから物心ついた時から私は勇者に憧れていたのだわ。
もうずいぶん昔の話。
あれは勇者に憧れた私がこっそり城を抜け出して魔物討伐に行った時のこと。
スライムを倒してレベルを上げるという昔話に倣って、私はスライムを探すために町の郊外の森に出たの。
そうしたら蛇だのカエルだのザリガニだのに襲われて、泣きながら三日三晩森をさまよう羽目になったのだわ。
持ってきた食糧なんか早々に尽きて、初めて飲まず食わずのサバイバルをする羽目になったのよ。
あと、三日三晩というのは盛ったわ。正確には二日一晩ね。
ふらふらで、とにかくお腹がすいて喉が渇いて眠たくて、這う這うの体で街に帰ってきたのだわ。
お城に帰る体力がなくて、とりあえず街の公園で休憩しようとベンチに座ったら、恐ろしく凶悪ないい匂いに意識を奪われたことを覚えてる。
臭いの元はサンドイッチ。
殺してでも奪い取りたい。
生まれて初めて渇望という感情を知った瞬間ね。
そして、彼と運命的な出会いをした神の祝福を感じた時でもあるのよ。
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勤め場所に戻るという彼にのこのこついていったらそこは兵隊の詰め所で、私はあれよあれよという間に王宮へ連れ戻されたの。
一杯食わされたと思ったけれど、彼、ネイルズだったのよ。
野蛮なならず者の集まり。
中には犯罪奴隷も交じってる曰く付きの暴力集団ね。
ちょっとがっかり。
あんなに素敵なお顔立ちをしていたのだもの、どこかの王子様じゃないかって思ったのだわ。
でもよく考えたら、どこかの王子様が公園のベンチでサンドイッチを食べているはずがないのよ、自前のお茶の入った水筒まで持って。
知った瞬間はがっかりしたけど、気が付くと私は一日中アトラス様の事を考えていたの。
寝ても覚めても、あのお顔を思い出すに至っていたのよ。
あぁ、きっとこれは運命ね。彼、すごく優しくしてくれたの。
でも彼はネイルズ。
危険な暴漢。
ケダモノなのよ。
近寄ってはいけないってメイドたちに何度も言われたの。
さわっただけで妊娠するっていうのよ?
私まだ初潮が来てないから妊娠はしないのに。
……あら?
よく考えたら、私、妊娠しないんだったわ?
ということは、会っても問題ないんじゃないかしら?
気が付いた私は、彼に会いに行くことにしたの。
日に日に高まっていく気持ちが張り裂けそうだったのよ。これ以上我慢できないわ。
明日。
朝一で彼の元へ行くのよ。
今日はもう夜遅いから行っても迷惑かもしれないし。
本当に彼が暴漢で、そのままベッドに押し倒されたら困ってしまうだろうし。
どんなに励まれてもまだ子供が出来ない未成熟な体なのだわ。
殿方を喜ばせるものが何もないのよ。
つるぺたはにゃーんなの。
だからダメよ、ダメダメ。
そう思って寝ることにしたの。
そうしたら。
気が付くと私は、魔王に攫われていたのだわ。
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魔王はキモイのよ。
ド変態なの。
キモオタロリヒッキーなのだわ。
イエスロリコンノータァァァッチ! という奇声とともに私を全裸にするのよ?
そして絵を描くの。
毎晩毎晩私はあいつの寝室に呼ばれて。
あいつは私の絵を描くのよ。
キャンバス一杯に白い絵の具をぶちまけるの。
思い出すだけでおぞましい。吐き気がするのよ。
そんな生活を三年間。
どれだけ自害したいと思ったか。
けれど三年目。
初潮を迎えた私に、アイツは激怒した。
邪智暴虐な神を除かねばならぬと絶叫して。
それ以来、私はあいつの住処を追われ、どこかわからない暗い洞窟へ押しやられたのだわ。
確か、冒険者たちの間で、ダンジョンと呼ばれる場所に、三年間。
私は魔王の根城で暇な時読んでいた魔術書で覚えた魔術で、知性のない魔物を討伐して暇をつぶしたの。
私の身の回りの世話は、魔王城にいた悪魔神官さんたちが一緒に来てくれたから平気だったのだけれど、困ったのがダンジョンにいたお世話係ね。
夢魔族と呼ばれる彼女たちは、それはもうお盛んだったの。
床上手なのよね。びっくりしたのだわ。
私は初めての感覚をそこで覚えたわ。
でも道具は禁じたの。
彼女たちは、一族の奥義双頭の蛇を私に伝授したかったみたいだけど、それだけは駄目。
だってそこは、私の勇者様のものなのだもの。
三年後。
ダンジョンを踏破した勇者様によって私が助けられた時、私はついにこの時が来たって震えたわ。
でも城に戻った時、現実の無常さにまた打ち震えたの。
六年もたったのに行き遅れていた大姉様の事を知るまでは天にも昇る思いだったのに。
あの時の絶望ったらなかったのだわ。
大姉様を差し置いて結婚するなんてできないのだもの。
あの時の私は毎日が気が気ではなかった。
大姉様と勇者様が結婚したらどうしましょう。
そんなことになったら第二夫人にも妾にも慣れない。
お父様が勇者様に私を勧めてくれたけど、結婚なんてできるはずもないのに最悪な冗談だわ。頭の毛を全部むしってやろうかとどれほど思ったか。
勇者様もお断りになるし。
でも、後日誤解は解けた。
大姉様にはご結婚の予定があることを私は知ったの。
相手は大商人のダール。
いくつもの国をまたにかける大商業組合、協商連合の総帥、商売の神といわれたその人だったのだわ。
ダール商人は勇者教の聖女である大姉様と結婚し、勇者教の枢機卿兼エランシア王国の公爵閣下になるのよ。
だから私はもう、何の障害もなく勇者様に添い遂げられるの。
こんな幸せが待っているなんて!
やはり世界は私の為にあるのね。
後はもう勇者様のご自宅に押し掛けて結ばれてしまうだけ。
婚約って体裁をお父様が整えてくださったけれど、私としては奴隷でも構わなかった。
いえ、むしろそっちの方がよかったのだわ。
けれどもそんな体裁こそ、私にとってはどうでもいい話なのよ。
だって私の心は既に、勇者様への恋の奴隷なのですもの。
あぁ、待ち遠しい。伽の時間が。
超がんばる所存なのだわ!




