神樹騎士団 ③-3-3
「勇者アトラス、いや、キルヒギール伯爵。よくぞ参った、大儀である」
王様から歓迎のお言葉。
「お招きにあずかり恐悦至極に存じます」
とりあえず臣下の礼。
王様はにこやかに迎えてくれる。けど周りの貴族の視線が痛い。
アイツら俺が兵隊引き連れて王城の正面から入ってきたのがよほど気に入らなかったのか、最初からずーっと塩対応。
こっちはみんなに喜んでもらおうとサプライズで金かけてあれこれ準備してやってきたってのにまるで効果なし。
まぁ城下町の住人には非常にウケが良かったのでいいけども。
これだから貴族は嫌なんだよ。漫才会場に来ておいて「俺はそんな漫才じゃ笑わねーよ」って斜に構えてる玄人気取り勘違い糞野郎と同類にしか見えない。
もうこんなのやめてやるよ。お前らと同類になるなんて反吐が出るね。爵位なんか叩き返してやるよ!
と思いながらもダイレクトアタックは場を荒らしてしまうと流石にわかるのでそれとなく王様に貴族辞めたいですアピールをする。
「領主としての勤めも滞りなくこなしていると聞く。王国繁栄の為、その采配を今後も振るってくれキルヒギール伯爵」
「もったいなきお言葉、恐れ入ります。――しかしながら王様。私は寡聞小見の身。伯爵の権威を持て余す日々でございます。ましてやこのような華やかな場など、無骨な元平民の私めには甚だ相応しくないと存じますれば、今後はどうか私めのことはお気遣いなさいませぬよう平にお願い申し上げます」
「何を言うキルヒギール伯爵。魔王を倒した勇者に気をかけぬなど王の沽券にかかわるというもの。それこそ国の恥。王として示しが付かぬというものだ」
「ありがたきお言葉恐れ入ります。私のような非才の身に伯爵位など過分な恩賞を賜りましたことも含め、感謝にたえません。ですが王様。私は勇者としての務めを果たしたまでのこと。伯爵位にふさわしいかは問題を異にするものと愚考する次第でございます。王様の温情を良いことにかような権力をいただくなど、それこそ周りの方々に示しがつかぬというもの――」
「キルヒギール伯爵。権力とは、それを獲得した手段ではなく、如何に行使したかによって正当化されるのだ。世界に平和をもたらした勇者の行いに不足などあろうものか。不足があるとすればそれは余のほうである。余は娘の縁談の件をまだあきらめたわけではないのだがな」
「いえ、その、それは……」
なんという不意打ち。このおっさんまだ自分の娘を俺にあてがおうとしていたというのか。
王様が貴族すぎてちょっと引く。少しは娘の気持ちも考えてやれよこの貴族原理主義者が。
「はっはっは。まぁよい。堅苦しい話はこの辺にしておこう。今日は娘を祝ってやってくれキルヒギール伯爵」
「はっ」
王様、舌戦を勝利で締めくくり身をひるがえす。
くぎを刺しに来たつもりがこれではやぶへびである。
あぁもう俺のザッコ。
それからは地獄の宮中腹芸タイム。
腹芸リーグ(パーティ会場戦)ルール。
身分の低いものは身分の高いものに話しかけてはいけない。
身分の高いものは身分の低いものに話しかけ、かつ身分の低いものはそれを拒めない。
身分の高いものは敵対派閥以外の一定以上の身分の全ての貴族に話しかけなければならない。
つまりどの派閥にも属していない俺の元にはわんさか上級貴族が話しかけてくる。
まさに腹芸の洗礼。レベル1の駆け出しに中ボスが連戦を吹っ掛けに来る構図。
塩対応どもが仮面をかぶるとあら不思議。親類かと思うくらいに親密な雰囲気をまとう。
人間不信になるよ。何が本当かわからない幻想世界の始まりだよ。
例えるなら貴族の社交はキングオブクソゲー。スペランカーより無理。とてもラスボス第三王女に辿り着ける気がしない。
しかし俺は逃げ出さない。
違う。逃げられない。何故なら俺には宮中の命綱ダールによってスペシャルなアイテムが取り付けられていたからだ。
それはダールの秘書。
凄く若い男だが若手のホープらしく有能だ。俺はこれを前面に押し立てることでなんとかその場をやりくり。
「キルヒギール伯爵。今度是非我が家の舞踏会に――」「キルヒギール伯爵。次はうちの甥の成人の会に――」「キルヒギール伯爵。次は当方の演武会に――」「キルヒギールはく――」
ノーサンキューノーサンキューノーサンキューのおおさんきゅううううう!
おうまいがっ! もうやだかえりたい! おっさんどもの作り笑顔気持ち悪いナリ!
やたら握力の強いこの秘書をデコイにして帰りたいです。
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「こんなところにいたのね。探したわ」
バルコニーで休憩していると来られるはずのない人物がやってきた。
一発でだれかわかるくらいの豪華なドレスで着飾った女。
会の主賓、第三王女。
貴族どもの腹芸攻勢によるストレスで死にかけていた俺。
秘書と取引をしてなんとか休息チャンスをゲットしたのもつかの間のこと。
キ〇ラの翼で街に戻って宿屋に入った途端ラスボスにエンカウントみたいなバランス。〇けしの挑戦状かよ。
「これはこれは姫殿下。こんな場所でお会いするとは思いませんでした」
心からそう思ったね。マイナス的な意味で。
続けたい言葉は「お前に探される理由はないぞ」とか「主賓はじっとしているものだ」とかなんだが言えない。
貴族はやめてやる気満々だけど今時点は悲しき宮仕えの身分。仕方がないので一礼し、ビジネススマイルで戦闘再開である。
「この度はお誕生日おめでとうございます、姫殿下」
「え? あ、うん。ありがとうキルヒギール伯爵」
丁寧に返礼してくださる第三王女。
確か今日で十七歳になるんだったか。
お歳の割にはお若いというか成長しきっていないというかそんな感じである。
「しかしこんなところで偶然ですね。姫殿下もご休憩でしたか?」
「そ、そうね。ぐ、ぐううぜんかしら? ふ、ふふふふ」
なんだか落ち着かない感じでそわそわしていらっしゃる。
ここは逃げるか。
あまり長い時間相対しているのは危険だ。俺の第六感がそう告げている。
「私はそろそろ戻ろうと思っていたところなのです。姫殿下におかれましては色々な方々とお話されてさぞお疲れでしょう。私はここで失礼させていただきますね。ではごゆっくり――」
「ま、待ってくださるかしらキルヒギール伯爵? 少しあなたと、は、話したいことがあるのだけど……」
そう言って退路を塞ぐ第三王女。
嫌な予感がこれでもかとグイグイ来る。
なにせこの女は元婚約者。王が無理やり俺を一族に取り込まんとしてあてがってきた女である。
断った俺にプライドを傷つけられたであろうこの女が俺に好意を持っているはずがない。恨み事の一つ二つといわずここで社会的に殺しに来る可能性すらある。
なんということだ。ダールの秘書に今度領内の視察をさせる約束までして手に入れた休息時間だったのに事態が悪化したぞ。ひどい罠もあったものだな!
「はぁ。話ですか?……姫殿下? 私に何か?」
めっさ目が泳いでる第三王女。顔を真っ赤にして息を荒げていらっしゃる。
なんだ。怖いぞ。このお姫様どんな手札を切ろうとしているのだ。
「あのね、えっと、あなた、その、わ、わた、私――」
思わず一歩後ずさる俺。
対する第三王女はとうとう意を決したのかその目に力を灯す。
「私と――付き合って貰えないかしら?」
――……ん?
その瞳はさながら必殺技を放った瞬間の、戦士のソレであった。




