奴隷購入 ①-1-2
「あー、そういえば、新しい仕事をするには新しい従者がいるなぁ。勇者パーティが解散したから新しいパーティがいるなぁ。貴族の務めは大変だからなぁ」
魔王討伐に旅にはダールの他に二人の仲間がいた。料理人と小間使だ。
でも長旅が終わった時点で料理人と小間使は要らなくなった。商人ダールは俺のしてきた事後処理に必要だったけど、料理人と小間使は都には沢山いるし専属させ続ける意味がない。
何より魔王を討伐した今、二人には俺に力を貸す理由もなければ必要もなく、俺としても二人を縛り続けるのには気が引けた。
そんなわけで魔王を倒した時、俺はパーティを解散させてしまった。だから今俺を支えてくれる仲間はダールしかいない。
「あの二人を呼び戻しますか?」
「それはダメだ。あの二人にはあの二人の人生がある。お前は俺に迷惑をかけているし金も払っている。でもあいつらには借りしかない。助けに行くことはあってもこれ以上俺に付き合わせるわけにはいかない」
「なるほど。それならばうちの従業員を側仕えにつけましょう」
「やだよ。それって監視じゃん。お前の関係者は否だ俺に紐をつけるな。俺は気兼ねない生活がしたいんだよ。だから王国の関係者もだめだぞ。そういうスパイ的な奴じゃなくて、俺がどんなわがままを言っても迷惑にならないような奴を共にしたい。そうだな、例えば……奴隷とか」
「……奴隷?」
ダールの目がすぅっと細められる。
うぉっ、いかん。
俺のやましい心がバレたか?
ご、誤魔化さねば。
あの目は過去何度となく見てきたやばい奴だ。このままでは俺の自由が失われかねない。
「いや待て違うんだ。だ、だってさ、あれじゃん、王様は俺に土地を開発しろって言ったんだろ? それってあれじゃん結構泥まみれになるキッツイ系の仕事。農業とかいってたっけ? そんなキツイ汚い給料安いなサンケイ業務には奴隷こそが最も適してるというか向いているというか、そういう話だから!」
しどろもどろなことを言っている自覚はある。
ダールもじーっと俺のことを見つめている。
睨んでいる。
こわい。
こいつのマジ睨みはそこはかとなく怖い。
魔王を倒した無双な勇者にスリルを味わわせるとかお前本当に商人かっての。まじサスペンス。
「あ、やっぱだめだよな、そだよなわかってる奴隷を物扱いしちゃ魔王と一緒だもんな、いやちょっと言ってみただけなん――」
「よろしい。手配しましょう」
「……へ?」
「奴隷商にはいくつか伝手があります。すぐに紹介状を書きますからお待ちください」
ダールは席を立ち、まっすぐ扉へ向かう。
え。奴隷OK?
ガナビーオーケー?
マジか。
部屋を出て行ったダールを待ちながら、俺は奴隷がいいとか言い出したもののこれからどうしようなんて先のことを考える。
奴隷。
生活の面倒さえ見れば大抵のことは許してくれる俺に従順な存在。
『異世界といえば奴隷』。それは魔王に見せられたとある世界の存在を書き記した禁書の中の一節。
禁書には記されていた。「異世界転移者はまず奴隷ハーレムから生活を始める。彼らは転生後の世界で幸せを約束された世界の救世主である」と。
俺も幸せになりたい。
魔王を倒した俺は救世主だ。
ゆえにそれは逆説的に、俺にも該当する、ということではなかろうか。
「…………」
該当するかな。
どうかな。
どうだろうな。――そもそも異世界転生者かどうかってどうやって判定するのだ?
わからない。
その方法はわからないまま今日に至っている。
しかしもし該当するなら、奴隷を得ることで何かが変わるかもしれない。そんな風に思うんだ。
だからこれはもう実践するしかない。俺にそれ以外の道なんてないんだよ。だからこれは決定事項。
あとはどんな奴隷にしようかな、ってところなんだが。
できれば包容力に富んだ子がいいなぁ。
例えば年上女性的な。
甘々に甘やかしてくれる的な。
ぼっきゅっぼんてきな。
いやでもそういうのはどうなんだろうなぁ。ちょっと未体験過ぎて怖い気もするなぁ。
でもそういうのもありだよって気がしないでもないわけで。
うーむ。
うーん。
なんかこっぱずかしくなってきた。想像できないぞ。
うっはぁ。妄想が膨らみすぎてそわそわしてきた。
はぅあっ、やっべ。
なんか俺の中で、新しい扉、開きそう。