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さしゅごしゅ! ~好き好き大好きご主人様~  作者: にーりあ
第一章 魔王倒して勇者退職、悠々自適な『第二の人生』を楽しむぞっ!(敗残将掃討編)

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神樹騎士団 ③-2-3

キルヒギール領北部にある氷山、犬ども曰く駒栗山。


その山麓にある洞窟に案内され真っ暗な道を歩くことしばらく。どこからともなく、妙な音が聞こえてきた。


――この音、なんだ? ピッケルで壁を叩いているような?


俺は犬どもをいったん止め、ギンとリキとジュンコだけ伴い音のするほうへ行ってみる。


と、そこには壁を掘っている人型がいた。


背の低い、ずんぐりむっくりな体形をした人型だ。


「あの、すみません」


「?!」


声をかけるとこちらを振り向き、急にピッケルを捨てて壁に背をつけ直立不動となる人型。


毛むくじゃらの豆タンク型体形のそれは、俺から視線をそらし息をひそめている。


もしかするとそれは隠れているつもり、なのかもしれない。


――ドワーフ?


ドワーフ、またの名をダークエルフ。


実物を見たのはこれが初めてだ。


ダークエルフ、という単語がなまって短くなったのがドワーフという名称の始まりだ、と、精霊図書館の本で読んだ記憶が俺の脳裏に浮かび上がる。


神の思い付きで作られた色々アレな存在のエルフを、邪神が興味本位で自分流にカスタマイズ調整したのがダークエルフの始まりだったとか。見た目をオミットして生物としての頑健さを追求したモデルとか書いてあったかな。


――あ、いっけね、思わず「すみません」とか素で話しかけちまった。


ここには犬やジュンコの目がある。ここはご主人様らしい威厳のある口調で臨まねば。


「お前はもしかすると、ドワーフか?」


「…………」


「なぜ黙っている? というか、その姿勢は何だ?」


尚も視線を合わせないようにするドワーフ。


――え、……シカト?


俺は無視されたのをまったく気にしていない態度で、今度はドワーフの視線の真正面に移動し声をかけた。


「おい。聞いているのか?」


するとひょいと顔を背けるドワーフ。


――は?


意味が分からない。


なんでそんな行動をとったのかわからないので俺はもう一度同じことをしてみる。


「おい。何の真似だ?」


するとまた、反対側に視線を向けるドワーフ。


何なんだよこいつ。


こうなったら何回でも繰り返してやるよ。


オラ、根競べだ。


何度か同じことを繰り返しているうちに、ドワーフがプルプルと震えだした。


「お主……まさか、見えておるのか?」


「は?」


何を言っているんだこいつ。


お前みたいな自己主張の塊、見えないはずないだろ。


気づかない風を装わせるには無理のある存在感だよ。


『大親分お気をつけください! 今いずこかから声がしました!』


『あんれ? 主様の近くに何やらいる気配を感じんすわえねぇ』


と思ったのだが。俺の後ろに何も見えてなさそうな奴らがいる。


ジュンコはともかく、犬どもに至っては「いったいなにをしてるんだろウチ飼い主は」みたいな顔だ。


「まさか、隠匿の加護か?」


「なんと……お主は人ならざる者か」


「いや人だけど」


「そ、そんなわけあるかぁ! この暗闇の中隠匿の加護まで得ているワシをばっちり見られるわけなかろうモン!」


勝手に怒り出して地団太を踏むドワーフ。


そんなことを言われても困るよ。お前の事情は知らんけど、こっちにはばっちり見えてしまっているのだから。


「この気配、そこにおるんはモグラ族かぇ?」


ドワーフがバタバタ暴れたりしたからジュンコにも認識されたようだ。


亜神と化した存在の目すら欺くとはなかなかに強い加護なのだろう。


『もしかして、そこにいるのは岩男か? いるなら姿ぁ見せてくれや。このお方は勇者アトラス様だぁ。勇者様に隠匿の術は効かんぜよ?』


「ふぁ?! 勇者じゃと?!」


リキの言葉に目の前のドワーフが驚き、急に壁から離れ土下座した。


「ふぇへぇ~勇者様! わしらは魔王に脅されておっただけなのですじゃ! どうかご慈悲を! どうかぁ~!」


隠匿の魔法が解ける。


そして唐突に命乞いを開始するドワーフの姿がパーンイン。


垂れ流される謝罪の言葉が事態の理解を阻害する。


へ? 魔王とな?


「一体何の話だ? わかるように話してくれないか。さぁ顔を上げて」


初対面だし何があるかわからないので俺はとりあえず丁寧めな対応を心がける。土下座ドワーフに頭を上げてもらう。


「ワシの命は構わん! じゃがどうか同胞たちは、どうか! どうか命ばかりはお助けを!」


「うむ。まずは話を聞かせてもらいたいな。お前たちは魔王に何をやらされていたのかな?」


ドワーフは震えている。こっちが引くくらい委縮している。


おかしいな。なんで震え上がっているの。この世の終わりみたいな顔で出迎えられたのは初めてなんだけど。俺勇者なのに。元だけど。


「ははぁ~っ。ワシらは魔王の使いに言われて魔物用戦具を作らされておったのだモン。アイツらは森にすんどったエルフ族を根こそぎ誘拐するためにワシらの作った戦具を利用したのだモン! だが待って欲しい、ワシらはやりとうなかった! 本当だモン! 仕方がなかったのだモン!」


――エルフだと?


エルフとドワーフは仲が悪い。「お前ら俺らのパチモンじゃん。ぶさいくじゃん。海賊版じゃん」「いや有能ですし。お前らより耐久性能たけーし。モノづくりで社会貢献もできっから」「あほか。可愛いは正義だから。存在が善だから」「あほはテメーだから。見た目だけの無能とかへのツッパリにもならねーから」みたいなことを延々と言い合い罵り合い憎しみあってきたと精霊図書館の本に書いてあった。


あー。なんか一瞬でこの辺で起こってた事件の構造が見えてきたわ。


このドワーフども、さては魔王側を利用してエルフを駆逐しやがったな?


俺はドワーフが自分たちのために魔王の関係者に手を貸した浅はかさに少々イラついた。これはお灸を据えねばなるまいと思った。


でも、エルフを駆除したこと自体についてはなんら責める気は起きなかった。だってエルフってば害人だから駆除されてもしょうがないし。アイツら生きる害悪だし。


ただエルフを攫うって用途はなんだろうな、とは思う。もしも残党の中に魔王の遺志を受け継ぐ輩がいるんだとすればアレってことになるだろうけど。だとしたらそいつも拷問したあと肉片も残らないくらいミンチにしないといけない。


「……なるほど? 魔王のせいか。それで、そいつらを仕切ってたのは何という輩だ?」


「リーと呼ばれていたのだモン。いつも赤い毛色の馬鹿でかい化け物熊の後ろにいた薄気味悪い獣人だったモン」


『大親分! そいつぁ赤鍬だ! ヤロウ魔王の手先だったのか』


「なるほどそういうことか。

まぁ落ち着くがよいそこのドワーフよ。勇者はお前たちの災いとはならん安心せよ。

勇者の敵は魔王のみ。その関係者も一人の例外なく殺しはするし絶対に許しはしないしどこまでも追い詰めて生きていたことを後悔するような苛烈なる制裁を加えはするが、お前たちは魔王関係者ではない。そうだろう?」


「ひぇっ! はっ! ハッ! ハあわわわわわ! すまぬ! すまぬぅ!!」


ドワーフは恐怖しその場に倒れこんだ。


これほどまでに生物とはおびえるものかというくらいがたがた震えだし、豆タンクはその場で盛大に失禁した。


「何を怯えているのだドワーフよ。お前たちは善良だ。勇者の敵ではない。むしろ勇者に協力したいとすら思っていた、そうだろう?」


「ファっ! ヒはひっ! モモ、も、もちろん! もちろんだモン! 勇者様に敵対する輩などヒェッ、フォ、お、おらん! 誰一人モモォゥ、おらんモン! みなが、勇者様をぉ讃えるんだモン!」


「んー、そうかそうかそれは素晴らしい。それを聞いて安心した。この地には魔王に味方するドワーフはいない。うむ。ならば勇者を支援したいと願う善良なる賢きドワーフの者たちは、喜んで俺の手足となって働いてくれるということなのだろう」


「――はひ?」


「まさかこんなところに魔王関係者がいたなんて考えただけで吐き気がするなぁ。俺は最近この近くに住むことになったのだが、魔王の手先がうろついていたこの近辺はすごく気になるのだよ。だって汚いだろう? 汚いところは綺麗にしたくなるのが人情というものではないか。

だからこの地一帯を地獄の炎で包み込み浄化しなければいけないかと考えている。もちろん魔王の手先に関わった生物事滅菌消毒だ」


「はひ?! はひゅっ!?」


「まぁ、俺の庇護下にいる者には危険が及ばないよう配慮するつもりだが。いや危険から保護するだけでなく、生活支援だってやぶさかではない。俺のために働いてくれる者ならいつだってウェルカムだ」


「あひゃひゃひゃ! そんなぁ! 後生だモン! どうかお助けくだされ勇者さまぁ!」


「おぅそういえば、魔王の関係者を根こそぎブチ殺すために色々と物入りになるかもしれんのだが……今後のことを考えればどこかに戦具を発注しなければならないし、生活に必要な道具も必要になってくるなぁ。どこかにそういうのを作ってくれる者たちがいたら、とても助かるのだが――」


「はひゅっ! はへゅっ! わしらが! わしらが適任だモン! 殺さないでほしいモン! 勇者様のためにお役に立つのはワシらしかいないんだモン!」


地に頭をつけ頭の上で両手をこするようにし俺を拝むドワーフ。


なんか必死すぎてちょっと可哀想になってきた。いややってるの俺なんだけど。ほぼほぼ俺のせいなんだけど。


――ふむ。ここはこれで手を打つか。


魔王関係者の為に戦具を受注生産していた行為は見逃せない。本来なら一族郎党皆殺しにするのが勇者の務めだろう。


しかし俺はもう魔王を倒した。冒険には区切りがついたのだ。


魔王の部下はともかく、それらに利用されたすべての関係者まで今更滅ぼし尽くすと言うのはどうなのだろう。


冒険が区切られた今、それを言ったら次の区切りまでずっとそれをやり続けなければならなくなる。だがこれからの俺に必要なのはどう楽しく生きるかという手段だ。豊かで面白い生活を動かしていく機能だ。


それを考えれば、ここは四角四面な対応をとらずファジーな感じでランすべきではないのか。ドワーフどもは処罰するのではなく、オーガナイザーたる俺を支えるプラットフォームを構成する一翼にアサインすることで彼らを勇者側だとオーソライズしコミットさせた方が俺の利となるはずだ。俺は残りの人生も魔王残党を狩ることに費やしたいのか、それとも世界を変えるようなチャンスが欲しいのか。Make a dent in the universe。ジョブズならそういうよ。


「そうか。それは思いがけない申し出だ。そうまで言ってくれるなら俺もお願いしないわけにはいくまい。是非、ご協力頂こう」


「わ。わかった! わかったモン! ワシらは勇者様の為に働く! 約束するんだモン!」


「うむ。では一族の方々にもよろしく伝えてほしい。皆の意思を統率し正式に話をまとめたらまた俺の元へ来い。細かい打ち合わせがしたいからな」


俺は鷹揚にうなずいてから、少し身をかがめてドワーフと視線を合わせビジネススマイルする。ドワーフも少しだけほっとしたのか、若干引きつってはいたが笑顔っぽい顔を作っていた。


「こ、今後ともよろし――」

「あぁそうだ、俺の配下に貴殿を送らせよう。ギン、お前たちは犬らを連れてドワーフの御仁に危険がないよう護衛せよ。リキは念の為この洞窟内に熊の残党が残っていないか念入りに捜索だ。我々の新しい友人を危険に晒すわけにはいかぬからな。しっかり配慮するように」


『かしこまりました大親分』

『こころえやした大親分!』

「――ッ?! ハヒッ! ハ、ハヒュェ、ハヒュェ、あ、ありがとうご、ざいま、ひゅモン!」


「それと、ジュンコは眷属を放ってこの洞窟を隅々まで調査しておけ。害虫モンスターは適宜駆除していい」


「ふぇふぇふぇ。それはなんと面白きお役目でありんしょう。流石はぬし様でありんす。そのおつとめ、妾どもがきっちりやらせていただきんす?」


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